あなたも時間逆行の人なの?鎌倉奇譚編

建物3階分程は降りた踊場。
都心の色街近くの地下街を
さらに深く降りた
空間。

純粋無垢な白の壁に
シェルターハッチが取り付けられ、
先頭を降りる
黒髪の彼女が
再びカードキーを翳す。

エアー音にハッチが開く合図か
開いた先には
幾つかのベンチと、
WCサインされたドア、
もう2つのドア。
其れに天井から下がるモニター。

壁には装置磐があり、
奥に真っ黒な闇が
横たわる。

「点検管理室よ。ここで管理会
社に連絡を先にするから、その
ベンチで座ってて。ランと
リュウは、そのヤクザさんを
壁に凭れさせてあげなさい。」

此の場所を仕切る
彼女が
ボディーガードに指示すると
影の様に2人の男女は
カンジとわたしに歩み寄る。

「カンジ、、
わたしに分け与えた能力で、
身体に負担がかったんじゃ、」

全体躯を、
寄り掛かかりはしなくても、
わたしに支えられるかに
寄り添う
カンジに囁けば、

「アヤカ、、オレの欲望を支配
して理性が言ったんだ。アヤカ
がいなけりゃ意味がないと。
尤も早くそうすれば良かった。」

カンジは笑って
わたしを安心させると、
ボディーガード2人の助けを
拒んで
自ら壁際のベンチに凭れ
座わると、

「こいよ。」と、

両手を拡げて己が足の間に
わたしを座らせ、
其の腕に閉じ込める。

圧倒的体力を持ち合わせる
男だと、
夜毎の情事で知っているだけに、
座り込み
壁に凭れる姿は、
どれ程体力消耗をさせたかと
罪悪感に駈られて、
わたしの胸は
締め付けられてしまう。

「はいはーい!イチャつくのは
そこまで。少し時間をもらっ
て、自己紹介ね。まず、あたし
はマイケル・楊。香港人ね。
で、こっちの2人はボディー
ガードでレディがラン。メンズ
がリュウ。同じく香港人よ。」

長い黒髪を1つに纏めた彼女、
マイケルの言葉に
わたしは思わず声を出す。

「マイケル・楊、華僑氏族の?
神隠しにあったと騒がれた?」

旧地球での偽りの勤務地で
見つけたニュースデータに、
彼女の名前と情報が
あったと閃いて呟いた
わたしに、
マイケルのボディーガードと
紹介された女性ランが
威嚇するように肩眉を上げた。

ボディーガードの男性は、
丁度
管理室の電話に向かって話を
していて、わたしの不躾な
言葉は聞こえていない。

「ラーン!そんな顔しないの。
その通りだし。えー、その事件
の張本人が、この少年なる、
大師ね。見た目、こんなんだけ
ど最初会った時は仙人顔だった
んだから。で、悪いけど未来人
さん達の紹介してくれる?」

マイケルは、
到底理解し難い素性を紹介して
隣の少年に一瞥すると、
壁際に座る
わたしとカンジを見つめた。

「わたし、一応、旧消滅地球での
名前は一條アヤカといいます。
彼は譲夜咲カンジ。ここから
4500年後の時間軸にある星から
タイムリープして来ました。」

カンジの腕の中で、
6人の視線を受けながら
わたしはカンジに了解を乞う。
そうすると
わたしの額にカンジが
サーバルキャットな仕草で
額を合わせるから、

「彼は旧消滅地球において太古に
生息した、ヴァンパイアの子孫
より更に進化した未来人です。」

静かに自己紹介に補足した。

「ちょっ、ちょっと待って?!
何その消滅地球ってやつ?それ
この地球が無くなってるの?」

「ヴァンパイア?!」

「タイムリープ、、」

マイケルと
ボディーガードの2人が明らかに
狼狽えて言葉を挟む。
確かに
わたし達に詰め寄るのは
致し方無い。

彼等も
わたし達と同じ地球を母星とす、
人類の遠き先祖なのだから。
其れに今の言葉には
余りにも非常識な情報が
多すぎる。

「はい、でも2500年程後です。
それに、その頃には宇宙開発が
進んでますので、人類は宇宙の
星へ居住を移していますから」

わたしは祖先でもある彼等を
刺激せぬよう微笑んだが、
マイケルと、、ラン、リュウの
3人は
顔を強張らせてしまった。

「それでも微妙ーだわ。まあ、
先に紹介よね。はい、次は
そっち。あのね?大体さっき
の地下街で、いきなり現れて
息子って言われてもなのよ。」

マイケルは肩を竦めて、
わたし達に苦笑すると、
今度は
管理室の反対側に座る
コスプレ組に視線を回す。

其れを合図に騎士制服の青年が、
敬礼するかの勢い立ち上がり、
マイケルに礼を取った。

「母上、私は母上の肖像を見て
育ち、貴女に会った瞬間に、
貴女が異世界に戻られた母上
と理解しました。
私は、カフカス王帝領
スカイゲート藩島を統べる
王弟将軍テュルク・ラァ・カフ
カスが、宰相補佐官マイーケ・
ルゥ・ヤングァとの間に成した
息子ガルゥヲンと申します。」

「「「「!」」」」

聞いた事のない、記憶にもない
国名を聞いた、気がするのは
ボディーガードの2人も
同じだったのだろう。

其んな緊張高まる雰囲気を
和ませる声が、
女神コスプレの少女から
紡がれ、
更に予想外の内容を知る。

「あの、実はわたしも、こっち
世界からカフカス王帝領に聖女
として飛ばされました。 三ノ宮
トモミといいます。JKです。」

「「「「「「!!」」」」」」

今度は大師少年以外が
驚きの表情を
見せたのだ。

今の聖女というトモミの言葉で、
聞いたばかりの聞きなれない
国が、
異世界の国だと納得でき、
しかもトモミは
マイケルと同じ境遇を受けた
人物だと判明したわけで、
フードを被る青年も、
声を上げた。

「えー!聖女トモミって、
ここの世界に居たんだ。凄い
偶然だね。あ、魔導騎士の
フーリオ・ナァル・サジベルと
いいます。王帝領貴族です。」

わたしやカンジの様に、
未来人がいるのだから、異星人や
異世界人も居るのだろう。
と、
自分の驚きの声は飲み込んで、
身体に廻された
カンジの腕をわたしは握った。

けれどもマイケルは、
考えあぐねた顔で
皇子だと言った
ガルゥヲンに問い掛ける。

「ねぇ、ガル。あたし貴方を
生んだ覚えがないんだけど。」

「えっと、マイケル様?こんな
荒唐無稽な話を信じるのですか」

リュウは目を白黒させて、
マイケルに詰め寄り、
しかも
大師少年も呆れ顔をして
マイケルを嗜めた。

わたしと、後ろで抱くカンジも
興味深く其の話を聞く。

旧地球における
子孫存続の為の交配状況を
此の耳で聞けるのだから。

「マイケル、それはちと我が子に
冷たい言いぐさになろうよ。
ガルゥヲンをテュルクが男で
ありながらも生んだ
のだぞ?お主との子なのだ。」

「そうだったんだ。わかった。」

「マイケル様!どーして?!無茶
苦茶過ぎます!男性が子を産む
なども、そもそも此の者が本当
異世界人だと信じるのですか」

ランはマイケルの襟首を掴むと、
前後に揺さぶり
主の目を覚まさんが勢いで
言い重ねている。

「あのね、リュウ。今この息子が
しゃべった内容が、全部合って
るからだよ。あたしは、こっち
に戻ってからは異世界の話を、
人に話した事はない。だから、
あたしの記憶と符号する事を
何の淀みもなく話せるなら、
彼は信じれる人物だと思う。」

