あなたも時間逆行の人なの?鎌倉奇譚編

ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......

オフィスの空間に、
高音のベルが響き渡り
再幻影粒子が 霧の様に

沸き
立ち上りゆく。

真っ白な霞で覆われた視界。

只、わたしの手を握る
譲夜咲カンジの温もりだけが、
狂いのない羅針盤の如く
記しとなると
わたしは安堵する。


「アヤカという華を、喩え違う名
で呼ぼうが、アヤカの身体から
昇る芳香が違えさせはしない。」

わたしの甲に唇を落とした
ままの姿でカンジが、
わたしの耳朶に響かせる様に、
告げる言葉。

(この男は、カンジ。)

其処には譲夜咲カンジとは
違う、カンジの手があり、

記憶の霧から
2人は
ゆうっくぅりと
解き放たれていく。


「初めての恋が、、、
憎いはずの貴方から
生まれたのは、神の悪戯ね。」

応えた わたしは、

晴れた空の下で、
背後からカンジに抱き締められ、
境内の中心に佇んでいた。

カンジも、わたしも
互いに周囲へ向けて、
警戒の視線を巡らせる。

「どちらも気配は無い。」

未だ、わたしの背後から
腰に手を回して抱くカンジから、
警戒を解く言葉が漏れた。

カンジを背にしながら
わたしは、
両の手に揺れるリヴァブベルを、
上着のポケット仕舞い、

「カンジ。何時から、貴方だった
のかしら。それとも始めから?」

背後のカンジに詰める。

思えば、所々怪しい素振りが
あったのだもの。

「アヤカが扉を入って来た時、
初めて迎合した日だと解った。
アヤカが、俺に抱かれる思案を
していたのだと解れば、
再び其のアヤカの素振りを
愛でたくて脳が痺れたよ。」

「随分と意地悪だこと。
やっぱりそうなのね。どうりで
覚えていない悪戯があった。」

指や手の内を撫でる仕草は、
わたし達が身体を繋いでからの
カンジが戯れはじめた
悪戯だから。

「ふ。」

カンジが不敵に片口元を上げて、
ニヒルに微笑すると、
其れだけで、
金木犀の薫りが
咲き誇り匂い立つ。

「この花、金木犀。母星コロニー
には香りがないから、こんなにも
華やかな薫りなんて知らなかっ
た。まるでカンジみたいね。」

「『陶酔』それとも『あの世』の
か。そんな花言葉だったか。」

「ふふ、どちらもね。」

境内には、
そろそろ日常の賑わいが戻る。
リヴァイブの間は
時間の狭間に入り込む為、
この時元人の介在は無い。

先程の様に、
ハウア母星の術者でない限り。

「アヤカ、どうするか。
あの時代の3つの聖遺物は、
違うと判断するが、どうだ?」

さすがに周りを観光客が
歩く様になると、
何時までもカンジと境内で、
抱き合っている訳にはいかない。

「ええ、1つがわたし達が時間
介入した事で発生したオーパー
ツなら、あとの2つも同じ事象
で発生した物だと思うの。」

カンジの問いに応えながら、
わたしの腰に回る逞しく、
刺青を湛えた両の腕を
わたしは叩く。

追っ手をカンジが
消滅させた時、
彼等の白祭服が歴史に残る事で
オーパーツになる。

確実に追っ手は
過去、
この時間に介入して
わたし達を捜索している。

あとの2つは、
追っ手か、わたし達かが
逃走や捕獲の際に
歴史に残した『漂流物』だと
容易に想像できた。

「それは要するに、あの後に我ら
側の追っ手が時間介入している
可能性が高いという事だな。」

そう思案するうちに
カンジは、
わたしの耳元で呟くと

回した手の平を解く合図に、
少し下部へ移動させた手で
わたしの子宮上を撫でるのだ。

結局
カンジは、
わたし達の時間軸では等の昔に
放棄した、
旧地球の生殖行動を
いたく気に入っている。

「きっと、そう。だから、
お参りをして此処を出ましょ。」

この合図は、今宵も激しく閨事に
興じたいとの仕草。

だから
わたしはカンジの言葉に疼く様に
頷くと、
朱色が美しい舞殿から、
本宮にと
カンジに肩を抱かれながら
予想震える
自分の足を向けた。
カンジと2人。
朱色鮮やかな舞殿から先に伸びる階段を、
腕を組みつつ並んで昇る。

カンジは身体が離れる事を
好まない。
下手すれば、わたしを横抱きに
抱えて上げて階段を
昇るぐらい。

流石に目立つから、
自分の足で歩かせてもらう。

「やっぱり何百年も立つと、変わ
るものね。舞殿は回廊で繋がっ
ていたもの。え、あれ、、」

途中には、巨木、ではなく
銀杏の大きな切り株と
隣に新しい若木の銀杏が並ぶ。

「どうやら、あの巨木は
今時間軸では倒れた様だ。
不思議だな、、この時間軸でさ
え、もう過去なのだからな。」

わたし達がリヴァイブで鎌倉時代に身を隠した巨木。
其れが今時間軸の
わたし達の前では
切り株姿で残り、
隣に新しい命を芽吹かせる。

此の時間軸の人の手によって
紡がれた銀杏。

「白拍子様は、絶世の美女だった
わね。とても、お腹に子供が
いるとは思えない舞いだった。」

わたしは、
若木の横を通り過ぎながら呟いた。

「俺にとって、真なる美しはアヤ
カが初めてだ。ただ、、
鎧姿に大薙刀を持つ愛しい女が、
別れるならいっそ殺せと涙に崩れ
るのは堪えるだろうな。」

カンジは前を向いたまま階段を上がる。
その横顔を見つめて、

「歌を読むのよね。自分の代わりと渡された鏡を前に、『見ても嬉しくもない。貴方の影を映すわけでもないのだからって。』、、
カンジ、、もしも、、貴方の追手が来て、、どうしようも無くなれ
ば、、」

