『黄金の獅子』追放から瞬く間に一年が過ぎた。
16歳になった僕は、今日も憧れの職業であった冒険者として依頼に励んでいる。
「よぉ、ロルフ。今日もゴミ漁りご苦労さん」
今日は依頼を受けて街の清掃活動中だ。
侮蔑を含んだ男の言葉を無視して、無言で道路のゴミを拾っていく。
「これ、やるよ。遠慮せずに受け取れ。オレたちはこれから冒険に行ってもっとすごいお宝を手にするからな。ははっ!」
通り過ぎていく少し年上の冒険者が、目の前に価値のほとんどないクズの魔結晶を捨てていた。
淡く光を発した小さな魔結晶が目の前に転がってくる。
「可哀想なことするなよ。いくらあいつが使えないスキル持ちだからって、ゴミ同然の魔結晶を捨てるのは酷くねえか?」
「だってよ。『再生』とか意味わかんねーポンコツスキルを与えられた、『ゴミ拾い』の二つ名を持つロルフだぜ」
「だから、そういうことを大きな声で言うなって――」
「ガタイも細くて、魔法の才もなく、スキルすら使えないで、冒険者をやってるやつだから言われても仕方ないだろ。とっとと廃業すればいいのにな」
「確かにそうだが、言葉を……」
「何が楽しくて日がな一日ゴミ漁りしてるのか教えて欲しい。オレだったら恥ずかしくてすでに死んでるぜ」
連れ立って歩いていた冒険者たちが、僕を馬鹿にして目の前から去っていった。
「……そんなこと、僕が一番教えて欲しいに決まっているだろ……」
自嘲気味に呟きながらも、目の前に転がったクズの魔結晶を拾う。
今の僕は幼い時から憧れていた両親と同じ冒険者をしている。
でも、冒険者となった僕がやっていることは、子供でもできるゴミ拾いでしかない。
こんなはずじゃなかった……。
憧れの冒険者となって、信頼できる仲間と色んな街に行ったり、魔物を倒したり、誰も見たこともない財宝を探していたはずなのに……。
なんで、僕に与えられたスキルは発動しない『再生』なんてスキルだったんだよ。
剣の才能を与えてくれる、『剣の極み』なんてなくてもいい。
魔法の才能を与えてくれる、『大魔導』なんて超レアなスキルが欲しいなんて望んだことはない。
ただ、普通の一般的なスキルがもらえれば、良かったのに……。
神様が僕に与えた『再生』というスキルは、神官すらもその存在を知らない全く未知のスキル。
しかも、一度も発動しない謎のスキルだ。
「はぁ……このスキルは発動すらしてくれないし……こんなんじゃ、いつまで経っても借金を返せないし、仲間もみつからない」
ゴミ拾いで薄汚れた自分の手を見て、与えられたスキルの使えなさにため息を吐いた。
一年前、『黄金の獅子』から追放された一件で、僕の持つ『再生』スキルは、発動しないただのゴミスキルだとの噂が一気に広がった。
噂が街中に広まると、無能者の烙印を押された僕をパーティーに入れてくれるところは皆無だった。
おかげで能力的にも秀でた物がない、ぼっち冒険者の僕がやれるのは、最低ランクの依頼である街の清掃活動だけなのだ。
この依頼は、冒険者ギルドが怪我や歳をとり、生活に困窮した冒険者への救済措置に近い。
はっきりいって、こんな依頼は普通の健康な冒険者は誰も受けないのである。
そんな依頼を、ぼっち冒険者で魔法の才もない僕は生活の糧を得るため受けていた。
両親は依頼中に行方不明、育ててくれた祖母も先ごろ病気で他界し、僕には住む家も財産もなく借金しか残っていないどん底生活。
まさに底辺冒険者と言われても、否定すべき言葉を持ち合わせてない状況だった。
「僕だって……僕だって……スキルが使えたら……こんなことしてない」
借金返済に喘ぎ、皆に馬鹿にされ最底辺の生活をしていることに、満足をしているわけではなかった。
スキルさえ、スキルさえ普通だったら……。
こんなみじめな生活を送らないで済んだのに。
神から与えられたスキルが使えず、自分を卑下するようになり、人と目が合わせられなくなって、いつの間にか下を向いて生活することが身についてしまっていた。
「はぁ……とはいえ、発動しないスキルなんてほんとゴミと同じだよな……はぁ……」
解決の糸口すら見出せない生活にため息を吐きながら、今日の糧を得るためゴミ拾いを再開した。
街中の清掃を終え、集めたゴミを捨てるため、街の外の小高い丘にある巨木に来ていた。
集めたゴミをゴミ捨て場に捨てていると、巨木の奥にある雑木林からゴブリンたちの唸り声が聞こえくる。
「うがああぁああ!!」
「…………こ、来ないで! 来るなら……」
声にした方に視線を向ける。
ゴブリンの群れに追いつめられた女性が、木を背にして囲まれていた。
魔物暴走から、たった二人で村を救った冒険者の両親に憧れて、冒険者になったけど、見習いとして黄金の獅子に在籍してた時期も含め、まだ一度も魔物との戦闘を経験したことがなかった。
こちらに気付いた女性から、助けを求める視線が向けられる。
戦闘経験のなさから、自分の足が震えるのを感じていた。
冒険者だったお父さんやお母さんなら、今の状況を見たら絶対に助けるよな。
それに今、あの人を助けられる力を持ってるのは僕だけだし、冒険者だったら逃げ出したらダメだ!
視線を向けた女性に頷くと、怯える自らに言い聞かせるように口を開いた。
「今すぐ助けるから、そこを動かないで!」
追い詰められた女性は、こちらの声に反応するように頷く。
すぐに足元の小石を取ると、女性に襲いかかろうとしたリーダー格らしいゴブリンに向け全力で投げた。
投げつけた小石が、リーダー格のゴブリンの持つ手に当たり、錆びた剣が地面に転がった。
大型の魔物は強くて、ぼっち冒険者の僕一人では倒せない。
でも、女性を襲っているのは最弱の魔物であるゴブリン三体だ。
慌てずに一体ずつ挑めば、今の自分でも倒せない相手ではないはずだった。
「僕が相手になる!」
ゴブリンたちを威嚇するため、護身用の短剣を引き抜くと、毎日欠かさずに鍛錬してきた通りに構えた。
僕だって、冒険者の端くれだ! ゴブリンなんて怖くない! 絶対にあの人を救ってみせる!
