「聞きましょう」
「あら」
素直な態度を見せてやると、ゼノスは驚いたような顔に。
「てっきり、怒ると思っていたわ。バカにするな、とか、ふざけるな、とか」
「そういう気持ちは確かにありますが、まずは話を聞く方が先決と判断しました」
黒幕がわざわざ姿を見せた。
その意味を考えないといけない。
バカにするためにやってきたわけではない。
あざ笑いに来たわけではない。
己の正体を暴露しているのだ。
つまらない用事ではなくて……
ゼノスにとって、大事な話があると考えるのが普通だ。
「合格よ。ここで短気を起こすようなら殺していたのだけど、あなたなら、話をする価値があるわ」
「それはどうも」
まったく褒められている気がしない。
「それで、話というのは?」
「せっかちな子ね」
「雑談を望んでいるわけではないでしょう?」
「その通りね。なら、ストレートに言わせてもらうのだけど……私の仲間にならない?」
仲間?
それはどういうことだろう?
「私のこと、アリエルからどれくらい聞いている?」
「娯楽で私を殺すような神さまだと」
「そうね」
否定も言い訳もせず、ゼノスは素直に頷いてみせた。
まったく悪びれていない。
本当、アリエルが言っていたように困った神さまだ。
「神さまなんてものをやっていると、けっこう退屈な時期があるの。不老不死で、なんでもできる。退屈しのぎっていうのが、一番の問題なのよ」
「そのために、私に色々とちょっかいをかけた?」
「正解。あなたはとても良い退屈しのぎだったわ。悪役令嬢に転生したのに、めげることなくまっすぐ歩いて、メインヒロインのような立場になってしまうんだもの。見てるだけで飽きなかったわね」
「そのまま見ていてほしかったのですが」
「そうしてもよかったのだけど、ちょっとしたいたずら心が湧いてね。ここで突然死んだら、あなたはどんな反応をするだろう? 泣くだろうか? 絶望するだろうか? それとも、屈することはないか?」
思わず、深いため息がこぼれてしまう。
ホント、迷惑な神さまだ。
自分の欲求を満たすために、人一人の命に干渉してしまうなんて。
邪神に認定しても問題ないのでは?
「で……あなたとなら、もっと退屈を潰せるような気がしたの。どう? 私と一緒に、おもしろおかしく生きてみない?」
「私は、誰かをどうこうするなんて力は持っていないのですが」
「メインヒロインやヒーローを誘惑することができるでしょう?」
誘惑とは失礼な。
そもそも、ヒーロー達はともかく、フィーに対しては愛しかない。
「あなたは、あなたの好きにしていいわ。ヒーロー達との恋愛を楽しんでもいいし、メインヒロインとのんびり過ごしてもいい。ただ、時々、私のために世界を引っ掻き回してもらうだけ」
「……」
「そうすれば、たくさんおいしい思いをさせてあげる。なんなら、私の使徒として、不老にしてあげる。一緒におもしろおかしく生きてみない?」
不老という言葉は魅力的だ。
人はいつか絶対に死ぬ。
故に、程度の差はあれ、不老に憧れない者なんてほとんどいないだろう。
でも……
「お断りします」
「へぇ……それはなぜ?」
「あなたのことが嫌いなので」
怪しいとか信用できないとか。
こんな神さまと手を組んだら破滅が待っていそうとか。
色々と理由はあるものの……
究極的に、その一言に尽きる。
誰が好き好んで、私を一度殺した相手の仲間にならないといけないのか?
あと、ゼノスは無理だ。
生理的に無理だ。
こいつは敵だと、本能が訴えている。
今はなんとか自制しているものの、ちょっとした弾みで紅茶をぶっかけてしまいたくなる。
「ふふ」
ゼノスは機嫌を悪くするどころか、よりうれしそうに笑う。
「やっぱり、あなたはとてもおもしろいわ。普通の人間なら、迷うことなく私の手を取るのに、あなたははねのけた。ふふ、とても観察しがいがあるわ」
「どうも」
「安心して。私の誘いを断ったからといって、前回のようにあなたを殺すことはしない。今回は、ほどほどの干渉で済ませるわ」
「ほどほど……ね」
つまり、これからも嫌がらせは続くということだ。
そんなことを、目の前で、笑顔で言ってのけるゼノスは、頭がおかしいのではないかと思う。
さすが邪神だ。
「そういうことなら、勝負をしませんか?」
「勝負?」
「私が悪役令嬢としての運命に打ち勝ち、生き残ることができた時は、私の勝ち。逆に、世界の強制力とやらに負けて、悪役令嬢として最後を迎えたのなら、あなたの勝ち。勝者は敗者になんでも一つ、命令できる……どうですか?」
「……」
ゼノスは目を丸くして、
「あはっ、あははははは!!!」
爆笑した。
「私、これでも何万年と神をやっているんだけど、人間に賭けを持ち込まれたことなんて、一度もないんだけど。あはははっ、本当に面白いわ。ますます気に入った。絶対に、あなたを私のものにしたくなったわ」
「その台詞、勝負を受けるということで?」
「ええ、いいわ」
よし。
ひとまず、この場で考えられる限りの最善の手を取ることができた。
「あなたと一緒に遊べるのを楽しみにしているわ」
「私は、ゼノスが泣いてごめんなさい、というところを楽しみしています」
私は悪役令嬢らしく笑い、そう言い放つのだった。
「あら」
素直な態度を見せてやると、ゼノスは驚いたような顔に。
「てっきり、怒ると思っていたわ。バカにするな、とか、ふざけるな、とか」
「そういう気持ちは確かにありますが、まずは話を聞く方が先決と判断しました」
黒幕がわざわざ姿を見せた。
その意味を考えないといけない。
バカにするためにやってきたわけではない。
あざ笑いに来たわけではない。
己の正体を暴露しているのだ。
つまらない用事ではなくて……
ゼノスにとって、大事な話があると考えるのが普通だ。
「合格よ。ここで短気を起こすようなら殺していたのだけど、あなたなら、話をする価値があるわ」
「それはどうも」
まったく褒められている気がしない。
「それで、話というのは?」
「せっかちな子ね」
「雑談を望んでいるわけではないでしょう?」
「その通りね。なら、ストレートに言わせてもらうのだけど……私の仲間にならない?」
仲間?
