ナナミは駆けていた。
エルメスの追撃を振り切り、一人───荒野を走る抜ける。
そして、小高い丘に登って、別れてしまった最愛の幼馴染───猛の姿を確認しようと先を見渡したその瞬間───!!
「そんな?!」
彼女の中で全身の血が沸騰する様な怒りが沸き起こった。
た……、
「猛ぅぅうう!!」
巨人に襲われている猛を見て、怒りに我を忘れそうになったナナミ。
「猛! 猛! 猛!!」
ああああああああああああああああああああああああ!!
「ああああああああああああああああ!!」
騎士団が壊滅しているとか、どうでもいい。
エルメスが裏切り者だったとかも、どうでもいい。
そんなことは全部、どうでもいい!!
「どうでもいいよぉぉぉおおおお!!」
どうでもよくないことは、たった一つ──────!!
「───猛になにすんのよぉぉぉおお!!」
ティリン♪
ナナミはAK-47とRPG-7を放り捨てると、その場に『SHOP』を呼び出し、兵器購入の項目を選択。
そして、この距離で猛を救うことのできる装備を選択する。
中空に浮かんだステータス画面。
そこには、
強力極まりない『RPG-7』を生み出した国の装備がズラリと並ぶが、実績不足でほとんどがロックされたまま。
その大半がグレーアウトしている。
だけど、あった。
たった一つあった。
あのバカでかい巨人をぶっ飛ばしうる、遠距離から敵を穿つロシアの鋭き牙が──────。
あった!
あった!!
「あったよ!……シモノフPTRS1941───!!」
そう、
これは、セミオートマチック対戦車ライフル───……口径14.5mmの大口径の小型大砲だ!
「これなら……!」
急いでSPを叩き込んで兵器をアンロックすると、『SHOP』から迷わず購入する。
ブゥン!
そして、ナナミは光り輝くそれが中空に現れたのをみるや、全貌を確認するまでもなく引っ手繰るようにして保持!
「お、重ッ」
だが、ナナミは手慣れた動きで、二脚を展開すると、ズシン!! と重々しく地面に委託した。
そこに、銃と合わせて購入した5発入り弾挿子を取り出すと、ガリガリガリ! と、薬室に詰め込んでいく。
「装弾よしッ!」
───ガシャコ!!
「初弾装填!」
脇についたコッキングレバーを引いて初弾を装填───!!
ジャキン!!
「……ま、間に合ってッッ!」
ナナミはバカみたにブチ長いライフルに取り付き、その大雑把な照準を覗き込む。
照星と照門をあわせ、オーガを照準に収めた。
……小さな目標を狙撃するのは無理。
猛を切り刻もうとする、あの「&$#」野郎を直接撃つのは無理だけど───。
ジャイアントオーガなら狙撃できる!!
「デッカけりゃ、いいってもんじゃないんだよぉッ!」
来るであろう、凄まじい衝撃と発射音に備えてナナミは腹に力を入れる。
そして、照準し───────撃つッッ!
すぅぅぅ…………フッ!
「猛ぅぅぅぅう!!」
引き金を──────……カキン!
───ズッッッッドバァァァァァアアン!
発射エネルギーが銃口をブレさせ、先端についたマズルブレーキから炎が十字を描いて吹き出し視界を焼く。
そして、
ギャンッッッッッ──────と、真っ赤な線が一筋、戦場を疾駆する!!
「───ッ!」
銃口からは硝煙が噴き出し、ナナミの制服パタパタとはためかせ、スカートがフワリとまくれ上がった。
その下の、子供っぽい下着が晒されるも、ナナミは直す間もなく対戦車ライフルで狙う!
「いっけぇっぇぇぇぇぇええええ!」
…………ボンッ!!
初弾命中! ヘッドショット!
敵の動きが止まった──────!
これが示威型の狙撃!
狙われていると分かって、なお動けるかなぁ?
そして、
動きの止まったデカい的など────!!
「次ぃ!!」
案山子と同じだぁぁああ!!
5連発のセミオートで、戦車を穿つ14.5mmの銃弾がジャイアントオーガを指向するッッ!!
体ごと向きを変えてオーガを狙う!
そして、
撃つ!!
打つ!!
討つ!!
一体たりとも逃すものかッッ!!
「照準よし! フゥッ───」
───ズッッッッドバァァァァアアン!!
「次ぃ! たりゃぁぁぁあああああ!!」
ズッッッッドバァァァァァアアアン!!
「もう一丁! うりゃぁぁぁああああ!!」
ズッッッッドバァァァァァアアアン!!
連射、連射、連射!!
ボンッボンッボン!!!
視線の先でジャイアントオーガが次々と吹き飛ばされていく。
「どう?! 見たッ?!」
見てる、猛!?
これが対戦車ライフルだよ!
14.5mm弾のパワーは伊達ではないんだからね!!
そうとも。
この対戦車ライフルは、軍用装甲の30mm鋼板すら貫通できる威力があるのだ。
生物なんぞ、たとえ分厚い皮膚や筋肉があろうともこのパワーの前にはただの肉でしかない!
「あと、一匹───!!」
騎士団に襲い掛かっているジャイアントオーガのことなど知らないッッ!
───猛を襲う奴だけが私の目標!
ふと…………。
照準ごしにジャイアントオーガとナナミの目が合った。
デカいだけあって、視力も人並み以上。
その分、色々スケールが違うのだろう。
身長は人の3倍。
視界も広く、視力もそれに準じるらしい。
だから、ナナミを見つけ──────そして、彼女の殺気に触れ…………。
───奴は恐怖した。
「ふふ…………。戦場で恐怖したら負けだよ♪ 怖がるのも、怒るのも、死んじゃうのも……───生き残ってからにしないとねッ♪」
じゃないと──────死んじゃうよ?
「すぅッ!──ふぅぅぅー…………!」
ナナミは息を素早く吸って、細く細く吐き出す。
そして、照準のブレを押さえると───撃った。
───バァァァァァアアアン!
銃口から上下に十字状に伸びる発砲炎!
沸き立つ大地の塵!
視界を隠す様に吹き出す硝煙!
そして、絶大な威力を誇る14.5mm弾!!
「いっけぇぇぇぇえええ!!」
その先に、真っ赤に燃える火箸の様なものが見えた気がした。
だけど、それは気のせいだろう。
だって、対戦車ライフルだよ?
その初速は、音速を越えるッッ!!
悠長に狙撃の結果を見守ると思ったら大間違いだ!!
戦果の拡張、敵の追撃は戦術の基本!
「───狙撃が戦場を支配したなら、次は殲滅戦ッッ! すぐ行くからね、猛ぅ!」
ドッパァァァン!
と、ジャイアントオーガの頭が弾け飛んだのを見届けることなく、ナナミは立ち上がる。
デカすぎる対戦車ライフルを放置すると、投げ捨てたPRG-7を肩に背負い、腰だめにAK-47保持!
ティリン♪
『SHOP』呼び出し。
「あとは。これと、これと、これも!」
ナナミは購入できるだけの装備を次々にアンロック。
まだまだ買えないものも多いけど、今買える必要なものはたっぷり購入!
戦場は備えのあるものが勝利する。
ないなら、ないで工夫する。
そして、駆け抜けるッッッッッッ!!
弾倉をたっぷりジャケットにいれた女子高生が、AK-47と共に丘を駆け下りるッッ。
「ターーーーーーケーーーーーールぅぅぅぅううーーーーー!!」
PRG-7を背負った少女が地獄の戦場に突撃するッッ!