短剣を構えたこちらの様子を見て、分が悪いと判断したのか、リーダー格のゴブリンは逃げ出していった。
リーダーの逃走を見た仲間のゴブリンも、慌ててその場を立ち去っていく。
「だ、大丈夫かい? 怪我とかないです?」
ゴブリンから逃れ、危機を脱したことで女性は木の根に座り込んで震えていた。
そんな震える彼女を助け起こそうと、短剣をしまい自分の手を差し出す。
き、綺麗な人だな――
僕は思わず息を呑む。
震えている女性は、黒く長い髪に漆黒の瞳をした、自分より身長も年齢も上に見える美しい人だった。
よく見ると、目元に泣きボクロがあり、日に焼けた健康そうな肌をして、泥と砂で汚れたボロボロの衣服を着ている。
首に革製の首輪を付けているところを見ると、どこかの逃亡奴隷なのかもしれない。
ただ、衣服のみすぼらしさに比べ、両手の革の手袋がやたらと高価そうで、しかも頑丈そうなのが気になった。
「あ、ありがとう。で、でも、その手であたしに触れないで!」
差し出した僕の手を見た彼女は、血相を変えて拒絶の言葉を口にした。
今の僕はここに来るまでに散々ゴミ拾いしてきたから、とても汚い身なりをしている。
もちろん、手もかなり汚れていた。
なので、彼女の拒絶の言葉を『そんな汚い僕に触れられたくない』との意思表示だと受け取った。
確かにこんな汚い僕に、誰も助けられたくないよな……。
自分の格好を思い出ししょぼくれた気分になる。
「ご、ごめん。立ち上がるのに手を貸そうと思って……す、すぐに街の人を呼んでくるから! 待ってて!」
「ち、違うの! そういう意味ではなくて――。あたしは触れた物を『破壊』してしまうスキル持ちなの!」
「はぁ? はぁ……?」
「だから! あたしの手に触られると『破壊』スキルが発動するかもしれないから、触らないでって言ったのよ。気を悪くしたらごめん……ね」
女性が必死になって、僕の勘違いを正そうとしていた。
「は!? 触れた人を『破壊』!? 意味が良く分からないんだけど……」
「これを見れば分かるわ……」
女性が両手にしていた白い革製の手袋を外し、足元に転がったサビた剣を素手で取った。
その瞬間――サビた剣が淡い光をまとい、ばらばらの部品に変化して彼女の手の中に浮かんでいた。
「えっ!? ええっ!?」
「この通り、あたしが素手で触れると勝手に『破壊』スキルが発動して、全ての物を解体してしまうの……。この光がおさまったらこの剣は消え去るわ」
女性が自分の手元に浮かぶ、元サビた剣だった部品をこちらに見せていた。
その様子を見せられて、自分が神官たちに呼び出された時のことを思い出していた。
神官たちの話では、現在確認されたスキルは二〇〇ほどらしい。
自分に与えられたスキルが未知の物であったため、神官たちの協議の場に何度も呼ばれ、すべての既存スキルとの照合をされた。
その時の協議で、既存スキルについての知識を得たけど、目の前の女性の言う『破壊』スキルは見たことも、聞いたこともないスキルだった。
「『破壊』スキルなんて存在するんですね……」
「そうみたい。だから、万が一の事故が起きないよう君に『触れないで』って、きつい言葉が出ちゃったの。せっかく助けてくれたのに、あたしの言葉が足らず気を悪くさせてごめんね」
女性は自ら立ち上がると、こちらに向かって深々と頭を下げた。
その真摯な謝罪の姿に、逆にこちらが悪いことをしたかのように感じてしまった。
「そ、そんなに謝らなくてもいいですよ! 頭を上げてください。僕の勝手な勘違いでしたし」
深々と頭を下げていた彼女の謝罪を受け入れる。
すると、彼女は顔を上げニッコリと俺に微笑みかけてきた。
「本当に助けてくれてありがとうね……」
か、可愛い……。
僕は彼女の魅力的な笑顔を見せられて、興味を惹かれていた。
「えっと……そういえばまだ君の名前を聞いてないや。あたしはエルサって言うの。君は?」
「僕はロルフと言います」
「とっても若そうに見えるけど?」
「今年で一六かな。近くの街で冒険者をしてます」
「ロルフ君って言うのね。ちなみにあたしの方がお姉さん。年齢はナイショにしとくけどまだ若いつもりよ」
笑顔で話すエルサさんの表情に、自分が急速に魅入られていくのを感じた。
エルサさんか……。
綺麗でハキハキと喋る年上のできるお姉さんって感じだな……。
こういう人とお付き合いできたら、人生楽しいだろうけど……。
やっぱ、もう結婚とかしてるよね。
目の前の綺麗なエルサさんと家庭を持った妄想をしてしまい、自らの境遇を思い出したことで気分が一気に落ち込んだ。
「改めてお礼を言わせて。ゴブリンからあたしを助けてくれて本当にありがとう! ロルフ君」
エルサさんは再び深く頭を下げた。
そんな彼女の頭を上げさせようとした時、触れるなと言われていた手に触れてしまっていた。
「「あっ!?」」
僕は馬鹿か……触るなって言われてたのに。
破壊されちゃうんだろうか……。
もっと、エルサさんとお話ししたかったな……。
エルサさんの手に触れた途端、淡い光を宿していた剣の廃品から強い光が吐き出され周囲を包み込んでいた。
─────────────────
>スキル発動条件が整いました。
>再生スキルを発動しますか?