わたしは言い淀んだ。
今日、
わたし側の追手が、現に
母星からやって来たのだから。

「悪いが、置いては行けない。
白拍子と別れた様にするが、
正解なのだろうが。」

階段を登りきると、
舞殿と同じく朱色に彩られた
本宮になる。

カンジが、わたしに参拝を
視線で聞きながら、
酷く云い難そうに言葉を繋ぐ。

「憎くき敵側だと知った日。なのにアヤカのことは何故に慕わしい。知らず逢った俺が、もう
手遅れだったんだ。ならばと決め
た事が、、ある。」

そこまで告げて、
カンジは旧地球の日ノ本の慣例に
習った様式で、
二度と礼をすると
手を打ち鳴らす。

わたしも、
カンジの横で同じ様に
二度と礼をして手を鳴らした。

そのまま観光客に紛れて、
階段を下る為に振り替える。

「わあ、海まで参道がよく見える
のね。鳥居まで見えて。」

山と海が近い中に都が作られたが
故の景色が広がって、
わたしは声を上げた。

階段を見下ろせば、
先程は居なかった神前結婚の列が
舞殿に向かうのが見える。

わたしは、
少しだけ胸がキュット締め付け
られる感覚になる。

「カンジ、、さっき何を祈った?」

足下で戯れる新郎新婦を
わざと話題にしない問い掛けを、
わたしは
カンジに投げてみた。

「・.・・」

「カンジ?」

「きっと、愛し過ぎるアヤカを、
いざとなれば、此の手に掛け、
俺も逝く。アヤカは赦して
欲しいと、、だけだ。」

カンジの言葉に、
わたしはもう一度カンジを見る。

「捕まれば、互いに酷い仕打ちと
なるのは当たり前の事だから。」

明日は、カンジ側の追手かも
しれない。
カンジは閃光の様な強い眼差しで、
わたしの事を包む。

「じゃあ、わたし達には
死が別つまでの誓いさえ、
越えて一緒なのね?カンジ。」

母星では旧地球の様な
結婚式の文化は既にない。
ハウア母星貴族の社交会の折りに、
白き正装ローブを着用して、
星教皇の前で宣誓をする。

わたしとカンジには、
そんな未来はない。

「わたしの事。カンジにあげる
わね。カンジの中で、
ばらばらにして星にしてくれ
たらいい。約束よ、カンジ。」

わたし達は 、きっと旧地球に
その屍さえ残せないはず。

カンジは、
階段の上なのに、
わたしを抱きしめて、
耳元で

「必ず見つける。」

とだけ言うの。

何がとは言わない。

云わなくて分かる。

わたし達の明暗は
ファーストアップルだから。




差し出せば差し出す程、愛おしさが募るのは何故なんだろう。

「アヤカ、何を考えている?」

カンジと首都の高層ホテルから
ダイブをした後に、
出会った華僑の令嬢マイケル・揚。
彼女が、わたし達に用意してくれた最新海外キャンピングカーは、
異世界から来た
魔導師という人物に、
認識阻害を施されいる。