「マイケル様!」

リュウもマイケルに声を
上げたが、マイケルは其れを
片手で遮って

「それよりも問題は、調整世界の
人間を大師が連れてきて、尚且
つ未来人が居てるってことよ。
ガル達は何か問題があったか
ら、この世界に来た。そして、
未来人は追っ手から逃げている
けど、大師には想定外って?」

マイケルは
簡潔に状況を纏めると
大師少年と、
今度は
わたしを見つめたから
わたしは未だ腕を絡ませる
カンジに視線を、送る。

目的を話すの?

カンジは少し睫毛を伏せて

「未来で消滅した、地球を
復活させる鍵を探している。」

低く響く声で
わたしの耳横からカンジが
告げ、
そこに、声変わりもしていない
声色が重ねられ、
大師少年が言葉を繋げた。

「調整世界に封じた『魔の王』
が、この世界に逃げたのだ。」

「「「「・・・・」」」」


暫く誰も声を上げない中、
静寂を切って
マイケルが、白い管理室で
ため息をついた。

「別の事柄が重なると、こんな
にも不穏なの?大丈夫?地球?」

マイケルが無機質な壁にある
装置盤の蓋を開けると、
キーボードがオープンされる。

あんな拳法技を繰り出すとは
到底見えない美しい指で
カチャカチャと小気味良く
キーを弾いて入力すると、

わたし達の目の前に拡がっていた
闇に眩しい明かりが
灯された。

「わー、都会の地下に都市伝説
あらわるって、感じー。」

「聖女トモミって、向こうにいる
時と雰囲気違うよな?こっちが
本性なのか?調子狂うよな。」

聖女トモミが声を上げる。
確かにJKと言われると
頷ける反応なのに、
纏う女神服がチグハグに思える。

其れに、
明るく照らされた
何処までも続くトンネルの前には
直立乗車タイプのスクーターが
並んで有るのにも、
わたしは驚いた。

「ラインの保守点検で
移動に使う奴よ。これを
2人乗りで使うわよ。えっと、
私はガル、トモミはフーリオ、
アヤカとカンジ、ランとリュウ
ってとこかな。大師はー、」

「いらんよ。飛ぶからな。」

この発言で少年が旧地球次元に
とらわれなき存在だと、
改めて確証でき
内心わたしは驚いた。

それは
大師と呼ばれる少年は
高次元マスター意識の
1つだと予想できたから。
ならば
少年ならば目的のモノを、
知っているかもしれない。

そう考えると、自然と
先ほどの会話が脳裏を掠める。





地下深く作られた管理室。
カンジを休ませるが間、
わたし達を含めた異邦人の状況を
華僑の令嬢マイケルが
擦り合わせ話したのは、
未来の時間軸からの訪問者である
自分達でさえ、
不可解な内容になってしまった。

『マイケルの子宮に
調整世界の将軍テュルクが
聖紋を刻んだ事で、世界同士の
ゲートが繋がっていたらしいの
だ。本来、マイケルの異世体
エネルギーを受け継いだガルゥ
ヲンを使って、調整世界にて、
魔の力を奪い封じ込めまでが、
実は調整世界でのマイケルの
使い処であったのだがの。』

真っ白いトンネルを
形成する
地下の配管パイプの横を、

わたしを前に囲い閉じ込めた
カンジがハンドル操作する
直立型自動走行スクーターが、、
風を切って走る。

『そもそも調整世界に、今世界の
島が落ちくる異常事態はない、
はずだったのだ。思うに未来人
からの影響があったのだろうと
今ならば考えつく。その結果、』


今カンジも、、、
大師少年が語った言葉を
考えている?

僅かでもカンジの体力が戻れば
と心に祈りながら、
わたしはカンジの骨太な手に
自分の手を重ねて、
風切るカンジを仰ぎ見る。

『今ここに、時間軸が違う現次元
人と、調整世界という極めて現
次元に近く影響し合う、4次元の
人がいてる状況を作ったって?』

マイケルは長い髪を揺らして
首を傾げながらも、
大師少年に更に疑問を投げて、
わたしとカンジは
それを静観していたけれど。

『もしもよ、本来は2500年後に
地球消滅する予定が、その魔の
モノとかいうのが来て、早まる
とかって物語の約束事にある
じゃない?そんな事ないの?』

次にマイケルが放った言葉で、
わたしの背中にも
カンジの身体が僅かだけど
強張ったのが伝わって、

カンジが真っ直ぐに前を見据える
瞳の奥に、
わたしも視線を合わせた。

『しかし、未来人が探すモノで
地球の危機を脱却してきたの
かもしれない可能性もあるが?』

すでにタイムリープの
強制力が働いているならば、
わたしとカンジが
彼等と出逢う事も必然で、

もしそうでないならば、
時間軸が変容して、
わたしとカンジが知る時間では
なくなり、
全てを道連れにする改変未来も
ある、、

『貴方達、これからどうするの?
追っ手が来るなら、逃げられる
ものなの?手助けなら出来る
から、車用意するけど?』

マイケルからの
それは、意外な申し出で、

『あの、どうして初対面の、
今世界の者でも無いわたしたち
を助けて下さるのでしょうか』

わたしはつい、
自然と口から疑問が音になった。

最初
マイケル自身がひどく驚いた顔を
わたしに向けた。

『アウェイでゼロスタートする
辛さを知ってるからかな。
でも、チートなスキルは、
お二人にはありそうだけどね。
ただ、後ろのヤクザさんは、
刺青が派手過ぎて、目立つね。』

きっと、
わたしの質問で初めて
気が付いたのだ。
無意識下にある
善行を理由にする感情の記憶を。

『・・・・』

まるでそれを隠す様に
苦笑するマイケルは、
カンジの彫り物に注視して、
わたしから目を逸らす。

同時に、
無言で休むカンジの腕を見た。
夜毎の睦でカンジの背中から
腕には鮮やかな彫り物が
咲き誇るのを
わたしは知っているし、
カンジの襟や袖先からも
彫絵は覗いて見える。

『えー、宜しければ、わたくし
フーリオ・ナタール・サジベル
が、魔詠唱にて消して差し上げ
ましょうか?直ぐですよ?』

魔術師ローブのコスプレだと
わたしが勝手に思っていた、
魔導師フーリオと紹介を受けた
髪の毛長い青年が
片手を挙げた。

『魔導師、いや聖魔導騎士は
そんなことも出来るの?』

『はい、どうやらこの世界でも、
魔法、魔力共に行使出来るみたい
なんで、やっちゃいますよー』

マイケルとフーリオの
やり取りに、
わたしは唖然としていたけれど、

『刺青はヴァンパイア体のエネル
ギー紋をダミーするモノでな。』

カンジは表情も変えずに
わたしも知らない
彫り物の理由を告げる。

わたし達ハウワ母星人が本来、
アーダマ帝系人と
直接迎合事なんて皆無。

何時なる時も、
操縦式人型機動兵器
ヒューマノイドアーマーウエポンのコックピットから
その面影のみで、
視線を刃に変えて
交わらすのみでは、
カンジの彫り物の理由など
知り得なくて、

