島があった。酔狂で育った緑と、砂浜と、打ち上げられる流木以外、なにもない小さな島だ。
決闘の場として選ばれたのは、そんな場所だった。
両者は激突した。
稲妻の速度で繰り出されるのは、全て必殺の一撃。
剣戟は、さながら嚙み鳴らされる餓狼の牙。
流血を渇望し、相手の命を喰らうまで、己の命が尽き果てるまで、止まることは決してない。
ここに繰り広げられるのは、激しい斬り結び合い。
――しかしそれは、唐突に終わる。
一閃! 静止する、二人。
そして――曼殊沙華(※)のような赤が、吹き上がった。
瞬間、全てが決まる。一人は勝者となり、一人は敗者に成り下がる。
この話は、これでお終いだ。
ただ、勝者と敗者が生まれるだけの決闘の話など。
――物語の本当の始まりは、ここからだ。
何故なら――これは、終焉から始まる物語なのだから。
彼は一人、砂浜にいた。
見ようによっては、敷き詰められた曼殊沙華の上に横たわっているように見えるだろう。
それほどまでに、鮮烈な光景だった。無惨に割れた額から未だ流れ続ける血の海に、仰向けに倒れる敗者の姿というのは。
もう間もなく最期を迎えることを、彼は自覚していた。
「迎えは……お前たちか」
彼の視界の中でのみ、それらは舞う。複雑な軌道を描く都度、藍黒色の両翼が淡く輝く。
細くて小さな体形でありながら、翼を持つどの存在よりも速く飛ぶ――「飛燕」という言葉の通り。
それらは、ツバメだった。数多の――それこそ、空を覆い尽くすほどの。
事実、彼は、それだけ数多くのツバメを斬った。
全ては、最速の剣技を窮めるためだ。
そのような蛮行に至った理由は、至極単純。彼は、強き剣士でありたかった。
否、話はそれ以前だ。彼は生きるために強くならねば、生きるためだけに強くあらねばならなかった。
未だ戦乱の種が芽吹く乱世の時代、弱いことは罪そのものである。
――それだけなら、どれだけよかっただろう。
彼には、生まれながら烙印があった。万死の罪の象徴を持つことを表す、忌まわしい――自分が流し、横たわる曼殊沙華と同じ色の烙印が。
だから、強くなるしかなかった。彼は、我武者羅に死に抗った。
最速の剣技は、そのための手段の一つだ。
「だが……俺は、結局敗れたのだ」
夕陽が、沈む。
かりそめの終焉を迎える世界が、赤く染まっていく。
その下で、彼は逝こうとしている。最期の時、幻影のツバメたちに囲まれながら。
「さぞかし俺が憎かろう、ツバメたちよ」
彼は笑っていた。闘争と流血に彩られた道を進んだ、短い生。
だが、悔いのない人生――
「俺は神速の領域の剣技を手にすべく、お前たちを斬った。斬って斬って斬って斬って、斬った。結果はどうあれ、俺はお前たちの屍を踏み台にした。そして、この敗北は、お前たちへの冒涜だ。……俺を地獄に連れていくなり、なんなり好きに」
――だったはずだ。
「なんなり好きに、なんだ?」
✟✟✟✟✟✟
(※)曼殊沙華……彼岸花のこと。
一瞬、我を失いかける。
それほどの衝撃的だったのだ。彼を覗き込むようにして立つ、異様な存在というのは。
奇怪な風体の少女だった。
結うことも留めることもせず垂らした長い髪は、虹の光沢を持たない螺鈿の色。肌は、砂浜に打ち上げられた貝殻のように透き通った白。身に纏うのは、漆黒の布地を複雑に縫い合わせた衣。
少女は、異人だった。日ノ本の国の人間の色を持たぬ、外の人間だ。
目が合うと、少女は瑠璃色の目を細めた。――笑ったのだろうか?
否、嗤ったのだろう。
純粋な異人にしてみれば、彼はコウモリだ。獣でありながら翼を持ち、鳥でありながら牙を持つ中途半端な存在だ。
転びバテレン(※)が戯れに市井の女を孕ませ産ませた、異人でも日ノ本の人間でもない、彼という存在は。
「……悪くない。お前で良さそうだ」
その声は、ひどく優しい。キリシタンが崇める女というのは、もしかすればこのような声を持っているのかもしれなかった。
故に、彼は戸惑いを隠せない。桜貝を思わせる薄い色の唇から吐き出されたのは、剣士として名を馳せるまで、それこそ生まれ落ちた時から浴びせられ続けていた、いわれのない罵りではなかったのだから。
「このまま戦いに身を置き、武を極めん者として、無様に敗れ、ただ死んでいくなど、つまらぬと思わぬか? つまらぬ、と云うのならば……」
彼のそんな感情を、少女は無視する。そして、一方的に喋りたててくる。
「雛僧、わたしを受け入れろ」
一体、なにを、言っている? それよりも、お前は……お前は一体、なんなんだ?