─────────────────
視界の端に文字が浮かび上がり、頭の中に聞いたことのない声が響く。
それは今まで一度も聞いたことがない、スキル発動を告げる神の声だと思った。
「あ、はい」
思わず、そう答えてしまう。
すると、視界の端にあった文字が変化した。
―――――――――――
再生スキル
LV:1
経験値:0/12
対象物:☆鉄の剣(廃品)
>鉄の剣(普通):90%
>鉄の剣(中品質):70%
>鉄の剣(高品質):50%
>鉄の剣(最高品質):20%
>鉄の剣(伝説品質):10%
―――――――――――
「なんだ……これ?」
浮かび上がった鉄の剣(伝説品質)の文字に目が行ってしまう。
>鉄の剣(伝説品質)に再構成しますか?
「え? あ、はい」
声に誘われるがまま、了承の返事をしてしまった。
そんな独り言を話す僕を見たエルサさんが、不思議そうな顔をしているのが見えた。
そう言えば、僕、どうもなってないよね?
エルサさんの破壊スキルが発動してないのか?
そう思った途端、再び周囲を圧する眩しい光がエルサさんの手から発せられた。
「あ、あの、ロルフ君!? 何か光って――! どうなっているの!?」
「ご、ごめん、僕も何でこうなったか分かんない!!」
光は先ほどよりも更に強まり、目を開けているのが困難になった。
やがて眩しい光がおさまると、自分の手にズシリと重くサビ一つない輝きを放つ剣があった。
え? ええ!? これって僕のスキルの力なの?
いやいや、剣はエルサさんのスキルでバラバラに壊れていたはず……。
でも、これって新品だよな……。
>鉄の剣(伝説品質)の再構成に成功しました。
>鉄の剣(伝説品質)
攻撃力:+100
資産価値:三〇〇万ガルド
手にしていた剣に文字が浮かび上がった。
これって神官の人に見せてもらった『鑑定』スキルの結果表示画面……。
まさか……僕のスキルって物を創り出すだけじゃなくて、鑑定もしちゃうやつか。
それにしても攻撃力が+100とか、資産価値が三〇〇万ガルドとかトンデモない武器だ……。
手にしている武器の凄さに思わず震えが走っていく。
「これって……」
「剣だよね…………?」
エルサさんも何が起きたのか理解できなかったようで、僕の手にある物を見て、目をパチクリさせていた。
鑑定の結果が示す通り、刃身の輝きから見て、きっととんでもなく高品質であることは間違いない。
これを本当に僕のスキルが創り出したのだろうか……。
もう一度、確かめてみたい。
手にしている剣が初めて発動した『再生』スキルの力でできたのか、知りたい衝動に駆られていた。
「あ、あの! ちょっと調べたいことがあるんで、もう一度コレを破壊してもらえますか?」
エルサさんに破壊してもらおうと、別のサビた剣を差し出す。
「え!? ちょっと、ロルフ君!?」
「お願いします。確かめたいんです!」
「もう、強引な子。サビた剣を破壊すればいいのね?」
ちょっと困惑したエルサさんだったが、サビた剣を受け取ると素手で触れ、破壊スキルを発動させた。
先ほどと同じように剣が淡い光を帯びて、エルサさんの手の上でバラバラの部品に変わる。
「じゃあ、エルサさんの手に触れさせてもらいますよ」
「ちょ!? ロルフ君、あたしに触れたら――」
「僕はきっと大丈夫ですから、信じてください!」
息を止めると破壊された剣の部品を持つ、エルサさんの手に触れる――
────────────────
>スキル発動条件が整いました。
>再生スキルを発動しますか?
────────────────
やはり、思った通りだ。
再生スキルが発動したことを告げる声が聞こえる。
「や、やっぱり。エルサさんが破壊した物に、僕の再生スキルが反応する! 反応するよ!」
「そ、そうなの? ロルフ君、身体は何ともないの? 本当に大丈夫なの? 痛いところとかない?」
エルサさんは、とても心配そうな顔をして、こちらを見ていた。
彼女は自分が持つ【破壊】スキルが、僕の身体に影響を与えていないか心配してくれてるんだろうけど……。
なぜだか知らないけど、身体には影響は全くない。
「大丈夫です! ピンピンしてますよ! 与えられてから一度も発動しなかった『再生』スキルが、エルサさんのおかげで発動してるんですよ!」
淡い光を放つサビた剣の部品を、エルサさんから受け取ると、先ほどと同じような文字が浮かび上がった。
―――――――――――
再生スキル
LV:1
経験値:1/12
対象物:☆鉄の剣(廃品)
>鉄の剣(普通):90%
>鉄の剣(中品質):70%
>鉄の剣(高品質):50%
>鉄の剣(最高品質):20%
>鉄の剣(伝説品質):10%
―――――――――――
浮かびあがった文字の中から、鉄の剣(伝説品質)に目をやる。
>鉄の剣(伝説品質)に再構成しますか?
問いかけてくる神の声に対し、了承を意識した。
自分の手が触れた剣の廃品が一気に輝き始め、周囲が光に包まれる。
さっきと同じ光!
やっぱり僕の再生する気を発動させるには、エルサさんが破壊スキルで破壊した物が必要なんだ!