けれど車体の大きさは否めない。

かつて武家政権による都が敷かれた此の地は、
只でさえキャンピングカーでの
観光には向かないから、

カンジは車を、
キャンドル塔がある、
陸繋島に停める事にした。

島は、
キャンドルナイトのイベントで、
幻想的な光に包まれて
此の世でない雰囲気さえある。

「キャンドルがこんなにも綺麗
だと、皆んな夜に恋をして、
太陽を忘れちゃいそうだわ。」

キャンドルの塔の下。
一際蝋燭の光が揺れるガーデンで、
わたしは少し夢心地だった。

「思えば、アヤカとの逢瀬は、、
何故か月夜と決まっていた。」

『来て、優しいくも熱い夜。
来て、堕ちる漆黒の夜、
わたしにカンジを縫い止めて』

カンジとは最後だと決めた夜を、
思う。

「昼には会わない約束だったのだもの。」

わたしが、まだ
カンジの愛人の1人だった頃。

わたしはいつも、
決められたホテルの部屋、、

カンジが待つ部屋をノックする
まるで、夜鳴鳥みたいだった。

情事が終わった朝に目が覚めると
カンジは去った後で、
わたしは独りベッドに残されている。

結局はカンジも、
帝国星からタイムリープした
ポイントが
あの部屋のシャワールームだった
だけなのだけれど。

キャンドルが揺らめく庭園の中を、
カンジにエスコートされながら
歩く。

わたし達と同じ様にカップルが
イベントを楽しむ中、

「おぬし、一体何者だ?」

突然目の前に現れた、
小男に声をかけられる。

「「・・・」」

こんな時には不用意に返事は
しない。

この街は
異世界と空気が近いから、
夕暮れに人でないモノと、
すれ違うのは珍しくない。
それこそ落武者や、妖怪らしき
物なんて事もある。

彼らは人に悪戯をするだけで
なく、
取り憑く事で己の願望を遂げる
から、
無視をするに限るのだけれど。

ただ、

目の前の小男は、
明らかにカンジの身体を甜める
ように見てくる。

「そこのお前こそ、不躾だな。
 人間なんて履いて捨てるほどいるだろうが。」

カンジが小男に、
凍るような視線を向ける。

小男は少したじろいで
木陰の闇に隠れた。

「よく言うぞ、おぬし身体が
 発光しておるぞ。
 人間が発光するのは見た事が
 ないや。おぬし、異形の血だろ?
 その内、他にも寄ってくる。」

小男は、
半分だけ顔を覗き出して、
カンジの入れ墨がある辺りを
指し示した。
彼こそ何の妖しなのかと
思いながらも、

「カンジ。貴方いつも妖かしに、
 声を掛けられるタイプなのかしら?」

カンジはわたしの肩越しに、
ニヒルな笑いを浮かべて
揶揄する。

「残念ながら、ナンパされる質
 じゃないな。これまでは此方から声を
 かける事はあったが、、」

「あら、わたしがカンジの愛人
 だった頃ね。」

だから、
わたしも敢えて意地悪な言い方を返した。
でもそれだけでは
話は済ませそうにない。
少しずつ周りの闇が
濃くなる気配。

「けれど可怪しいわね。
 もしかして、、異世界からの魔導師が
 施した術の作用かしら。」

「可能性はある。首都ぐらいなら
 ネオンに紛れるだろうが、此の辺りでは
 目立つのかもしれないな。」

雰囲気が変わるのにも、
特に気にしないカンジは
言うけれど。
わたしは周りを見回した。
気が付けば人成らざるモノへと
人が変わっている。

そのタイミングで、
小男が木陰から這い出てくる。

「おぬしら、旅人か。おぬしら
 だろ?昼間に術を使って時超えをしたのは。
 何をしている。」

どうやら、わたし達が
リヴァイブした事を
彼は言っているみたい。
妖し達には何かしらの影響が
あるのだろうか。

「おぬしらみたいなのが珠に来るが、
 大した事がない。誰も気にもしとらんが、
 おぬしの光は別よ。」

「今、我々みたいなのが来ると
 言ったか?」

キャンドルナイトの庭園から、
何故か祭の提灯に灯りが
変化している中で
小男がニマリと笑う。

「カンジ、、わたし達以外の
 母星人が来ているってこと
 かしら、、」

カンジが無意識なのか、
わたしを腕の中に閉じ込める。
これは、周りに警戒している証。

「まあ、人の言う何百が年程前じゃが、
 おぬしらも時超えをするなら、知り合いかもしれんな。
 あの者はオナゴだけじゃったが、
 おぬしみたいに発光しておったよ。」

「その時、その女は何をしていた。」

わたし達の遣り取りに、
祭灯りを歩いていたモノ達が
チラホラ視線を
投げてくる。

「ふん、賢いオナゴじゃったよ。
 美貌を使って、男らに探し物をさせておったな。
 火鼠の唐衣やら、燕の子安貝、」

!!!

「待て!蓬莱の玉の枝もか!」

カンジが思わず、
小男の肩を掴みあげて、
問い詰める!!

「おうよ、人の話でも有名だからなあ。」

「カンジ、、もしかして、、」

わたし達は
お互いを見つめて、カンジが
言葉にする。

「竹取の翁の姫は、母星人だったか。」




竹取りの翁の輝く姫の話は、
消滅地球における此の国で、
最古のお伽噺話だと言われる。

そして
実際の話ではないと
されている割には、
まるで本人達が生きていたかの
様に、
翁が生業としていた竹林と
吟われる場所や、
屋敷の場所などが伝説される
のは、
なんだか不思議なこと。

「まさか、ハウア母星人だった
なんて、、あら、、でも発光
していたってことは、
一体どうしてかしら?カンジ。」

「現状では分からないが、
 アヤカがリヴアィブする時は、
  発光粒子に包まれ見える。
 発光が俺と同じ状態とは限らない
 なら、その線も考え得る。」

「そうなのね。自分ではリヴアィブの時って、
 どんな風になっているのか、分からないから。
 カンジが言うなら、同じ母星人の可能性もあるわね。」

「お主ら!どうでもいいから
この手を離してくれ!!」

わたしとカンジが話合う間に、
さっきの妖かしの小男が割って
入ってくるのは、
カンジが
彼の首根っこを掴んで
いるからなのよね。

「お前には、まだ聞きたい事が
あるからな。その女が住んでいた
屋敷の場所は知っているか?」

いつの間にか
百鬼夜行の祭りに紛れ込んだ
みたいな情景に、
わたし達は囲まれて、
カンジは小男を片手で首から
掴み上げる。

「痛いから離してくれ!逃げや
しない。話もできんぞ!」

完全にカンジに持ち上げられた
格好の小男が、
両足をバタつかせて喚いた。

以外に周りの妖かし達は、
助けたりしないのね。

「妖かし相手に容赦はしない。」

「カンジ、離してあげて。」

わたしは、
あんまり相手が可哀想になって、
ついカンジに上目遣いで
懇願する。

それこそ首が締まりかけている
のよ?

