「おや、今日は珍しいお客さんだね」
さっそく家に帰り……
お父さまに時間を割いてもらい……
エスト君を交えて、客間で話をすることに。
「突然の訪問、失礼いたします」
「いやいや、構わないよ。娘の友達なら歓迎するよ。ようこそ、クラウゼン家へ」
お父さまはにっこりと笑い、エストを歓迎してくれる。
ただ、この笑顔は今だけだろう。
仕事の話に踏み込むと、冷たく鋭いものに変わるに違いない。
こう見えて、怖い父なのだ。
本当なら雑談をして、なるべくお父さまの機嫌を良くしてから話をしたいのだけど……
無理をいって時間をもらっている以上、それは難しい。
それに、回りくどい話を嫌う人だ。
下手な小細工はせず、真正面から切り込んだ方がいいだろう。
「お父さま。今日は、お聞きしたいことがあって、貴重な時間をいただきました」
「ふむ、聞きたいこと? まさか……アリーシャかシルフィーナが、グランフォールド君と交際を!?」
「え?」
「いやいやいや、それはダメだ。待ちなさい。交際なんて、二人にはまだ早い。まずは社交界にデビューをして、いや、でもそれも……」
お父さまは、なにか盛大に勘違いをしているようだ。
あわあわと慌てている。
その様子にくすりと笑ってしまいそうになるのだけど……
同時に、温かい気持ちになる。
こうやって慌てるということは、私達のことを大事に想っているという証拠に他ならない。
私もシルフィーナも愛されているのだ。
うん。
私達姉妹は幸せものだ。
ただ……
「お父さま、私達は、エスト君と交際しているわけではありません。そういう報告をしに来たわけではありません」
「そ、そうなのか……」
「グランフォールド家について、お聞きしたいことがあるのです」
愛されているからといって、それに甘えるだけではいけない。
時に対峙しないといけないはずだ。
「……ふむ」
お父さまは一瞬で冷静さを取り戻して、ソファーに座り直した。
静かな……ひたすらに静かな視線をこちらに向けてくる。
「聞きたいことというのは?」
「お父さまならば、もう察しているのでは? 最近、グランフォールド家が進めていた研究にストップをかけたみたいですね。そのことについてお聞きしたく、本日はお時間をいただきました」
「……ふう」
お父さまは小さな吐息をこぼした。
それから立ち上がり、背中を向ける。
「アリーシャ達に話すことはなにもないよ」
「お父さま!」
「グランフォールド家のことを話すつもりはない。子供は子供らしく、勉強をして友達と遊んでいなさい」
やはりというか、取り付く島がない。
それにしても……
いつも以上に頑なな態度を取っているような気がするのだけど、気のせいだろうか?
絶対に知られたくないことに触れられたかのような……そんな感じだ。
「用事はそれだけだね? では、私は仕事に戻るよ」
ここでお父さまを逃してはいけない。
お父さまがなにを考えているのか?
それは、まだなにもわからないのだけど……
しかし、話を引き出す『対価』は用意している。
「お父さま、少しよろしいですか?」
「なんだい? 話はもう……」
「……三日前の昼。どなたとお食事をされていましたか?
お父さまを追いかけて、そう耳元で問いかけた。
反応は劇的で、お父さまの顔色がみるみるうちに青くなる。
まあ、当然だ。
娘から、浮気現場について問いかけられたのだから。
「……ど、どこでそれを?」
「……ふふ、秘密です」
私は悪役令嬢だ。
どうあがいてもその立場は変わらず、常に破滅の危機がある。
それを回避するために、今、奮闘しているわけだけど……
破滅を迎えてしまった後のことも考えておいた方がいい。
修道女として教会に預けられるか、国外追放されるか、処刑されるか。
色々な破滅パターンがあるのだけど、どのパターンでも家が関わってくるだろう。
その時のために、父と母の弱味も探っていた。
母は聖女と言っていいほど高潔な人物で、まるで弱味がなかったのだけど……
父は違った。
真面目な人なのだけど、それ故に女性に弱い。
好意を向けられると一蹴することができず、ついつい流されてしまい、そのままズルズルと……なんていうパターンが多い。
父は公爵だ。
妾の一人や二人、全く問題ないのだけど……
真面目な性格が災いして、決断することができず、浮気なんてことをしてしまっている。
早く妾として迎え入れればいいのに。
お母さまも反対はしないだろう。
まあ、それはともかく。
お父さまには悪いのだけど、これ、思い切り利用させてもらう。
「……か、母さんには?」
「……いいえ。このことは、まだ私しか知りませんわ」
「……そ、そうか。その、私は決して浮ついた気持ちで彼女と会っていたわけではなくて、むしろ、真剣に考えているからこそ悩み……」
「……そのことについて、私は文句などをつけるつもりはありません。ただ、お母さまは怒るかもしれませんね」
「……うっ」
その光景を想像したのか、お父さまの顔色がさらに青くなる。
公爵で一家の主。
しかし、お母さまにだけは敵わないのだ。
「……ああ、私、心が苦しいですわ。お母さまにこのようなことを報告しなければいけないなんて」
「……ま、まってくれ、アリーシャ。それは……」
「……ですが」
私はニヤリと笑い、悪魔のささやきを告げる。
「……お父さまが話をしてくれるのならば、三日前の光景は忘れてしまいそうな気がします。どうでしょう?」
「……わかった、話をしよう……」
お父さまは、とても疲れた様子で頷いた。
ごめんなさい、お父さま。
他に手がないし……
私は悪役令嬢なので、脅すなんてこと、当たり前なので。
