空港という場所は物語に富んでいる。今日もここから様々な人たちが色々な場所に向けて旅立っていく。
「じゃあね、サーヤ。こっちに来てくれてありがとう。楽しかったよ。色々と話せたし。また来てね」
ロンドンのガドウィック空港でわたしはリリーと別れを惜しんでいた。
「また来るよ」
長いと思っていた休暇は過ぎてしまえばあっという間だった。二週間の語学学校も楽しかった。いろいろな国からやってきている年代もばらばらのクラスメイトと毎日会話をしてパブに行ったりティールームに行ったり。
リリーとも最後の週末に湖水地方に旅行にも出かけた。ロンドンを起点にして色々と見て回って暮らして、盛りだくさんな生活だった。
「転職活動頑張って」
「うん。また旅行に来れるよう早く仕事見つける」
「……駿人とは、最後に会うの?」
リリーが遠慮がちに尋ねてきた。
わたしがこれから向かうのはフランクフルトだ。一泊したのち、明日のフライトで日本へ帰国する。
「一応お礼メールはするつもりだけれど。たぶん会わない。そのほうがいいと思うんだ、お互いに」
あのロンドン日帰り旅行以降彼とは会っていないし、メッセージのやり取りもしていない。
とはいえ、最終日に帰国する旨のメールは入れるつもりだ。一応沢山お世話になったわけだし。本当は、最後に会ってもと思わなくもなかった。日本に帰ればわたしたちの縁はまた元通り糸のように細い関係に戻ってしまう。
けれど、それが今後のわたしたちの間柄だ。わたしはあのとき彼の手を取らなかった。
胸の鈍い痛みには気が付かない振りをする。
「後悔の、無いようにね」
「うん。大丈夫。リリーこそダニエルと上手くいってよかったね」
どこか吹っ切れたリリーの顔は穏やかだ。女子会で散々管を撒いた後、彼女はいまの正直な気持ちをダニエルに伝えた。彼のことをどう思っているのか、それから自分の心の中についても。
それを聞いたダニエルは「きみが僕のことを好きなら大丈夫。今は一緒にいてくれるだけで」と返してくれたのだと、あとからリリーが教えてくれた。
彼はリリーの気持ちをまっすぐ受け止めた。
「わたしもどうなるかわからないけどね。外国人のわたしには常にビザ問題が付いて回るから」
リリーは小さく肩をすくめた。もう二、三言凛々衣と話してからわたしは出国ゲートに向かった。
ロンドンからフランクフルトまでのフライトはあっという間だった。フランクフルトの空港に足を着けたとたんに目に入ってくるドイツ語に懐かしくなる。一人きりの旅行はもちろん初めてで、それなのに周遊旅行とか今思えば結構無茶をしたものだ。
それに、数年ぶりに駿人さんに会うということで、そのこともわたしの緊張を増幅させていた。
わたしは空港で彼の顔を見た時のことを思い出して苦笑した。
もちろん今回は誰も迎えに来てはいない。わたしは空港近くのホテルにチェックインして最後の観光に繰り出した。
あのときは予定が来るってフランクフルトをよく見て回れなかった。
市内中心部を少し歩いて、夜はドイツビールを飲んで早めに帰って眠った。
翌日、空港で日本行のフライトを待つ間そこかしこから日本語が聞こえてきた。日本の有名な旅行代理店のバッチをカバンや服に付けた団体客たちの楽しそうな声に混じってわたしは駿人さんにこれから帰国する旨メッセージを送った。返事を待たずにスマホの電源を落とした。
もうすぐ搭乗開始だ。この飛行機から次に降りると、そこは日本。たくさんの日本語が出迎えてくれるだろう。
わたしの長かった旅が終わる。
「じゃあね、サーヤ。こっちに来てくれてありがとう。楽しかったよ。色々と話せたし。また来てね」
ロンドンのガドウィック空港でわたしはリリーと別れを惜しんでいた。
「また来るよ」
長いと思っていた休暇は過ぎてしまえばあっという間だった。二週間の語学学校も楽しかった。いろいろな国からやってきている年代もばらばらのクラスメイトと毎日会話をしてパブに行ったりティールームに行ったり。
リリーとも最後の週末に湖水地方に旅行にも出かけた。ロンドンを起点にして色々と見て回って暮らして、盛りだくさんな生活だった。
「転職活動頑張って」
「うん。また旅行に来れるよう早く仕事見つける」
「……駿人とは、最後に会うの?」
リリーが遠慮がちに尋ねてきた。
わたしがこれから向かうのはフランクフルトだ。一泊したのち、明日のフライトで日本へ帰国する。
「一応お礼メールはするつもりだけれど。たぶん会わない。そのほうがいいと思うんだ、お互いに」
あのロンドン日帰り旅行以降彼とは会っていないし、メッセージのやり取りもしていない。
とはいえ、最終日に帰国する旨のメールは入れるつもりだ。一応沢山お世話になったわけだし。本当は、最後に会ってもと思わなくもなかった。日本に帰ればわたしたちの縁はまた元通り糸のように細い関係に戻ってしまう。
けれど、それが今後のわたしたちの間柄だ。わたしはあのとき彼の手を取らなかった。
胸の鈍い痛みには気が付かない振りをする。
「後悔の、無いようにね」
「うん。大丈夫。リリーこそダニエルと上手くいってよかったね」
どこか吹っ切れたリリーの顔は穏やかだ。女子会で散々管を撒いた後、彼女はいまの正直な気持ちをダニエルに伝えた。彼のことをどう思っているのか、それから自分の心の中についても。
それを聞いたダニエルは「きみが僕のことを好きなら大丈夫。今は一緒にいてくれるだけで」と返してくれたのだと、あとからリリーが教えてくれた。
彼はリリーの気持ちをまっすぐ受け止めた。
「わたしもどうなるかわからないけどね。外国人のわたしには常にビザ問題が付いて回るから」
リリーは小さく肩をすくめた。もう二、三言凛々衣と話してからわたしは出国ゲートに向かった。
ロンドンからフランクフルトまでのフライトはあっという間だった。フランクフルトの空港に足を着けたとたんに目に入ってくるドイツ語に懐かしくなる。一人きりの旅行はもちろん初めてで、それなのに周遊旅行とか今思えば結構無茶をしたものだ。
それに、数年ぶりに駿人さんに会うということで、そのこともわたしの緊張を増幅させていた。
わたしは空港で彼の顔を見た時のことを思い出して苦笑した。
もちろん今回は誰も迎えに来てはいない。わたしは空港近くのホテルにチェックインして最後の観光に繰り出した。
あのときは予定が来るってフランクフルトをよく見て回れなかった。
市内中心部を少し歩いて、夜はドイツビールを飲んで早めに帰って眠った。
翌日、空港で日本行のフライトを待つ間そこかしこから日本語が聞こえてきた。日本の有名な旅行代理店のバッチをカバンや服に付けた団体客たちの楽しそうな声に混じってわたしは駿人さんにこれから帰国する旨メッセージを送った。返事を待たずにスマホの電源を落とした。
もうすぐ搭乗開始だ。この飛行機から次に降りると、そこは日本。たくさんの日本語が出迎えてくれるだろう。
わたしの長かった旅が終わる。