直後、抱いた疑念は、直感に変容する。
この異人の少女は――否、そもそもこれは人間ではない。
死神、狐狸妖怪の類、火車(※)を引くという悪鬼――いずれにしろ、ロクな存在ではないに違いない。
「ここで散ることを、無様に終わることを拒むのなら、死の境界を踏み越えた先、安寧など許されぬ戦場に臆さぬというのなら、至高を渇望するというのなら……雛僧、わたしと契約し、騎士となれ。
わたしは【魔神】ディスコルディア。【英雄】たる資質を持つ人間を、騎士へと昇華させる者」
異人の少女の姿のそれは、ディスコルディアと名乗った。
紡がれた言葉は、彼を混乱に陥れるものばかりで構成されていた。
それでも、理解できることが、唯一つ。――これは、誘惑だ。
ディスコルディア――複雑なまじないのような名を持つそいつは、彼を誘いをかけている。肝心な詳細を、巧みに惑わして。
「強さを与えてやろう、とこのわたしは言っているのだ。それこそ、お前を打ち破ったあの剣士を超える」
その言葉が、引き金となる。彼の脳裏に、記憶に刻まれた光景が、断片的に浮かぶ。
独りあてもなく流離う幼少時。
刀を振るい殺すことを覚えた少年時代。
ただひたすら剣技を磨き、剣士の名声と悪名を広めた青年時代。
そして、最期を迎える今。
あの凄腕の剣士との決闘。
彼を打ち負かし、悠々と去って行く勝者の後ろ姿。
敗者である彼に、目をくれることはない。
――本当に、悔いのない人生、だったのか?
――このような最期のためだけに、俺の人生はあったのか?
彼は、今、揺らいでいた。彼を人間として保たせる理性と、彼が彼である前の一つのいきものが求める欲望の狭間で。
「迷うな。時間はあまりない。貴様の魂は、既に燃え尽きかけのろうそくだ。間もなく、死神の腕に抱かれよう。さあ、どうする?」
異変は、唐突だった。
ディスコルディアの背後で、煙が吹き上がる。
つん、と鼻の奥を強烈に刺激する硫黄の臭気に、思わずむせかけた。
言うなれば、それは扉だ。この世の存在ではない存在が、現れるための。
そいつは、髑髏だった。ぼろぼろの黒衣で全身を包み、手には馬鹿でかすぎる鎌を携えている。
その手の知識に疎くとも、あの世からの使いだと、彼は瞬時に理解した。
「の、ぞ……む」
「ほぅ……」
「渇望する、と……俺は、言った、のだ! でぃすこるでぃあ!」
故に、彼は堕ちた。
人間であることより、いきものであることを選んだのだから。
「契約だ! 俺を、この俺をどらうぐるに……そして、至高へと導け!
俺は契約を渇望するぞ! でぃすこるでぃあ!」
「契約、成立だ!」
ディスコルディアは、笑みを変えた。
「してやったり!」と嗤う、奸智に長けた悪党の笑みに。
それが、彼がこの世界で見た最後のものとなった。
✟✟✟✟✟✟
(※)転びバテレン
江戸時代に拷問や迫害によって棄教したキリシタン(キリスト教徒)のこと。
宣教師などの宗教指導者の場合、転びバテレンという。
キリシタンが棄教することを「転ぶ」と言う。
(※)火車
悪行を積み重ねた末に死んだ者の元に現れる、地獄からの迎えの車。
死神は、死にゆく者の魂の匂いを嗅ぎつけ、現れた。
異様な匂いを放つ存在を押しのけ、魂を収穫しようとする。
瞬間、光が大爆発した。奔流となって荒れ狂い、死神を吹き飛ばす。
死神は、見た。ことの元凶が、大いなる変貌を遂げるのを。
巨大な両翼、王冠のような冠羽、長い尾羽――それらは全て、真紅と黄金を帯びた純白。
少女の姿は、既になかった。代わりに現れたのは、神々しい輝きを持った巨鳥だった。
神話に紡がれる不死鳥という幻獣は、もしかすればこのような姿ではないのだろうか?
