第4話 ヨルムンガンド

 第4話 登場人物

ベラドンナ
ジャンヌ・ダルク
土方歳三
ヴラド3世
ペルセポネ
ヴェルダンディ
ミスラ
【名無し】の剣士
ディスコルディア
ビリー・ザ・キッド
イシス
キリ
ブライアン将軍
イカズチ
【黒竜帝国】の兵士たち
【鉄火の王国】の兵士たち
【風神】
【雷神】
【鉄火の王国】の暗殺者たち
姫巫女(ひめみこ)ソルカダニ


ナレーター
「その昔、あまりにも大きな竜がいた。竜の名は、ヨルムンガンドといった。古き神々はこの竜を畏れ、海底に縛り付け、終焉の刻まで動けなくなる呪いをかけた」

〇【赤龍王国】 王城 王座の間

 王座に座す人物がいる。ドラゴンを意匠化した全身鎧を纏う巨漢だ。その傍らに控えるのは、軍服姿の少女。
 ヴラド3世、魔神ミスラ登場。
 二人の前に置かれているのは、大きな水晶玉。
 水晶玉には、【黒竜帝国】の兵たちが進軍していく映像が映っている。

ヴラド3世
「…………」

ミスラ
「おっ始まるぜ!」


〇【鉄火の王国】 国境 ミョルミル要塞 (夜)

 ミョルミル要塞内外で、激しい戦闘が起こっている。侵攻してきた【黒竜帝国】の兵士と、それを阻もうとする【鉄火の王国】の兵士たちによる、戦いだ。
 剣や槍を振るう、魔法で攻撃する等、両国の兵士たちの戦い方は様々。
【鉄火の王国】の兵士たち「なんとしても護り抜け!」「俺たちは壁だ!」「一分、一秒、一瞬でもいい、時間を稼げ!」「ソルカダニ様、万歳!」等、叫びながら戦う。
【鉄火の王国】の兵士の一人「ソルカダニ様、必ずや勝利を!」と叫んだところで、敵兵が放った炎の魔法に倒れる。「【黒竜帝国】の毒婦(ベラドンナ)に、必ずや死を……!」と叫び、息絶える。
 魔法を放った【黒竜帝国】の兵士、【鉄火の王国】の兵士に槍で背後から突かれる。再び炎の魔法を放とうとするも、当たる瞬間霧散する。息絶える瞬間、「魔法妨害、だと!? 父上……! ベラドンナ様……!」と呟く。


〇【黒竜帝国】 天幕内

【黒竜帝国】軍の将校たちが集っている。
 彼ら全員の視線の先に立つのは、彼らの主君、【黒竜帝国】の女帝ベラドンナ。
 ベラドンナ登場。
 ベラドンナ、将校の一人から戦況の報告を受ける。その主な内容は「敵国の兵士たちの士気が思ったより高い」ということ。交わされる会話の中、「姫巫女ソルカダニ」という単語が頻繁に出てくる。
 兵士が一人、天幕の中に駆け込んでくる。「魔法無効化の結界がミョルミル要塞内に敷かれました!」「通信魔法が遮断され、内部との連絡がつかなくなっています!」
 それを聞いた一人の将校、ブライアン将軍が、固く目を閉じる。「功を焦るなと言ったはずだ! 馬鹿息子!」と呟く。
 他の将校が「心中、お察しします。しかし、ご子息の無念は」と言うのを遮り、「ベラドンナ陛下! ご命令を! 我が第七魔法兵軍に出撃のご許可を!」
 ベラドンナ、ブライアンに目をやる。

ベラドンナ
「ならぬ」

ブライアン
「陛下!」

ベラドンナ
「そなたは父親である前に、第七魔法兵軍の将であるはずではないのか?」

 尚も言い募ろうとするブライアンに、ベラドンナ「痴れ者め! 血肉を分けた我が子だけでなく、教えを授け、忠義を捧げるそなたの兵士(こども)たちを無駄死にさせるつもりか!」と、怒鳴りつける。
 言い返すことができないブライアンにから、ベラドンナは視線を外す。
 視線が向く先には、黒塗りの棺が立てかけられている。
(※中には、ジャンヌ・ダルクが控えています)

ベラドンナ
「ジャンヌ・ダルク」

ジャンヌ
「ここにおります」

ベラドンナ
「出撃だ。【ラ・ピュセル・ドルレアン】を動かせ」

ジャンヌ
「御意!」

ブライアン
「陛下!」

 ベラドンナ、ブライアンを見る。ブライアンの顔は、憤怒に染まっている。

ブライアン
「陛下はあのお方々を信頼しすぎです! あのお方々は、人間でもエルフでも獣人でも、ましてや亜人でも魔物でも……あれは」

 ブライアン、そこまで言いかけて黙る。ベラドンナ、冷たい目でブライアンを睨んでいる。

ベラドンナ
「私は、差別というものが大嫌いだ。人間だから? エルフだから? 獣人だから? 亜人だから? 魔物だから? だからなんだ? 実力を持つ者、示す者、努力をする者、成果を出そうとする者、抗い戦い生きようとする者……果たしてそれらに、種族の違いなどあるのか?」