しかし今回はさっきと違い、眩い光が途中で消え、剣の廃品から黒い煙が発生していた。
「おわっ! なんだこれ!」
「煙!? ロルフ君! どうなったの?」
手の中にあったサビた剣の廃品は、煙がおさまると、灰になって風に飛ばされ消えていった。
灰になって消えた剣の部品を見ていた、エルサさんの顔色が変わっていた。
「あたしが素手で触れた物。あの淡い光が消えると、今みたいに灰になって消えちゃうわ。やっぱり、こんなスキルを持つあたしは、全てを破壊する忌み子よね」
彼女は素手となっている自分の手を見て、泣き出しそうな顔をしていた。
やたらと頑丈そうな手袋をしてたし、もしかしたらエルサさんは、破壊スキルのせいで色々と周りの人から言われてきたのかもしれない。
僕は発動しないスキルのせいで蔑まれてるけど、エルサさんももしかしたら自分と同じなのかも。
未知のスキル持ちと、そのスキルのせいで苦労をしたという共通点が、僕の中で急速に彼女のことを身近に感じさせていた。
「今のはエルサさんのせいじゃなくて、僕の再生スキルが失敗だけだと思います!」
「ロルフ君の再生スキルが失敗した? それっていったいどういうこと?」
「表示されてた後ろの数字は成功率だったんだと思います。伝説品質は10%と表示されてましたし、それで失敗したのかと。次は成功率の高いのを選ぶんで大丈夫です! もう一回お願いできますか!」
さきほどの失敗を気にして、エルサさんは落ち込んでいる様子だった。
そんなエルサさんの顔を見ていることに心が痛み、ゴブリンたちが落としていった最後の一本を拾い上げ彼女に剣を差し出す。
「分かった。ロルフ君がそこまで言うなら」
エルサさんの素手が剣に触れ、破壊され部品になると、再び再生スキルが発動した。
今度は成功率90%の普通品質の鉄の剣を選択する。
今度はさっきと違い黒い煙は出ず、最初と同じように光が収まった。
>鉄の剣(普通品質)に再構成に成功しました。
>鉄の剣(普通品質)
攻撃力:+5
資産価値:二〇〇〇ガルド
手には最初のとは違い、鈍い光を放つ作りの粗い剣ができていた。
「やっぱり、後ろの数字は成功率だったみたい……最初の剣は10%の成功率で引き当てたすごい剣らしいです!」
再生スキルできた剣をエルサさんに見せると、さきほどまで落ち込んだ様子は消えていた。
「それにしても、あたしの『破壊』スキルで壊した品がないと、ロルフ君の『再生』スキルが発動しないとは……。そんなスキルがあるなんてね。それにロルフ君には、素手で触れても破壊スキルが発動しないなんて」
エルサさんが不思議そうな顔をして、素手で僕の身体をペタペタと触っていくのがこそばゆかった。
人も破壊しちゃうかもって聞いてたけど、エルサさんの『破壊』スキルは、僕には発動しないみたいだ。
なんで発動しないかまでは、分からないけど。
「やっぱり発動しない……。しないよ。あたしの破壊スキルが発動しない人に初めて出会った」
自分の手が触れ、破壊スキルが発動しないのを、信じられないと言いたげにエルサさんがこちらを見ていた。
「不吉な忌み子と言われ続けたあたしに触れても死なない人がいた……」
エルサさんは、僕の頬に両手を当てると、綺麗な目を潤ませていた。
「ロルフ君は、手袋をくれた神官さんが言ってたあたしの運命を開く人だよね……」
自分の持つ破壊スキルが、僕に発動しないことを確認したエルサさんの綺麗な漆黒の瞳からポロポロと大粒の涙が流れ落ちる。
「エルサさんに触れたことで、僕の『再生』スキルが初めて発動したのか知りたくて……無茶しちゃったけど、死んではいないみたいです」
泣いているエルサさんの顔も、とても魅力的で僕の心臓は鼓動を高鳴らせていた。
「ああ、やっぱり本当に破壊スキルが発動されない……。ついに見つけた運命の人。あたしを幸せにしてくれると神官が言ってくれた人を見つけた!」
「あの……エルサさん?」
「ロルフ君!! 君があたしの運命の人よっ! ついに、ついに見つけたわ!」
え、えっとこれって愛の告白ってやつなのかな……。
運命の人って言ってるし。
いやまさかね、こんな綺麗な人が僕なんかに……ね。
それに破壊スキルが発動されないってことは……。
発動した人がいるんだよね……やっぱり……。
エルサさんの呟いた言葉を聞いて少し複雑な気分になっていた。
「あの……僕にスキルが発動されないってことは分りましたけど、もしかして今までにエルサさんの手に触れてしまった人って……います?」
「え、えっと……命までは奪ってないけど、誤って手を破壊してしまった人が一人ほど……」
やっぱり、いるの!?
「『破壊』スキルが初めて発動した際、父の片手が消えてしまったの……もう、病気で亡くなっているけど、父にはずっと悪いことをしたと思ってた」
エルサさんは、父親の手を誤って消してしまったことを隠そうともせずに喋ってくれた。
「それに母もあたしが生まれた時に亡くなっているしね。それも『破壊』スキルの影響かもしれないし。だから、あたしは周りが言ってるとおり、忌み子だって思ってたの」
「ご、ごめんなさい! 辛いこと聞いちゃったみたい。ごめん、僕、馬鹿だから」
「いいえ、ロルフ君には聞いてもらいたいの。だって、素手で触れたロルフ君にはスキルが発動しなかったんだもん。だから、貴方はあたしの運命を開く人なの!」
泣き止んだエルサさんは、僕の頬に手を当てたまま真剣な顔で話を続ける。
彼女の漆黒の瞳に見つめられ、心臓の鼓動が一段と早くなるのを感じた。
「運命の人……その言葉さっきも聞きましたけど、いったいどうこうことです?」
「この破壊スキルの発動を抑える白い手袋をくれた神官様が言ったの。『破壊スキルを無効にする者が、君の運命を大きく変えることになる人』だって」
エルサさんが、外して近くに置いていた白い革製の手袋にチラリと視線を送る。
「あの手袋にそんな力が……」
「そうよ。あの手袋さえしてれば、人や物に触れても『破壊』スキルは発動しないの。でも、ロルフ君はこうやって素手で触れても発動されないわ……。やっぱり、あたしの運命の人はロルフ君なのよ!」
こちらの顔を覗き込んでいるエルサさんの目が再び潤んできた。
や、やっぱりこれってエルサさんに告白されてるのかな……?
エルサさんなら全然大丈夫なんだけど、こういうのって僕からも言うべきか……?
