アリーシャとネコが肩を並べて歩く。
 その後方に、彼女達をそっと監視する影が三つあった。

「動き出したな」
「どうやら、情報通りに街の案内をするみたいだね」

 アレックスとジークだ。
 建物の影に隠れて、そっと顔を出して様子を窺っている。

 そして、もう一人。

「……こんなこと、いいかな……?」

 シルフィーナだった。
 どこか難しい顔をして、二人の様子を見ている。

「なんだよ、シルフィーナは気にならないのか」
「アリーシャ姉さまは、ネコさんに街の案内をするだけなので……」
「それだけで終わらないかもしれないだろ」
「そうだね」

 意見を対立させることが多いアレックスとジークだけど、この日はピタリと考えを一致させていた。

「街を案内するといっても、言い換えれば、遊ぶのとなにも変わらないからね」
「それなのに、わざわざ二人だけで向かう。気になるだろ?」
「それは……」

 シルフィーナは、少し言葉に詰まってしまう。

 街を案内すると聞いていた。
 ただ、自分は誘われなかった。

 もしかして、なにか他の目的があるのでは?
 もしかして、ネコと二人きりになりたいという、特別な感情があるのでは?

 だとしたら自分は……

 そんなことを思ったシルフィーナは、二人の後をつけてみよう、というアレックスとジークの言葉に逆らえず、同行することにしてしまった。

 実際のところ……
 アリーシャがシルフィーナを誘わなかったのは、危険に巻き込むかもしれないからだ。
 それ一択であり、他の理由は欠片もない。

 ただ、それを知らないシルフィーナはモヤモヤしてしまう。
 まだまだ自分だけの姉でいてほしいと、わがままを考えてしまう。

「……本当は、気になります」
「だろ?」
「なら、後をつけるしかないね」

 三人の間で、妙な方向に利害が一致した。

「ところで……」

 シルフィーナは不思議に思ったことを、そのまま口にする。

「二人もアリーシャ姉さまのことを気にしているんですか?」
「「うっ」」

 アレックスとジークはぴたりと足を止めた。

 そして、顔を赤くする。

「それは……」
「なんていうか……」

 沈黙。

 ややあって、二人は困り顔で言う。

「正直、俺もよくわからないんだよ。ただ、なんか気になるっていうか、アリーシャのことをもっと知りたいというか……」
「そう、だね。僕も同じような気持ちだ。とにかく、彼女のことを今以上に知りたくなるんだ」

 よくわからないのだけど、アリーシャのことが気になる。
 声を聞きたいと思うし、笑顔を見たい。
 隣にいて、たくさんの時間を過ごしたい。

 そうした感情が積み重なり……
 とある想いに変化しようとしている。

 それを自覚していないわけではない。
 そこまで鈍くはない。

 ただ、これが本物なのかどうか。
 それを確かめたい。
 だから、今以上にアリーシャと接したい。

 それが、アレックスとジークが胸に抱えている想いだ。

「アレックスもジークさまも、私と同じなんですね」

 そんな二人の想いに気づかないシルフィーナは、にっこりと笑う。
 ただ単に、ラブではなくてライクという形で、アリーシャのことが好きだと思っているのだろう。

 絶妙なすれ違いだった。

「アリーシャ姉さまの後をつけるのは、なんだか悪いことをしているみたいで気が引けるんですけど……」

 でも、気になる。
 だから、ついつい後をつけてしまう。

 ごめんなさい、と心の中で謝罪しつつ……
 行動をやめられない。

「アレックス、ジークさま。がんばりましょう」
「ああ」
「うん」
「でも……ちょっとドキドキしますね」

 いたずらっぽい顔で笑い、シルフィーナは舌をぺろっと出すのだった。

 その仕草はとても愛らしい。
 アリーシャがこの場にいたら悶絶していただろう。