さらに一週間が経った。

 私の病は治ることはなくて……
 むしろ悪化していた。

 まともに体を動かすことができなくて、常にベッドの上。
 高熱が出て引いてくれず、いつも頭がぼーっとしていた。
 そして、時々、意識を失う。

 ただ、それらの症状は軽い。
 なんてことはない、前兆のようなものと、私はそう考えていた。

「……こぼれ落ちていく」

 ぼーっとする意識の中、ぼんやりと考える。

 発病して……
 それから、体の中にある「なにか」がなくなっていくのを感じた。

 それはとても大事なもの。
 なくしてしまうなんて、とんでもないことだ。

 手放したくないのだけど、でも、どうすることもできない。
 水を手の平ですくうようなものだ。

 最初はうまくいくのだけど、でも、次第に隙間から水が流れ落ちて……
 最後は空っぽに。

 そんな感じで、私の中からなにかが流れ落ちていくのを感じた。
 それはたぶん……
 命の煌きだ。

「アリーシャ姉さま……うぅ、なにかしてほしいことはありますか? なんでも言ってください! 私、なんでも……うく、なんでもしますから!」

 フィーが泣いていた。
 そんな顔をしてほしくないのに、それなのに私のせいで……

「おいっ、しっかりしろよ! こんなところで……そんなのは、絶対にダメだからな! 俺は認めないからなっ」

 アレックスも、半分くらい泣いていた。
 強気な性格だから、本人は認めないだろうけど……
 でも、とても悲しそうな顔をして、涙を浮かべていた。

 貴重な顔を見ることができた。
 あとでからかってみよう。

「アリーシャ……また、元気なところを見せてほしい。僕に笑ってくれると、そう約束をしてくれないだろうか?」

 さすがというべきなのか、ジークは涙を我慢していた。

 でも、くしゃりと表情は歪んでいる。
 あと一つ、なにかあれば、すぐに涙腺が決壊してしまいそうな雰囲気だ。

「アリーシャ……なんで、こんな……私、これからアリーシャの親友として……色々なことをして、ずっと……!」

 ネコは我慢できず、もう泣いていた。
 せっかくの綺麗な顔が、涙がくしゃくしゃだ。
 できることなら、その涙を拭いたいのだけど、もう体が動かない。

「み……んな……」

 四人の後ろに、お父さまとお母さまがいた。

 お父さまは優しく、そしてとても強い人だ。
 決して動揺を表に出すことはなくて、数々の難しい仕事を成功に導いてきた。
 交渉においては負け知らず。

 そんなお父さまが、露骨に感情を見せていた。
 悲しみ一色に顔を染めて、とても悔しそうにしている。

 お母さまは涙を流しつつ、そんなお父さまに寄りかかっていた。
 一人で立つことができないのだろう。
 それくらいの悲しみと衝撃を受けているのだろう。

 申しわけないと思う一方で……
 そうなってしまうほどの愛情を注いでいてくれたことを知り、うれしく思う。

 そして……

 そんなみんなの様子を見て、私は、ふと理解した。

(ああ、そうか……私、ここで死ぬのか)

 そう考えることが当たり前のように。
 すぅっと、死の予感が舞い降りた。

 それは勘違いではなくて、絶対。
 私の生は、ここで終わる。

(前世で死んで、ゲームの悪役令嬢に転生して、破滅を避けようとがんばって……)

 けっこう、うまくやれていたと思う。
 フィーとヒーローの恋愛フラグをいくつか叩き潰してしまった感はあるが……
 ただ、結果オーライ。
 みんな笑顔で、仲良くなることができた。

 これなら破滅を避けることができる。
 それどころか、かわいい妹と仲良く暮らせるという、幸せな未来が待っている。

(そう思っていたのに……結局、破滅か)

 しかも死因は、原因不明の病。
 ここまで死に絡まれているとなると、神様のいたずらを疑う。

 私、神様に嫌われるようなことをしただろうか?
 それとも、死神に好かれているのだろうか?

 どちらにしても、破滅を回避することができなかった。
 悪役令嬢に転生したため、方法は異なるとしても、こうなる運命だったのだろう。

(あはは……なんか、ここまでひどい結末になると、逆に笑えてきますね)

 いったい、私がなにをしたのやら。
 悪役令嬢に転生することが罪なのか?
 だとしたら、悪役令嬢なんかに転生させないでほしいのだけど。

(もしも、死後の世界があって、そこで神様に会えるとしたら……)

 一発、ぶん殴ってやろう。