あなたも時間逆行の人なの?鎌倉奇譚編

「どうして、
カンジが、そこに いるの、、」

わたしは
操縦式人型機動兵器
ヒューマノイドアーマーウエポンのコックピットから
一瞬にして目があった
敵の主力人型機動兵器の
操縦席の人物に

驚愕する。

ハウワ母星艦隊の指揮官を表す
エンブレムをつけた
白い人型機動兵器に乗る
わたしと、

アダーマー帝系艦隊の指揮官だけ
が乗る
黒の人型機動兵器の貴方。

両者のアーマードウエポンの
手にするアトミックサーベルが
交わり、弾かれ
そして、互いが睨み会うと
相手が180度
向きを変換して主戦離脱した!


「貴方も、そうだったのね。」

その機体を凝視して
全てを悟る。

敵の機動体に貴方がいる事で
示すことは
只1つ。

貴方も、旧消滅地球の
あの時間軸、
ポイント・スネークで

『ファーストアップル』を捜索
していた
わたしと同じ
密偵だったという事


その瞬間だった。
生まれて初めて
抱いた、
わたしの影牢のような
思慕たる疼きが、

最も憎くむべき
相手から生まされていたという
残酷な運命を
思い知らされたのは。

その皮肉さに
コックピットで、笑ってしまう。

ここでは
付けては いないはずの
ルージュを拭うように

前の夜に彼と重ねた
唇の
背徳を消せるわけが無いのに
わたしは
漆黒の空間に消えた
黒の機体の残像を
みっともなく
追いかける
感情に
いつまでも笑ってしまった。

母星の敵帝。

互いにその筆頭指揮官が
一族同士。

知らぬ間に迎合したのが
早すぎたのか、
知ってしまった今では
何もかも遅い。

本来
最も憎くむべき相手を、
それまでの
倍の速度をもって
慕わしく焦がれる胸の疼きが
恨めしかった。


『全初動機兵に、告ぐ。敵の主機
動兵が全線離脱の為一時撤退!』

一斉通信を投げて
自分も戦線を離脱した
わたしは

一気にワープゾーンに
入ってハウワ母星艦隊が停泊する
コロニーに帰還した。

ハウワ母星とアダーマ帝系銀河は
宇宙覇権を巡って
長い時間軸を戦い、
現在も銀河間戦の真っ只中。

コックピットから
出ると無言でドックも後にする。

成人したわたしは
今回が初出撃で、
これから上官になる次兄のもとへ
報告に行く。

クリアウインドウの向こうを
見れば、漆黒の宇宙。
見慣れた窓の風景は
全く変わる事がない。

それこそ、夜も朝も。


旧消滅地球で見る
ポイントスネークには
朝日が上り
黄昏が色なし
月が掛かる夜がくる。

今日というタイムゾーンの
最終任務は、

成人を迎える事で
終わる
旧消滅地球での任務。

時間を逆行し
『ファーストアップル』の
捜索奪取のため
コールドスリープに横たわって
時間の波を遡る。

「来てくれる?カンジ。
やさしい夜の人。
来てほしいの
すてきな黒い夜なはずだから。
もしも必然なら
わたしの彼を あの場所に
よこして、、どうか神よ。」


出逢った瞬間に貴方とは
離れる事が
わかっていた世界で、
最初からハッピーエンドじゃ
ない事は
わかっていたのに。

こんな形の真実を知るなんて。

「カンジも時間を遡っている
帝系人だったなんて。」

なら、
わたしが貴方のかわりに
未曾有の嘘をついてあげる。
そうすれば
たくさんの笑顔を
持ち続けながら
貴方達は 生きていけるのでしょ?