「今しばらく微睡め、雛僧……いや、我が騎士よ。いざ、行かん!」
死神は激昂し、鎌を振りかざした。
腹を引き裂いて、奪還するつもりだった。死神の獲物は、既に巨鳥の中に納まっているのだから。
だが、相手の方が早かった。
ことを行おうにも、既に遅し。翼を羽ばたかせ、大空へと飛び立っていた。
追いすがろうとする――が、振り振りきられる。
死神が獲物を掻っ攫われたことへの罵声を吐き散らす頃、ディスコルディアは暗黒の宇宙を飛翔していた。
目指すのは、渇いた星の荒野のどこかではない。
果ての向こう側、誰も知り得ることのない、とある世界。
その世界の歴史の記録によれば、ある時一人の剣士が決闘に敗れ、無念の死を遂げたという。
しかし、これはまだ、物語の序章に過ぎない。
何故なら、時代と場所は異なるが、同じようなことが世界各地で起こっていたからだ。
史実によれば、その王は巨大な勢力を持つかのオスマン帝国を退けた偉大なる名君であり、されど、敵や反逆者を容赦なく処刑する暴君でもあった。
臣下の裏切りにより、その命は、今まさに尽きようとしていた。
「竜の名を持ちし誇り高き名君にして暴君よ、我が名は【魔神】ミスラ。ヒトを……【英雄】たる資質を持つ者を、騎士に昇華させし者なり」
史実によれば、その狙撃手は冬戦争と呼ばれる戦争において超越した狙撃の腕を遺憾なく発揮し、数多の敵を撃ち殺したという伝説を持っていた。
戦後は穏やかな生活を送り、ゆっくりと老いを重ねたその命は、かつて自らが守ったロシアとの国境線近くの町で、今まさに尽きようとしていた。
「絶対無敗の銃の勇士よ、我が名は【魔神】メリュジーヌ。ヒトを……【英雄】たる資質を持つ者を、騎士に昇華させし者なり」
史実によれば、その剣鬼は最強にして最後の剣客集団【新選組】を支え、時のうつろいに抗いながら、護るべきもののためにその卓越した剣技を振るったという。
遥か北の地で行われた戦いの最中、狙撃を受け、その命は今まさに尽きようとしていた。
「剣鬼と恐れられし武士よ、我が名は【魔神】ペルセポネ。ヒトを……【英雄】たる資質を持つ者を、騎士に昇華させし者なり」
史実によれば、その剣士は最強にして最後の剣客集団【新選組】の一員であり、時のうつろいに抗いながら、仲間たちを――なにより盟友を護り鼓舞するため、剣を振るい続けたという。
退くことが許されぬ激戦の最中、銃弾を受け、その命は今まさに尽きようとしていた。
「昇ることなく命を終えた心優しき者よ、我が名は【魔神】アスタロト。ヒトを……【英雄】たる資質を持つ者を、騎士に昇華させし者なり」
史実によれば、その無法者は腕利きのガンマンとして無法が渦巻く時の西部開拓時代を生き、二十一歳で死ぬまでに二十一人を殺したという。
暗闇の中、追っ手として放たれた刺客が放った銃弾により、その命は今まさに尽きようとしていた。
「無念の果てに潰えし法に繋がれざる者よ。我が名は【魔神】イシス。ヒトを……【英雄】たる資質を持つ者を、騎士に昇華させし者なり」
史実によれば、その聖女は祖国のため、なにより自分を導いた神とキリストのため、兵を率いて戦場を駆け巡った。
虜囚の身に落ち、魔女の汚名を着せられ、火刑台に上がる炎の中、その命は今まさに尽きようとしていた。
「可憐でありながら勇猛な聖女よ。我が名は【魔神】ヴェルダンディ。ヒトを……【英雄】たる資質を持つ者を、騎士に昇華させし者なり」
――与太話だが。
「なんということだ!」
「見ろ、ジャンヌ様のご遺体から純白の鳩が!」
「なんてことだ! 俺たちは、俺たちは……本物の聖女を焼き殺してしまったんだ!」
「神よ、お赦しを!」
「魔女」が炎に焼かれていく様を嗤いながら見ていた民衆は大パニックに陥り、跪いて許しを請うたという。
――既に【魔神】と契約を交わし、その身に取り込まれていた聖女は、勿論そんなこと知りもしないのだが。
これは、もしかすれば、ありえたかもしれないことだ。
されど、この世界の歴史の一端でしかありえず、もう終ってしまったことだ。
そして、騎士となった者たちにしてみれば、最早関係ないことなのだ。
キリは、泣いていた。泣きながら、走っていた。
何故、どうして、こんな目に遭わなければいけないのだろう?
