恐れず活動を続ける先輩の一人、高嶺先輩が話を続けた。

「浅野さんが考えている通り、芸術コースがあるからっていう理由で美術部は立ち上げられなかった。でも進学コースでも部活動として絵を描きたい奴はいて、非公認で創ったのが美術部だ。今は俺と香椎、それと名前だけの幽霊部員が三人。一応顧問の先生もいる。校則規定内の部活動には乗っ取っているから、規則上は入部可能だ。でも非公認だから文化祭の展示にもコンテストへの参加も認められていない。学校側も良く思っていないから美術部の話をすると機嫌が悪くなるし、公の場に美術部の存在を隠している。去年の文化祭で一枚出せたのが奇跡みたいなモンさ」

「……非公認って、どうしてですか?」
「あー……それはだな……」

 私が尋ねると、高嶺先輩は気まずそうに目を逸らす。

「私、先生たちの目が酷く冷たかったのは、カリキュラムとしての他にもあるんじゃないかって思いました。それに去年の文化祭で受付していた人も、美術部をその……ば、馬鹿にしているような口ぶりだったので」
「受付……ああ、芸術コースの卒業生か。あの絵の事情を知ってるからな」

 事情?

 首を傾げると、香椎先輩が高嶺先輩の脇腹を突いた。目にも止まらぬ素早い手刀だった。

「香椎ぃ!」
「悪い、手が滑った。……それで、浅野サンは去年の文化祭に来てたの?」
「はっはい! あの絵に圧巻されて、それで……!」

 私はあのカンバスの絵を思い浮かべながら、あの時覚えた違和感と、描かれた機体や花の意味、真っ黒な少女について、去年の秋の文化祭に、あの瞬間に感じたものすべてを話した。拙い言葉で説明して、小馬鹿にされたらそれはそれでいいと思った。人の考えることは同じじゃないことくらい分かっている。それでも確かにあの時感じたことが、少しでも伝わってくれたならそれでいい。

 それとも、私はただ、目に映った世界を誰かに話したかったのかもしれない。

 一方的に話している間、先輩たちは黙って聞いてくれた。時折頷いて、小さく口元を緩めたときは、戯言かと思われていたらどうしようと思った。