悲しくなった。

『なるほど。じゃあ目立たなく
する為には、上から皮膚膜をもう
1枚はる感じにするかな。よし。
能力発動時には発光するでしょう
が、通常見えなくしますよ。』

『あなた、凄いわね。『復元』で
しょ?『治癒』ではなくて。』

『いえー。我々が1番よく使う
能力ですね怪我が多いですし。
あと、膜は眼球まで全て施し
ますから、日の光も大丈夫に
なると思いますよ。 』

『『!!!』』

驚愕の台詞は、
まるで祝福にも聞こえて、
わたしもカンジも息を飲んだ。

『それって、術者が亡くなると
消えるのよね?大丈夫なの?』

当事者でさえ、
言葉を失っているのに
マイケルは鋭い考察を更に
魔導師青年に投げる。

『さすが元カフカス宰相補佐官。
ですので、契約帰結をシスター
アヤカに施しましょう。』

更に、わたしは心内で絶叫する。

『シスターアヤカ?』

マイケルが怪訝な声を上げて
わたしを見る。

『ハウワ母星は旧地球で聖職の
使命を成す国の末裔。成れば
、わたくしも司祭貴族として
聖魔導師なる方に縁するのかも
しれないとは理解できますわ。』

これが、
わたし達一族がハウワ母星にて、
上流貴族と戦闘指揮さえ
執行する理由。

でも何故に知れたの?

『なーるほどね!調整世界の
未来人に近いとなると、
聖魔導師の末裔になる可能性が
あるから、契約帰結の縁を結べ
るのもありってことかあー。』

『難しいことよりも、聖オーラを
シスターアヤカに 感じたから、
試すだけでなんですけどね。』

わたしの疑問を汲み取るかに
フーリオは理由を簡単に
述べて、
そんなフーリオをカンジが
目を細めて見たのが
わたしにも解る。

『フーリオ、シスターアヤカが
魔導師ならば、後ろの男は敵対
していたのだ、魔族の末裔に
近いとはならないのか?』

そして
わたしが密かに
懸念していた内容を
マイケルの息子という皇子が
射抜く視線をカンジに放つ。

けれど、
皇子以外は暢気な雰囲気を
崩さない。

『どうだろ?どちらかといえば、
獣人よりのオーラかなあ。』

『あ、吸血鬼と狼男ってやつ!』

それに
もともと、
旧地球の女子高生の聖女トモミが
割と好意的な見解を
してくれた。

そして、

聖魔導師フーリオ青年の詠唱が
無機質な管理室で
静かに始まり、

カンジの彫り物の全容が
顕になったのだわ。

ここまでを思い出して、
わたしは、
自立型走行スクーターの
ハンドルを握り、

長い括り髪を靡かせた
カンジを、下から伺い直した。


魔導師フーリオの詠唱音が
鈴を鳴らす様に、
都市地下深くに在る
地域プラント管理室に
木霊すると、

カンジの身体が強い光を発して
彫り物が浮き上がる。

わたしや共に管理室に居る
全員が、閃光の眩しさに手を翳す中
カンジの2本刀と龍の彫り物は
一気に霧散する。
その跡に現れたのは、
まるで
カンジの身体に刻印されたかの、
鮮やかな
光を血潮の如く脈打ち刻む
古代DNA陣だ。

『凄い時代物の陣だね。もしかし
て、この陣で居場所とかも
解っちゃいそうだな。じゃあ、
膜で全部を覆うよ。瞬きは、
厳禁でお願いしますよ。じゃ、』

まるで陣その物が、
古代生物かの鼓動を波打たせる
様に、
魔導師フーリオが上げた感嘆の声に賛同しつつも、
わたしは上半身を出すカンジを
耀きの渦に翻弄されながらも
見つめる。

『全裸でなくても大丈夫なのか』

両手を空に差し上げる
魔導師フーリオに
まるで地下世界に投下された
太陽を背負うカンジが、
問い掛けた。

ブウーーーン

フーリオの掌の間に
音を鳴らした
丸い スケルトン状エネルギー膜が
出現して、
わたし達が
一息吸い込むが間に、
新しい光の環を形成しながら
カンジを覆っていく。

『肌を座標に覆いを伝わせるから
全裸じゃなくても大丈夫です』

カンジが2つの光、
言うなれば
太陽と満月の爆光に飲まれるのを、
目を細めてフーリオは、
カンジの懸念に答え、
魔導師らしく
指をパチンと鳴らした。

光がカンジの身体に収束すると、
管理室に爆風が吹き抜け、
わたしは身体をのけ反らす。

星の重力が一気に
カンジの身体を覆った錯覚に
心配になって、
カンジに駆け寄った。

あれだけのエネルギーを肌1つで
カンジは、
受け留めたのだから。

『凄い。カンジ、肌に彫り物も
古代陣も見えないわ。カンジの
肌だけが、見えている!』

そこには
今まで見る事叶わないはずの
無飾なるカンジの背が
佇んでいる。

『一見、陣も消えたみたいに見え
るけど、ちゃんと膜皮膚の下に
あるから、エネルギー発動時に
は浮き上がると思うけど、普段
は見えないから大丈夫だよ。』

魔導師フーリオは造作無い様な
面持ちで、わたしとカンジに
無事、仮想皮膚が覆われたと
告げた。

『パチパチパチパチ』

目前で行われた術式に、
皆が言葉を失う中で、マイケルが
短く拍手を送りながら

魔導師フーリオに問い掛ける。

』さすがに、無償とは言わないん
だろーね?何を考えてるの?』

勿論わたしも、きっと
険しい視線を投げるカンジも
その事は予想している。


『いや、実は未来人さんに、
身体強化の組み換えを皇子に
して貰いたいんですけどね。』

そして魔導師フーリオは、
わたしでさえ何時間か前に知った
帝系人特有の能力という
意外な対価を求めて、
カンジの応えを伺った。

『身体強化って、魔力で出来る
し、魔充石で能力補給もやれる
でしょーが?今更まだ必要?』

マイケルは、
魔導師フーリオの言葉に意外だと
表情をみせるのも
仕方ないと思う。
わたしでさえ、
頭に過ったのだから。
それ程魔導師の先程の力は
圧があった。

でも其の言葉に
否と発する本人の声が上がる。

『フーリオ!俺はそんな奴の
手は借りない。お前の魔力を
信用もしている。必要ない。』

未だに射抜く視線を、
カンジに向ける皇子ガルゥヲンだ。

『いや、有るに越したことない
よ。皇子は、魔力を全く持って
いません。その為に皇子は、
極限まで自分の身体能力を
磨いてきた。そこに魔力の付加
をしているし、魔充石もある。
けれど付加には限界があるし、
術者が屠られれば、ゼロだ。
魔充石も無限に持ってはない。』

