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「はあ……荷が重すぎる」

「なんでそんなに責任を感じてんの?」

 菜乃葉が気楽そうに僕の横にいる。

「当然だろ。先輩たちが代々引き継いできた伝統のプラネタリウムの存続が、僕一人にかかってんだよ」

「あー、あの巨大ビーチボール二つに割ったみたいなやつね」

「そうだよ」

 僕の所属する天文部は、廃部の危機だ。部員、僕一人。実績は今年は今の所なし。

 この文化祭で実績を残せなかったが最後、廃部になる。

 正直、廃部になってもいいとは思う。天文をやりたい人が来たら、頑張って立ち上げればいい話だ。

 けど、一つだけ問題があって、それがプラネタリウムの問題だ。

 代々、予算の半分以上を使って進化させ続けたプラネタリウムは、大教室にどかんと居座る、大きなドームだ。

 全て一から自作……らしい。というのも僕が入学した時にはほぼほぼ完成形だったのだ。

 まあそんなとにかくすごいプラネタリウムがあるわけだけど、問題は、廃部になったらそれがどうなるかということだ。

 壊される気しかしない。

 というか誰も得しない、ただのでかい物体になってしまう。

 なので僕は、せめて、プラネタリウムだけは守るために、最低限、部活が存続するくらいには一人で文化祭をがんばんなきゃいけない。

 んだけどなあ。

 文化祭が始まると、すぐに僕は絶望した。

 僕は基本は絶対教室にいないといけない。

 だからビラを配ったり、宣伝したりできない。

 正直見に来てくれたらそこそこ満足してもらえる自信はあるのだが、集客力がそもそも皆無だった。

 これは一回目の公演は、やってもやんなくても同じですかね。

 と結論づけかけたところで、

「あの。プラネタリウム見に来ました」

 中学校の制服を着た、一人の女の子が現れた。




「南の空をご覧いただくと、こちらに火星が見えます。そして南西の空には、低めのところにみずがめ座、やぎ座、さらに見上げると、こちらにペガスス座が見えます……」

 ドームのど真ん中にたった一人だけ座っている女の子がいる。

 その女の子だけに向けて、僕はプラネタリウムの中で話していた。

 やらないよりはマシだけどなあ……。正直、このままだとやばい。

 そういう思いが頭を占めているけど、せっかく来てくれた人に、そういうのが伝わってしまうのは良くないだろう。

 だから僕は、ひたすら熱心に説明を続けた。

 そして、高校受験生向けモードも発動する。

「では、皆さんが新入生として高校に入学した時には、どんな星が見えるでしょうか。来年の四月三日の空を見てみましょう」

 ……皆さんってなんだよ一人なのに。台本丸おぼえしてるからこういうことになるんだよな。

 とか自分をちょっと責めながらさらに僕は話す。

「……えー、これでプラネタリウム公演を終わります。もし、渚ヶ丘学園に入学したら、是非天文部に入部してください」

 もうその時あんのかな天文部? まあいいや。

「ありがとうございました」

 終わった……。

 ごめんなさいほんと寂しい感じで許して。

 僕はそう思いながら、プラネタリウムの電気をつけた。

「あ、面白かったです、ありがとうございました」

 女の子は頭を下げて外に出て行った。

 うわー、めっちゃ寂しいところに来ちゃったわミスった。そんな風に思ってるんだろうなあ。

 僕はかなり萎えながら、誰もいなくなったプラネタリウムの端にいた。

   
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 それなのに、春。
 
 奇跡的に存続は許された天文部で、一応チラシを教室の前に置いといて、一人でだらだらしていると、女の子がやってきた。

「入部したいです」

「え、まじ?」

 そうして、今は後輩だ。