「駿河だろ!人達も、知ってる
場所だ。今更聞くなよ!」

小男は大した情報でもないと
続けて叫ぶと、
カンジが首から手を離した。

告げられた場所は、
わたしも幾つか知る場所だった
から、
カンジだって頭に浮かんでいた
はずなのよ。

「駿河、、富士山発祥の方か。」

「竹取りの翁の伝説は、至る所に
あるけれど、確か駿河の話は、
富士の洞穴に戻るのよね。」

竹取り伝説の舞台は
大きくは、この国で3箇所。
面白い事に、南に1つ、
畿内に1つ、
そして駿河にも1つ。

全く離れた場所に点在している。

その内の最後に上げた場所が、
小男の言う場所なのは、
かの姫が帰還したのが、
月では無くて富士山だったから、
意外だったの。

でも、ハウア母星人だったなら
どちらの話しもあり得る。

だって、
ハウア母星は銀河系にある月と
良く似ている星だから。

もし、
もしも、タイムリープする
ポイントが富士の洞穴だったら?
彼女が翁に月に帰ると
話していて、
ポイントへ逃げたなら
辻褄は合うわね。

「月に帰る、他の土地伝説とは
一線を画する。こちらが本物
だったか。しかし、蓬莱の玉が
一番怪しいが、姫の前に持ち込
 まれ物は偽物だったのだろ?」

只、駿河の伝説には有名な
試練の課題出しのクダリは無い。

やり取りをする
わたし達をニヤケタ顔で
見ていた小男が、

「あれは、偽物というには
 エネルギーは桁外れだったぞ?」

予想外の言葉を投げてきた。

「「!!!!」」

「カンジ、、」

「偽物と吹聴していて、本物
だった。それを持って帰ろうと
したのかもしれない。」

「でもどうして母星は消滅したの?
 本物ならば、それがファーストアップルなら
 今の状態ではないはずよ。」

余程わたしと、カンジが焦って
話して見えたのか、
小男は更に情報をくれるの。

「女は、追われていたぞ?」

「「何?」」

「人からも、人ならざる者からも
追われおったな。皆、見ていた」

「・・・・」

この妖かしの狙いは何?

「その場所へ行くか。」

カンジも小男を一瞥しながらも、
無視をして、
わたしに問うてくれる。

「そこでリヴアィブをして、
追うしかないわ、カンジ。」

だからカンジに合わせて、
わたしも無視をする。
けれどもそうは相手は諦めて
くれるはずがないわ。

「じゃ、話してやったんだ。
お主ら、何かくれるか?」

やっぱり要求をしてくる。
周りの見ている目も
伺っている気配は肌で感じる。

「何が希望なのだ。」

カンジは、
射抜く程の視線を小男に指すの。
その威力は効いて、
小男は急にガタガタ震えはじめたのに、
喰い下がる。

「触らせ、てくれよ。そ、その発光に、さ。」

彼の要求は意外な事。

「小男に撫でられる趣味は無い。」

かと言ってカンジが飲む訳は、
なかったわ。
さらに侮蔑の眼差しで小男を
突き放した。

「な、なんだよ。おいらは、
 い、言い損だ、ろ、!」

どうして彼は、こんなにも
カンジに刺青を気にするの
だろうか?

考えられるのは
魔導師がカンジの刺青を
認識出来ないように施した術。

触ることで奪えると、か?

「断る!!」

カンジが更に声を張って、
否と答える。
と瞬間、わたしの両足に、
一瞬で触手が巻き付いて、
地面に引き摺りこまれた!!

「カンジ!!」

油断したわ。

ピィーーーー松明でーーーーーーーーーーー
   ピィーーーーーー探せーーーーーーー

私を殺してください、貴方のキスで。
たとえ貴方が
最果ての海の彼方の岸辺にいたとしても、
これほどの宝物を、手に入れるためならば
危険を冒してでも、必ず私は海に
出るでしょう。

ピィーー女はーーーー
     ピィーーーーー逃げたぞーーーーー

『はあ、はあ、は、あ、、、はあ、!』

~わたしは誰かの目線になって走る。~
~捕まる訳にはいかぬと、思いながら全力で目指すのは、、~

~母星戦艦の連絡艇!!!~

ピィーー見つけたーーーー
     ピィーーーーーあそこにーーーーー

・・・・・・・・

     ・・・・・・・・・・・



ピチョン、、

   ピチョン、、

(明晰夢?)


 額に滴る水滴が瞼を伝う感覚で、わたしは覚醒したのだけれど。

「此処は、何処なの、、」

 眼の前に見えるのは、細長く続く蝋燭の灯り。

(洞穴?それとも坑道みたいな?)

 ヒヤリとした空気が流れる薄暗い空間は、不自然なトンネルにも感じもするのだけれど。

「カンジ!!「カンジ!!「何処?!」」」


 左右に伸びる岩肌に、わたしの声が響き渡ると、木霊する声は風音と一緒に混ざり、バラバラと暗い穴の奥へと吸い込まれる。
 カンジを呼べども返事はない。其んな事は、わざわざ声を出して叫ばなくとも、わたしには解っていたのに。

(側にいるなら、カンジは必ず抱き込みに来るもの。)

 そうでないならば、カンジとは別に離されたのだと容易に推測できる。

日の光が全く感じられない穴倉。

揺れる蝋燭の光で、全くの闇ではないのが救い。全くの闇ならば、数分と保たないだろうから。
 何よりも、手に触れる壁は、

(脆い!)

砂岩なのか、それとも人工物なのかは、光源が少なく判別が難しい。

(此処へ連れてきたのは、あの小男なのは間違いないわね。カンジに執着していたから、邪魔者の わたしは飛ばされたという事?)

立ち上がって、歩いてみても、似たような闇の穴で方向感覚が分からなくなっている。勿論、出口など検討もつかない。
 指を立てて風を読むも、乱気流の様な空気の流れか、難しい。

「リヴァイブ、してみる?」

此処が何処なのか分からなければ、カンジを探し出す事は出来ない。此の闇と蝋燭が続く穴の正体を暴いて、脱出するには、、

(ヒントになる事が、此の土地の記憶にあるかもしれないとう可能性だけよね。)

わたしは肌身離さず隠し持つ、ベルを取り出した。
 問題は、カンジの力が混合した事で発生するリアルリヴァイブ状態だけ。

(でもやるしかないわ。)

ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
最初のベルが
空間に
響き渡れば

リーーーーーーーーンンンンン
リーーーーーーーーンンンンン

大きく息を吸い込んで
呼吸を糸に。


区域設定は此の洞窟内。
そして、
両中指に嵌まるベルで
定める
時間と土地の座標レベルは、

「オーバーリヴァイブ。」

時間軸のポイントを
1つに絞らず、
鎌倉期から江戸期の帯へ。
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......