『そんな危惧するぐらいに、魔の
王は厄介な存在ってなるわけね』

マイケルの神妙な顔に、
隣で聞いていた大師少年も
無言で頷いている。

わたし達は部外者ゆえに、
其の魔の王なる者の事は解らない。

「失礼だけど『鑑定』で2人の事
を見させてもらって、彼女が
聖なる職の末裔だと解ったけど
同時に、貴方。彼の使う身体強化
は、魔力コーティングする付加と
は別の、体の中を操作する力だ。
1度施せば、無くなることがない
未来人ならではのスキルだよ。』

改めて
魔導師フーリオが説明した、
わたしにカンジが施した力の
正体を知って密かに驚く。

わたしの様子をカンジは
どこか悲し気な目で見た様に
感じる。

『解った。人体強化をその皇子と
やらに、ダウンロードしよう。』

結果として、
カンジは魔導師フーリオに
対価を承諾した、、、



自立型走行スクーターが、
1つのドアの前で停車する。

「ここが、うちのホテルの地下
駐車場に繋がる点検口よ。あ、
スクーターは自動で元の場所に
配置するから、そのままで。」

先頭で停車したマイケルが、
振り返り告げると、
スクーターから降車する。

「この先、知り合いに頼んで、
車を回してるから、ここからは
車で目的地に向かうってことで」

華僑の令嬢マイケル・楊は
さして、
わたし達に説明を求める訳でなく、
車を用意したからと、
口を弓なりにして笑った。


『恋は、
一瞬の音の様に終演し
蜻蛉の様に儚く、
夢の様な朧気なさで。
青い幻影は、滅びゆく。』

2度目の逢瀬で
カンジが
夜のベッドに呟いた言葉を
今、
思い出すのは何故だろう?

ハウワ母星人と比べるなら
遥かに長く生きる帝系人の
恋愛感情とは
如何なる心内なのかは
わたしには解らない。

母星に婚約者を持つ
わたしが言うのも可笑しな話ね。

そんな事を、刹那に考えて
わたしはカンジ吐息を背中に、
地上へと続く白い階段を昇る。

カツンカツン、、シューーー!

始めと同じ様な出口が見えて、
先頭のマイケルが
カードキーを翳すと、
確かに其所は
地下の駐車場に見えた。

「本当に駐車場なんだ!
ここって、マイケルさんとこ
が建てたビルなんですか?」

「そうよ。地下に劇場があって、
上が新しく出来たホテルなの。
これから開業だから、無人だし
拠点には丁度良い所でしょ?」

異世界人の彼等は
一時的にマイケルのホテルへ
滞在するという。

それにしても、
聖女と呼ばれるトモミが、
キョロキョロして、
マイケルに建物の
位置関係を聞くのだから、
確かに彼女は、
この時間軸で生きていた
都会の高校生だったのだろう。

『皇子だけで良いのか?』

入り口の管理室で、、


魔導師フーリオに対価を
求められたカンジは、
長い指に
銀色の飾り爪を装着しながら
問い掛けた。

わたしの時には首元に直接
噛み付いてダウンロードしたのに
本来は、道具を使って他者に
細胞変異の液を流せるらしい。

螺鈿飾りの付け爪は、
カンジの先祖達から牙を
譲り受けたモノを
細工していると、
説明をしながら
説き伏せられた皇子の
襟首に
カンジは爪を立てたのだった。

『あったし、ここに戻りたかった
から、いりません。本当は、
元世界に戻る為に聖女役してた
んだもん。普通の体じゃないと』

聖女といわれるトモミは、
とても打算的な高校生だった。
元の世界に戻った彼女は、
この後の討伐隊に
加わるのだろうか?

それを聞こうと
わたしが聖女トモミに声を
描けようとした時、

「マイケルぅ~!こっちぃ!
ホントさぁ、僕に何でもフルの
は、やめてくれないかな~。」

「あー!ハジメ!謝謝ー!
何でもじゃないわよ。貴方じゃ
ないと出来ない事しか頼んで
ないからねー!あ、紹介するわ」

地下駐車場の奥から
白いスーツを着た男が
マイケルに声を掛けて
やって来た。

「ふぅん、彼等が異世界人たち?
見た目は普通ーなんだねぇ~。
神隠しにあったマイケルから
話を聞いてなけりゃ、信じられ
ないぐらいだよねぇ~。でぇ
この少年が、件のマスターかぁ」

新手の人物は
タレ目気味な瞳を細めて、
わたしやカンジ、
後ろに続く3人までを
上から下まで
スキャニングして、

大師少年の前で、止まった。

「マイケルを保護した時にいた、
美術家か。何かと精通している
からか、余り驚かないのだな。」

そんな人物の登場にも
躊躇なく
大師少年は不遜な言い回しを
しながら、
白スーツのタレ目男に微笑む。

「画商なんですよん。これでも
っ。マイケルにはぁ、
便利屋みたいにぃ使われて
ますけどねん。今回も、車を
手配しろっていうから~。」

苦笑して彼が示した場所には、
見た事のない車が
停められいる。

「セレブクオリティの、
キャンピングカーですよん。
マイケルの自国で作られた新作。
たまたま~モーターショーにぃ
出すつもりでぇ入庫させてたん
だけどなぁ。勘弁してほしい。」

「いいじゃない、また送るから。
それで移動ギャラリーでも何
でも使いなさいよ。じゃ、
ハジメは、説明をお願いね!」

不満を無視しながらも、
マイケルは彼に
カンジに車の説明を促し、

カンジ達が車内に入れば
今度は間髪入れず
魔導師フーリオに、

「悪いけど、この車には認識障害
の魔法を掛けてくれない?
完璧じゃなくて、記憶しにくい
とか、認識が薄くなるとか系で」
と、
依頼をしてくれた。

「あの、もう対価分はして
もらってます。これ以上は、」

「いいのよ、貴方達に会ったのは
偶然じゃないと思う。後で大切
になりそうだって予感するの。
先行投資ね。ついでに、カード
と、電話を持って行って。
どこでも使えるし、現金も出せ
る。逃亡と、捜索の資金よ。 」

マイケルは、
息子皇子と聖女トモミにも
何かを話し掛け、
魔導師フーリオに合図をする。

わたしは、
周りを見渡して防犯カメラを
数台見つけた。

どちらにしろ、マイケルが
何らかと対処と研究にでも
するだろう。

わたしは、マイケル・楊という
華僑令嬢を信用する事に
したのだ。

向こうの管理室であった様な
派手な閃光や、風圧が生まれる
でも無く、
キャンピングカーは、
魔導師フーリオの詠唱で、
揺らめく空気に包まれる。

「母上は人使いが荒いな。」
「親子ですよねー。」

息子皇子の文句と共に
魔導師フーリオの揶揄と
指音が響いて、
元の地下駐車場の静寂になった。

「未来人アヤカよ。ここで袂を
分かつが、何かあれば呼ぶが
いい。この時間軸ならば、
僅かでも出向けるだろうよ。」

大師少年が、わたしの前に
出て来て手を差しのべる。

「何の縁もない、わたし達に
過分な御心寄せを、ありがとう
ございます。良いのでしょうか」

「何、お主と我は少し似た
性分をしておる。時代が、時代
なれば、お主達一族は我と同じ
役を担っておった様に感ずる」

理由はそれだけよの、と
大師少年が笑うので、
わたしも思わず差しのべられた
手を取り握手した。

「以上~!説明は概ね出来たよ
ん。じゃあ、お代はマイケルね」

カンジと白スーツの彼が
車から降りて来る。

「何かあれば、電話すればいい
からね。そこのタレ目男の
ハジメも骨董とか扱うからか、
勘がいいのよ。『ギャラリー
探偵』なんて呼ばれたりする
から、サポート出来るはず。」