「し、しかし……!」と言いよどむブライアン。

ベラドンナ
「【騎士(ドラウグル)】たちは、その価値を世界に体現する(しめす)者だ。あれらは腐敗と堕落を灼く稲妻だ。或いは、勇者が敷いた悪法を吹き飛ばす、風だ」

 そこまで言い終えたベラドンナ、天幕を出る。続こうとする将校たちに、天幕が貼られた場所からなるべく離れるよう、兵士たちをこの場から全員撤退させるよう言う。

〇【鉄火の王国】 国境 ミョルミル要塞 内部

 窓のない一室。
 床に魔法陣が描かれ、その周囲をローブを纏った魔術師の老人たちが囲み、一心不乱に呪文を唱えている。

 魔法陣の中心に座るのは、姫巫女ソルカダニ。
 ソルカダニ、目を閉じている。

(※姫巫女っていうのは、高位の魔術師に与えられる称号です。要は、ソルカダニは【鉄火の王国】のすげー魔法使いってことです)

 ソルカダニ、おもむろに目を見開く。
 瞬間、魔法陣が光り輝く。

ソルカダニ
「皆、お願いします。どうか……どうか、【黒竜帝国】の悪しき竜(ベラドンナ)を、討ち取ってください!」


〇【黒竜帝国】 天幕外

 それまで【黒竜帝国】の天幕が建っていたのは、広大な草原。
 ベラドンナ、椅子に腰掛け、お茶を嗜んでいる。側のテーブルの上には、ティーポットと茶菓子が盛られた皿。

 不意に、ドォン! と轟音が上がる。衝撃で、テーブルが吹っ飛ぶ。
 ベラドンナの前に立つのは、二体の機甲歩兵(メルカバ)(※巨大な二足歩行のロボット)、【風神】と【雷神】。
【風神】【雷神】(に搭乗した【鉄火の王国】の兵士たち)、名乗りを上げ、ベラドンナに投降を促す。
 ベラドンナ、椅子に座ったまましっしっ! と手を振り「その手の言葉は聞き飽きた、とっとと無い尻尾を巻いて帰れ、デカブツども」と言い放つ。
 逆上した【雷神】、手を伸ばす。ベラドンナを叩き潰そうとする。

ベラドンナ
「ジャンヌ・ダルク! 我が【騎士(ドラウグル)】!!」

 瞬間、轟音と共に【雷神】が押し潰される。
【雷神】が立っていた場所に、別の機甲歩兵が立っている。
 ジャンヌ・ダルク、機甲歩兵(メルカバ)【ラ・ピュセル・ドルレアン】に搭乗(※この時点で、容姿は明らかになっていません)、【魔神】ヴェルダンディはその頭上を浮遊している。
 ジャンヌ・ダルク&ヴェルダンディ登場。
 悠然と見守るベラドンナ。その背後に、複数の影が忍び寄る。
 影たち、黒装束で全身を覆っている。その正体は、【鉄火の王国】が放った暗殺者たちだ。

(※彼らは、ベラドンナ抹殺のため、姫巫女ソルカダニと魔法士たちによる転移魔法で送られた刺客です。【風神】【雷神】はあくまで囮役です)

 暗殺者たち、「覚悟!」と言い放ち、ベラドンナ目掛けて殺到する。

ベラドンナ
「土方歳三! 我が【騎士(ドラウグル)】!!」

 瞬間、暗殺者たちが両断される。
 予兆もなく現れたのは、黒塗りの棺を背負った漆黒の軍服の美丈夫。
 その背後に控えるのは、【魔神】ペルセポネ。
 土方歳三&ペルセポネ登場。

ベラドンナ
「我が忠実なる臣下にして、超戦士たる【騎士(ドラウグル)】たちよ! 我が敵どもを殲滅しろ!」

 ジャンヌと土方による戦闘が始まる。

ナレーター
「終末の刻が訪れた時、ヨルムンガンドは呪縛を打ち破り、陸に這い出た。その怒りは凄まじく、古き神々を滅ぼすことになった」


〇【異世界】の森 (朝)

ビリー
「えーと、あのー、つまり……だからさ、いきなりぶっ放したのは悪かったよ。でも、あれはあのデカブツ(※レッサードラゴン)からアンタたちを助けるためだったんだって、マジで! ってか、アンタが同じ【騎士(ドラウグル)】だったなんて知らなかったんだよ、マジで! つーか、助かったからいいだろ、だから……もう許してぇぇぇぇぇ!!」

 ビリー、まくしたて、泣きだす。お仕置きとして地面に直に正座させられており、頭にはでっかいタンコブがある。【名無し】の剣士にぶん殴られてできたものだ。
 隣には、【魔神】イシス。彼女もまた、正座させられている。「なんでワタクシまでこんな目にッ……!」と怒っている。
 ディスコルディア、その光景を指差して「ぎゃーっはははは!」と大爆笑している。
【名無し】の剣士はその様を無視し、焚き火で焼いた串に刺した肉(※レッサードラゴン)を食べている。
 そんな様を、少し離れた個所から見るキリ。

キリ
「【騎士(ドラウグル)】……って? この人たちが?」


〈ルーザー=デッド・スワロゥ 第4話 了〉