自分からも告白するか迷っていたら、エルサさんの方が抱き着いてきた。
僕より身長が高い彼女の胸が、ちょうど顔に当たる。
「あ、あの! エルサさん!?」
「あ、ごめん。当たっちゃった。わ、わざとじゃないからね」
自分の胸の谷間に、僕の顔が埋まったことを気付いたエルサさんの顔が赤く染まっていた。
そうやって照れられると、こっちも照れてしまう。
自分より年上で身長も高くて、美人で綺麗だし、それに接触過剰気味だけど、運命の人と言われると悪い気はしない。
「分かってますよ。少なくとも僕の『再生』スキルはエルサさんがいないと発動しないですし。これは運命なのかもしれないですね」
そう、本当にこれは運命なのかもしれない。
『再生』スキルの発動条件に、『破壊』スキルでの破壊が設定されているのだから。
「運命よ! 運命! ロルフ君は、あたしの運命の人! そうに違いないわ」
喜びを満面に浮かべたエルサさんが、再び抱き着いてくると、僕の顔がまた彼女の胸に埋まった。
今までの反動なのか、破壊スキルが発動しない僕に対し、なんだかとっても接触過剰な気がする。
が、これはこれで悪い気はしない……。
「あの、ロルフ君。あたし、しばらく身体拭いてないから変な匂いとか……しない?」
抱き着いていたエルサさんが、自分の匂いを気にしていた。
全く不快な匂いなどしない。
むしろ、甘く感じる匂いがする。
「エルサさんから変な匂いなんてしないよっ! それを言うなら、僕の方が気になるよ。ほら、今日はずっとゴミ拾いしてきたからさ……」
「ロルフ君、ゴミ拾いしてたんだ。すごい! えらいよね、若いのに。えらい、えらいよ」
抱きしめてくれたまま、エルサさんがそっと僕の頭を撫でてくれた。
人に褒められるなんて久しぶりだ……。
僕のことを褒めてくれたのは、おばあちゃんくらいだったしな。
おばあちゃんが亡くなってからは、街の冒険者からずっと侮蔑される毎日で、下を向いて生活してきた記憶しかない。
でも、褒められたことで、自分の中で消えかけていた自尊心を少しだけ取り戻せた気がする。
褒められたことがとても嬉しくて、彼女の胸に埋もれたままだった自分の顔を出すと、お礼を言った。
「エルサさんに褒めてもらえたら、嫌で嫌で仕方なかったゴミ拾いの仕事もなんだかすごく嬉しいです! 」
「ロルフ君は、人が嫌がる仕事を率先してやってるんだから、もっと胸を張っていいよ!」
エルサさんに褒めてもらえたら、僕はなんだってできそうな気がする。
すごい力を持っていそうな再生スキルだって発動させられるんだし。
だから、エルサさんの横に立っても恥ずかしくない立派な冒険者になれるよう、これまで以上の努力をしないと。
笑顔でこちらを見ている彼女を見て、改めて自分の目標としていた冒険者像を思い出した。
それと同時に、自分が彼女のことを全く何も知らないことに気付く。
そういえば、エルサさんはどこの人だろうか。
街では見かけたことない顔だし、どこか別の場所からきたのかな。
それに革の首輪のことも気になるし、教えてくれるか分からないけど、聞いてみるしかないよね。
「そ、そう言えば、エルサさんはアグドラファンの街の住民じゃないですよね? どこから来たんです?」
「――っ!?」
それまで笑顔だったエルサさんが、質問を境にして顔を曇らせていた。
やっぱり、住んでたところの話は、聞いてはいけない話だったんだろう。
僕はなんて馬鹿な質問をしたんだ……。
「す、すみません! 聞いちゃいけない話でしたよね。僕が勘違いしたせいで、エルサさんに不快な思いを――」
「――違う。ロルフ君、違うの。君にはきちんと話さないといけないの」
少し目を潤ませ緊張した顔のエルサさんが、こちらの目を真っすぐに見てくる。
「実はあたし……。父親が病死したあとも、一人で村に暮らしてたんだけど。村が凶作になって領主への納税の足らない分の物納として、あたしが献上されることになったの。スキルのせいで村八分にされてたから、反対する人は誰もいなかったわ。だから、あたしはいわゆる献上奴隷なの」
着ているボロボロの衣服と、日に焼けた肌が、父親を亡くし、スキルのせいで村八分にされた彼女の苦しい生活のすべてを物語っていた。
それにしても、納税不足を補填する献上奴隷だったなんて。
エルサさんだって好きで破壊スキルを得たわけじゃないのに! それをみんなが寄ってたかって苛めて、挙句の果てに奴隷として領主に物納するなんて許せない!
エルサさんの境遇を聞いたことで、自分の中に酷いことをした村の人へ憤る気持ちが強くなった。
「エルサさん、そんなのおかしいよ!」
「いいの。村の人たちのおかげで運命の人であるロルフ君に会えたから! それを日々の心の支えにして奉公期間が終わるまで頑張るから!」
彼女が抱き付いてくると、僕の顔に涙の雫がポタリと垂れた。
エルサさんの代わりに、手にしている伝説級の鉄の剣を物納するわけにはいかないだろうか。
三〇〇万ガルドの価値がある剣だし、それにエルサさんがいなかったらできなかった剣だから、彼女を助けるために使うべきだ。
「エルサさん……僕がこの剣を売ってお金を工面するよ!」
「ううん、いいの。それはロルフ君が持ってて。あたしと一番最初に作った思い出の品だもん。売るなんて言わないで。あたしが数年間我慢して働けばいいだけだから」
剣を売ることに対し、エルサさんは軽く首を振って拒絶の意思を示していた。
身長が高いエルサさんが、一段と強く僕を抱きしめてくる。
彼女の胸が、こちらの顔を圧迫してきた。
なんで、なんでこんな形でエルサさんと別れないといけないんだ。
なんで、なんでだよ! 僕の再生スキルとエルサさんの破壊スキルは二つ揃って効果を発揮するスキルなのに、なんで別れないといけないんだ。
神様はどこまで僕に意地悪をするんだろう。
エルサさんとの別れに納得がいかず、神様を心の中で罵っていたら、背後で草の擦れる音がした。
「グギャアアァアッ!」
声の主は先ほど逃げたゴブリンたちだ。
エルサさんを襲い損ね逃げた後、別の仲間を引き連れて戻ってきたらしい。
「さっきのが仲間を連れてきたみたい……ロルフ君、どうしよう」
「エルサさんは僕の後ろに! これでも冒険者だからゴブリンくらい――」
現れたゴブリンたちの数は一五体。
ぼっち冒険者で戦闘経験のない僕では、荷が勝ちすぎる数である。
けど、エルサさんを置いて逃げるという選択肢は自分の中にはない。
最初に手に入れた眩しい輝きを放つ剣の方を構えると、相手の出方を待った。
「ガキイィイギイ!!」
敵意を剥き出しにしたゴブリンたちが、一斉にこちらに向け駆け出してくる。
焦るな。落ち着け、落ち着いて鍛錬通りに剣を振り、ゴブリンたちをエルサさんに近づけさせなければいいんだ。
「エルサさん、絶対に守るから、ここから離れないでね」
「う、うん! でも、大丈夫! きっと二人なら何とかなるから! あたしも戦うし! ロルフ君が動きを止めてくれたら、あたしが破壊スキルでゴブリンごと破壊してみるから!」
「そうならないで済むようにします!」
向かってくるゴブリンに向け、手をかざしたエルサさんは、戦う気をみせてくれていた。
エルサさんが戦ってくれると言ってるけど、そんな危ないことはさせられない。
彼女にゴブリンを近づけさせないためにも、先手必勝だ!