確かにこれから、
わたし達が探すオーパーツで
アドバイスを貰えるかも
知れない。

「レディ・マイケル。本当に
ご支援ありがとうございます」

「いいってことよ!異世界での
心細さは知ってるから。
こーゆー 時に華人は恩を惜しま
なく売っておくのよ。武運を」

わたしの後ろに立ったカンジも
マイケルに手を差し出す。

また会うことになる。

そんな予感を孕んだまま、
わたし達は
用意された車に乗り込み
振り返る事すらしないまま
地下の世界から出発をした。

こうして奇妙な異世界人達との
時間交差は終わり、

わたしとカンジは

星からの逃走をしながら
『ファースト・アップル』を
探す旅に出た。




正午の日差しが照る
白い首都の高速を、車は
南に走る。

其れは次第に
首都ならではの風景から
自然な山々の連なりに
変えて、快晴の空の下に広がる
街内へと続く。


「・・・・」

無言で。無音。

地下ライフライン沿いに
移動をしていた騒々しさが
幻の如く、
BGMの彩りも無く、沈黙。

(思えば、、)

カンジに会う部屋には
音楽が鳴る事も、映像が点いて
いる事も無くて、
其処には
艶かしい夜だけが横たわり、
聞こえるのは
わたし達の悶える息遣いだけ。

月明かりに、
汗ばみ息を荒げる
カンジの顔を見れるのだから
夜は
ひとつも暗くはなくて、
わたしにとって
燃える様な闇夜は
知っている夜とは似つかない
異形の夜。

何時ものホテルの、、

同じ号数の扉の前に佇んで
ノックをすれば
無言で開かれるドアの中に、
カンジの焦がれ燃える瞳が
闇夜に浮かんで
何時でも
わたしを捕獲した。

『カンジ、、』

わたしが次の言葉を繋ぐのを

『来い。』

不躾なまで遮る様に、
カンジが
わたしのシフォンブラウスの肩を
鷲掴んで部屋に
引き摺り込むと、
締めたドアを檻に逃げぬよう、
顎に指を掛けてゆっくりと
口から舌を捉えるのが
始まり。

薄く灯された月光が造る
服のままに互いの影が
縺れ合い、
壁一面の窓から
月だけが
カンジの獣と貪り蠢く背中や、
噛み揉まれ
揺さぶられる
わたしを
見ていた。

カンジが帝系人なのだと蒼空で
知り得た時でさえ、
貴方と思う光景は何時だって夜。

だからなの?
神々しい昼光の下、

隣でハンドルを握るカンジの姿が
まるで聖人君子さながら
妙に眩しくて、
面映ゆく、眩暈に襲われ

「酷く、非現実的な気分かも。」
と、
呟いてしまった。

「月の下でなら、気不味くない
逢瀬なのに、か、、アヤカ?」

低く響く言葉送りは、
相変わらずで

(言い方が、狡い。)

車を操りながら、
フロントガラスを見つめる
カンジが
わたしを横目で見留めて
薄い口角を満足気に上げている。

そもそも此の肢体の奥、
何から何まで形を造られ、
処女の味さえ啜られている
わたしなのだから。

「カンジは、心も読める?」

いつか陽の光の下で、
カンジと歩きたいと
欲した
清廉潔白な乙女な世界。
叶うと、
居心地に困っている
自分を
見つけてしまった、
この胸の内。

すっかり夜の女でしょ?

「番は目で見なくとも、心で
見れる。絵描かれた天使が
目を隠しても矢を射抜くと
同じ様に、、
陽の光で、アヤカに姦じるのは
俺も一緒だという事だ。」

(やっぱり、お見通しだわ。)

これでも、わたし
本当は成人前の少女なのに。

どこか色香な意地の悪るい
台詞を吐息に、
カンジは
ハンドルから片手を離して
わたしの手の甲をスルリ撫で
上げた。

存外この仕草が、胸にくると
知っていて昼日中にするのが
質が悪い。
けれど、
カンジが、わたしの手を
好きに弄ぶ腕には、
もう彫り物は見えなくて、
安堵もする。

「不思議ね。本物の魔法なんて」

「身体の中に影響を与えられない
魔法と、身体の外に影響を与え
られない特異能力の相違を、
改めて理解する出逢いだった。」

カンジは、わたしの指に
幾つもの音を吸い立てる口付けを
落として応えると、
視線で国道沿いの傍らを促す。

「ああ、、こんなに咲いてるの」

国道沿いの雑木林も
秋の風に茜色や橙色へと
彩り鮮やかで、
この国の趣を感じるに
充分だったけど。

墓園近く。
紅葉の
山壁にひっそりと群生する
山花。

本の花穂の先に揺れ、
白い花穂が2本でひとつに
なって開いている。

「二人静だな。」

カンジが
まるで中今、わたし達を
想わせる山花の名を
わたしの手の甲を再び弄びながら
低く響く様に唱えた。

悲恋の若将と白拍子を
名に秘めた和草、、

中世時代、
この国の政治を束ねる将軍が
座してきた古い街へと、
車を進める中だ。

わたしとカンジが向かう先は、
彼女が八幡大菩薩に献舞をした
回廊の跡社。

カンジが注ぎ込んだデータと、
わたしに積み上げられたデータが
既に脳内演算され、
選出された場所。
『ファースト・アップル』に
繋がると、思わしき候補地が
幾つか
絞り込まれている。

「カンジは、どう思う?」

わたしは二人静の群生を
道端に、問うてみる。

「この星にある無数のオーパーツ
には分類があると帝系では考え
ている。異星軸人による持ち込
み、高度消滅文化の遺物、
そして、、聖遺物エネルギー
産物。しかし『ファースト・
アップル』は聖遺物その物。
かつて創造主が行使した物だと
考えるが、、其のモノ形状は、
未だ確定していない。が、、」

カンジが全てを言い終わるが
前に、
白い可憐な群生は車窓から
流れて消える。

「聖遺物エネルギーの産物、
というよりも、聖遺物その
モノの欠片が、この土地に
あったと思える、、でしょ?」

わたしは、カンジの言葉を
繋いで応える。

『ファースト・アップル』は
聖遺物の最たるモノ。
国や大陸、星1つを、産み出す
力を秘めた創造遺物。

カンジは、
もう彫り物が見えない腕を
わたしの手の甲から
惜し気にゆるりと離して、
ハンドルをカーブに切って行く。

「武将文化の隆盛で初めて、
都ではない場所に国の政を
治めた場所。であるうえに、
膨大なエネルギーが歴史的に
集まる傾向にある。聖遺物、
その片鱗があったからこそと、
考えるのは俺だけじゃない。」