時計の針を戻そう。
ひっそりと隠れるように、その村はあった。
聞くところによれば、村人の祖先たちは、あの戦争から始まった差別や奴隷狩りから辛うじて逃げ延びた者なのだとか。
彼らによって築かれた人々の安住の地、アシュロンの森という黒い海の上にたった一つだけ浮かぶ小島を思わせる村、その名をトルシュ村という。
小さいながらもしっかりとした造りの、木造の家屋が建ち並ぶ。
その間には、収穫を待つ畑や共同井戸のある広場へと通じる道が走る。
草地では牛やヤギがのんびりと草を食み、家屋の庭の一部を囲ったスペースに放された鶏は地面をつついていた。
日々の小さな幸せと安寧を願い、生きる人々の生活が見える、慎ましく整った村。
村人の姿が消えた村を、そいつらはアシュロンの森からじっと見ている。
村に一軒しかない酒場。そこは、仕事を終えた村人たちが週一回の割合で一杯引っ掛ける、ささやかな娯楽の提供場である。
そこに、村人たち全員が集っていた。
なにも知らない者からすれば、異様な光景だろう。
ニガヨモギ色の肌、垂れた耳と潰れた鼻、全体的にぽってりとした体形の、オークの亜人。
背はそんなに高くなく、樽みたいなずんぐりむっくりの体躯、髭をぼうぼうと生やした、ドワーフの亜人。
二足歩行の子犬のように愛らしい姿の、コボルトの亜人。
村人たちは、全員、亜人である。この世界において忌み嫌われ、「悪」そのものと定められた種族たちだ。
その誰もが皆、精一杯のおしゃれをしていた。若き一組の男女が愛を誓い、結ばれる結婚式に、野良着や作業着で駆け付けるなんてとんでもないことだからだ。
そんな中において、キリはまるで麦の袋に紛れ込んだスイカの種みたく、浮いていた。
身に纏うのが、滅多に着ないよそ行きのワンピースドレスだからではない。
蜂蜜を溶かしたミルク色の肌、ぱっちりとした黄金の瞳、さらさらロングの髪は秋空のように澄んだライトブルー。
肌は獣毛や鱗に覆われていないし、尖ったり垂れたりしていない耳は丸い。
ぱっと見て、キリは人間にしか見えない。亜人を敵視し、憎む「善」そのものの種族そのものだ。
実際、キリは人間である――ただし、半分だけ。
聞いた話では、おおよそ十三年前、トルシュ村に一組の男女が現れたのだという。
奴隷狩りの恐ろしい魔の手から逃げてきたという亜人の男性と、逃亡の手助けをしたために追われることになった人間の女性を、村人たちは匿い、村の一員として受け入れた。
その二人が逃亡生活の最中もうけたのが、キリなのだという。
「でも、あんまり実感できないよ」
多分、キリは母親の血が濃いのだと思う。記憶に残る父みたく、肌は青くないし耳は尖っていないし、牙も角もないのだから。
でもだからといって、母そっくりにもならなかった。記憶に残る母は、黒い髪に黒い瞳、肌は浅黒かったし。
それでも、いつか聞こうと思っていのだ。
だけどその頃にはもう、両親は亡き人だった。
「キリ、キリ」
肩をつつかれる。はっ! と意識を現実に戻したキリに、紙吹雪が入ったバスケットが渡される。
友達のラロとモルとロロ、同年代のコボルトの亜人とゴブリンの亜人とオークの亜人が、目の前に立っていた。
「いいか?」
ラロは、真剣な表情でみんなを見る。
「練習通り……いくよ!」
「……ごめん、おしっこしたい」
「ロロ!」
ラロの声に棘が生える。しかし、祝いの場に怒りはご法度だ。
「さっさと行ってこいよ、もう!」
「それでは、新郎新婦の入場です!」
ロロは「ごめん、ごめん」と、バスケットを置く。
酒場の奥の扉が開き、婚礼の衣装に身を包んだ若い亜人の男女が出てくるのと、ロロが野外に設けられたトイレへ行くのにこっそり出て行くのは、ほぼ同時だった。
「ボゥラさん、ドゥーラさん、ご結婚おめでとうございます!」
村人たちが、祝福の言葉を紡ぐ。
ラル、モル、キリは、バスケットの紙吹雪をまく。紙吹雪が、新郎新婦に降り注ぐ。
「ボゥラさん、ドゥーラさん、どうか末永くお幸せに!」
皆からの温かい祝福を受け、新郎新婦は微笑んだ。
今、この場には、二人の結婚を心から祝う人々の幸せと笑顔が満ち溢れている。
故に、ロロが戻ってこないのに、誰も気付くことはなかった。
「急がなくちゃ! 急がなくちゃ!」
用を足し終えたロロは、走っていた。
今日は、村をあげてのお祝いの日だ。ドゥーラさんが、お嫁に行く日なのだ。
ドゥーラさんは、ダークエルフの亜人である。魔王に追随した裏切り者とされ、亜人に落とされたと伝えられるエルフの一属。
でも、それがなんだ! とロロは思っている。
