朝になって、桜夜さんが洞窟に現れる。
「おはようございます、竜也さん。昨日は眠れましたか?」
「寝づらくて体中が痛いよ。それに、トイレ!」
「トイレがどうかしましたか?」
「スライムに、その……。」
不思議そうな顔で桜夜さんが見てくる。
「人間の時のウォシュレットみたいに思えばいいんですよ。」
「無理無理。絶対無理。恥ずかしすぎる……。」
「今の姿が全裸なのは気にしないんですか?」
「そりゃあ気にするよ!でも、トイレよりかはマシ。」
僕が溜息ついてるのを気にもせず、桜夜さんは資料に目を通しながら言う。
「本日は、食べ物の採り方と、戦い方から説明しましょうか。」
「え?食べ物は分かるけど、戦い方?」
「はい。昨日、盗賊の話をしましたよね。実際、来るんですよ。
ドラゴンが住んでる場所には、財宝があるって言われてるので。
此方ではなく、ドラゴンの世界での話ですけど。」
「ドラゴンの世界にも、人間は居るんだ。」
「違う文明の進み方ですけど、居ますよ。こちらでは電気や機械が発達した事で、
今の文明を築いているのは説明不要ですよね。
ドラゴンの居る世界は、魔術や信仰による精神と魂が発達した文明になります。」
「魔法とかそういうもの?」
「そうですね、魔法や魔術、精霊や神、超能力や幽霊と呼ばれるものの文明が
発達していることになります。」
関心して説明を聞いていると、色々気になってきたので質問してみた。
どうやら訓練する必要はあるようだが、僕自身も魔法が使えるらしい。
「ということは、人間って相当強いんじゃないの?」
「そういう訳でもないです。先程申し上げた通り、訓練が必要なんです。
訓練するためには顧問、杖や冠などの補助具が必要です。例外もありますが、
これらはとても高価なので一部の方でしか扱えないようになっています。」
「貴族とかそういうこと?」
「似たようなものですね。王族しか扱えないとか、有名な冒険者とか。」
「なるほど。そういう人とは会いたくないなぁ。」
「ドラゴンの世界では、人間は短命な方なので、なかなかないと思いますよ。
此方のように、現代医療がある訳じゃないので、
人間は40~50歳頃が平均寿命と言われています。冒険者も多いですし、
そうなると更に短命です。ドラゴンは8~900歳、獣人は200歳、
エルフやドワーフも4~500歳が平均。他の種族も比較的長命なのも居ます。
精神と魂が発達していますので、肉体が滅んでも『生きて』る方も居ますよ。」
「それって記憶は?新しいこと覚えられるの?」
「正しく記載された文献がないので何とも言えませんね。」
桜夜さんが資料をしまって、手招きしてくる。
「まずは魚取りから始めましょうか。」
「そういえば、丸1日食べてないや。」
「毎日食事を食べても問題は無いですが、
ドラゴンの姿であれば1週間くらい何も食べなくても大丈夫ですよ。
泳ぎ方は慣れました?」
「ちょっとづつ、慣れ始めてきたところ。」
僕たちは昨日の湖のところへ行き、僕は湖に入って桜夜さんを見る。
「桜夜さん、そういえば人間の姿への戻り方ってどうすればいいの?」
「明日、教えますね。今はドラゴンの姿に慣れてください。」
「ちぇ。」
「泳ぎ方ですが、まず水中で目を開ける時に目に膜が張られるのは分かりますか?」
「うん、シュッて出てくるやつだよね。」
僕が陸上で同じことをやって見せたのを見て、桜夜さんがうなずく。
「そうです。目を保護するために出る、それが瞬膜です。
ドラゴンの場合は主に水中と飛行中に使われますね。水中は説明不要ですよね。
飛行する際にも速度が出るので、瞬膜が必要なんです。」
「そんなに速度を出せるんだね。」
「瞬膜をうまく使って、水中を見ると魚の位置も分かりますよね?
手で捕まえるようにではなく、爪で突き刺すように。」
「やってみる。」
試してみると、桜夜さんが言ったとおり爪で突き刺すのが一番簡単だった。
何匹か仕留めて陸に上がる頃、既に焚き火が起こされていた。
「そのまま食べれますが、火が通ったものの方がいいですよね。」
「もちろん。」
桜夜さんが下処理を済ませて手際よく棒に刺し、焼かれていく魚を僕は眺める。
「ドラゴンの世界にも、魚も野生動物は居ますし果物もあります。
仕留め方や採り方は似たようなものです。調理をしたいのであれば、
そういう方を雇うか、自分で覚えなければいけないのも一緒です。」
こんがりと焼けた魚を僕に差し出してくる。
「人間の世界なら通貨で食事も買えますが、ドラゴンだとそうもいきません。
自給自足生活みたいなもんですよ。」
苦笑いしつつ受け取る僕とは違って、終始楽しそうにしていた。
しばらくしてから、焚き火の後片付けも済み、桜夜さんに促される。
「じゃ、食事もしたことですし、戦い方の説明しましょうか。」
「戦い方って、爪?とかになるのかな?」
「他には、尾と翼とブレスです。魔法はまた今度。」
洞窟から出て、少し広い場所へ移動する。
尾を使う腰のひねり方や、翼を羽ばたかせての突風の作り方を教わった。
「次はブレスですね。まず、どういう仕組みなのかという話から。
人間の男性には、喉仏というのがありますよね?