何よりこの地域の史実には、
弾圧の僧が祈りで星を動かしたと
あって、
其れは当時各地で認められたと
見物書に残るけれど、
となれば隕石だった可能性も
あるから、、

「聖遺物の共鳴現象よね。」

わたしの言葉に、
カンジは頷いてブレーキを掛けた。

わたし達が乗る車が
紅葉が見える朱塗りの参門に
静に着いたのだ。

「白拍子の彼女が、巫女体質
だったならば、必ず聖遺物が
引き寄せるはずだもの。」

わたしが
駐車場に車を入れるカンジに、
独り言の様に呟くと、

「アヤカと同じだな。一目見ただ
けでアヤカに籠る力が、激しく
俺を揺さぶり抗えなく誓わせる」

エンジンを止めたカンジが、
スルリと
わたしの右耳輪を擽り降りて
頬から鎖骨へと倣ぞる。

「ヤれるのか。」

これから、此の場所で行うのは
わたし達
ハウワ母星の神官貴族が行う

リヴァイブー再幻。

いつも王の表情で魅了する
カンジが
こんな風に珍しく躊躇するのは、
例え脳内データの共有をした
としても、
リアルでは未知数の体験になる
から。

「不安?」

土地の記憶を幻影再現で、
透視するリヴァイブ。

「リヴァイブは、帝系人には
未知の領域だ。想像もつかな
い。危険はないのかアヤカに」

何処までも、
わたしに負担がないのかと
カンジの切れ長の瞳が
わたしの中に偽りを探る。

「なら、カンジも来て。きっと
リンクインできるから。」

わたしは微笑んで、
カンジの手を握った。

都から離れたこの土地に
武士文化が根差して
初の武将代政権が統治した際、
都から幾つもの宝物が
下賜されている。

それらを時間を遡り視るのだ。

「もし、アヤカに負荷があるなら
俺が担う。全部渡してくれ。」

言い募るカンジにわたしが
頷くと、
カンジが先に車を降りて、
ドアを開けてくれる。

社は紅葉の山に囲まれて
参詣門は見上げた先にある。

「カンジと陽差しを歩きたいと
願っていたのが叶うのね。」

わたしは満面の笑みで、
後ろからエスコートするカンジに
振り返って告げた。

わたし達の仲は禁断の関係。
追っ手もその内やって来るだろう。

「陽の当たる逢瀬の初めが、
悲恋の社では格好もつかない。」


都の雨乞い祈祷で、
唯一
雨を降らせた悲恋の白拍子。

彼女はこの地で2度の舞を
見せて、
宝物を2度賜わり、

彼女が帰京する際には、
手にした杖を
桜の樹木へと変化させた
逸話もある。、、なら、

かの宝物は聖遺物の杖である
可能性がある。

車から出てると、
金木犀の香りした。
 
ポーーーーーーーーンンンンン
ポポーーーーーーーーンンンンン
.*゜。さへ
ザワザワ
ザワザワ*。.゜**.

史実にも
ーーーーンンンンン. データされたとおり、
ポーーーーーーーーンンンンン御家人
ザワザワ゜.*.゜。*..自らとる

鼓と銅拍子、ザワザワ『アレナルハ、、

ザワザワ笛の音色が.*。*.゜。*

満開の .゜**.
ザワザワ.゜。.゜。*桜の中

『キョウノアマゴイニテ、、『シカシムホンノ、、
ポーーーー満員に、埋め尽くされた

...ポポーーーーーーーーンンンンン侍の達の間を
ザワザワ
麗らかなる.*。゜*春花見宴を

流れていく。....ザワザワ

透き通るが舞唄、、

.*゜。*
『 きぃみぃがぁ代 ぉお はぁ
。*゜*. .*゜。*』


咲き誇る薄桜の背景に、
扇に舞う 紫の苧環花の姿が

花見宴の場内満員になる武士達の
頭上に掛かる
回廊に映える。
.*。゜*。゜.*.。゜.゜ . *
Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ
Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ

わたしとカンジの前に

160年程前に 記憶された

この国の光景が
仮想風景として
影牢となり
現れた。

『リヴァイブー再幻』


車からカンジに腰をホールドされ
参道を上がる先に見えた、
境内の舞殿を
わたしは認めると、

大きく息を吸い込んで
呼吸を糸に。

カンジは腰の手を縁にするのを
わたしの背中へ
己の背中を合わせ
周りの気配に気を張り詰める。

カンジの背から
腰への鼓動を、
わたしも
背中に受けて
息を吐き切った。

区域設定は境内。

ゆっくりと
胸に提げたベルを
両中指に嵌めた
わたしは、
腕全体を使って『印』を
型取って

リヴァイブ、、

ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
ᛋ-ᚻᚪᚱᚪーーー....ᚾ.......
最初のベルが
空間に
響き渡り
再幻影粒子が 霧の様に
土地の記憶が
沸き
立ち上りゆけば

わたしとカンジは記憶の霧に
ゆうっくぅりと
包まれた。


「風に揺れ奏でる音色で
舞い結ぶ鼓動が、滾るな。」

後ろから
無駄に口笛を吹くも、
背を突き上げる様に
擦り合わせる
カンジに、

わたしは
仕返しと毒気のある視線。

「霧は、海の露を吸い上げ
陸に雨を注ぐんだろ?」

相変わらず陽の下で見るも
色香の口元を作る
カンジ。

「カンジ、もう、、
リヴァイブする、睦言は後。」

月光下なら酔いどれるも
いいけど、
霧から再幻影粒子が象に
変幻する。

ポーーーーーーーーンンンンン
ポポーーーーーーーーンンンンン
.*『スバラシイ、スバラシイガナニゾ タリン...゜。
ザワザワ
ザワザワ*。.゜**.


区域設定した境内の再幻影粒子が
現れるが間は、
現実境内は結界域に自然となる。

ハウア母星でも
上流貴族子息子女が
タイムリープをしてまで
『ファースト・アップル』捜索
が可能なのは、
リヴァイブが出来るが為。

とわいえ、闇雲に土地の記憶を
再幻するには訳にはいかない。

わたしの両中指に嵌まるベルは
時間と土地の座標を
意識レベルで定める物だから、

膨大なメガデータの海から
年代と場所を探る作業が
旧消滅地球での任務だった。

それでも無数に浮かぶ予測座標。

確定するには
任務時間との戦いになる。
それがカンジとの
情報共有で絞り込めた。

リヴァイブはあくまで
幻影。

わたしとカンジは
偽られる事の絶対ないシネマを
仮想空間で体験する
ようなもの、、

のはずだった。

ポーーーーーーーーンンンンン
ポポーーーーーーーーンンンンン
.*『スバラシイ、スバラ゜。
ザワザワ
ザワザワ*。.゜**.