ドゥーラさんは、よくお菓子――ナッツ入りのクッキーやベリーのパイを作ってごちそうしてくれた。
それがただの趣味ではない証拠に、ドゥーラさんの腕には火傷の痕があった。菓子を乗せた重い鉄板をかまどに入れる際、たまにやらかしてしまうドジなのだと、でも、ある意味菓子職人の見習いにとっては勲章みたいなものだと、黒褐色の肌に刻まれたそれを、ドゥーラさんは誇りにしていた。
そんな素敵な人――ロロにとって憧れの女性が、今日、お嫁に行く。
いの一番で、お祝いを言うつもりだった――結局、尿意に勝てなくてだめだったけど。
だけどせめて、せめて、みんなで練習したお祝いの歌だけはきちんと届けたいのだ。
そんなロロの後ろ姿を、いくつもの目が見ていた。
目の持ち主たちは、アシュロンの森の中に潜んでいた。全員、鎧を纏い、剣や槍で武装している。
そのうちの一人が、背負っていた弓を構えた。矢を番え、狙いを定める。
――そして、矢が放たれる。
狙い通り、矢はロロの首に命中した。何が起こったのか分からないまま、ロロは倒れる。
死んだオークの亜人の子供の周りに、目の持ち主たちが集まってきた。
その中心に進み出るのは、華美なデザインの鎧に身を包んだ若い女だ。
女は、帯びていたレイピアを抜いた。同時に、旗が掲げられる。
真紅の布地に描かれるのは、【大いなる黒き竜】の紋章。
大陸に名を馳せる大国が一つ、【黒竜帝国】の威を示すもの。
「これより、亜人どもを殲滅する!」
「応!」という声が、一糸乱れず応える。
結婚式は、大いに盛り上がっていた。
村人たちは、生涯を共にし合うことを誓った男女に、お祝いの言葉を述べていく。中には、ささやかな贈り物をする者もいる。
「ロロ、帰ってこないな……」
大きい方にしても、いくらなんでも遅いような気がする。これじゃあ、お祝いの歌を歌えない。この日のために、みんなで一生懸命練習したのに。
モルとラロはいない。さっきまでぶーたれていたのだけど、出されたごちそう――ふわふわに焼いた卵とか、川海老の素揚げとか、チーズを乗せた薄焼きパンとかを目にした途端、ダッシュで言ってしまった。
誘われて、キリも一応行ったのだが――
「キリ、どうした?」
取った揚げ菓子は、しょっぱかった。白砂糖がたっぷりまぶしてあるのに。
一人離れ、涙ぐんでいたキリを心配したのだろう。給仕を手伝っていた、ロナーが来てくれた。
ロナーは、キリにとって頼れる近所のお兄さんだ。三つ年上で、ダークエルフの亜人の男の子だ。
目があったり声をかけられたりすると、心臓がどきどき大騒ぎして、顔がぽぅっとなってしまう――何故か分からないけど。
「ううん……ちょっと、おセンチになってただけ」
キリは、涙を拭う。
「お父さんとお母さんも、あんな風にみんなにお祝いしてもらったのかなって思って」
「キリ……」
亜人の父は五年前、人間の母は三年前、流行り病で亡くなった。
聞いた話によれば、父と母が結婚したのは、トルシュ村にやって来てからなのだという。
「わたしも、大人になったら……村の誰かのお嫁さんになれるのかな? わたし、純粋な亜人じゃなくて、半分人間だけどさ」
おおよそ500年前まで、この世界は荒れ狂う魔王の脅威にさらされていたという。
魔王は強靱な肉体を持ち、想像を絶する魔力を振るい、亜人と魔物の大軍勢を従えていた。
この恐ろしい脅威に立ち向かうべく、人間と獣人とエルフは手を結び、同盟軍を結成。
両勢力は激突し合い、戦争が幾度も起こった。それは何百年にもわたって繰り返され、多くの英雄譚が生まれたという。しかし、悲劇もまた多く繰り返された。
――このままでは、世界が魔王の手に落ちるか、世界そのものが破滅しかねない。
終わりが見えない戦争に終止符を打つため、人間と獣人とエルフの高位魔術師たちは魔力の粋を結集した。そして、「異なる世界」から【転生者】――後にこの世界を救うこととなる勇者を呼び寄せる。
チートスキルと「異なる世界」の知識を持った【転生者】は、仲間たちと共に魔王を討ち滅ぼした。
主であり、力の象徴であった魔王を失った軍勢は、総崩れとなる。以降、亜人と魔物は憎悪の対象となった。
戦後、【転生者】によって、全ての存在は「善」なる者と「悪」しき者に識別されることになる。
「善」なる者は、人間と獣人とエルフ。
「悪」しき者は、亜人と魔物。
それが、あらましだ。【転生者】が救ったこの世界の現状、厳然たるルールが支配する。
それらを知った時、キリはこう考えた。
「善」なる者でも「悪」しき者でもない自分は、一体なんなのだろう?
