学校の外に出たすぐ近くに工房はあった。
 カンカン、と何か叩いている音が響き渡る中、先輩たちは奥へと突き進む。途中で作業員の人と会うと、嬉しそうに手を振って挨拶をする。

 奥にいくと、大きな焼却炉が置かれていた。天井は吹き抜けになっており、長い煙突からはもくもくと煙が上がっている。そのすぐ近くで作業をしている強面な男性――宮地さんに、香椎先輩が声をかけた。

「宮地さん、お疲れ様です。手伝います」
「……ん? ああ、悠人か。悪いな、勝手に始めてるぞ」
「ありがとう。なかなか学校から抜け出せなくて……」
「わははっ! お前ら、ちゃんと卒業できんだろうなぁ?」

 世間話をしながら、香椎先輩が作業に加わった。慣れた手つきで工具を持つと、宮地さんと一緒に何かの解体作業に入る。
 私も何かした方がいいのか、と見ていると、横からマスクのようなものを差し出してきた。

「はい。これから木屑や煙がするから、これで覆って」
「あ、ありがとうございます」
「それと、佐知と俺はここで見学。何かあったら手を出すくらい」
「え? いいんですか?」
「一応、香椎の絵の材料だからね。今解体しているの、何かわかる?」

 少し離れた位置で二人が作業しているのを見る。木材と鉄を分けているらしい。取り外した鉄に、妙なカーブがかかっているのを見て、つい先日まで設置されていたベンチであることが分かった。

 そして絵の材料と、香椎先輩がカンバスに描いていた下書き。工房に用意された焼却炉――それだけで、何をしようとしているのかわかった。

「もしかして、絵の具に混ぜる灰を作るんですか?」
「そう。ただ、俺達は火をくべて炭と灰になるのを見届けるまで。灰を粉末状にするのを宮地さんに頼んでいるんだ。特殊な方法だから、どうやっているのかは教えてくれないんだけど、香椎が頼んだ粒の大きさに必ずしてくれる、灰の職人だよ」
「へぇ……じゃあ、あの文化祭の時も……?」
「あの時はさすがに火葬場で貰ってきたよ。多少の調節はしてもらったけど」

 解体作業が進んでいく。香椎先輩だけはマスクをしていなくて、高嶺先輩に聞いたら「メガネが曇る方が怖い」と言ってつけてくれないらしい。

「多分、ちゃんと見たいんじゃないかな。これから灰になるものを、どの色に混ぜようかとか、今のアイツは勉強や進路よりも絵の方が大事だから」

 高嶺先輩が、少し泣きそうな顔をして言う。

 そうだ。香椎先輩はあと二年もしないうちに失明するかもしれないと宣告されている。卒業後も絵を描くかはともかく、目に焼き付けたい想いが強いはずだ。

 じっと作業を見ていると、顔を上げた香椎先輩と目が合う。