気が付けば
上空の気の流れが澄やかで、
心なしか
桜花の薫りが鼻腔を
擽る。
それでいて、
辺りに大人数の熱気を感じた。

「きみがよ、なのだな。」

カンジの短い吐息が
言葉となって
わたしの耳輪を掠めたから、

「『題しらず』『読み人しら
ず』の歌として1400年以上は
歌われた歌なの。きっと旧消滅
地球上でも現存する
最古の国歌が、この歌だわ。」

わたしは、メガデータから
汲み上げた情報をカンジに返す。

わたし達ハウア星系貴族は、
異常に記憶力が良いのも特質。

1つのワードを投げれば、
神経細胞がシナプスを介し
回路をつくって伝達するように。
次々と蓄積された
データが
脳内をめぐる。


『き』は男で、
『み』は女。

「男と女。貴方ととの世よ、永遠
永劫に。わたし達の願いみたい」

「しかし、どうやら外野は、
此の舞では気に入らない様だ。」

リヴァイブが無事に成功し、
目の前に現れた再現幻影。

それをまるで、
シネマを楽しむかに
背後から被さり、
わたしを腕に抱くカンジが呟く。

「そうね、、」

腰の括れを
不埒に撫でるカンジの手を
好きにさせながら、
わたしも
再現幻影に耳をそばたてる。

Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ
Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ
*。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

『何、当代随一と舞とは、
此なる程度とは、興も醒める』

『イヤイヤ、鼓がいかんのでは?』
*。゜*。゜.*.。゜.゜ . *
『ちと、情けのうぞ、白拍子殿は
噂と違えて、大した事のない』

*。゜*。゜.*.

『何ぞか、ものたりんな。』

゜*。゜.*.。゜.゜ . *


確かに美しき所作。
花の化身かの佇まい。
なれど
いまひとつ心が無い、
心は、
ここには有らずなのだと
感じてしまう舞。

白拍子の舞に、集まる武士達は
騒々しく言葉を発していく。

「まるで、山鳴りだな。
この強者達の中、只1人で
舞うは、蟻地獄な敵陣に己を
置くと同じと、わからんのか」

カンジの眉が寄せられ
わたしも、
白拍子の彼女の足に
注視する。

僅かに体が震え、
きっと立つことままならない、
心境に違いない。

白拍子は床に両手つき、
礼の姿まま、岩の如く
固まった。

『なんだ、どうした!』

宴の雑言が一層酷くなる。
武士達の言葉が地響きになり
山津波と錯覚させ
回廊に臥せる彼女を
襲う。

「どうすると、、思う?」

わたしの独り言に、
カンジがわたしの下腹を
ゆっくり撫でた。

「身体に宿るのは子なのだろ?」

密やかに
わたしの耳元噛み寄せて
カンジが
答えた同時。

心に決めた表情の白拍子が、
再び
ゆっくりゆっくり立ち上がった。

『『『『『!!!!!』』』』

「何、、だ、、あれは、」

立ち登る様なオーラを纏い
回廊に現れたのは 柱。

この国は、神を柱と数える。

カンジの戦く言葉に
わたしも、喉をゴクリと鳴らす。


ひと礼する柱が、
扇子を音無く開くと、
扇から神気が

蝶と飛来する゜.゜・. ※ .

なにが起こるの?


あんなにも
騒然と声荒げ武士達が、
水を浴びたかに静まり
しわぶき一つ無き
静寂が降り落ちた。

柱が手にした扇を、そっと前へ
差し上げ
自らの口より旋律を奏でたは、、

゜.゜・. ※ .

禁断の想い歌゜.゜・. ※ .

゜.゜・. ※ . しづやしづ
 しづのをだまき
 繰り返し゜.゜・. ※ .
゜.゜・. ※ . 昔を今に
 なすよしもがな゜.゜・. ※ .『静、静』

 ゜.゜・. ※ .吉野山
 峰の白雪゜.゜・. ※ .
 ゜.゜・. ※ .踏み分けて
 いりにし人の跡ぞ恋しき

゜.゜・. ※ .『静、静』


『静、静』


繰り返し私の名を
呼ぶ人との
時。.゜・. ※ .


「涙が 出るほど、、ね。」

「女神の刹那さにな。」


梁の塵さえ心を
動かすほど壮観の恋の舞。

上下みな興感を催すの光景。
全ての心を動かされた。

『しづやしづ、、』゜・. ※ .

歌い、舞う。
舞い、歌う。
美しい。
壮絶にも美しい。

背には、全満開の桜花。
薄桃色一色に染められし世界の中、゜・. ※ .

一輪の青き苧環花が
たおやかに舞う。
光景は余りに立体総天然色
に彩られる゜・. ※ .

花見宴という
獄中野次を潮騒にした
武者は、
恍惚女神降臨なる舞や美しさに、
息を飲み、呆然のまま
声も出ない始末。

神そのものが舞っていた。

時を超えるかの一時。

人の宴など
冷水撃たれた如く静まり返る。

一瞬にして
聴衆の心を鷲摑み上げる。

神に通じる当代随一の舞姫が
愛を舞うは
これほど澄んだ舞なのか。

全身震えるほど感じる凄味。
舞台は敵武将真っ只。
女一人の舞戦。

絵巻800年が前。
時を超えるかの一時。

柱は
扇子を閉じ、舞台の真ん中に
座り、頭を垂れた。


「こんな危険なこと、、
怒りを買へば、お腹の子を
このまま殺されかねないのに」

ただ、圧倒され
わたしは言葉すれど、

「だからだな。下手な舞となれ
ば、想い人の地位さえ軽んじ
させるだろう。
家来の目を釘付けにする舞が、
愛する者と、子の名誉を守る」

カンジが後ろから支えて、
わたしがいつの間にか
流した膨大の雫払って
宥めた。

京で神下ろしの神事を成し得た
巫女は、
見初められ人に降りたという事を
まざまざと
見せつけられた。

彼女の神力は、
愛でのみ発動するとなっても。



?!!!


その瞬間!!
わたしとカンジの神経が
警告を発した!!!

『此こは神前。舞うべきは、
この場を讃える舞であろうが!
何故、謀叛人を慕うが舞か!
正に不届き至極、許さぬぞ!』


回廊に両手をついて、゜.゜ . *
微動だにしない白拍子の姿。

其所に
境内の桜を震わせ巻き上げる程の
大音声を
頼朝が上げるのが、

鼓膜を震わせ゜ . *

再幻影として目前行われる。
けれども進むにつれ、
わたしの中に少しの違和感が
生じていく。

「何かが、変わった、、?」

「・・・・・」

呟くわたしの脇なに、
筋肉質なカンジの腕が寄り添う。

裏腹に、
むせ返る桜花の花宴の場は、
騒然とし始め、
『即刻死罪か?』等の声が
詰め寄る強者達、そここに
上がった。

「確かに。」

そのカンジの答えと共に、
わたしを、
背を守り立つカンジにも、
警戒の鼓動が脈打つのが
肌越しに伝わる。

それでも再幻影は続く。いえ、、

『詮ずる所、わたくしとて
敵の前であっても、同じく
歌い 舞ったでしょう。』

「あ?!」

頼朝が正妻の声が、
その場の空気を諌めるのを
聞きつつも、
わたしは
妙に
周囲の熱気が、生々しい空気に
変化している事に
焦りを覚えて、
思い巡らせた。

桜花の匂いが
徐々に、
わたし達を囲む

「カンジ、リヴィブがリアルに
変貌している、かもしれない」

そう、
再幻影に留まっていない。
そのまま
リアルな空気感が立ち処に
わたし達を支配している?!