以来、キリの思考は出口の見えない迷路の中を、ずっと歩き回っている。
「そんなの……かまうかよ! キリはキリだ」
ロナーはそんなキリを叱るように声を荒げた。
「シヴァさんと瞳美さんの自慢の子供のキリだ。トルシュ村で一番かわいいキリだ。ベリーのジャムを作るのが得意なキリだ。上着に刺繍をするのが下手くそなキリだ。おれのかあちゃんが作るシチューが大好きなくせに、にんじんが苦手でおれの皿にいつの間にか押し付けてくるキリだ。トルシュ村の一員のキリだ!」
「ロ、ロナー?」
そこまで言うと、ロナーはそっぽを向いてもじもじしてしまった。
見たら、ダークエルフの亜人特有の、先端が短剣の刃みたく尖った形の耳まで真っ赤になっていた。心なしか、垂れてへにゃんとなっているように見えなくもない。
わけもわからず首を傾げるキリに、ロナーは、自分のポケットに手を突っ込んだ。
――今思えば、だ。
あの時、ロナーはキリへのペンダントを――青くきらきら光る石を加工して作ったそれを、プレゼントしようとしていたのだ。
だけれども――
「だから、もしよかったら、俺と」
――結局、キリは最期までロナーに答えることができなかった。
ロナーからキリへの気持ちも、キリからのロナーへの気持ちも、この直後、全部壊されてしまったのだから。
がしゃーん! と、派手な破砕音が響く。
キリはてっきり、調子に乗って飲み過ぎた誰かがお皿でも落として壊した音だと思った。
実際は、そうじゃなかった。
誰かが、悲鳴を上げた。絞め殺される千匹の猫の断末魔のような、人の口から決して上がってはいけないものだ。
あとで思えば、それを上げたのはロロの母だったような気がする。酒場の窓を破るように投げ込まれた、ロロの亡骸を見た。
村人たち全員が状況を理解する前に、酒場の扉が蹴り破られる。
どかどかと、足音荒く乗り込んできたのは、鋼の鎧に身を包んだ集団。
「昼間からこんな所に集まってパーティーか、亜人ども!」
彼らは、剣や槍を構えた。
「だが、好都合だ!」
――だからキリは今、アシュロンの森を走っている。
覚めることが叶わぬ現実と化した、悪夢の中を。
【黒竜帝国】の兵士たちは、亜人の少女を追いかけていた。
子供とは言え、討伐隊や奴隷狩りからせこせこ500年も逃げ続けている「悪」しき者であるが故、馬を駆っても捕まえることができそうにない。
村の亜人たちは、見つけ次第全員殺すよう命を受けている。だが、殺す前に手を出してはいけないという命は聞いていない。
故に、彼らは「お楽しみ」を欲していた。「悪」しき者を蹂躙するという、最高の「お楽しみ」を。
そのための武器を取り出す。スリングという、遠心力の力で石を飛ばす武器だ。
石をセットし、頭上で振り回す。十分勢いがついたところで――放つ!
狙い通り、亜人の少女の背中にぶち当たる。
兵士たちの間から、下卑た歓声が上がった。
背中に、重々しい衝撃が走る。
悲鳴と同時に、肺の空気が一気に口から吐き出される。
目の前の鬱蒼とした茂みにダイブするよう、キリは倒れた。
不意に、視界が大きく変わる。
同時に、浮遊感。そして――バシャーンッツ!!
派手な音と共に、キリは水中に飲み込まれる。前方に横たわっていた湖に、落ちたからだ。
……く、苦しいっ! 息がっ! 助けてっ、誰か助けてっ! ……おとう、さん。……おかあ、さん……。
剣が、槍が、容赦なく振るわれる。結婚式のために酒場に集っていた村人たちを、【黒竜帝国】の兵士たちはなんの躊躇もなく殺していく。大人も子供も男も女もかまうことなく殺す。
皆、悲鳴を上げて逃げ惑った。中には跪き、泣いて命乞いをする人もいた。
だけれども、兵士たちが聞き留めることはなかった。
――最早、虐殺だ。
「キリ、逃げろ! お前だけは、逃げて!」
キリを抱いて逃げるロナーは、血だらけになっていた。斬られたのか、右の耳が半分、千切れてしまっている。
仲良しだったモルとラロ、鍛冶師のアジス爺ちゃん、パン屋のメヒコおばちゃん、牛飼いのミディーおじちゃん、ボゥラさんとドゥーラさん――村の優しい大人たちは皆、血だらけになって倒れて動かなくなっていた。
「がっ!」と、嫌な声が聞こえた。キリを庇って背中を深々と斬られたロナーの口から、血がどぼどぼ溢れ出る。
悲鳴を上げようとしたキリに「これくらい大丈夫だ。親父の拳骨の方がずっと痛いよ」とロナーは優しく笑った。そして、キリの手になにかを押し付けた。
「キリ、逃げて、生きて、俺の分も、お願い、みんなの分も……!」
――そこから先は、覚えていない。
……鍛冶師のアジス爺ちゃんは腕のいい鍛冶師で、みんなの農具を作ったり直したりしてくれました。
……パン屋のメヒコおばちゃんは、毎日早く起きてみんなのパンを焼いてくれました。
……ドゥーラさんは隣の家の素敵なおねえちゃんで、わたしが小さい頃、遊んでくれたり抱っこしてくれました。菓子職人を目指して、いつも頑張っていました。
……ボゥラさんはそんなドゥーラさんを好きになって、お嫁さんになってほしいってみんなの前でプロポーズした素敵なおにいさんで……。
……牛飼いのミディーおじちゃんは、牛のお産を見せてくれてくれました、みんなに命の尊さを教えてくれました。
……ロロ、モル、ラロ……それに、ロナー。ひどいよ……こんなきれいな石でできたペンダントなんか、いらないのに。……みんなと一緒なら、わたしはそれだけで……よかったのに。
湖の底に、意識の底の闇に、キリは沈んでいく。
……そんなすてきなみんなが、なんで……亜人ってだけで、昔、魔王の軍勢に加担したってだけで、【転生者】が勝っただけで、こんな残酷に殺されなきゃいけないの? わたしたちは、誰にも迷惑をかけず、静かに暮らしていたよ。なのに、ひどいよ……!
