「このお店です」

 エストに案内されて、端の方にある小さな店にやってきた。

 店の広さは、一般的な家と変わらない。
 その中に棚などを設置しているから、狭く感じてしまう。

 棚にはたくさんの薬品とポーションが並んでいた。
 目薬、鼻薬、頭痛薬……よりどりみどりだ。
 店は小さいけれど、品揃えはとても豊富なようだった。

 風邪薬らしくものも発見したのだけど……
 どれが良い薬なのか、私には判断がつかない。

「エスト、これらの中で、一番良い風邪薬はどれでしょう?」
「その前に、シルフィーナさまの風邪の症状はどのようなものですか?」
「えっと……」

 まずは、発熱。
 それと、咳と喉の痛み。
 他に異常はなかったはず。

 それらのことを伝えると、エストは少し考えて、一つの風邪薬を手に取る。

「でしたら、これとこれが良いと思います。前者は、主に熱をおさえる効果があります。熱が高い時は、こちらを処方するといいはず。咳や喉の痛みが酷い場合は、後者を飲むといいと思います」
「なるほど、症状によって使い分けるのですね。その発想はありませんでした。ありがとうございます、エスト」
「い、いえ!」

 感謝の意味を込めてにっこりと笑うと、なぜかエストが赤くなる。

 はて?
 もしかして……

「エスト、そのままじっとしていてくださいね」
「えっ!?」

 そっと顔を近づけて……
 そのまま額と額を合わせる。

「っっっ!!!?!?!?!?」
「じっとしててください」

 ちょっと熱いかな?
 風邪かどうかわからないけど、エストは無理をしていたのかもしれない。

 それなのに私の買い物に付き合ってくれるなんて……
 この子、天使か?

「あわわわっ」
「あら? さらに熱く……エスト、やっぱり風邪を引いているのでは?」
「い、いいい、いえっ! だ、大丈夫です!!!」

 ものすごい勢いでエストが離れてしまう。

「ですが、熱っぽい感じがして……」
「本当に大丈夫です! 本当に!」
「そう、ですか?」

 確かに、とても元気だ。
 風邪を引いているようには見えない。

 でも、それだとしたら、なぜ顔を赤くしていたのだろう?
 うーん、謎だ。

「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
「そうですか……そこまで言うのなら」

 様子がおかしいのだけど、ひとまず納得することにした。

 あまり追求しても、うざがられてしまうかもしれないし……
 様子見にしよう。
 どう見ても体調が悪化したのなら、その時は強引にいく、ということで。

「少し待っていてくださいね。今、会計をしてくるので」
「は、はい」

 まだ顔が赤いエストを置いて、ぐるりと大きな棚を回り、奥のカウンターへ。
 そこで会計を済ませようとするのだけど……

「あ」
「え?」

 アレックスがいた。

 こちらを見て呆けた表情になり……
 すぐ我に返った様子で、キッと睨んでくる。

「なんで、お前がこんなところにいるんだ?」
「薬を買いに来ただけですよ」
「本当か? なにか悪いことを企んでいるんじゃないだろうな?」
「薬屋に来て、どのような悪巧みをしろと……?」
「そ、それは……」

 私を敵視するのは仕方ないと思うが、手当たり次第に噛みつかないでほしい。

 はぁ……
 前回の人生で仲良くしていた頃が懐かしい。
 またああしたいものの、今回は難しそうだ。

 ふと、アレックスが私の手元……薬を見て怪訝そうな顔に。

「なんだよ? お前も風邪を引いたのか?」
「いいえ、私は風邪なんて引いていませんよ。これは、フィーのために買ったものです」
「シルフィーナの?」
「はい。処方されているものだけではなかなか良くならないので、こうして」
「……そっか」

 アレックスは早とちりを自覚したらしい。
 バツの悪そうな顔になって……

「……悪かった」

 視線をそらしつつも、そう言った。