だから、
もう祈らなくても
大丈夫だと思う。

「昨日の夜を最後にって、
思ってたのに。皮肉だわ。」

あの月夜。わたしは、
貴方の背中を見送って
貴方の前から消えることにした。

この
影牢のような母星の肩書きを
疑いながら、
沈んだような朝がくれば

笑い顔さえ浮かべて
わたしは、
漆黒の服を鎧にする
あなたが
いないベッドに
昨日も一人寝していた。

夜ごと
紡ぐ言葉に 真実はない
貴方だから
解っていたのに。

暖かな温度を感じてしまうと
薄く笑ってしまうの
わたし。
でも、
貴方の浮かべる顔は
別だったのね。

わたしは
この窓から飛ぶ事にした。

貴方との時間は
記憶になって細胞に
読み聞かせるわ。

昨日、
月夜に掛けた ため息は
全て溶けて
今はない。

でも
もう一度、最後の旅に眠るの。

今尚、
何故か途方もなく
寂しくなることも
あるのは
母星への愛なのかしら。

予定調和の嘘を吐く
貴方への予感のせいかしら。

「カンジに、この夜会えたら
わたしが持つデータを
貴方に全てあげる。さよなら」

わたし。
旧消滅地球のポイントスネーク。

摩天楼の一角で
月に何度か夜を共にする
冷徹な視線を、持つ男。

特定危険指定組織の若頭だと
知っていて近づいた
馬鹿なわたし。

わたしの見た目は、旧地球の
ポイントスネークでは
成人を越えて物憂げに見える
らしい。

そもそも
母星での時間軸では
性交はすでに廃れてない。

『アヤカ、お前といると、
まるで、俺は小鳥だな。
いつまでも啄んで止まらない』

『カンジが小鳥なら、わたし
可愛がり過ぎて殺しちゃうね』

さんざん一夜を
睦ながら戯れ言を口に篭絡させる
なんて手段は、
只の言い訳

『頬も、掌も、腕も、足でさえ
お前は青い薔薇だな。どこも
甘くて寂しい匂いがする。』

貴方はそう言って
抱くけど、
本当はね、母星では
わたしは まだ成人前。

旧消滅地球での捜索は
母星貴族に組する子息子女のみに
課せられる特務調査だから。

『じゃあ貴方にとって
とるに足りない、その他大勢の
都合のいい一輪なんでしょ?』

そう貴方に拗ねると

『理性なんかとうに
焼き切れてる。理屈じゃない』

そう狡い答えで
わざと貴方は
シャワーを浴びに行く。


密偵任務は成人すると
終了し、戦闘の最前線任務へと
移行する。
わたしは旧消滅地球での
任務をこなす傍ら
母星では味わえない時間を
過ごした。

何故なら
コールドスリープで時間逆行した
旧消滅地球には

空の下、風が吹いている。
太陽の光が降り注ぐ。
夜が明けると朝が来て、
爽やかな大気が
わたしを包み込む。

海があって、山があって、
自然の中を鳥が飛ぶ。

その全てが
母星コロニーにはもうない夢。
その復活の鍵が

『ファーストアップル』だという


ポイントスネークにおける
一流大学卒業の経歴が
母星の操作で偽造されている
わたしは、
時間逆行をしてすぐ
元官僚が立ち上げた、
情報管理企業に入社した。

そこは、
メガデータでも、
世界情報のシンクタンクで、
金額さえ払えば、
希望する情報を提供する。

もしくは、金額に見合った
情報を売る事も可能。
わたしは任務の為、
この仕事を選らび入社した。

情報の岸辺で
集まるデータを入出力しながら、
メガデータの中、
捜索物の行方を探す。

手に入れる為、
危険を冒しながらも
一心不乱で
世界情報の海を泳ぐわたしは
その傍ら、
いつの間にか
旧消滅地球の風景を見るのが
好きになっていた。

考えてみれば
無理もないと思う。

摩天楼から見える十五夜月。

眼下に更ける
聖夜のイルミネーション。

カクテルグラデーションの夜明けに染まる桜並木。

眩しい街まで香る潮騒。

母星コロニーには設定される
ことのない季節の移り変わり。


盗み見た情報を元に
広域なポイントスネークを
捜索する
わたしは

最後、
朝に、
昼間に、
1度貴方と
ヒノヒカリを歩きたかった。

シャワーの音を
聞きながら

『夜の帳に紛れてしかカンジに
会えないなんて、まるで貴方に
水だけもらう、花瓶から
動けない華みたいな呪いね。』

と呟いても
若頭の立場で
都合のいい女止まりのわたしに
最後まで無言のまま
だと解っている、


旧消滅地球の時間軸の貴方は
わたしにとって
幻と同じで、
本当はわたしが貴方にも
写真にならない存在だと
理解していても。
気が付けば
癒された刹那の肌に
手にした思い出のすべてが
悲しみだけじゃ寂しいでしょう?