キリは目を閉じたまま、泣いていた。涙を流さず、嗚咽を漏らさず、
……助けて……誰か、怖いよ! ……死にたくない……!
故に、キリは気付かなかった。
ペンダントが、青く強い光を放つ。
キリに――正確に言うと光に向かい、湖底から近づくシルエットがあった。
それは手を伸ばし、キリを掴む。
抱き止め、水面に一直線に向かう。
光の中、彼という存在は大きく変わろうとしていた。
死に瀕していたもとの身体は既にほどけ、消滅してしまっている。
残ったのは、魂だけ。
不思議なことに、違和感も不安もなかった。
繭のように彼を包む光が優しく、濁りなかったせいかもしれない。
とくん、と――温かい鼓動を感じる。
彼の魂、むき出しになったありのままの感覚に、それはじんわりと広がっていく。熱い力が内側から湧き立ち、やがて奔流となって駆け巡る。
新たな身体が編み上がるまで、彼は生命の心地よさに存分に浸った。
――夢を、見る。
「貴様、何者だ!?」
そう問うた相手を、青年の彼は容赦なく斬った。
答えなかったのではない。
答えたくとも、答えられないだけだ。
そもそも、彼には名がなかった。
――或いは、遠い過去を思い出す。
くしが通される都度、美しく長い髪はつやつやと黒く輝いた。
まだ幼い彼が背後から見ていることに気づいたのだろう、母が振り向く。
次の瞬間、その手にあったはずのくしは彼の額にぶち当たっていた。
「去ね!」
転びバテレンに戯れに孕まされ、望まず産み落とした我が子に、母は名をつけることはなかった。
故に、彼には名がなかった。
――記憶と精神が、構成されていく。
独りになった少年の彼が狩り場としたのは、決まって戦場跡の周辺だった。
コウモリのように行き場のない彼は、落武者や合戦への復讐に燃える農民たちを殺し、食う糧を奪い得て生きるしかなかったのだ。
出会いを果たしたのは、関ヶ原――日ノ本の国史上最大にして最後の大戦の地。
西の勢力に付いたと思われる一人の武将の亡骸の下に、一振りの刀があった。
それが持つ美しさと獰悪さに、彼は途方もなく惹かれた。
以降、彼はその刀を生涯の得物とすることになる。
刀には、東の勢力が忌み嫌うという名があった。
だけれども、彼には名がなかった。
――そして、己という存在を思い出す。
切っ掛けは忘れたが、青年の彼はさる流派の腕の立つ剣士を斬った。
以降、彼は闘争と決闘を繰り返し、剣士として名声と悪名を上げていくことになる。
あの凄腕の剣士との決闘に敗れ、終焉を迎える、その時まで。
ぼんやりと、目を見開く。取り巻くのは、真っ暗な闇だけ。
妙な浮遊感に包まれているのに気づく。それは重く、冷たい。
ということは――ここは、水の中なのだろうか?
なんとなく、思い出す。そういえばガキの頃、密航に失敗し、こっぴどい目に遭ったことがあった。
居合わせた連中全員から死ぬほど殴られた挙句、「サメのエサにでもなっちまえ!」と、甲板から海に放り込まれたのだった。
と、その時、視界の片隅の闇の中、青い光が爆発する。
瞬間――彼は、意識を覚醒させる。
松明を手にした兵士たちが、湖の周辺を走り回っていた。
太陽は、もうとっくに沈んでいる。亜人の少女が落ちて、かなりの時間が経過していた。
死体は、未だ見つかっていない。故に、生きている可能性がある。
頼むから死んでいてくれよ――と、ハインツは思っていた。逃げる背中に向けて、スリングを投げた兵士だ。
あの後、散々だった。仲間たちから「獲物を水ん中に落としちまいやがって!」と罵声を浴びせられたのだから。
そもそもの元凶である亜人の少女を、ハインツは心の中で深く呪っていた。
苛立つが故、気付けなかったのだ。ハインツだけではない。その場の兵士たち、全員。
風が吹いてもいないのに、湖にさざ波が起こっていた。
唐突に、轟音!