ドラゴンの場合、そのあたりに液状になった火袋が存在します。
この火袋の中にある液体が専用の管を通って口の中に出る時に、
可燃性のガスが発生してブレスの素になります。口の中で着火したら、ブレスの完成です。」
「化学反応、なんだね。ちょっと意外。」
「火袋を使う場合はそうですね。喉仏を意識して口を広げながら大声を出すと、
ガスが出ます。意識しなくても着火されてブレスを吐けますが、
着火する器官自体は上顎の奥あたりになります。2箇所を意識出来るようになると、
ガスが出るタイミングと着火するタイミングが調整できます。」
「桜夜さん、とっても詳しいんだね。ドラゴンなの?」
「いえ、私は違います。そちらに関しては、今は控えさせてください。」
調子に乗ってしまった気がして、バツが悪くなった。
桜夜さんは母さんたちに依頼されてるだけなんだなぁ……。
依頼が終わったら何処かに帰るのかな。ちょっと寂しい気がする。
「火袋を使わないブレスってあるの?」
「あります。魔力を使うブレスです。こちらは、今は少々難しいかもしれません。」
「どうやってやるの?」
「呪文によって、頭の中で意識して使用する形になります。
ブレスは、『puster』ですね。頭の中で唱えながら口を開き、
体の中心から喉へ魔力が流れるようなイメージをしてください。
あとは身体が勝手にやってくれます。」
「使い慣れろ、ってことだね?大変そうだ……。」
「魔力の使い方も、コレで一緒に覚えてください。
説明はだいたいこのあたりですかね。……よし、周囲には誰も見当たりませんので、
今日はこのまま身体の動かし方とブレスの練習をして、
夜になったら洞窟に戻ってください。私は少々用事もあるのでこれで。」
「そうなんだ。……戻り方は、やっぱり明日?」
「はい。魔力の使い方にも関係しますので、頑張って慣れてくださいね。
では、明日。」
桜夜さんはそれだけ言うと森の中に消えて行った。
後は夜までトレーニング以外はやることが無さそうだ。
「早く人間に戻って、お風呂に入りたい……。美味しいご飯が食べたい……。」
愚痴っても、卒業式も試練も待ってくれない。分かっているけど。
僕は夜まで、一人でトレーニングに明け暮れることにした。
「おはようございます、竜也さん。昨日は眠れましたか?」
「寝づらくて体中が痛いよ。それに、トイレ!」
「トイレがどうかしましたか?」
「スライムに、その……。」
不思議そうな顔で桜夜さんが見てくる。
「人間の時のウォシュレットみたいに思えばいいんですよ。」
「無理無理。絶対無理。恥ずかしすぎる……。」
「今の姿が全裸なのは気にしないんですか?」
「そりゃあ気にするよ!でも、トイレよりかはマシ。」
僕が溜息ついてるのを気にもせず、桜夜さんは資料に目を通しながら言う。
「本日は、食べ物の採り方と、戦い方から説明しましょうか。」
「え?食べ物は分かるけど、戦い方?」
「はい。昨日、盗賊の話をしましたよね。実際、来るんですよ。
ドラゴンが住んでる場所には、財宝があるって言われてるので。
此方ではなく、ドラゴンの世界での話ですけど。」
「ドラゴンの世界にも、人間は居るんだ。」
「違う文明の進み方ですけど、居ますよ。こちらでは電気や機械が発達した事で、
今の文明を築いているのは説明不要ですよね。
ドラゴンの居る世界は、魔術や信仰による精神と魂が発達した文明になります。」
「魔法とかそういうもの?」
「そうですね、魔法や魔術、精霊や神、超能力や幽霊と呼ばれるものの文明が
発達していることになります。」
関心して説明を聞いていると、色々気になってきたので質問してみた。
どうやら訓練する必要はあるようだが、僕自身も魔法が使えるらしい。
「ということは、人間って相当強いんじゃないの?」
「そういう訳でもないです。先程申し上げた通り、訓練が必要なんです。
訓練するためには顧問、杖や冠などの補助具が必要です。例外もありますが、
これらはとても高価なので一部の方でしか扱えないようになっています。」
「貴族とかそういうこと?」
「似たようなものですね。王族しか扱えないとか、有名な冒険者とか。」
「なるほど。そういう人とは会いたくないなぁ。」
「ドラゴンの世界では、人間は短命な方なので、なかなかないと思いますよ。
此方のように、現代医療がある訳じゃないので、
人間は40~50歳頃が平均寿命と言われています。冒険者も多いですし、
そうなると更に短命です。ドラゴンは8~900歳、獣人は200歳、
エルフやドワーフも4~500歳が平均。他の種族も比較的長命なのも居ます。
精神と魂が発達していますので、肉体が滅んでも『生きて』る方も居ますよ。」
「それって記憶は?新しいこと覚えられるの?」
「正しく記載された文献がないので何とも言えませんね。」
桜夜さんが資料をしまって、手招きしてくる。
「まずは魚取りから始めましょうか。」
「そういえば、丸1日食べてないや。」
「毎日食事を食べても問題は無いですが、
ドラゴンの姿であれば1週間くらい何も食べなくても大丈夫ですよ。
泳ぎ方は慣れました?」
「ちょっとづつ、慣れ始めてきたところ。」
僕たちは昨日の湖のところへ行き、僕は湖に入って桜夜さんを見る。
「桜夜さん、そういえば人間の姿への戻り方ってどうすればいいの?」
「明日、教えますね。今はドラゴンの姿に慣れてください。」
「ちぇ。」
「泳ぎ方ですが、まず水中で目を開ける時に目に膜が張られるのは分かりますか?」
「うん、シュッて出てくるやつだよね。」
僕が陸上で同じことをやって見せたのを見て、桜夜さんがうなずく。
「そうです。目を保護するために出る、それが瞬膜です。
ドラゴンの場合は主に水中と飛行中に使われますね。水中は説明不要ですよね。
飛行する際にも速度が出るので、瞬膜が必要なんです。」
「そんなに速度を出せるんだね。」
「瞬膜をうまく使って、水中を見ると魚の位置も分かりますよね?