だから
最終任務日前日の月夜に、
細やかな望みを伝えた。

けれど
貴方は変わらず冷徹な瞳で
まるで
夜通しの熱を流すように
シャワーしたまま
去っていった。

摩天楼の一角であんなに
風を切る鳴き声に
涙を止めなくちゃ。
心が向いている間に、
この疼きを幻に戻して

わたしは
結局異邦人で
旧消滅地球の船乗りじゃなくて

あなたは幻みたいな
最果ての海の彼方で
すでに存在しない人物だと
言い聞かせて

コールドスリープから
目覚めたのに。


「どうして、
カンジが、そこに いるの、、」

母星の時間軸に帰還した
わたしは、
成人の儀式として
操縦式人型機動兵器
ヒューマノイドアーマーウエポン

ハウワ母星艦隊の指揮官を表す
エンブレムをつけた
白い人型機動兵器に
に搭乗した。

敵の主力人型機動兵器、
アダーマー帝系艦隊の指揮官だけ
が乗る
黒の人型機動兵器の
操縦席の人物は

間違いなくカンジ。

その証拠に
両者のアーマードウエポンの
手にするアトミックサーベルが
交わった時、
互いが睨み会う先に

カンジが驚愕の顔を見せていて
何かを口走ったのだから。
もしも生まれ変わって
新しい
貴方にまた会う時があるなら
朝が来る度
おはようと微笑んで
未来を、結んであげると
願っていた。

「時間逆行できる最後の軸ね。」

わたしは
使いなれた自室のバスタブから
身体を起こす。

コールドスリープの座標は
おなじ態勢である事が必須。
だから、どうしても
身体を水中に浸して横たえる所、
バスタブになる。

そのまま熱いシャワーを浴びて、

今も余りナチュラルメイクは
得意じゃない
わたしは
鏡を見つめてルージュを引く。

自分で買った
空色のカーテンを開けると
月が浮かんでいるのは

夜にコールドスリープに
沈めば、目的の時間軸も
同じ時間軸に
なるから。

そのまま
カンジから渡されていた
カードキーを握りしめて
二人の逢瀬の部屋へと
向かう。

若頭がいくつも、
それこそ女達の数だけ所有して
いそうな豪華で無人の部屋。

カードキーは
まだ使えた。

それもそうね
昨夜の決意は、わたしだけの事情
で貴方には何時もの夜だったの
だから。

何より笑ってしまったのは
突然シャワールームから
音が生まれた時。

「カンジの座標は、このシャワー
ルームだったってわけよね。」

朝が来る前に貴方が
わたしの前から消え去るわけよ。
とカーテンを開けて
眼下に広がるイルミネーションに
呟いた
わたしの背後から貴方は

「さあ来いよ、物憂げな顔した
真実への道案内人。それとも
無情な死の先導役か?アヤカ」

言葉を投げて
わたしを窓に縫い付ける。
そのまま首筋に
噛み切らんばかり食い付かれた。

「そうね。わたしが死んだら、
カンジにあげるから、
この身体を千切って、星屑に
すればいいよ。そうすれば
わたし達が知る漆黒の空も 、
綺麗な風景になるかもね。
そんな宇宙を、誰もが恋して
きっと帝系の太陽と、カンジ
を崇めるのでしょうよ。」

ほんの数時間前
ここから未来と呼ばれる
真っ黒な空の中

操縦式人型機動兵器の首元に
アトミックサーベルの切っ先を
交えたばかりの
わたし達。

そのさらに
1つ夜の下。この摩天楼の一角で
互いに愛撫を繰り返した
頸動脈を覆う薄い皮に
貴方はガリガリ
牙を立てた。

「死神に娶られたと?本気か?
死して、この因果な獣に
全て遺すと?アヤカの星を
食散らかす死神と成り得る
俺に何もかも差し出すのか?」

ズクリと
わたしの首に埋まる
貴方の口腔に啜りあげる音と
言葉に酩酊する。

「いいわ。星との縁を、
家名を捨てて、アヤカでいる。
だからせめてこの瞬間、
わたしを愛して欲しいの。
ただ、カンジでいて?
アヤカでさえ偽りで
カンジなんて存在が嘘でも
わたしは カンジに愛されたい」