湖から、水柱が、大きくド派手に噴き上がる!
突然のことに、兵士たちは全員、仰天した。水柱にではなく、水柱を上げた存在に対して。
「貴様、何者だ!?」
対し、そいつは――
『何者かって?』
この世界に降り立った彼は、口端を歪め、ひどく楽しそうに笑った。
『俺は、剣士だよ。【名無し】のな』
語り継がれる法則によれば、剣士を倒すのは力であり、力を宿すのは刀であり、刀は剣士を産むのだという。
それは、彼という剣士を生誕させた。
或いは、転生だったのかもしれない。人間から、剣士への。
名声と悪名、剣技と宿敵――そして、彼はついに名を得る。
【名無し】の剣士。
それは、彼が剣士として得た唯一の誇り。
そして、剣士である彼が生きるための、唯一の証。
湖を割るよう水柱を上げ、兵士たちの前に降り立ったのは、奇妙な男だった。
歳は、二十歳そこそこだろう。まだ、大人として年若い頃である。
肌は少し浅黒く、背はしゅっと高い。顔立ちと視線は、まるで割れた御影石のように鋭利。
目を中心に顔の左半分をえぐるように走るのは、ばかでかい十字型の傷。
鋼のようにしなやかな筋肉に覆われた肉体を包むのは、胴に灰色の太い長布をぎゅっと巻いた黒い衣。
はっきり言って、奇妙なデザインである。
まず、ボタンやベルトがない。鎖が露出していないから、懐中時計を入れるためのポケットもないに違いなかった。
袖の形が似ているため、修道士や魔術師が着るローブに見えなくもない。だが、その胸元は大きくはだけ、デザインとしてはいっそ冒涜的ですらあった。
裾もおかしい。足元まで隠すのが当たり前であるはずなのに、すねが露出する中途半端な長さに仕上がっているのだから。
おまけに、穿くのは靴ではない。足首から指先までぴったりと覆う固そうな布、それを更に荒縄を複雑な形に編んだもので戒める、まるで拘束具のようなサンダル。
着流しも帯も、足袋も草鞋も知らないのだから、当然と言えば当然だろう。
しかし、それら以上に目を引くのは――その容姿を彩るものたち。
はだけて露わになったその胸元から覗くのは、虎の全身に走る縞を思わせる、攻撃的な意匠の黒いイレズミ。
胴に巻いた灰色の長布に挟むのは、握りの近くに円環の飾りが施された、杖のような細い木の棒状のもの。
なにより、処刑人が振るう処刑剣から滴り落ちる血を思わせる、不吉なまでに赤い髪。
兵士たちの間を、緊張が走り抜ける。なにより、探していた存在を手に堂々と立つ豪胆が、相手が一体何を考えるか分からなくさせていたからだ。
第一、こいつは誰何の声に対して、答えようという意志を見せなかった。
されど、腕に抱えているものを見れば、敵であることは火を見るより明らかである。
キリは、薄く目を開く。
息ができない水の中、苦しさが限度を超え、意識はぐちゃぐちゃになっていた。
でも、ちゃんと覚えている。
誰かが、自分を助けてくれた。ということは、助かったのだろう。
背中と膝の裏に、なにか固いものが当てられていた。抱き上げられているのだ。
誰に? 決まっている、助けてくれた人だ。
目を開いているはずなのに、視界は真っ暗だった。きっと、頭と胸ががんがん痛くて、息がうまくできないせいで、目がおかしくなっているのに違いない。
それでも、キリは見ようとした。誰であっても、自分を助けてくれた人だからだ。
その人は、本当に、人――だったのだろうか?
「……デッド・スワロゥ?」
見えてしまったものを無意識のうちに呟いて、キリは意識を手放した。
その無法者は、アシュロンの森を見下ろせる小高い丘の上に身を潜めていた。
BAIGISH(※)の双眼鏡を通して見るのは、今にもおっ始まりそうな現場だ。
最初は、南の方で色々とやらかしまくったことへの報復で、貴族連中が放った追っ手かと思っていた。
だが、予想は大いに反することになる。あの真紅に【大いなる黒き竜】の紋章が描かれた旗は、この世界に大きく版図を広げる大国が一つ、【黒竜帝国】のもの。
それと相対するのは――
「なんか面倒くせぇことになってきた」
その言葉に、傍らに控える【魔神】は頷いて同意した。
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(※)BAIGISH
ロシア軍用双眼鏡の老舗メーカー。