「な、んで……?」
「筆圧が違う。感情の乗り方も違う。見ればわかる。それで、どっち?」
「……ご想像にお任せします」

 そんなことがわかるのは香椎先輩くらいだろう。じろっと恨めしそうに見ると、先輩はフッと笑みを浮かべた。

「浅野の言う上手い下手は置いといて。描いている奴の感情がわかりやすい、いい絵だ」

「……先輩は、第六感でも持ってるんですか?」
「は? なんでそうなる?」
「察知能力が高いから」
「アホ抜かせ。……でも、欠けてるから(・・・・・・)敏感になるんだろうな」

 香椎先輩はスケッチブックを私に戻すと、中央のカンバスに手をかけた。つい先日、グラウンドに設置されているベンチとその風景の下書きを終えたばかりだ。

「……そういえば、無くなっちゃうんですよね」

 何年も前からある木製のベンチで、今朝のホームルームで今週中にも撤去される話が上がっていた。どうしてこれを描いたのか、なんとなくわかる気がした。

「新しいベンチはアルミらしい。木の部分はない」
「それが?」
「灰にはできないだろ」

 香椎先輩はそう言って、カンバスをそっと撫でた。