ゆっくりと
胸に提げたベルを
両中指に嵌め
腕全体を使って『印』を
厳かに型取る。

ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......

再幻影粒子が 霧の様に
土地の記憶が
沸き
立ち上りゆけば

.*゜。
ザワザワ
ザワザワ*。.゜**.

ーーーーンンンンン.
リーーーーーーーーンンンンン
ザワザワ゜.*.゜。*..

ザワザワ『 namaḥ sama
nta-buddh ānāṃ
maṃ he he kumāraka

記憶の霧に
ゆうっくぅりと
包まれ

vimukti-pat
ha-sthita smara

smara pratijñāṃ svāhā、、

ザワザワ.*。*.゜。*

.゜**.
゜。.゜。*

『ナマハ サマンタブッダーナーン アー ヴェーダヴィデー スヴァーハー、、『、、
リーーーー、埋め尽くす

...リーーーーーーーーンンンンン
ザワザワ
ノウマク・サマンダボダナン・ア・ベイダビデイ・ソワカ.*。゜*

流れていく。....ザワザワ

真言、

.*゜。*
『 om duḥkha
ccheda dham
。*゜*. .*゜。*』

浮かび上がるは

「!!!!?」

ノミを手に
洞穴の壁天井に彫り付ける
帯びたしき修行僧の姿
僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧
      僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧
 僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧

僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧

僧群が唱えし真言の音声が
万重奏と重なり宇宙を創る
.*。゜*。゜.*.。゜.゜ . *
Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ
Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ

わたしの前に

およそ700年程の 記憶が
仮想風景として
影牢となり
現れ、

「これは、、人工の洞窟聖域、、秘められた、、修験場。」


修行僧達が長い時間を掛け、
洞穴の壁や天井へと彫り物を
しながらも、
真言を唱え、、


霧から再幻影粒子が象に
変幻する。

リーーーーーーーーンンンンン
リーーーーーーーーンンンンン
.*『...゜。
ザワザワ
ザワザワ*。.゜**.

わたし自身が記憶する、
膨大なメガデータの海から
此の場所を探る。

それでも無数に浮かぶ予測座標。

「聖域は映像化されてないか
ら、、圧倒的にデータ不足ね。」


偽られる事の絶対ないシネマを
仮想空間で体験しても、
情報化されていない場所は、
判定しかねる。

リーーーーーーーーンンンンン
リーーーーーーーーンンンンン
.*『マテ、ムコウニニゲタゾ゜。
ザワザワ
ザワザワ*。.゜**.


「!!!!」


(何?さっきの夢とリンク?)

『ニガスナ、、』

ガチャンガチャン!

『はあ!はあ!はあ!、!━』

闇の向こうに立ち込める
幻霧から、
無数の僧など目もくれず、
突然!!
ひとりの甲冑武将が走り込んで!
わたしに突進する!!

「きゃっ!!」

咄嗟に顔に手を掲げて防ごうと、
した瞬間!
武将の影が、わたしをすり抜け
反対の闇へと消えた!!

(あれは!!)






 世界とやらの哲学で、
我が半身が作れるのか。
身を焼くが如く
巨大な太陽が突き昇る。
己が嫉妬深き
業光の筋。

 波に揉まれる小舟か。
岩をぶち当て、
打ち砕いてやる。


「くそっ!!!」

 カンジは夜の帳の中1人悪態をつく。地面に消えたアヤカの姿に、空へと手を伸ばしたままに佇ずむ自分に、怒りを顕にして。

 一寸前まで、自分達を囲んでいた百鬼夜行は霧散し、アヤカの白い肢体に触手を絡ませた妖かしたる小男の姿さえ露ほど無い。

「下衆の極みが!」

それまで神隠しの世界へと消えていた様な感覚から、否応なしにカンジは現実に弾き出された。

そうすれば深夜の海鳴りが響く観光地に、人が疎らに見える。
目を凝らして見れば、車の愛好家達か、不穏な輩なのだろう。カンジは辺りを見回した後に、一点を睨んだ。

「油断だ。否、他所へ気を向けたのが命取り、反吐が出る。」

 カンジにとって、消え失せた存在は命と同等。運命を共にする愛しき半身にと関わらず、己の目前でムザムザと拐われた。

ただ、その理由は遠くから感じた射抜く視線の存在。それはあり得ない視線のはずだった。
何故なら、現実時間の軸ではない妖かしの時空に、カンジとアヤカはいたのだから。そこに射し込まれた人間の視線。

「たまに、、空気の読めぬカンの良い人間がいるが、其の類だろう。」

ハーー。

 それでも、其の視線を横に押しやりカンジは乱れた髪を、纏め直して目蓋を閉じた。全神経を能と鼻腔に差し向ける。

そうすれば、目蓋の裏に浮かぶアヤカの僅かな気配。
 カンジのエナジーを体内に注入されたアヤカは、さながら生態GPSが取り付けられたに等しい。

 神経を集中させれば、アヤカの中で交ざるカンジの匂いが大気からも感知出来るだろう。

「、、」

 同時に、彼女の胸に歯を立て己のエナジーを、彼女の心の像に注ぎ込んだ感触が甦る。
あの月夜に、カンジが刻印した記憶がオートマチックに反芻されていく。
 甘く温かい感触。口内を起点にカンジの全身が波と変化した快楽に溺れて血と精が泡立った、あの日。