鋭い光を放つ剣を握り直すと、一五体のゴブリンを前に戦う覚悟を決め、先頭のゴブリンに向かい駆け出した。。
「ギャギャアアァッ!」
奇声をあげ近寄ってくる先頭のゴブリンに向け、自分の剣を薙ぎ払う。
か、軽い! こんなに軽くて振り抜きやすい剣なんて!
薙ぎ払った剣から、感じたことのない手応えが返ってくる。
途端に近づいてきていたゴブリンの胴体は上下に分れ、血を噴き上げると崩れ落ちた。
斬り口がめちゃくちゃ綺麗なままだ。
それに、斬り分けられたゴブリンの身体がまだピクピクと動いてる。
「す、すごい切れ味……僕の腕じゃないよな……やっぱ最初の剣は、ただの剣じゃなかった」
「それって、最初の剣だよね……あたしのスキルで、ロルフ君が初めてスキルが発動した記念の剣……」
伝説品質の鉄の剣のとんでもない斬れ味に驚いていると、仲間を斬られ激高したゴブリンがサビた剣を振り下ろしてきた。
キィン!
ゴブリンが振り下ろしたサビた剣は、鉄の剣に触れた瞬間、断ち切れてそのまま別の場所に飛んでいった。
剣先が明後日の方向に飛んでいき、驚いて動きの止まったゴブリンのがら空きになった胴を素早く薙ぎ払う。
「すごい! この剣は、剣を簡単に斬れる……。これなら、僕の腕でもやれるっ!」
『再生』スキルが最初に作り出した剣の性能が分かったことで、複数のゴブリンに囲まれた状況は不利ではないと悟った。
「エルサさん、僕がこの剣で一気にゴブリンたちを倒します!」
「ゴブリンだからって油断しないでね!」
「大丈夫です! この剣なら僕は負けないですから!」
切れ味の鋭い剣を構え直すと、襲い掛かってくるゴブリンたちの集団に向けて剣を振るった。
剣の才能を伸ばすスキルは全くない僕だけど、父親から教えられた日々の練習を続けていたことと、剣の素晴らしい性能のおかげでゴブリンたちを次々に倒していた。
油断することなく、剣を振るい最後のゴブリンが地面に倒れた。
「ふぅー、なんとか倒せた」
「す、すごい。一人で全部倒しちゃったよ。ロルフ君!」
最後のゴブリンを倒し終えたところで、戦う様子を見ていたエルサさんが、背後から抱き着いてきた。
背中に彼女の柔らかい膨らみが当たる。
「あ、あの! エルサさん、そ、その背中に……」
「ロルフ君、カッコよかったわ。あたし、また一段と惚れちゃった。さすが、運命の人……はぁ、素敵」
「エルサさんと一緒に作ったこの剣の力のおかげですから!」
伝説品質の剣は、ゴブリンを十数体切っても、刀身に血の曇りが一つもないままであった。
「すごい剣……あたしとロルフ君が作ったんだよね」
「うん、そうだよ。エルサさんがいたからできた剣だから」
二人で創り出した剣の凄さに驚いていると、地面が急に大きく揺れ始めた。
地面が揺れてる? なんで?
雑木林に生えた木々が揺れているのが、視界に飛び込んでくる。
同時に草が揺れる音がしていた。
「なんかいる」
「ガァアアアア!」
奇声とともに、新たにゴブリン一〇体が、雑木林の奥から飛び出してきていた。
ゴブリン? まだ仲間がいたのか――。
奇声をあげていた一体のゴブリンが、木々の奥から突如として現れた、巨大なこん棒によって肉の塊にされた。
「な、なんだ? あのでかいこん棒は!?」
「あのこん棒……。あたしがいたフォルツェン家の徴税官たちの荷馬車を襲ったやつが来たみたい……。ロルフ君、早く逃げないとマズい。街に行けば冒険者や衛兵がいるわよね?」
フォルツェン家の徴税官って、フィガロさんの家の人たち!?
エルサさんを献上奴隷にした村は、フィガロさんの家の領地にある村か!
「エルサさんって、フォルツェン家の領地の村に住んでたんですか?」
「う、うん。そうだけど……って! 今はそんな話をしてる暇ないわ。ロルフ君、あれ見て!」
背後から抱き付いたままだったエルサさんが指差した先には、肉の塊にしたゴブリンを摘まみ、口に運んでいた頭部に二本角を生やした巨大な人型の魔物の姿が見えた。
オ、オーガ!? なんで街に近いこの場所にこんな強力な魔物がいるんだ!?
オーガなんて、Bランク以上の冒険者じゃないと倒せない強力な魔物のはず!?