帝系人との戦闘に
操縦式人型機動兵器は必須。
大気の無い宇宙での
身体保護兵器の役割
だけではない。

彼等は直接食らう事で
相手の脳内情報を
征服する能力を持つ、
旧消滅地球の太古に生した
ヴァンピール。

今際の極、
ヴァンピールの餌食に成らぬ様
機体もろとも玉砕する
棺でもある。

「ああ、甘いな。どこもかしこも
波に揉まれた小舟のように
打ち砕けそうな鼓動が俺に支配
されたままじゃないか?ん?」

貴方は一層窓に縫い付けた
身体に覆い被さって噛みつく。

「夜明けはまだ。
貴方の耳に雲雀の声が
しないならアヤカを愛して。
でなければ、どうしてあの時、
一滴も残さず飲み干してくれ
なかったのか聞いてしまう。」

本当は
窓に縫い付けられたままの
わたし気が付いている。

東の方角の夜雲が
深い光の筋で
継ぎはぎになりつつあって、

最後に貴方と交わる夜空も
摩天楼の明かりが
成りを潜めているのを。

靄のかかる
ポイント・スネークの
山の頂から
いつも貴方との逢瀬を裂く
爪先ほどの光が
横たえる暇も
惜しいほど喰らい合う
貴方とわたしの身体の隙間から
差し込むのを。

「さあアヤカ。俺の恋人の薬は
なんて心地よく効くものか。
こうして口付けて逝くがいい」

朝まで貴方がいるというの?

「もしかしたら、そこに毒が
残っているかもしれなくても?
それでいいなら、アヤカを
カンジの冷たい唇で殺して。」

貴方に支配されるか
貴方が消えるか

こうして
『ファーストアップル』は
ポイント・スネークに眠ったまま

長い夜空に朝日が昇る。

わたしは貴方に
ナイチンゲールの声を告げるの
かしら?

カーテンを閉めて
コールドスリープで永遠になるの
かしら?

どちらにせよ

「さよなら」





END


全てを手放して瞳を閉じた瞬間
頭の中に無数のデータが
挿入されて、
それと同時にわたしの爪先から
腰、双房の頂きに至るまで
泡立つ様な流れが走る。

その初めての感覚に脳の奥が
快楽を拾う。

「はっ、はぁ、、あぁ、!っ」

これは!わたしのデータじゃ
ない!

