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ひと騒動があった夏祭りから数週間後、北峰高校は新学期を迎えた。
あれから南雲第一がいつ突撃してくるかと構えていた岸谷くんたちだったが、トップである高御堂晃から「今後一切関わらない」といった内容を、高御堂の取り巻きが直接言いにやってきた。岸谷くんは何か察したようだったけど、何も言わなかった。
その日を堺に、北峰と南雲の喧嘩は減っていった。何十年前のマドンナ争奪騒動から続いたこの喧嘩も、ようやく幕を閉じることになるだろう。
それもあってか、校内が以前より明るく活気に溢れた様子で賑わっていた。
「さぁ、文化祭の準備進めるよー!」
本日の授業をすべて終えた放課後前のホームルームでは、文化祭委員が中心となって、教室の内装や展示物について説明が行われている。
夏休みが明けたばかりとはいえ、すでに文化祭まであと二週間と迫ってきていた。秋の季節に行う当校の文化祭は、夏休み期間中に部活内での出し物や屋台、クラスごとのパフォーマンス練習を含めて、休みが少しだけ長く取られている。夏祭りでの屋台が練習用として出してたのもその為だった。
私がいるクラスは、展示を兼ねた休憩スペースの提供だけのため、夏休みは準備することも何もなかったから、クラスメイトに会うのも随分久々だった。
「机は四つで一つの島を作って、テーブルクロスを掛ける予定だから、机の中は空にしておいてください。それと、今まで授業で作ってきた模造紙を持ってきたので、どれを飾るか決めたいです。今日はこれだけ決まったら解散! 部活の準備に行く人は行っていいよ。だから早く決められるように協力してください」
実行委員の瀬野さんの一言で皆の目の色が変わった。教卓に並べられた模造紙を一人が広げると、皆が群がって内容を確認していく。北峰のクラス替えは、入学時と二年生へ進級するだけ。担任も昨年から変わっていなかったから、すべて先生が管理してくれていたらしい。
なかでも量が多かったのは、二年の時に社会の授業で作られた豆知識年表だ。班ごとに過去の偉人をピックアップし、その人の生涯を掘り下げてまとめたもので、あっと驚くエピソードや悲しく辛い事実が出てくるたびに、誰もが目を輝かせた。
模造紙にまとめるのだって、小学生の夏休みで出された自由研究以来で懐かしいと笑いながら、それぞれ楽しそうに書いていたのを思い出す。
「あ、おい。袴田の名前があるぞ!」
クラスメイトの一人が声を上げた。模造紙に大きく書かれたタイトルの右下にある、班員の名前の中に「袴田玲仁」の名前を見つけたらしい。走り書きのように書かれたその文字は、袴田くん本人が書いたものだ。
「袴田って意外にちゃんと授業受けてたよな」
「確かに……よく喧嘩してるから怖いと思ってたけど、話してみたらそんなことなかったし」
「いい奴だったよな!」
思い出話に花を咲かせるクラスメイトに、私はそっと周りを見渡した。いつもなら嬉しそうに頬を緩める彼の姿は、今日もない。
「井浦さん、どうかした?」
「……ううん、何でもない」
誰もいない教室の一番後ろにある窓側の席を見つめながら、声を掛けてくれたクラスメイトに適当に答えた。
ひと騒動があった夏祭りから数週間後、北峰高校は新学期を迎えた。
あれから南雲第一がいつ突撃してくるかと構えていた岸谷くんたちだったが、トップである高御堂晃から「今後一切関わらない」といった内容を、高御堂の取り巻きが直接言いにやってきた。岸谷くんは何か察したようだったけど、何も言わなかった。
その日を堺に、北峰と南雲の喧嘩は減っていった。何十年前のマドンナ争奪騒動から続いたこの喧嘩も、ようやく幕を閉じることになるだろう。
それもあってか、校内が以前より明るく活気に溢れた様子で賑わっていた。
「さぁ、文化祭の準備進めるよー!」
本日の授業をすべて終えた放課後前のホームルームでは、文化祭委員が中心となって、教室の内装や展示物について説明が行われている。
夏休みが明けたばかりとはいえ、すでに文化祭まであと二週間と迫ってきていた。秋の季節に行う当校の文化祭は、夏休み期間中に部活内での出し物や屋台、クラスごとのパフォーマンス練習を含めて、休みが少しだけ長く取られている。夏祭りでの屋台が練習用として出してたのもその為だった。
私がいるクラスは、展示を兼ねた休憩スペースの提供だけのため、夏休みは準備することも何もなかったから、クラスメイトに会うのも随分久々だった。
「机は四つで一つの島を作って、テーブルクロスを掛ける予定だから、机の中は空にしておいてください。それと、今まで授業で作ってきた模造紙を持ってきたので、どれを飾るか決めたいです。今日はこれだけ決まったら解散! 部活の準備に行く人は行っていいよ。だから早く決められるように協力してください」
実行委員の瀬野さんの一言で皆の目の色が変わった。教卓に並べられた模造紙を一人が広げると、皆が群がって内容を確認していく。北峰のクラス替えは、入学時と二年生へ進級するだけ。担任も昨年から変わっていなかったから、すべて先生が管理してくれていたらしい。
なかでも量が多かったのは、二年の時に社会の授業で作られた豆知識年表だ。班ごとに過去の偉人をピックアップし、その人の生涯を掘り下げてまとめたもので、あっと驚くエピソードや悲しく辛い事実が出てくるたびに、誰もが目を輝かせた。
模造紙にまとめるのだって、小学生の夏休みで出された自由研究以来で懐かしいと笑いながら、それぞれ楽しそうに書いていたのを思い出す。
「あ、おい。袴田の名前があるぞ!」
クラスメイトの一人が声を上げた。模造紙に大きく書かれたタイトルの右下にある、班員の名前の中に「袴田玲仁」の名前を見つけたらしい。走り書きのように書かれたその文字は、袴田くん本人が書いたものだ。
「袴田って意外にちゃんと授業受けてたよな」
「確かに……よく喧嘩してるから怖いと思ってたけど、話してみたらそんなことなかったし」
「いい奴だったよな!」
思い出話に花を咲かせるクラスメイトに、私はそっと周りを見渡した。いつもなら嬉しそうに頬を緩める彼の姿は、今日もない。
「井浦さん、どうかした?」
「……ううん、何でもない」
誰もいない教室の一番後ろにある窓側の席を見つめながら、声を掛けてくれたクラスメイトに適当に答えた。