「なんで、こんな場所に!?」
「徴税官たちを護衛してた冒険者たちが、暇つぶしに近くのゴブリンたちを狩ってたら、あいつが急に出てきて、村から集めた食糧を載せてた荷馬車を襲ってきたの。当事者の冒険者たちは早々に逃げ出したし、徴税官たちも逃げて、檻に残されたあたしは破壊スキルで檻を壊して逃げ出してきたところ、ロルフ君と出会ったのよ」
「もしかして、オーガが罠を張ってたのかも。そうやって、ゴブリンを囮にして冒険者や物資を運ぶ荷馬車を襲うことがあるって、父親から聞いたことがある」
「そ、そうなの?」
「たぶん。僕はオーガに出会うのは初めてだから分かんないけど」
雑木林から姿を現したオーガは苛立っているようで、近くにいたゴブリンを新たにこん棒で殴り倒し、その肉を口に運んでいた。
その姿を見て、自分の足が震えるのが止まらなかった。
「ロルフ君、早く街に逃げて救援を呼んだ方が……」
「でも、今は昼間だし、大半の冒険者が出払ってて、門も閉じられてないから」
このまま、僕たちが街に逃げ込むと、オーガもついてきて大惨事になっちゃう。
剣の威力を過信するつもりはないし、僕が何とかできる魔物だとも思わないけど――
でも、ここで逃げたら、エルサさんと出会う前の下を向いて俯いてた自分と同じだ!
「エルサさん! 街に逃げるわけにはいかない。だから、僕がここであのオーガを倒すよ! でも、エルサさんが巻き込まれたら嫌だから先に街に向かっててくれるかい?」
「ダメ、ダメよ。ロルフ君が一緒じゃないと、あたしは逃げないから!」
逃げることを拒絶したエルサさんが、抱き付いて離れてくれなかった。
「分かった。じゃあ、僕はあいつを絶対に倒さないといけないね。エルサさんはここで戦う姿を見ててくれるかい」
「絶対に死んじゃダメだからね」
「せっかくエルサさんと知り合えたんだから、絶対に死なないよ」
小さく頷き返すと、抱き付いていたエルサさんの手を解く。
そして、剣を握り直すと、苛立ちを見せるオーガに向かい大声を上げて挑みかかった。
「うぉおおおお! こっちだ! こっちにこい! 僕が相手だ!」
「冒険者! アノ小僧、ミンナ、オイカケロ!」
リーダーのオーガが、こちらの声に気付いたようで、配下のゴブリンへ追う指示を出す。
しめた! こっちの陽動に引っ掛かってくれた。
オーガを始め、周囲にいたゴブリンが僕を追いかけ始める。
巨木の根にいるエルサさんからは、できるだけ遠のいて戦わないと。
十分に巨木から離れた場所に着くと、追手のゴブリンたちとオーガに向き合い剣を構えた。
「よし、ここらへんでいいかな。僕が相手になってやるから来い!」
「ガァアアアアッ!!」
ゴブリンたちは自らの武器を掲げ、こちらに対し敵意を剥き出しにする。
そんなゴブリンたちの攻撃をかわし、伝説品質の鉄の剣で次々に身体ごと断ち斬っていった。
「オマエ、オレノ部下タクサン殺シタ、ツヨイ。デモ、ケンノウデチガウ!」
配下のゴブリンを殺され、さらに苛立った様子を見せたオーガが、こん棒をこちらに振り下ろしてきた。
オーガが言う通り、僕には剣の才能を伸ばすスキルはない。
でも、小さい時からずっと剣の鍛錬だけは欠かさずにしてきた。
身体は大きくならなかったけど、鍛錬で磨いたことが、自分の力を高めてくれてると思いたい。
それに今の僕には武器の強さがあった。
鋭い光を放つ鉄の剣をオーガが振り下ろしてきたこん棒に当てる。
刀身に触れたこん棒は、その破壊力を発揮することなく、真っ二つに切れて飛んでいった。
「クソ、ソノ武器ハ卑怯ダ!」
手にしたこん棒が用をなさなくなったため、柄を投げ捨てたオーガは鼻息荒く、拳で打ちかかってきた。
オーガの拳が自分の頭を掠めていく。
空気を切り裂く音が聞こえ、身が竦みそうになる。
しかし、よく目を開いてみれば、かわせない攻撃ではなかった。
数度、拳が振り下ろされたが、こちらを捉えることはできずにいた。
やれる。これなら、僕にだってオーガを倒せる!
攻撃をかわし、隙ができたオーガの脇腹へ気合と共に横薙ぎの斬撃を繰り出す。
「喰らえっ!!」
よく切れるナイフで、柔らかい肉を切り裂く感触が手にあった。
「グフゥ……バカナ」
オーガの身体は、僕の剣で横一文字に両断され崩れ落ちた。
「ふぅ、やっぱりすごいぞ。この剣……簡単にオーガを斬れるなんて……」
剣の威力に改めて驚いていると、周囲では倒されたゴブリンやオークが素材と魔結晶に変化していた。
「ロルフ君! 大丈夫――!? って、オーガ倒しちゃったの!?」
「エルサさん!? いつの間にここに!」
巨木の根で待っててくれるはずのエルサさんが、こちらに向かって駆けてくるのが見えた。
「エルサさん、待っててと言ったのに!」
「心配で、心配でしょうがなかったからきちゃったの! 怪我とかない!」
こちらに着いたエルサさんは、目に涙を浮かべながら、僕の体を隅々まで触って無事を確認していた。
「大丈夫ですって。なんか……オーガ倒せちゃいました」
オーガの死体が消え、素材であるオーガの角と魔結晶が地面に転がっている。
ゴブリンたちも装備を落とし、素材であるゴブリンの骨と、魔結晶になっていた。
魔結晶や素材は、魔物が倒されると一定時間で生成され、魔力の源として様々な道具に使用される。
そのため、魔結晶は冒険者ギルドが買い取ったりしてくれている。
「すごい……ロルフ君が全部倒したんだよね」
「は、はい。倒せちゃいました」
「護衛についてた冒険者たちが逃げ出したオーガを、たった一人で倒すなんて……。やっぱロルフ君があたしの運命の人」
無事なのを確認したエルサさんに抱き付かれ、自分の顔がまた彼女の胸に埋もれた。
「うわっぷ。エルサさん!?」
抱き付かれて思い出したが、彼女は献上奴隷としてフィガロさんの家に送り届けられる途中だった。