それはどういうことだろう?
「私のこと、アリエルからどれくらい聞いている?」
「娯楽で私を殺すような神さまだと」
「そうね」
否定も言い訳もせず、ゼノスは素直に頷いてみせた。
まったく悪びれていない。
本当、アリエルが言っていたように困った神さまだ。
「神さまなんてものをやっていると、けっこう退屈な時期があるの。不老不死で、なんでもできる。退屈しのぎっていうのが、一番の問題なのよ」
「そのために、私に色々とちょっかいをかけた?」
「正解。あなたはとても良い退屈しのぎだったわ。悪役令嬢に転生したのに、めげることなくまっすぐ歩いて、メインヒロインのような立場になってしまうんだもの。見てるだけで飽きなかったわね」
「そのまま見ていてほしかったのですが」
「そうしてもよかったのだけど、ちょっとしたいたずら心が湧いてね。ここで突然死んだら、あなたはどんな反応をするだろう? 泣くだろうか? 絶望するだろうか? それとも、屈することはないか?」
思わず、深いため息がこぼれてしまう。
ホント、迷惑な神さまだ。
自分の欲求を満たすために、人一人の命に干渉してしまうなんて。
邪神に認定しても問題ないのでは?
「で……あなたとなら、もっと退屈を潰せるような気がしたの。どう? 私と一緒に、おもしろおかしく生きてみない?」
「私は、誰かをどうこうするなんて力は持っていないのですが」
「メインヒロインやヒーローを誘惑することができるでしょう?」
誘惑とは失礼な。
そもそも、ヒーロー達はともかく、フィーに対しては愛しかない。
「あなたは、あなたの好きにしていいわ。ヒーロー達との恋愛を楽しんでもいいし、メインヒロインとのんびり過ごしてもいい。ただ、時々、私のために世界を引っ掻き回してもらうだけ」
「……」
「そうすれば、たくさんおいしい思いをさせてあげる。なんなら、私の使徒として、不老にしてあげる。一緒におもしろおかしく生きてみない?」
不老という言葉は魅力的だ。
人はいつか絶対に死ぬ。
故に、程度の差はあれ、不老に憧れない者なんてほとんどいないだろう。
でも……
「お断りします」
「へぇ……それはなぜ?」
「あなたのことが嫌いなので」
怪しいとか信用できないとか。
こんな神さまと手を組んだら破滅が待っていそうとか。
色々と理由はあるものの……
究極的に、その一言に尽きる。
誰が好き好んで、私を一度殺した相手の仲間にならないといけないのか?
あと、ゼノスは無理だ。
生理的に無理だ。
こいつは敵だと、本能が訴えている。
今はなんとか自制しているものの、ちょっとした弾みで紅茶をぶっかけてしまいたくなる。
「ふふ」
ゼノスは機嫌を悪くするどころか、よりうれしそうに笑う。
「やっぱり、あなたはとてもおもしろいわ。普通の人間なら、迷うことなく私の手を取るのに、あなたははねのけた。ふふ、とても観察しがいがあるわ」
「どうも」
「安心して。私の誘いを断ったからといって、前回のようにあなたを殺すことはしない。今回は、ほどほどの干渉で済ませるわ」
「ほどほど……ね」
つまり、これからも嫌がらせは続くということだ。
そんなことを、目の前で、笑顔で言ってのけるゼノスは、頭がおかしいのではないかと思う。
さすが邪神だ。
「そういうことなら、勝負をしませんか?」
「勝負?」
「私が悪役令嬢としての運命に打ち勝ち、生き残ることができた時は、私の勝ち。逆に、世界の強制力とやらに負けて、悪役令嬢として最後を迎えたのなら、あなたの勝ち。勝者は敗者になんでも一つ、命令できる……どうですか?」
「……」
ゼノスは目を丸くして、
「あはっ、あははははは!!!」
爆笑した。
「私、これでも何万年と神をやっているんだけど、人間に賭けを持ち込まれたことなんて、一度もないんだけど。あはははっ、本当に面白いわ。ますます気に入った。絶対に、あなたを私のものにしたくなったわ」
「その台詞、勝負を受けるということで?」
「ええ、いいわ」
よし。
ひとまず、この場で考えられる限りの最善の手を取ることができた。
「あなたと一緒に遊べるのを楽しみにしているわ」
「私は、ゼノスが泣いてごめんなさい、というところを楽しみしています」
私は悪役令嬢らしく笑い、そう言い放つのだった。