ズクリとわたしの首元から
涎液でヌラリとする口を外して
カンジが愛おしげに
わたしの髪を遊ぶ。

「喰い破ると思ったか?アヤカ」

「カンジ、何をしたの、」

「俺の小鳥はもう飛び方を
知っただろう?一緒にイクか」

わたしは、
目を見開いて次に、すぐ
窓のカーテンを閉めた。
これが、答え。

アーダマ帝系旧ヴンパイア貴族。

生気だけでなく、
獲物の脳内情報さえ吸い尽くす。
それだけだと
ハウワ母星人
は思っていたけど、、

「インプットも可能なのね、」

わたしがカンジの耳珠に呟くと
今度は薄い下腹から臍を
ゆっくりと
指でなぞり上げられる。

「蓄積した術を全て孕ませて
血を繋ぐ事が成せる様にな。」

それだけで
幾夜の逢瀬を重ねて
覚えた感触が脊髄を登ってくる。

もう、そんな風に
カンジに子宮ごと溺れ沈む
わたしの心は
条件反射に
最初から、
決まっていた。

それさえカンジは
わたしの首元に
熱い牙を突き立てた時に
解っていたかに
焔を
瞳孔に秘しながら
カーテンを握り締めた腕に
舌を這わせる。

「アヤカのデータで
漸く、 ファーストアップルの
見当が ついたよ、、」

カンジの吐息だけでガクガクと
わたしの肢体は不様に
湿り気を帯びて
揺れるのを、
カンジは目を細めて
見定めながら

「 たが、、帝国の岸辺に戻る
忠誠をアヤカがまんまと
塗り替えた、、アヤカ、、」

白々と夜が明けつつ変わる
外の空気が立ち込める

「初めてから魅了された、、
番の肢体手に入れるなら
禁忌を冒しても未開の海に
出るのも、、悪くない。」

「俺が船乗りじゃ、嫌か。
アヤカの最果ての海、その
向こうまで イカないか、なあ」

カーテンの
隙間から零れる光は何の光?
そんな事を何故か考えながら
カンジの言葉を
生まれたての子鹿みたいになり
つつ
ボーッ聞いていた、わたし。
窓は東むき。

「カンジ、太陽が、昇る、」

「俺は、蒼空から、時空ごと
離れ、アヤカといる時が1番、
俺らしく、欲のままなんだよ」

そう耳から口に言葉を流し込み
カンジは、
わたしの口を塞いだまま、
大きく右腕を振りかぶって、
後ろの窓ガラスに拳を
打ち付けた!

ビシリと亀裂が入るガラスが
直ぐに砕けて強烈な刃形に
穴を開くと、
カンジはわたしの口内を
蹂躙しながら、
そのまま

地上50階のホテルから上空に
ダイブする。

思えば、カンジが
ホテルの浴槽を座標にしている
ならば
追っ手の出口が座標になる。

『どうするの、、』

頭にそう意識すれば、
カンジの意識が口から

『すぐに、強奪だろ?』

流れ込んだ。

帝系や母星、
彼らの追っ手は凄まじい。
でも、
わたしを補食するカンジの
そんな野獣瞳が何千何億と
わたしを戦慄させ、
身体を駆けめぐる。

『一緒にイクだろ?アヤカ?』
『一緒にイク、カンジ』

帝系でも母星でもなく
わたし達が、この旧消滅地球ごと
道連れに
運命を変えることになる。

ファーストアップルを手にする
とはそういう事だ。

『たとえ、彼らの憎しみで、
わたしの命が終えられても、
あなたを失うよりいいもの』

『もう、カンジとは?』

もうすぐ、地上に落ちる。

『カンジもアヤカも、偽名でしょ
、それに 母星を捨てたら、
わたしは名無しだわ。』

太陽の光が、落下する
身体にささる感覚は
新しく洗礼を受けたも同様で、
わたしを抱く男も
そう感じているだろう。

『今日からは 、、』

罪深い
道連れの契約を交わしながら
わたし達は
互いに『楽園』を、目指して
落ちていく。
50階建てのホテルから
窓を突き破って
朝焼けの空にダイブする2つの影

熱い体温を
背に口内に享受すると
睦ながらも堕ちる
時間は、
永遠と感じ過ぎて
意識がイキそうになる。

『此所の舞台で躍るが間は、
カンジと呼ぶがいい。どうせ
己が付けたしがない渡世名だ』

獣の様相で
唇と唇を介して
頭の、中にカンジの意識が
貪られる感触と反面に
甘く甘く流れ挿れられるから
その快楽に縋るように

応えてしまう。

『じゃあお願い、優しい声の貴方
がもう一度アヤカって謳って。』

そうすれば、
消滅地球での偽名も

『この耳がカンジの息に聞き
惚れて、漸く偽りの名を
自分の姿形にとれれるから。』

そう思い喘げば
わたしを支配する冷徹で獰猛な
瞳が弓なりになって

「ア。ヤ。カ。」

直に耳珠へと舐め注がれて、

「もう着く。身体強化を分けた
アヤカはハーフヴァムピーラ
同様、衝撃もかわせるだろう。」

台詞の意味を捉えきらないまま
驚愕に目を見開く。

『此の刀、背中の?』

カンジが片腕を自分の背中へ
回して斜に振り下ろすと
鮮やかな刃光を放つ長御太刀が
視界に入る。

瞼を瞬きでカンジに問えば

『破邪の御太刀を模している』

カンジはわたしを抱いたまま
刃渡り10尺程の刀で
一気に足元に円を
ザーーーーっ
擦り描く。

「カンジ?!」

刃を照らし射し込む朝の光に焦る
もう朝日が来る!!

刹那、激しい金属破壊音と
身体に受ける断続的衝撃。

「何時の世のも、決まって誠の愛
の筋道は決して平坦でない。」

カンジの腕から音と衝撃の足元を
覗く先に地下街の床が迫る!!