なんとかお金を工面して、エルサさんの村が支払えなかった徴税額を納められないかな。
ゴブリンとかが落とした武器とか、再生スキルで新しくしたら売れそうだし、魔結晶もオーガとかのなら高く買い取ってくれそうだし。
エルサさんの胸から抜け出すと、僕の無事を喜んでいた彼女にお金の話をすることにした。
「エルサさん! フォルツェン家の献上奴隷にならないで済むよう、少しでもお金を稼ぎませんか? ほら、僕たちならサビた物でも新しくできますし! 魔結晶もあるし!」
僕の提案を、エルサさんはきょとんとした顔で見ていた。
「ロルフ君! 頭いい! そうね! あたしたちって物を再生できる力があったんだ。新しくなれば売れる物になるよね! やろう、すぐにやろう!」
一応周りにいた魔物はすべて倒したし、危険もないだろうから、エルサさんにも拾うのを一緒に手伝ってもらおう。
「じゃあ、エルサさんも魔結晶とか素材を集めるの手伝ってもらえます?」
「うん、する! これは、あたしを助けてくれたロルフ君へのお礼ね。こんなことしかしてあげられないけど……受け取ってもらえるかな?」
エルサさんのやわらかい唇が、僕の頬に軽く触れた。
彼女の唇が触れた途端、自分の顔が火照っていく。
「エ、エルサさん!? 何を!?」
「こ、こんなことしかできないけど、あたしからのお礼の気持ち受け取ってくれてありがとう。あ、あの、もう一回しとく?」
エルサさんも照れているようで、顔が赤かった。
か、可愛い。
いや、年上の人に可愛いなんて言ったら失礼だよな。
って、そうじゃなくて! 今、僕ってキスされた!?
魔結晶や素材などを集め始めたエルサさんの後ろ姿を見ながら、僕は彼女の唇の触れた場所に手を触れぼんやりと立ち尽くした。
「ロルフ君、早く集めよー」
ぼんやりとしていた僕に、エルサさんが声をかけてきたので、慌てて装備や素材、そして魔結晶を集めることにした。
「エルサさん、武器の破壊をお願いします」
「うん、すぐにやる」
素材や魔結晶や武器を集め終えたので、装備を再生させるため、エルサさんの破壊した廃品に触れるとスキルを発動させる。
――――――――――
再生スキル
LV:1
経験値:2/12
対象物:☆巨大こん棒(廃品)
>巨大こん棒(普通):90%
>巨大こん棒(中品質):70%
>巨大こん棒(高品質):50%
>巨大こん棒(最高品質):20%
>巨大こん棒(伝説品質):10%
―――――――――――
成功率の高い普通品質を選び、再構成を始めた。
周囲へ一気に光が溢れる。
光が収まると、真っ二つにされていたはずの巨大こん棒が元通りに戻っていた。
>巨大こん棒(普通品質)に再構成に成功しました。
>巨大こん棒(普通品質)
攻撃力:+20 資産価値:二万ガルド
「大きい……オーガが持ってたこん棒よね。こんなの持てる人いるのかしら」
「でも、資産価値二万ガルドって出てますし、欲しい人はいるんでは」
「こ、これが二万ガルドもするの?」
再生スキルが算出したと思う資産価値だから、買う人がいればって話だろうけど。
大きな槌を使う戦士の人とかなら、欲しい人いるかもしれないし。
「意外と武器は高く売れるかも。他の武器も再生していきましょう!」
「うん、バンバン破壊するね」
エルサさんが新たに破壊した武器に手を触れ、再生させる。
――――――――――
再生スキル
LV:1
経験値:3/12
対象物:☆鉄の大刀(廃品)
>鉄の大刀(普通):90%
>鉄の大刀(中品質):70%
>鉄の大刀(高品質):50%
>鉄の大刀(最高品質):20%
>鉄の大刀(伝説品質):10%
―――――――――――
普通の品質で再構成を選ぶ。
>鉄の大刀(普通品質)に再構成に成功しました。
>鉄の大刀(普通品質)
攻撃力:+6 資産価値:二五〇〇ガルド
再生を終えた大刀は刀身にあった刃こぼれと錆が消え、新品同様に戻った。
その後、ゴブリンたちが落としたサビた鉄の剣を同じように再生させていくと、視界の端に出ていた文字の表示が変化していた。
───────────────────
>【再生】スキルがLVアップしました。
>LV1→2
>解放:☆の成功率1%上昇
────────────────────
スキルステータス
パッシブスキル:☆成功率上昇1%上昇
アクティブスキル:なし
―――――――――――――――――――
LVアップ!? もしかしてこのスキルって成長するの!?
スキル所持者の能力を伸ばすスキルはあるけど、スキル自体が成長するなんて聞いたことないよ!
「エルサさん、なんか再生スキルが成長したみたいなんですが、新しく廃品作ってもらっていいですか?」
「え? スキルが成長? それっていったい? そっか確認するため、あたしが廃品を作ればいいのね」
「ええ、お願いします」
エルサさんが新たに作り出した廃品に触れ、再生スキルを発動させる。
―――――――――――
再生スキル
LV:2
経験値:0/18
対象物:☆鉄の剣(廃品)
>鉄の剣(普通):91%
>鉄の剣(中品質):71%
>鉄の剣(高品質):51%
>鉄の剣(最高品質):21%
>鉄の剣(伝説品質):11%
―――――――――――
よく見ると、表示されているLV表記が2に変化し、経験値という項目の数字がゼロに戻り、再構成の成功率が1%上昇していた。
やはり、再構成の成功数によってLVが上がったみたいだ。
これなら、再構成を続けLVをあげれば中品質や高品質の物も安定的に作り出せるようになるっぽい。
「エルサさん、やっぱりLVが上がったみたい」
「ス、スキルが成長するのなんて初めて聞いたよ!」
スキル自体が成長するスキル。
それが、僕が神様から与えられた再生スキルの持つ能力の一つだった。