覚悟を決め、卓人の方へ顔を向ける。
しっかりと目が合ってしまう。卓人の瞳に自分が映っているのが分かる。
相変わらず何を考えているのか全く読めない。
「ほら、言って」
また、楽しそうに笑って私を見てる。どうしてそんな顔を私にするの?いちいちおかしな勘違いが頭を支配してしまいそうになる。
「怖くないっ!だって、私は…むしろ…むしろ…」
「だめだよ、里未さん」
人差し指で唇がふさがれる。
言われた言葉にハッとする。明らかに止められた感じがする。言葉の意味を問おうとしたけど言えなかった。すでに卓人は私を見てはいなかったから。車を発信させ、後ろを見ながら冷たい目をして笑っていた。
「さっきの答えだけど、里未さんが言うなら何もしないよ。それにいまがすごく楽しいからね。…そうだ、面白いこと思いついた」
「え?」
「後ろに面白いのがいるだろう」
「え…あ、あのタクシー…?」
「そう…まぁ、正確には違うけど。」
…何、するの…。卓人は私の不安もお構いなしに口の端をあげて、笑った。
「3、2…」
唐突にカウントダウンを始めた。
「1…」
ハンドルを忙しなく動かし普通なら有り得ない動きをして無理矢理、後ろの車と並走し始めた。激しい動きに酔いそうになる。窓ガラスに頭も打つし…!
「ちょっと、何してるの!?卓人く…っ」
私が言い終わる前に車が横に傾き始めた。
「えっ?」
「喋ってたら舌噛むよ!」
卓人はハンドルを切って、タクシーへと体当たりさせた。
し、信じられない…!
映画のワンシーンでしかないようなカーアクション並の激しさだ。ここで可愛い女の子から怖さに叫んだりするんだろうけど、私は肝が据わっているらしい。息を飲んだくらいですんだ。
思い出し横を見ると、卓人は持ちこたえたが、タクシーは驚いてバランスを崩し、横に転がってしまった。遠ざかっていくのをぼんやり眺めてしまう。
「…里未さん?」
「な、なに?」
「大丈夫?ぼんやりして。何も思わないの?」
え?なにも、思わないかって?
私はハッとして横を見て青ざめる。
「ちょっ…止めて!!」
「…」
無言だったが、卓人は車をバックさせ、タクシーまで戻ってくれる。車が止まるとすぐに降りて、タクシーへと駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
やはり声はない。
中には運転手と後ろに青年が一人乗っているようだ。どちらも気を失っているだけのようだ。
良かった、死んでたらどうしようかと思った…。