さっそく家に帰り……
お父さまに時間を割いてもらい……
エスト君を交えて、客間で話をすることに。
「突然の訪問、失礼いたします」
「いやいや、構わないよ。娘の友達なら歓迎するよ。ようこそ、クラウゼン家へ」
お父さまはにっこりと笑い、エストを歓迎してくれる。
ただ、この笑顔は今だけだろう。
仕事の話に踏み込むと、冷たく鋭いものに変わるに違いない。
こう見えて、怖い父なのだ。
本当なら雑談をして、なるべくお父さまの機嫌を良くしてから話をしたいのだけど……
無理をいって時間をもらっている以上、それは難しい。
それに、回りくどい話を嫌う人だ。
下手な小細工はせず、真正面から切り込んだ方がいいだろう。
「お父さま。今日は、お聞きしたいことがあって、貴重な時間をいただきました」
「ふむ、聞きたいこと? まさか……アリーシャかシルフィーナが、グランフォールド君と交際を!?」
「え?」
「いやいやいや、それはダメだ。待ちなさい。交際なんて、二人にはまだ早い。まずは社交界にデビューをして、いや、でもそれも……」
お父さまは、なにか盛大に勘違いをしているようだ。
あわあわと慌てている。
その様子にくすりと笑ってしまいそうになるのだけど……
同時に、温かい気持ちになる。
こうやって慌てるということは、私達のことを大事に想っているという証拠に他ならない。
私もシルフィーナも愛されているのだ。
うん。
私達姉妹は幸せものだ。
ただ……
「お父さま、私達は、エスト君と交際しているわけではありません。そういう報告をしに来たわけではありません」
「そ、そうなのか……」
「グランフォールド家について、お聞きしたいことがあるのです」
愛されているからといって、それに甘えるだけではいけない。
時に対峙しないといけないはずだ。
「……ふむ」
お父さまは一瞬で冷静さを取り戻して、ソファーに座り直した。
静かな……ひたすらに静かな視線をこちらに向けてくる。
「聞きたいことというのは?」
「お父さまならば、もう察しているのでは? 最近、グランフォールド家が進めていた研究にストップをかけたみたいですね。そのことについてお聞きしたく、本日はお時間をいただきました」
「……ふう」
お父さまは小さな吐息をこぼした。
それから立ち上がり、背中を向ける。
「アリーシャ達に話すことはなにもないよ」
「お父さま!」
「グランフォールド家のことを話すつもりはない。子供は子供らしく、勉強をして友達と遊んでいなさい」
やはりというか、取り付く島がない。
それにしても……
いつも以上に頑なな態度を取っているような気がするのだけど、気のせいだろうか?
絶対に知られたくないことに触れられたかのような……そんな感じだ。
「用事はそれだけだね? では、私は仕事に戻るよ」
ここでお父さまを逃してはいけない。
お父さまがなにを考えているのか?
それは、まだなにもわからないのだけど……
しかし、話を引き出す『対価』は用意している。
「お父さま、少しよろしいですか?」
「なんだい? 話はもう……」
「……三日前の昼。どなたとお食事をされていましたか?
お父さまを追いかけて、そう耳元で問いかけた。
反応は劇的で、お父さまの顔色がみるみるうちに青くなる。
まあ、当然だ。
娘から、浮気現場について問いかけられたのだから。
「……ど、どこでそれを?」
「……ふふ、秘密です」
私は悪役令嬢だ。
どうあがいてもその立場は変わらず、常に破滅の危機がある。
それを回避するために、今、奮闘しているわけだけど……
破滅を迎えてしまった後のことも考えておいた方がいい。
修道女として教会に預けられるか、国外追放されるか、処刑されるか。
色々な破滅パターンがあるのだけど、どのパターンでも家が関わってくるだろう。
その時のために、父と母の弱味も探っていた。
母は聖女と言っていいほど高潔な人物で、まるで弱味がなかったのだけど……
父は違った。
真面目な人なのだけど、それ故に女性に弱い。
好意を向けられると一蹴することができず、ついつい流されてしまい、そのままズルズルと……なんていうパターンが多い。
父は公爵だ。
妾の一人や二人、全く問題ないのだけど……
真面目な性格が災いして、決断することができず、浮気なんてことをしてしまっている。
早く妾として迎え入れればいいのに。
お母さまも反対はしないだろう。
まあ、それはともかく。
お父さまには悪いのだけど、これ、思い切り利用させてもらう。
「……か、母さんには?」
「……いいえ。このことは、まだ私しか知りませんわ」
「……そ、そうか。その、私は決して浮ついた気持ちで彼女と会っていたわけではなくて、むしろ、真剣に考えているからこそ悩み……」
「……そのことについて、私は文句などをつけるつもりはありません。ただ、お母さまは怒るかもしれませんね」
「……うっ」
その光景を想像したのか、お父さまの顔色がさらに青くなる。
公爵で一家の主。
しかし、お母さまにだけは敵わないのだ。
「……ああ、私、心が苦しいですわ。お母さまにこのようなことを報告しなければいけないなんて」
「……ま、まってくれ、アリーシャ。それは……」
「……ですが」
私はニヤリと笑い、悪魔のささやきを告げる。
「……お父さまが話をしてくれるのならば、三日前の光景は忘れてしまいそうな気がします。どうでしょう?」
「……わかった、話をしよう……」
お父さまは、とても疲れた様子で頷いた。
ごめんなさい、お父さま。
他に手がないし……
私は悪役令嬢なので、脅すなんてこと、当たり前なので。