身体の坦田に熱が集まり、知らず知らず口角が上がるのを感じたカンジは、自嘲する様に片手で口元を押さえ、記憶の咀嚼に蓋した。

 と、出し抜けに

「なあ、さっきから何してんだ?おい?気が付いとるよなあ。東の若頭、譲夜咲カンジ様よ?」

 どこか軽い調子の声が、カンジの耳へ流れこんでくる。

 カンジの気が反れた元凶とも言える男が短い金髪を靡かせ、カンジの正面に陣取って来た。

「・・・・・」

白けた表情でカンジは、目の前の相手を見やる。

次元の違いを踏み越えて視線を射し込んできた男。

 そんな相手をカンジは容赦なく無視し、胸ポケットから片目に嵌めるスカウターを取り出すと、無言で起動させる。

ピコン♪

 スカウターがカンジの希望する車体を指示音と共に捉えた。

「なっ!!!おい!」

 カンジが胸ポケットに手を入れた瞬間、絡んできた男は一瞬怯む。が、カンジが取り出したスカウターを認めると、

「あんだよ。ハジキじゃねーのか。」

 カンジが取り付けたスカウターを手で勢いよく飛ばして、

「だからっ!無視すんなよ譲夜咲!」

 再びカンジとの間合いを詰める。

 カンジは飛ばされたスカウターを何無く空中で捕まえ、ポケットへと仕舞う。

「あんた、都内のホテル上層で襲撃受けて、落下したとかニュースでやっとったで?死んだとか言われとるが、ホンマはまんまと偽装足抜けで生きとったんやなあ?」

 ペラペラと喋る相手を完全に無視をしながらカンジは、何台か改造車が、集まる集団の1台に向かって行く。

「見つかっちゃってマズイんちゃう?あ、俺の紹介まだだっけ?西の田沼組、権藤いいます。」

 運転席のガラスをコンコンと叩いて、カンジは胸ポケットから今度は札束を出して見せた。

ウーーーーーン

 運転席のサングラスを掛けた車の持ち主が、

『何ですか?』

 カンジを不審げに睨みつつも、ウインドウの隙間を開けてきた。すかさずカンジが腕に付けていた高級時計も、隙間から車内に投げ入れる。

「悪いが今すぐ、この車を売ってくれ。手持ちと時計で申し訳ない。」

『え、、どういう?いや、この時計って、言われても。』

ガラス越しから、運転席の男が更に怪訝な顔をしているのを察してか、カンジはズボンのポケットからタバコをペーパーケースごと取り出し、万年筆で一行書き込む。

「この名前で検索して比べくれていい。あとはこの現金を上乗せで。」

そして運転席にペーパーケースも投げ入れたカンジは、絡んできた権藤に胸ぐらを引っ張られる。

「ちょ!まちって!この金何処から出したんだよアンタ?!ざっと10本あるけど?内ポケット入らんて!普通!そんで、こっちの話聞けや!!譲夜咲っい!!」

『マジヤバイ、、この時計マンション2、3個買える?どうぞ!車の鍵です。ホルダーに私物とかそのままですけど、上げます。あ、缶コーヒーもつけます。もちろん未開封ですから!』

運転席の男は、ドリンクホルダーも示して、投げ入れられた札束を慌てて鞄へ直している。助手席でいた男も、時計を恭しく車内灯にかざして、見せられた検索情報に目を見開いている。


単にカンジのアーダマー帝系で流通する次元セキュリティケースに携帯していた紙幣を取り出しただけのカンジは、運転席の男がフロントドアを開けようとした瞬間、

「有り難たい。恩に切る。」

ガッ!!ダアン!!

一言発ながら、権藤の腕を片手で取り上げて、そのまま回し投げ飛ばした!!

「ぐえっ!」

権藤が道路に背中を打ち付け、くぐもった声を出す。その間にカンジは、開いたフロントドアから出てきた男から鍵を受け取り、エンジン音を立てる。

「なめやがって、野郎!!」

ガアアアーーーン。

『うワアッ、』

権藤がカンジが閉めたフロントドアのノブ付近に銃弾を放ったのだ

「なあんだ?防弾使用ってか?ガキが生意気なシャコタン乗りやがってからに。おら、逃げんな!」

本来ならドアを銃で壊そうとしたのだろうが、権藤の目論見は上手くいかない。弾でドアに球形の銃跡が残っただけ。

カンジは何食わぬ顔で車を急発進させると、そのまま夜の中にテールランプを光らせて走り去る。

「ごうおら、そこん車、寄越せ!
聞こえてへんのやったら、よう聞こえる様に、耳穴開けたるで!さっきの金でも分けてもらえや!」

続けて怒号が飛び、もう1台のエンジン音が大音量を唸らせ追いかける。

『わあーーわ!』

合わせて留めの銃撃音が響き渡った。


「こんなオモロイ話、逃すわけないやろっ!」

 足元で轟音を唸りあげる車体にまるで鞭打つかに、権藤はアクセルの踏み込みをしていく。
 
 片やカンジはミラー越しに、追い掛けてくる車を涼し気に一瞥した。

 「嫌えば嫌うほど、追いかけてくるとは、誰が言ったか。」

 直ぐにでも愛しい片割れを救い走るところが、余計な追手を増やすのは得策ではない。カンジは搭載されたナビゲーションを起動させた。

------案内を開始します---------目的地まで----

 塩梅良く、行く先を見つけたカンジは目的地をナビゲーション保存して、海の上を走るハイウェイを高速で疾走する。と、

『ヒュン!ヒュン!カーン!!』

 カンジの運転する車体に乾いた飛行音が響き、軽い衝撃が走った。

「いやー、やっぱ転がしながらのチャカは、当たらんか!!ま、当たればモウケモンやなあ!!」

 権藤が後方から、車のウインドウを開け、片手で銃を撃ち込んできたのだ。それを確認したカンジは直進させていたハンドル操作を左右の蛇行にチェンジさせる。

-----間もなく300メートル右、合流です-------

 気が付けば海上ハイウェイは、丘の県道へと景色を変えていた。

『ヒュン、ダーーーン、ヒュン、、』

 続けざまに後方から撃たれる銃弾を、カンジはいなす。

「相当理性に欠けておいでか。、、なかなかに、しつこい犬だ。」

 今度は何発目かの弾が、バックフロントに当たった。

--------次の信号を左--------

と、同時にカンジはナビゲーションの誘導通りへとドラフト気味に県道を外れる。ここから少し住宅街を疾走となれば、権藤も無闇に撃ち込むのは難しいはず。カンジはアクセルを練り込んだ。