「敵対する星系身分で
結ばれない運命かもしれない!」

身体に絡める腕を強めて
わたしは思いの丈を声にして
最後の恐怖を乗り越える。

「あるいは見た目より数百年は
身体年齢が離れているかもな。」

なのにまるで
落下を気に止めずっと
カンジは微動だしない低音ボイス
でわたしを
包んで横抱きにする。

「誰からも祝福される相手
ではないのは確かだろ?」

途端に
カンジの両足が爆音ごと
地下街の床にめり込む!!

超音波を発する重量級の刃先を悠々と駆使して開けた
落下道を落ちた先に
切り落とされた瓦礫の粉塵が
煙幕になる。

「人の目で番を選ぶ愚者だと?」

冷徹の瞳がそのまま
わたしを射抜いただけで、
カンジはそのまま
地下街の床に立ち耐えた。

『がはっ!!何!!地下天井から
人が降ってくるって!厄日ね』

早朝の地下街に不運にも
人が居たのか、
粉塵煙幕の向こう

『母上!ケガは!!』

複数の影から降って湧いた
衝動に驚声が響く。

「カンジ 、人が居たわ。 大丈夫
かしら。巻き込んでしまった。」

「・・・・」

カンジが長刃を構え直す。

「カンジ?」

早く此の光が漏れ注ぐ開口部から
身を隠すべきはずなのに

『『マイケル様!不審襲撃!』』

消滅地球で似つかわしくない
台詞を聞いた気がして
カンジが再び長太刀の柄音を
鳴らした。

「貴様ら何者だ。此の時間軸
じゃ無いよな?追っ手か?」

カンジは、わたしを
片腕に抱上げて
目の前の影に間合いを取る。

「カンジ!影に!地下街に今直ぐ
入って!砂状化してしまう!」

僅か少しズレて地下にと
カンジに叫ぶわたしの声と
同時に目の前の影から、

「お前こそが魔王か!直ぐに
捕縛してくれる。俺が相手する
間に、フーリオは魔王に封印術
を掛けろ!構わんやれ!!」

反りの入った剣先が振り下ろされ
カンジの長刃がいなすと、
弾く反動で再び横切り込まれ
カンジがいなした刃の背で
其を受け飛ばす!!

「待って!ちょっと待てーー!」

途端に1人の女性が
素早く避けながら
この斬り結ぶ乱闘に
両手を上げてスルリと入ると
カンジと相手の胸に打波を
打ち込んだ。

一瞬にして両者が止まると、
吹き飛とぶ!!

そのお蔭でカンジは
僅かに漏れ注ぐ日光から
身体を遠ざけれた。

「マイケル様!!なんて無茶を!
拳法技で斬り合間に入るなど!
言語道断でござきます!何の
ための我々ボディガードだと」

日本人じゃないの?

