「コウタさ、最近、家に誰かお友達を連れて来てる?」
ある日、お母さんがそう聞いてきた。
ショウタくんが来たときに、お菓子やジュースを出しているから、誰かが家に来ているのがお母さんにわかってしまったようだった。
お母さんもお父さんが死んでしまって悲しいのに、ぼくのために働いている。ぼくは学校に行かないで、ショウタくんと遊んでいることが悪いことをしているみたいで、今までお母さんには黙っていた。でも、わかってしまったら嘘をつくのはいけないことだ。
「うん・・・、最近できた友達でショウタくんっていうの」
「そう・・・、同じ学校の子?」
「それは、わかんない」
「住んでるのは、どのあたりなの?」
「・・・それもわかんない」
ぼくはショウタくんについて何も知らなかった。それでもいいと思っていたし、親友だと思っていた。
でも、ぼくがショウタくんのことを話すと、お母さんはなぜかすごく困ったような顔をしていた。
「昨日、日が暮れてから公園に一人で行ってるわよね? 近所の人がコウタのこと見かけたって教えてくれたけど・・・」
「行ったけど一人じゃなくて、ショウタくんと行って遊んでたよ」
お母さんはますます困ったような顔になっていった。
お母さんは翌日仕事を休んで、ぼくを病院に連れて来た。事故の後に心の相談に乗ってくれている、カガワという女性の先生のところだ。ぼくが一人で診察室で待っていると隣の部屋で、お母さんが先生にぼくのことを説明している声が聞こえてくる。
「近所の人の話しでは、公園で誰かと話しているように、独り言を言ってるみたいなんです。家では使った形跡がないグラスとかが置いてあって、友達が遊びに来てたって言うんですけど・・・。私、事故のせいで、あの子が精神的に、ちょっと病んでしまってるんじゃないかって、心配で」
「わかります。ご心配ですよね。でも、この後、コウタくんから話しを聞いてみないと断言は出来ませんが、お母さんが心配されているような状態ではないと思いますよ」
「それなら、いいんですが・・・、先生よろしくお願いします」
お母さんがそう言うと、ぼくがいる診察室のドアが開いて先生とお母さんが入ってきた。先生はぼくの前に座って、ショウタくんのことを詳しく聞いてきた。ぼくは公園で出会ったことや、青い目をしていてとっても優しいこと、どんな話しをしたかなどを正直に話した。カガワ先生はニコニコしながらショウタくんのことを聞いてくれて、ぼくはとても嬉しかった。
「コウタくんはショウタくんが大好きなんだよね」
「うん、一番仲がいい友達だよ」
「でもさ、コウタくんもわかってるよね? ショウタくんはコウタくんの心の中にいて、ほかの人には見えないってことは」
先生が優しくゆっくりと質問する。それを聞いて、お母さんはとても驚いた表情になった。
「うん・・・。何となくはわかってた。でも、ショウタくんはすごくいい奴なんだ。だから消したりしないで!」
「大丈夫よ、今まで通りショウタくんとは好きなときに会ってもいいのよ」
そう言うと、先生とお母さんは、また隣の部屋に行って話し始めた。
「先生、どういうことなんでしょうか」
「コウタくんが言っているのは、空想上の友達であるイマジナリーフレンドのことだと考えられます」
「イマジナリーフレンド・・・、それは幻覚とかですか? あの子は精神的に問題があるんでしょうか?」
「いいえ、お母さん落ち着いてください。世界中の多くの子どもにイマジナリーフレンドがいて、成長過程においても正常なことだと考えられているんです」
「そうなんですか・・・」
「大きなストレスがきっかけに出現することもあり、コウタくんの場合は事故がきっかけかもしれません。今話しを聞いてみると、ショウタくんというイマジナリーフレンドは事故に遭ったストレスの軽減などの防衛機制に寄与しているようです。辛いことを少しでも忘れるため心が用意してくれた機能のようなものと思ってください」
「防衛機制っていうのは・・・?」
「コウタくんの場合は、理不尽な事故への憎しみや怒り、お父さんが亡くなった悔しさなどを自分のなかで納得させるために、ショウタくんというイマジナリーフレンドをつくり出したと考えられるんですが・・・、ちょっとわかりにくいですよね?」
「いえ・・・、何となくわかったような気がします。では、このままにしておいても大丈夫なんでしょうか?」
「ええ、ほとんどの場合はストレスが軽減されることや、年齢が進むに連れて消失しますので、このままにしておいても心配ないと思います」
カガワ先生がそう言うと、「そうですか」と、少し安心したようなお母さんの声が聞こえた。
すると、さっきカガワ先生が座っていたぼくの目の前の椅子には、いつのまにかショウタくんが座っていて、「僕たちずっと友達でいられる。よかったね!」とぼくに微笑みかけた。ぼくも大きくうなずいて、ショウタくんと肩を組んだ。