「くそ!、なりゃあ、これでどうか?!」

 しかし権藤は、さらにアクセルを踏み込んで、カンジの車を後ろから、矢継ぎ早に煽ってきた。

「クラッシャー権藤さまが、本領発揮よなあ!!」

 『ガン!!!』

 そして容赦なく権藤が運転する車体が、カンジのバックを突き上げた!!

「、、、」

『ガン!!!』

「つまらん総会に顔だすんは面倒だった上に、まさかのシケタニュースだ?!それがここに来て足抜け狩りたぁな。アタリやでぇ!しかも大物ときとる!」

------間もなく右、山道に入ります--------

 何度も後ろから追突をされたまま、カンジはさらにアクセルを踏み込む。車体が凹む感覚は否めない。

『ダウン!!』

 それでも、一気に車を飛び跳ねさせて直進させる。直ぐさまカンジはハンドルを切った。

 住宅道から山道へと進路を進めたのだ。

 県道や住宅道とは違い、路灯が少ない道は一際闇が濃い。
 テールランプを頼りに後ろを走る事が出来る権藤とは違い、先導のカンジは漆黒の闇を切り裂いて走らせなければならない。それでも、、

-----300メートル先を右---------左----右です----

「げ!ウソやろ?!」

 それまでクラッシュ目的の煽り運転を繰り返していた権藤が、余りの暗さに躊躇って車間を取り始める。

「光のない場所では無い。オレから見ればアヤカが輝く羅針盤だ。」

 カンジは瞳に赤い光りを放ちながら、前方を見つめ、そのまま闇に向かってハンドルを左右へと切る。
 本来ならば闇一色の山道。しかしヴァンパイアの末裔であるカンジの夜目には昼間も同然の景色に見える。
 一寸先は奈落にさえ思える山道を、確実に車を蛇行させながらカンジは駆け上がる。

「マジか!」

 権藤はカンジの後ろを、必死で追い掛ける。が、

『ヒュン!』

「止まれやーーーーー!!」

-----50メートル先、、

 しつこくも再び銃を、撃ち込んできた。

『バン!!!』

 とうとう権藤が打った弾が山道を走るカンジの車を止めるに値する箇所に当たった。タイヤだ!!


---------目的地です-----------

『ガシャーーーーヮン!!』

 突然カンジの車が大きく旋回。スピンをした。

 闇の中でテールランプが、グルグルと円を描く。権藤は既のところで慌てて、ブレーキを踏み切った。が、突然の停止に、車体が前のめりになり、

『ブアっ』
 
 権藤の前や左右にエアバックが開く!!

「うあおっと!おっ!!やったな。」

 と、山道のガードレールに体当たりをしたのだろう音。それはどちらの車の音なのか、もはや権藤には聴き分けられない。エアバックが萎んだ先に見えた光景に、権藤の口が空いた。

「え?!傾いたんか?」

 そのまま止まるかに見えたテールランプが左へとズレて、天地回転をしていくのだ。

『バーーーーン!!!』

 同時に山林を衝撃音と閃光が包む!

 ほんの数秒前まで、塗り潰した様な黒闇だった中に、赤い炎を上げる塊が、権藤の目の前に出現した。
 カンジが運転する車が落ちながら燃えたのだ!

「げ、ガソリンに点いた?!」

 権藤はガサゴソと車中に開いたエアバックをかき分け、急いで車から這い出す。

『ゴォォォ』

 明るく照らされた山の中。
 破れたガードレールの底に、燃える車体が見える。権藤は覗き込んで周りを確認した。

「うおい、これマジか。」

 カンジの姿らしきものは見えない。

『パン!パン!!』

 権藤は再び燃える車体の周りに銃弾を打ち込み、目を凝らす。

「しゃーないなあ。人んシマでやっかいや。」

 徐に胸ポケットから電話を出すと、そのまま権藤は耳に当てる。

「あー、悪い悪い。ちーっと、オモロイもん見つけてな。追い掛けとったら、はぐれたわ。ほんで悪いねんけど、火い点いてもーたから消せるもん引っ張ってきてんか?わー、わーってるって!!」

