「ありがとう!大切にする!」
ニッコリ笑った笑顔は素直に可愛いと思ってしまった。
それからは2階に上がるとタッチパネルに映った映像をタッチすると、事故や犯罪が起こりやすい場所の注意点などが解説されるような場所があったり、事故が起こる様子を映像で見せて注意を促すようなものがあったりした。暗殺者の僕からしてもある意味いい勉強になった。
「楽しかったね!」
「うん。警察博物館だからもっとお堅いものだと思ってたけどそうでもなかったね」
僕は今思っている感想を述べた。
「確かにねー!」
僕らは帰りの電車に乗ろうと思い駅の改札を抜ける直前に僕の携帯から着信音がなった。一旦横にはけてスマホを見てみると知らない番号からだった。恐る恐る出てみると、
『もしもし……』
『もしもし!』
聞き覚えのある声だった。あの忌々しい小泉明菜の声。ふと霞を見ると改札を通っておらず僕の横で待っていた。
『……なんの用だ』
『そんな怯えなくていいよ?もしかしてまたこ親指隠してる?』
ふと左手を見ると焦ると親指を隠す癖が出ていた。
『そういうのいいから。なんで僕の携帯番号知ってんだ』
『なんでって……君の携帯指紋認証でしょ?』
その質問で瞬時に理解した。こいつ俺が倒れた日にわざわざ俺の手を使って勝手に携帯のロックを解除して番号だけ抜き取ったんだ。
『また家に遊びに行ってもいい?というか今向かってるんだけどね!』
僕はすぐに通話を切り霞に、
「ごめん!先帰ってて!」
そう言ってすぐにタクシー乗り場に向かった。霞が後ろで「え!?」と叫んでいるのを無視して全力疾走した。たまたま1台止まってたタクシーに飛び乗った。
「あの!すぐに隣町の○○というマンションに向かってください!急いでください!」
「了解しました〜」
僕の事情も知らない運転手は呑気にそんな返事をした。霞には後日謝ろう、そう思った。
マンションの前に着くと運転手に一万円を渡した。
「お釣りはいりませんから!」
5540円だったのでお釣りはで無いはずだ。
「え!?お客さん!?」
その運転手の声を無視してすぐに自分の部屋番号に向かった。
部屋の前に着くと小泉明菜はドアの前に寄りかかって空を見ながら僕を待っていた。
「おい。どういうつもりだ」
「遊びに来ただけだけど?それにしても隣町にいたにも関わらず早かったね」
「は?なんで知って……」
単純に怖かった。一気に鳥肌が立ち、走ってきた時に出てきた汗が引いた。
「たまたま見かけただけだよ?そんな怖がらなくても平気だよ?ほら、また親指隠してるし」
何もかも知られてこれ以上どうすればいいのか自分では分からなかった。
「ほら、早く!鍵開けて?」
「上がるのか?」
彼女は僕の部屋に入る気満々だ。というか上がらせないと帰らないと思ったし、ずっとここにいられると近所迷惑だと思い、小泉明菜を僕の部屋の中に入れた。これで2度目だ。全て不本意だが。
「前来た時も気になったんだけどさぁ、靴が多い理由ってやっぱり仕事?」
また小泉明菜の純粋な疑問だ。これは答えないと何をされるか分からない恐怖があった。だから頭が答える前に口が勝手に答えていた。
「そうだよ」
「へぇー!私、喉乾いた。お茶ちょうだい?」
部屋の床に座るなり僕に命令してきた。でも、からだが勝手に動いていた。まさに操り人形みたいに。
「……………」
僕は無言でお茶を出した。特に話す理由もないからだ。
「仕事道具は?」
「………」
「ねぇ?仕事道具は?」
正直答えたくなかった。あの道具は人を殺すための道具だ。こんなやつに場所を教えて殺されでもしたらたまったもんじゃない。
「それは……言えない」
「えー。つまんな!じゃあパソコンいじらせて?ほら、早くつけてよ」
小泉明菜は床から立ち上がりパソコンのキーボードをバンバン叩き始めた。すぐにそれを辞めさせる。
「やめろよ。壊れたらどうするんだよ」
「じゃあほら、早くつけて?」
暗殺者の僕でさえ恐怖を感じた。抗えない生存本能。初めて殺されるかもしれない側にたった気がした。
「パソコンで何するんだ」
「君の仕事ぶりを見てみたいだけ」
こちらに振り返りあの不気味な笑みを浮かべていた。でも目は笑っていなかった。
そしてこれもこいつの純粋な疑問と言うやつなのだろうか。僕は指示通りパソコンをつけた。
パソコンをつけると慣れた手つきであの裏サイトを開いた。今止めたら何されるかわからなかったので黙ってみることにした。僕が今まで何人殺したかなんて今更バレたところで何も問題がなかった。
「へぇー以外に少ないんだねー!まだまだだね〜」
やっぱりそこに食いつくのか。それにまだまだだねって……。
「それでさぁ!楽しかった?安藤さんとのデート」
数分間パソコンを弄った後、再び床に座り僕にそんな質問をしてきた。