ある日、お母さんがそう聞いてきた。
ショウタくんが来たときに、お菓子やジュースを出しているから、誰かが家に来ているのがお母さんにわかってしまったようだった。
お母さんもお父さんが死んでしまって悲しいのに、ぼくのために働いている。ぼくは学校に行かないで、ショウタくんと遊んでいることが悪いことをしているみたいで、今までお母さんには黙っていた。でも、わかってしまったら嘘をつくのはいけないことだ。
「うん・・・、最近できた友達でショウタくんっていうの」
「そう・・・、同じ学校の子?」
「それは、わかんない」
「住んでるのは、どのあたりなの?」
「・・・それもわかんない」
ぼくはショウタくんについて何も知らなかった。それでもいいと思っていたし、親友だと思っていた。
でも、ぼくがショウタくんのことを話すと、お母さんはなぜかすごく困ったような顔をしていた。
「昨日、日が暮れてから公園に一人で行ってるわよね? 近所の人がコウタのこと見かけたって教えてくれたけど・・・」
「行ったけど一人じゃなくて、ショウタくんと行って遊んでたよ」
お母さんはますます困ったような顔になっていった。
お母さんは翌日仕事を休んで、ぼくを病院に連れて来た。事故の後に心の相談に乗ってくれている、カガワという女性の先生のところだ。ぼくが一人で診察室で待っていると隣の部屋で、お母さんが先生にぼくのことを説明している声が聞こえてくる。
「近所の人の話しでは、公園で誰かと話しているように、独り言を言ってるみたいなんです。家では使った形跡がないグラスとかが置いてあって、友達が遊びに来てたって言うんですけど・・・。私、事故のせいで、あの子が精神的に、ちょっと病んでしまってるんじゃないかって、心配で」
「わかります。ご心配ですよね。でも、この後、コウタくんから話しを聞いてみないと断言は出来ませんが、お母さんが心配されているような状態ではないと思いますよ」
「それなら、いいんですが・・・、先生よろしくお願いします」
お母さんがそう言うと、ぼくがいる診察室のドアが開いて先生とお母さんが入ってきた。先生はぼくの前に座って、ショウタくんのことを詳しく聞いてきた。ぼくは公園で出会ったことや、青い目をしていてとっても優しいこと、どんな話しをしたかなどを正直に話した。カガワ先生はニコニコしながらショウタくんのことを聞いてくれて、ぼくはとても嬉しかった。
「コウタくんはショウタくんが大好きなんだよね」
「うん、一番仲がいい友達だよ」
「でもさ、コウタくんもわかってるよね? ショウタくんはコウタくんの心の中にいて、ほかの人には見えないってことは」
先生が優しくゆっくりと質問する。それを聞いて、お母さんはとても驚いた表情になった。
「うん・・・。何となくはわかってた。でも、ショウタくんはすごくいい奴なんだ。だから消したりしないで!」
「大丈夫よ、今まで通りショウタくんとは好きなときに会ってもいいのよ」
そう言うと、先生とお母さんは、また隣の部屋に行って話し始めた。
「先生、どういうことなんでしょうか」
「コウタくんが言っているのは、空想上の友達であるイマジナリーフレンドのことだと考えられます」
「イマジナリーフレンド・・・、それは幻覚とかですか? あの子は精神的に問題があるんでしょうか?」
「いいえ、お母さん落ち着いてください。世界中の多くの子どもにイマジナリーフレンドがいて、成長過程においても正常なことだと考えられているんです」
「そうなんですか・・・」
「大きなストレスがきっかけに出現することもあり、コウタくんの場合は事故がきっかけかもしれません。今話しを聞いてみると、ショウタくんというイマジナリーフレンドは事故に遭ったストレスの軽減などの防衛機制に寄与しているようです。辛いことを少しでも忘れるため心が用意してくれた機能のようなものと思ってください」
「防衛機制っていうのは・・・?」
「コウタくんの場合は、理不尽な事故への憎しみや怒り、お父さんが亡くなった悔しさなどを自分のなかで納得させるために、ショウタくんというイマジナリーフレンドをつくり出したと考えられるんですが・・・、ちょっとわかりにくいですよね?」
「いえ・・・、何となくわかったような気がします。では、このままにしておいても大丈夫なんでしょうか?」
「ええ、ほとんどの場合はストレスが軽減されることや、年齢が進むに連れて消失しますので、このままにしておいても心配ないと思います」
カガワ先生がそう言うと、「そうですか」と、少し安心したようなお母さんの声が聞こえた。
すると、さっきカガワ先生が座っていたぼくの目の前の椅子には、いつのまにかショウタくんが座っていて、「僕たちずっと友達でいられる。よかったね!」とぼくに微笑みかけた。ぼくも大きくうなずいて、ショウタくんと肩を組んだ。