「やはりな。アヤカの体内に、
俺のエナジーを射れたからか?」

「わからない。其れもあるの
かもしれないけれど、危険だ
わ。周りの武士達に認知され」

囁く程の声で互いに話していた
瞬間、すでに
際は振られた!!

『何奴!いつの間に!!』
『刀を抜けい!皆の者!!』

わたし達が突如出現したかの
如く不思議さに、
周りの武士達が騒ぎだした!

「カンジ!!」

刹那、カンジが

「しゃがめ!!!」

叫ぶと!
反射的に、しゃがむわたしを
片手でしゃがみ絡め抱く!

(何、)

『バンッ!!!』
ーーーーーーシュッーー!!!

其のわたし達の頭上を、
大型の矢が掠めたっ!

(時代物ではないクロスボー!)

かわすと同時にカンジは、
反対の手と、
屈めた足の反動で上空に、
すかさず

『バッ』

能力発光しながら跳んだ!!!

(異常な跳躍力!身体能力!)

『カッ≪≪≪≪』

途端に!!
カンジの背中や腕に、
あの地下で見た光が激流。
脈動する
陣形が迸り浮かび放たれ、
その激しい眩しさに武士達は
目を眩まされた!!

『ななな!目が!!』
『であえい!であえい!』

カンジは回廊の上に掛かる
巨木に飛び上がると、
今度は弓矢が放たれた場所に
目掛けて、
背中から
取り出す戦輪ーチャクラムを
飛ばした!!

『ブウンーーー!ーー!ゞゞゞ』

(古代投擲武器、しかも大きい)

懺悔音でカーブを描いた
戦輪の先には、

(白祭服!!ってことは!)

時代に合わない出で立ちと
殺気を持つ男。
紛れもない!!

「あ、あれは!」

「追っ手だ、アヤカ側のな。」

カンジが投げた戦輪は、
圧倒的早さと強力で、
追っ手の首を
削ぎ落とし
身体ごと消滅させる?!!

(!!カンジ達の日光消滅と
同じ死に様に誘う、
体内武器の威力がこれなのね!)

「神官兵士だわ、、」

「知り合いか?アヤカ。」

「いいえ、まさか外部からリンク
インしてくるなんて、あんな
無茶を貴族クラスにはさせな
い。なんて、こと、、」

「アヤカ、見ろ!」

カンジの声に意識を戻せば、
身体が消滅したことで、
神官兵士が纏う白祭服だけが
滑り落ちて、

異形の光に騒ぐ武士達の中に
落ちたのが見える。

『此れは妖しか?』
『否!あれなる光物は神仏ならん』
『天より白き衣が舞い降りた!』

『殿、舞の素晴らしさに、天より
不可思議なる衣が現れました
故、此れを褒美と使わせては』

今彼等の目は、
出現した祭服に気を取られて
わたし達が見えていない。

回廊の白拍子も
座ったままで固まっている。
ああ、彼女の位置からは、
巨木のわたし達が
見えている?

『よかろう。御前に此なる
天から遣わされた衣を褒美と
して下げ賜そうぞ。ゆめゆめ
間違えるなよ。下がるがよい!』

でも其れにばかり、
構っていられない!

「カンジ、、」

「史実では確かに、褒美として、
宝物の衣を与えたとなっては
いるが、、。あの祭服が、
奇しくもオーパーツになって
しまったわけだな。アヤカ?」

そうなのだ!
まさかの時間介入をしてしまった!

「え、ええ、、そうなのよ。
まさかこんな時間介入になって
しまうなんて。とにかく、
このままリヴィブを続けるわけ
にはいかないわ。カンジ、」

「そうだな、1度現実に戻るのが
得策だろう。騒がしくなる前に」

カンジが、わたしを抱く腕を
強める。

本来は、白拍子の2度の褒美品を
視る為のリヴィブ。

けれど、

その1つはたった今介入による
オーパーツと成っている。

わたしは断腸の思いで
リヴィブを解いた。

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*。゜*。゜.*.。゜.゜ . *


。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

リヴァイブを解くさ中、
回廊で佇む白拍子と目が合う事に
わたしは驚く。

。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

「さすが、真の巫女、なのね。」

わたしの呟きが聞こえたカンジが、
「アヤカと引き合うモノが有る
のだろう。巫女同士だろう?」

そう言って、
わたしを後ろから抱き締める。

。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

なら尚の事、白拍子に
わたし達は見えているのだろう。

未曾有の飢饉という
困難を救う為に、
法皇の願いによって開かれた。゜*。゜.*.。゜.゜ . *
『雨乞い儀式』。
其こで唯一、
舞を舞、雨を降らせたのが、
白拍子。。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

白拍子の
人を超えた美しき舞姿に
雷に撃たれた如く、
心を射ぬかれた若き武将は、
直ぐ様
白拍子を妻にと恋い願う。
。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

本来ならば、
決して交わる事の無かった
互いが、出逢った瞬間。゜*。゜.*.。゜.゜ . *
引き合った二人。

正妻が居るにも関わらず、
武将と側室となった。゜*。゜.*.。゜.゜ . *白拍子は
一対の身体になり寝食を共にする
程に愛し合う。

。゜*。゜.*.。゜.゜ . *

「確かに何処か、
わたし達みたいかもね?」

「オレ達か。リヴァイブが解けた
瞬間は周りに気を張るぞ。」

わたしの頭の上に、
カンジが擦り寄せる顎の感触を
感じながら、

解けゆく再幻影の粒子の中で、
。゜*。

わたしは、
悲恋の二人、白拍子達の出逢いと
わたしとカンジの出逢いを
重ね思い出す。

「リヴァイブが解けた瞬間に、
誰が待ち受けていても、
おかしくないもの。分かったわ」

それでも、
背中から抱き締めるカンジが
いれば、
わたしは大丈夫。

それは、
都で運命的な出逢いをした
二人が、雅びで艶やに
愛を燃やしていく末、

其の華やかなる絵巻な様を
疎まれ。゜*。゜
大倉の地で政をする
兄に都を追放される宿怨と
重なるの。

「カンジ、わたしとカンジが
出逢った日の事を覚えている?」

わたしは胸に回された
カンジの腕に、
自分の手を添えてカンジに、
問い掛けてみる。

ああ、
わたしの気持ちに呼応して、
新たな再幻影の粒子が
わたしとカンジに立ち込める。

「忘れる筈が無いだろう。」

カンジの子宮に響く低い声が
わたしの頭から優しく芝居する。

リヴァイブは、巫女である
わたしの心で発動をするから、
つい、感情の発露で

わたし達は幻影の霧に包まれた。

時間軸は、

わたしとカンジが出逢う頃。

「オレ達の逃走は、あの時から、
もう始まっていたようなものだ」

わたし達も、
最初から 雷に撃たれた恋を
していたのかもしれない。


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