夏休みが始まった。うちの学校は夏休みが長く、7月上旬から9月後半まで丸2か月以上ある。その間に登校日みたいなのがないから、完全なるバケーション。

家族で海外や、長野あたりの避暑地の別荘に引っ込んでしまう人たちも多い。中には、クラブ活動なんかで学校に来ている子もいる。

私はクラブ活動はしてないし、うちは別荘なんてもっていないので、毎年、長い夏休みを過ごすのが大変だった。

昔の友達とも疎遠になってくるしね。会っても、年齢的に、どうしても恋愛系の話とか増えてくるから、相手の男子の情報を知ってないと、こっちも雲をつかむような話でつまらなくなるから、だんだんお誘いも断るようになった。

だから、家で映画見たり、ママと買い物に行ったり、親と旅行に行くとかが私にとっての夏休み。あ、1人で買い物したり、もだ。

でも今年の夏は、紗々とケイと3人で遊べることがわかっていて、すごく夏休みが楽しみだったから、やっと!やっと!夏休みが、私の夏休みが始まるって感じで、すごい気分が上がる。

紅子事件の後、夏休みが始まるまでの間の数週間、私たちはその後も普通に朝と夕方、タイミングを合わせられるときには2人か3人で帰って、ケイか私んちかでお茶をして遊んでいた。

前は、学校から歩いて20分くらいの駅前ローターリーにあるマックにもたまに行っていたけど、制服でいると何か言われるかもしれないからと用心して、ケイが私たちを人が多いところへは行かせないようにしていた。

あんな事があったから、紗々は傷ついてないかなって思って、さりげなくいろいろ聞いてみたけど、紗々から言わせると、あんなのは東京であったことに比べたら「ハナクソレベル」だということだ。一体、紗々は東京で何があったんだろうか。

紗々の家にはあの後、一回も行っていない。それは、紗々の家で、庭の手入れが始まっていて、工事の音があまりにもうるさかったから。庭の手入れっていっても、実際には森を開拓しているのと同じだった。

こないだママとスーパーの帰りにちょっと覗きに行ったら、ブルトーザーが2台とコンクリートのミキサー車が入っていた。あの古い門は結局、引いても押しても動かないので門ごと取って付け替えるんだって、ちょっと顔を出してくれた家政婦さんの小曾根さんが言っていた。

夏休みが始まる前までは主に、私の家で集まった。ケイのママが夜勤が多くて、昼間の時間家で寝ていることが増えたから。

ケイにとってうちは実家みたいなもんなので、家にケイがいるのは見慣れた風景なんだけど、紗々が初めて来た時のお兄ちゃんたちったら面白かった。

修人なんて、浮かれて、リビングで突然リフティング披露とか始めちゃって、電気のカバーにボールが当たって飾りのついたガラスが壊れて、ママが激怒していた。

あのおとなしくって賢い学人ですら、紗々が通り過ぎるのをじーっと目で追っていた。こういう時の態度で男のタイプがわかるなって思った。修人は100回フラれてもアタックするタイプ、学人は絶対ムッツリタイプだ。

でも、わかるわかる、私も最初そうだったから。紗々にかかったら、男だって女だって、みんなこうなっちゃうのよ。そう考えると、なんでケイって紗々を前にして、平気でいられるんだろう。不思議。


私たちはいつも、ママが作ってくれたお菓子とかをつまみながら、いろんな話をしていた。私たちには、同年代やクラスメイトとかがハマることにあまりハマらないっていう共通点があった。

例えば、自撮りをした画像や動画をアップしまくる、そういうのを延々と見る、好きなタレントのフォローをする、一日中チャットをしてる、人の恋愛の話、とか。

そういうことに触れないわけじゃないけど、そういうのばかりやるっていうのが向いていない性格の3人なのかもしれない。

もちろん、たまに写真撮ることはある。誰かの誕生日の時とか。でもそれを3人でシェアすることはあっても外に発信はしない。

散歩の途中、ステキなバラの花が咲いてたり、可愛い子犬を見かけたら、写真を撮ることはあるよ?でも別に、それをアップしようって思わない。

私はずうっと、そういうことをする相手がいなかったから、してないのが状態になってしまったわけなんだけども、ケイと紗々は、はじめっからしていない。

私が、ことのなりゆきでそうなったことと比べると、ケイと紗々は、自覚があってやっていないって感じ。

ケイはスマホはあるけどアカウントを作ってさえいなかった。ケイはすごく友達も多いし、ケイのファンの女の子も多いから、SNSやっていたらすごいだろうけど、そういうことを一切しない。時間の無駄、エネルギーの無駄なんだってさ。

紗々は前も話したと思うけど、LINEは家族とごく少数の人としかしてない上に偽名だったし、その他のアカウントも持っていなかった。この名前、誰?って聞いたら、おばあちゃんの名前だった(笑)

一度、紗々に、なんでしないの? 紗々なんてやったらすごいことになるに決まっているのにって聞いたら、逆に「だって、何のためにするの?」って聞かれて、すごく返事に困ったことがある。

だから、会っているときに私たちが話すことは、例えば、学校内で起きてる事に対して自分はどういう感想を持ったのか、とか、一緒に見たDVDに対して自分はどう感じてるか、などを自由に話してた。

3人では、とにかく、思ったことは何でも自由に話していいの。こんなことを話したら、こういう風に思われるとか、ああいうう風な受け取られたらどうしよう………とか一切の心配をしないでいい。

3人は、互いにジャッジをしないって決めてた。

どうしてそういう風になったんだか忘れちゃったんだけど、とにかく、私たちは、私たちが作ったルールで考えて話そうってことに、自然となった。

例えば、誰かの聞いていて、自分の中に浮かんできた気持ちがあったら、正直に話す。失礼なことじゃないならば。

だから安心して、学校の話でも、親の話でも、ニュースの話でも、政治の話でも、なんでも自由に話せた。

だから、たまにヒートアップして演説みたいになるときもあるけど、そういう時でも最後まで話を聞いて、それで、その演説に対して、自分なりの意見を言うっていうのだった。

もちろん、お笑い番組見て、おなか抱えて笑うこともあるよ?
紗々が、ケイが子供のころ、紗々の家で見たアライグマに角砂糖置いてきたっていう話の意味がわかんなくて、三人であらいぐまラスカルのアニメ見て、最後、ラスカルを自然に帰すシーンで号泣してたこともある。

私はたぶんこれは、子供のころ、ケイと一緒に幼稚園で見たような気がする。

この3人で話していると、私たちはまだ大人にはなれていなくて、それぞれが本当にバラバラの条件を持っているはずなんだけど、それでもちゃんと人は分かり合えることができるっていうのを実感する。

それに、思ったことをちゃんと言葉を選んだ上で本当のことを話せているので、お互いに嘘をつかないことがわかっているから、嘘をつく必要がないので、話しててとても楽。

思ってもいないことに、無理して合わせなくていいのが身体が楽な感じですごく良い。好きなのも嫌いなのも自由なのが楽しくて、だから、私はもしかしたら、こんな友達が欲しかったから、すっと1人で過ごしていたのかもしれないな、とさえ思った。