手で捕まえるようにではなく、爪で突き刺すように。」
「やってみる。」
試してみると、桜夜さんが言ったとおり爪で突き刺すのが一番簡単だった。
何匹か仕留めて陸に上がる頃、既に焚き火が起こされていた。
「そのまま食べれますが、火が通ったものの方がいいですよね。」
「もちろん。」
桜夜さんが下処理を済ませて手際よく棒に刺し、焼かれていく魚を僕は眺める。
「ドラゴンの世界にも、魚も野生動物は居ますし果物もあります。
仕留め方や採り方は似たようなものです。調理をしたいのであれば、
そういう方を雇うか、自分で覚えなければいけないのも一緒です。」
こんがりと焼けた魚を僕に差し出してくる。
「人間の世界なら通貨で食事も買えますが、ドラゴンだとそうもいきません。
自給自足生活みたいなもんですよ。」
苦笑いしつつ受け取る僕とは違って、終始楽しそうにしていた。
しばらくしてから、焚き火の後片付けも済み、桜夜さんに促される。
「じゃ、食事もしたことですし、戦い方の説明しましょうか。」
「戦い方って、爪?とかになるのかな?」
「他には、尾と翼とブレスです。魔法はまた今度。」
洞窟から出て、少し広い場所へ移動する。
尾を使う腰のひねり方や、翼を羽ばたかせての突風の作り方を教わった。
「次はブレスですね。まず、どういう仕組みなのかという話から。
人間の男性には、喉仏というのがありますよね?
ドラゴンの場合、そのあたりに液状になった火袋が存在します。
この火袋の中にある液体が専用の管を通って口の中に出る時に、
可燃性のガスが発生してブレスの素になります。口の中で着火したら、ブレスの完成です。」
「化学反応、なんだね。ちょっと意外。」
「火袋を使う場合はそうですね。喉仏を意識して口を広げながら大声を出すと、
ガスが出ます。意識しなくても着火されてブレスを吐けますが、
着火する器官自体は上顎の奥あたりになります。2箇所を意識出来るようになると、
ガスが出るタイミングと着火するタイミングが調整できます。」
「桜夜さん、とっても詳しいんだね。ドラゴンなの?」
「いえ、私は違います。そちらに関しては、今は控えさせてください。」
調子に乗ってしまった気がして、バツが悪くなった。
桜夜さんは母さんたちに依頼されてるだけなんだなぁ……。
依頼が終わったら何処かに帰るのかな。ちょっと寂しい気がする。
「火袋を使わないブレスってあるの?」
「あります。魔力を使うブレスです。こちらは、今は少々難しいかもしれません。」
「どうやってやるの?」
「呪文によって、頭の中で意識して使用する形になります。
ブレスは、『puster』ですね。頭の中で唱えながら口を開き、
体の中心から喉へ魔力が流れるようなイメージをしてください。
あとは身体が勝手にやってくれます。」
「使い慣れろ、ってことだね?大変そうだ……。」
「魔力の使い方も、コレで一緒に覚えてください。
説明はだいたいこのあたりですかね。……よし、周囲には誰も見当たりませんので、
今日はこのまま身体の動かし方とブレスの練習をして、
夜になったら洞窟に戻ってください。私は少々用事もあるのでこれで。」
「そうなんだ。……戻り方は、やっぱり明日?」
「はい。魔力の使い方にも関係しますので、頑張って慣れてくださいね。
では、明日。」
桜夜さんはそれだけ言うと森の中に消えて行った。
後は夜までトレーニング以外はやることが無さそうだ。
「早く人間に戻って、お風呂に入りたい……。美味しいご飯が食べたい……。」
愚痴っても、卒業式も試練も待ってくれない。分かっているけど。
僕は夜まで、一人でトレーニングに明け暮れることにした。