 一瞬権藤は、電話口から耳を放す。

『アニキ!何やっとんすか!まじキレますって!うおい、アニキからや。つながったわ。ほんで火消しやとぉ、、』

 電話の向かうから漏れ聞こえる声に、ウンザリした顔を見せつつも、権藤は下の車から目を離さない。

「さてな、2度死んだ若頭さまのガラはあるんかの。」

『ゴォォォ、、、』

 上着のポケットから電子タバコを出して、権藤は目の前で未だ燃える車に、供えるようにかざして、

 鼻歌交じりに自分の口に咥えた。



 
.゜**.
゜。.゜。*

『ナマハ サマンタブッダーナーン アー ヴェーダヴィデー スヴァーハー、、『、、
ザワザワ
 
 貴方といれば時も忘れるのに、その貴方がいないから。
いいえ、恋しい──思う貴方を思わぬは、あの恨みなのかもしれない。

.*゜。*
『 om duḥkha

。*゜*. .*゜。*』
 

「唱えられる真言に、僧が作る人口の洞窟、、何より駆け抜けたのは武将だったわ、、もっと遠くに飛ばされたと思っていたけれど、、意外に近かったのね。」

 アヤカは、洞窟の奥へと駆け抜けていった相手の幻影を、目で追いながら呟く。
 頭の中に記憶されたメガデーターを駆使して弾き出した場所は、

「相模国の密教地底伽藍ね。そして、さっきのはきっと三郎、、巴の君の子供かとも云われた武将、、」

 そう予想をしてアヤカは、幻影を掻き分け奥へと歩き出す。
 距離にして1キロ。其処にの300程の石仏が掘られた地下迷宮。
 が、不思議と何時ものリヴァイブ状態の為か、幻影に実体の感触はアヤカには感じられない。

「カンジと一緒じゃなければリアル化しないのかも。」

 目の前の幻影達を凝視しながら、アヤカは自分の足元を確認する。
 地中に引きずり込まれたといえど、幸い両足のヒールは無くなってはいなかった。

「一体何を思ってこんな処に飛ばしたのかしら。」

ccheda dham
。*゜*. .*゜。*』
 
ノウマク・サマンダボダナン・ア・ベイダビデイ・ソワカ.*。゜*

....ザワザワ


 オーバーリヴァイブの状態はまだ継続している為、アヤカの周りには真言を唱えながら洞窟伽藍をノミで掘る幻影、、僧達が無数に佇んでいる。所々に蠟燭の明かりが揺れ、其処にアヤカの背中から奥に向かって空気の流れが吹き込んでは蝋燭の明かりを揺らし、長い影を作っている。

 アヤカのデーターが示すには、此の湿気で霧がかった深遠な行者道の奥には、浮き彫りにされた仏と共に地下水で作られた禊場が在る。

「本当なら出口に向かうべきよね、、でも、、奥が気になる、、」

 リヴァイブで浮かび上がる僧達の軍勢のせいか、自然と孤独感はなくなり、霧に反射する蝋燭の明かりが乳白色の球体を作って揺らめく情景。

 アヤカにあった恐怖心がいつの間にか薄くなっていた。 
゜。.゜。*

 進み行くと次第に天井が見上げる高さに変わり、道も広くなる。
アー ヴェーダヴィデー スヴァーハー、、『、、
ザワザワ
.*゜。*
 しかも洞窟伽藍は直線に進むだけでなく2層や3層の作りになり、床に現れた光を見れば、通気口となる其れから幻影の僧達が垣間見えるという状態。

「まるで万華鏡みたいな迷宮だわ。」
 
『 om duḥkha

。*゜*. .*゜。*』


 これがリヴァイブをせずにいたならば、たちまち漆黒の闇に意識が飲み込まれていたに違いないと感じると、アヤカの背筋がゾッと凍り付いた。それでもアヤカの足は、彫り上げられた階段を上っては下り、湿った洞窟伽藍の壁を曲がり、水場を過ぎ、取り付かれたかに進む。

「水音の向こう、、真言に交じって、人の歩く音がする様な、、」

 風に運ばれる音に乗せて聞こえるの足音。これがアヤカの心を揺らしていた。

 しかも此の先にあるのは、此の洞窟伽藍最大のドーム空間のはずであり、歴史的にも謎とされる物が刻印されている。

「種子曼荼羅。、、、、!!!」

 丸く掘り出された高い天井はドームとなり、蓮の花に咲く梵字が虹が如くに浮かび上がる。 そして、

「どうして、アーダマー帝人がいるの?!」

 見間違えようがない、敵国の軍マントに身を包んだ長身の男が立っている。
しかし今はリヴァイブ継続中、時間座標は鎌倉~江戸期。ならば佇む人物は土地の記憶の幻影のはず、、

 『お前は、、ハウア母星人!!』

 にも関わらず、幻影のアーダマー帝人がアヤカの存在に気が付いたのだ!!

「何故?!どういうことなの!!」

 アヤカはすぐさまリヴァイブを解除する。そうすれば、漆黒の闇に放り込まれるに違いない。それでも、、


「こんな狭い場所で戦闘は不利すぎる!!」

 アヤカは叫ぶか早いか!!指にベルを指す!!

ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ベルが空間に響き渡れば

リーーーーーーーーンンンンン
リーーーーーーーーンンンンン

大きく息を吸い込んで
両中指に嵌まるベルを解く。

ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......


「この場所にかつて、アーダマー帝人が来たならば、間違いなくファーストアップルがあったという証拠、、。」

ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......

再幻影粒子が 消えていく。

「待って、、三郎の伝説って、確か峠を作ったとかの創生伝説が人力を外れたものよね、、この洞窟伽藍にもしもファーストアップルがあったなら?
同じ御前でも、静の君じゃなくて、巴の君に縁があったってことなら、、このポイントにアップルの残像色を感知してもおかしくない、、」
.*゜。
ザワザワ
ザワザワ*。.゜**.
遠くなる、僧達の気配が完全に途切れた。


「なら、、巴の君の女人にしては剛力だった伝説もあり得る?そうだわ、、巴の君は、、確かあの時代には珍しく90まで生きている、、、実在も危ぶまれる存在の理由は人ならざる逸話のせいでもあるけれど、もしかしたらアップルのせいなのかも、、、」

 アヤカの思考が闇に飲まれていった。
ーーーーンンンンン.
リーーーーーーーーンンンンン
ザワザワ゜.*.゜。*..

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