「……普通だった…けど」
そう返すしかなかった。
「普通って何それ!」
「その話はいいから!要件は?」
こいつを俺の家に長居させたくなかった。
「君を助けただけだよ?」
小泉明菜はまた訳の分からないことを言い出した。
「僕を………助けた?」
「それだけだから!じゃあ帰るね〜」
僕が唖然としていると小泉明菜は玄関から普通に帰っていった。それにしても僕を助けたってどういうことだ。
『7月18日』
昨日は特に霞や小泉明菜から連絡が来ることもなく次の日を迎えた。
随分前に頼んだノートパソコンが届いた。そしてその届けを知らせるチャイムで目が覚めた。
昨日みたいなことが起こらないように仕事用とプライベート用で分けようと霞が家に来た時に思ったから2台目をネットで買った。
霞が昨日見せてくれたニュースはパッとしか見れなかったので今度はきちんと見ようと思った。
「小泉茂…42歳……」
あの時、霞が見せてきたのは見間違いなんかじゃなかった。見間違いであって欲しいと願ったがダメだった。そして、このニュースは色んな出版社で取り上げられていた。
不意にテレビをつけてみると日曜の昼間のワイドショーもこの話題で持ち切りだった。
『バラバラ遺体…犯人はまだ確保されておらず……。これどう思います?』
と司会の人がタレントの人に質問していてそのタレントは、
『人間のやることじゃないですね……。早く捕まって欲しいですね。』
そのテレビを僕は今どんな顔で見ているだろうか。
午後2時を回ったところで再びインターホンが鳴った。
「はーい、今出ます。」
そう言って扉を開けると複数の男性と1人の女性が手帳を開いて僕に見せてきた。
「警察だ。ちょっと聞きたいことがあるから署まで来てくれるかな?」
心臓がドクン!ドクン!とものすごい音を立てていた。
「僕…なんか悪いことしました?」
一旦冷静になってそう質問した。
「いや、あくまで事情聴取だけだから安心してきてくれ」
「あ、そうなんですか……。というか近くでなんかあったんですか?」
「ニュース見てないのかい?」
一人の男性がそう言ったがおそらく小泉明菜の父親が死んだ事件なんだろうけど知らないふりをすることにした。
「はい。すみませんテレビとかあんまり見なくて」
「てか、君一人暮らし?」
今度は別の男性が僕の家の中をジロジロ見ながら質問してきた。
「あ、はい。高校1年生から一人暮らししてて」
「珍しいねぇ。両親は遠くで暮らしてる感じかな?」
「あ、いえ……両親はいません」
「あ、それはすまなかった」
質問した男性は軽く頭を下げた。
「えっと…警察署までいかなきゃダメですか?」
なるべくあそこには行きたくなかった。
「じゃあ私だけ中に入れてもらうことはできるかな?」
この中で唯一の女性刑事が初めて口を開いた。
「え、はい。別に何人でもいいですけど、どうぞ」
「じゃあお前らは下にいろ」
この口調からしてこの中で一番偉い人なんだろう。
とりあえず中に入れて、お茶を差し出した。
「わざわざすまないね」
「あ、いえ。別に……それで何かあったんですか?」
さっさと本題に入って署まで帰って欲しかった。
「まずは1個、個人的な質問なんだがあの靴の量はなんだ?」
「え、あれですか?僕、靴を集めるのが趣味なんですよ」
「一人暮らししてるのに随分と裕福だね」
嫌味ったらしくそう聞いてきたので僕は笑顔で、
「ええ。祖母が大量にお金を振り込んでくれるので。それで…その事件とは何ですか?」
するとその女性刑事は訳の分からない資料みたいなのを机に並べた。
「隣町であった事件なんだが。この男性に見覚えはないか?」
隣町であった事件にもかかわらずピンポイントで僕の家を押しかけてきたあたり、何故か僕のことを疑っているらしい。
「すみませんが知りません。その男性がどうかしたんですか?」
決してぼろを出す訳にはいかない。
「ああ。この男性は無惨な姿で亡くなった。」
僕はわざと動揺した。
「無惨な姿?それは随分と可愛そうですね……」
僕がそう言うと女性刑事はイラつきを隠せていなかった。これは僕に向けてというより犯人に向けてという顔だ。
「ああ。だから一刻も早く犯人を捕まえたい」
「というか…なんで隣町であった事件なのに僕の家に来たんですか?」
思い切って聞いてみることにした。というか聞かないと不自然だ。
「この方は隣町のとある森で亡くなっていたんだが、君がその森の出口で倒れているのを彼の死亡推定時刻の日と重なっていたから犯人を目撃したんじゃないかって思ってね」
この女性警察官の目を見るに嘘はついてないように見えた。とりあえず僕が犯人だと疑われているわけではなさそうだった。実際、僕が問われるのは殺人未遂だ。そもそもなんで僕がそこで倒れていたのを知ってるのか疑問だった。