カンジに抱えられたままに、
斬り合いに入った時間は
一瞬。

更に割って更に入ってきたのは
黒のスエットスーツを
ブラックスーツに着込んだ
中華系2人の男女。

「わかってるって!でもこの
息子ってやつは、あたししか
止められないでしょう?!」

間合いに詰めた女性は
長い髪を纏めて
スラリとした女性で、
とても母親には見えない。

「母上、魔王は直ぐに排除しな
くてはこの世界も危ういの
ですよ!!退いて下さい!!」

改めて粉塵から現れた
影が振り上げる得物は
反り返りのサーベルだ。

何より身なりが普通ではない。
男女2人も佇む。

背中に2本刀を咥える龍の
彫り物を背負うカンジと
わたし。

謎のボディガードを付けた
拳法女性と、

サーベルを振りかざす
西洋制服?とローブ?の青年と
女神女子のコスプレ組3人の

計8人が
粉塵未だに舞う
一部瓦解した地下街に
三つ巴で睨み合う。

「魔王って何だ。貴様等、
帝系星の追っ手ではないのか」

カンジが逆刃に長刃を構え直して
割り入った女性に静かに
詰問すると
カンジの肩越しにわたしも
固唾を飲んだ。



「もう!!あーーー!!大師!!
出てこい!説明してよっ!!
何なの?!どーなってんのよ!」

突然
拳法女性が空に向かって
叫び上げる。

「「なっ。」」

そんな主にボディガードの男女は
驚いて拳法女性の声を
遮ろとした、ら、

「マイケル。久しぶりだの。」

声に見上げると
突然
天井に空いた穴から、
真っ白な法衣を着た少年が

逆さまにぶら下がったのだ。

「「「「「「!!!」」」」」



「久しぶりじゃないわよ!何これ
絶対調整世界関係してるよね!」

現れた白装束は遍路服。
国籍が掴めない雰囲気の少年の
登場に驚きは
隠せない。

そんな躊躇いの空気を
嘲笑うかに少年は
壊れた天井梁から
瓦礫が散らばる地下街の床に
クルクルと回転し
飛び降りた。

「失礼だの。お主の息子は我の
管轄だが、そっちの未来人は
想定外の客人だの。よりも、」

早朝の地下街と言え
人も出てくる時間。

「マイケル様!一時ここを離れ
ましょう。通報されます!」

ボディーガード1人、
黒スーツの男が女性に進言する
と、少年も一端言葉を
紡ぐのを止めた。

「そうね。ここで面倒な警察
とか呼ばれたら身動きとれなく
なるか。周りって、防犯カメラ
どうなってる?わかる?」

「大丈夫でございます。そこに
千切れ落ちておりますから。」

「良かった。天井落ちで壊れた
わけね。あんた達、こっち!」

他の防犯カメラの死角になるよう
地下商店のアーケードを
伝え歩くと
女性は手招き入れるのを
カンジの様子を見ながら
離脱を口にした。

「あの、私達は地下へと潜りたい
んです。見逃してくれませんか」

地下街墜落時は
カンジも意識を張って
人体強化していたと上腕筋から
肌ごしに解る。

「あら、なら好都合なはず。
貴方達も追われてるって言って
たじゃない?それに此処は地下
で秘密の通路にはなるわよ?」

女性は一瞥を投げて
何でもない様に言ってくる。
けど、

「地下地域サブプラントですか」

「そ、って貴女よく分かるわね?
だから、全員大人しくしなさい
ね。暴れられたら一貫の終わり
よ。冷温水パイプとあわせて
ガスや電気が配線されてる
んだからね。じゃ、来て!」

企業が犇めく地域で民間が
サブインフララインを引いている
のは情報で知っていたけど、

その内部に潜入するキーを
自由に持つ人間を信用して
いいの?

「アヤカ、」

カンジの額に玉の汗が浮く。

「カンジ、行こう。今のカンジに
外に出ろなんて自殺行為だわ。
わたしを孤独な世界に置いてい
くつもり?案内人は有難い
ことよ。ね、従いましょ?」

カンジの首に手を回して
耳珠に伝えると
そのまま地下街の床にゆっくり
肩から降ろされて、
了解の言葉と捉える。

「貴方達って、独特な感じね。」

「変でしょうか、、」

カンジの口数が少なく気掛かりに
女性に自分達が異形に映るかと
問うてみる。

「未来人て、情緒的なんだねっ
て、意外だなって思っただけ」

マイケルと呼ばれる女性は
黒い纏め髪を揺らして、
歩いた先の入り口に
カードキーを翳す。

そんなやり取りに横槍を
入れるのは、
騎士制服のコスプレイヤー。

サーベルは鞘に納められても、
此方を見る目は射抜く険しさを
感じる。

「母上、そいつらには気を付けて
下さい。魔王でなくとも手下か
もしれない。危険なのですよ!」

施錠が空いた電子音がして
入り口が開く。
この地下街の更に下がるための
階段が無機質に現れた。

「大師、この口うるさいのは、
本当にあたしの息子なの?」

いつの間にか女性の後ろに
位置を進めてきた少年に
顔を近づけて睨む彼女に、

「マイケル様!!早く地下街から
動きましょう!警備がきます」

今度は女性のボディーガードが
急かしてくる。

「わかったから!じゃあ、こっち
降りるよ。この配管、うちの
ホテル駐車場まで引いてる
から、ここのライン伝うよ。」

彼女を先頭に深く潜る階段を
全員が降りると、
程なく後ろで電子音と共に
再び施錠がされたのが聞こえた。


このカオスな他人との迎合は
本来なら不審でしかないにも
関わらず
日の光から
カンジを地下の闇に隠せた事に
ほっと
息を潜めて安堵する。

あなたも時間逆行の人なの?鎌倉奇譚編

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