「この町の対ドラゴン防衛は一段落といったところだ。この後は――まだ戦っているであろう他の都市部の応援に向かいたい」

 ガイウス隊長が言った。

「俺が一人で行きます」

 立候補する俺。

「レオンさん!?」
「俺なら、片っ端から撃墜できるはずだ。全員で行動するとどうしても遅くなるからな。俺が一人でそこらの都市部を回っていった方がいい」

 足手まとい、とまでは言わないが、やはり一人で戦う方が身軽だ。
 今回の戦いでそう感じた。

「え、えっと、でも……まあ、確かにできそうだけど」

 戸惑うマナ。

「だが、いくらお前が強くても体力的な限界はあるだろう」

 ガイウス隊長が言った。

「はっきり言って、お前は貴重な戦力だ……貴重すぎる戦力だ。だからこそ、無茶は絶対にダメだ」
「ガイウス隊長……」
「疲労から万が一の不覚を取ったらどうする? お前を失うことは、王国にとって大きな損失だぞ。お前がいなければ救えない命が大勢いる。それを自覚しろ」
「……はい」

 確かに一理ある。
 この都市での戦いは、はっきり言って楽勝だった。

 だけど俺自身、全開戦闘が可能なのはどれくらいの時間なのか、把握しているわけじゃない。  何せ、今までは模擬戦や訓練用のダンジョンでの戦いしか経験してないからな。
 こういう本物の実戦は初めてなのだ。

 やっぱり、もう少し慎重になるべきだな。
 止めてくれたガイウス隊長に感謝だ。

「とりあえず――最寄りの都市に行こう。お前の力なら、おそらく簡単にドラゴンを全滅させられるだろう」

 と、ガイウス隊長。

「その後は、お前の消耗度合いを測りながら、順番に最寄りの都市を移動していく……というのでどうだ?」
「そうですね。妥当だと思います」
「異議なしです、隊長」

 他の冒険者たちが言った。

「君たちはどうする? もともと助っ人的な位置づけだし、ここで引き揚げてもらっても構わない」

 ガイウス隊長がマナたち四人に言った。

「あたしは――レオンさんについていきます」

 マナが即答する。

「俺も彼の活躍を見てみたいので」
「一度引き受けた任務だ。最後まで一緒に行くさ」
「そうだね」

 ランディ、ヴァーミリオン、クーデリアの三人が言った。

「じゃあ、全員で行くことになるな。半刻ほど休憩と準備に費やし、それから最寄りの都市に出発だ」



 次の町に着くなり、俺は駆け出した。

 前方には、町に降り立ち、ブレスを吐いたり、爪や牙、尾で建物を壊しまくっているドラゴンが十数体いる。
 さらに上空にもブレスを吐いて空爆してくるドラゴンが何体もいた。

 この都市に派遣された上級冒険者チームがそれを迎撃しようとしているが、押されている様子だ。

「あいつらをまとめて吹っ飛ばす――」

 俺は加速した。

 攻撃スキルや魔法を連打。
 ドラゴンを片っ端から倒していく。

 戦い自体は、前の都市と似たような展開だった。
 ほぼすべてのドラゴンを、俺が一撃で倒す。

 そうやって順番に片づけ、最後の一体まですべて討った。

「ふう……」
「……やっぱり、お前一人でいいのかもしれんな」

 ドラゴン討伐を終えて一息ついていると、ガイウス隊長たちが追い付いてきた。

「単独行動してすみません。町のあちこちが襲われていたので、とりあえずドラゴンたちを倒していこうと思って」
「……いや、お前の力ならそれで正解かもしれん。はっきり言って、俺たちはついて行くことさえできない」

 ガイウス隊長がため息をついた。

「……この調子で、他の都市のドラゴンも倒していっていいですか?」
「無茶はしないと約束できるか?」

 と、ガイウス隊長。

「もちろん。俺だって死にたいわけじゃないですから」

 俺は約束した。

 そして――ドラゴンに襲われている各都市を回ることになった。



 三日後。
 俺は、合計七つの都市でドラゴンを掃討した。

 他にも襲われている都市はいくつもあったみたいだけど、そのころにはドラゴンの大群はそろって逃げ出したそうだ。
 どうやら俺を恐れたらしい、と聞いた。

 そして、ドラゴンを統率する存在が、ドラゴンたちを引き上げさせたのだ、と。

「ドラゴンを統率する存在、か」

 今後は、ドラゴン軍団の再襲来に備え、上級冒険者たちだけじゃなく各国の騎士団や魔法戦団が連係して対処するそうだ。

 そして、俺もその戦力の一翼を担うことになる、と国の偉いさんが俺のところまで来て、言ってきた。

 再就職のために冒険者学校に入っただけのオッサンだった俺が、いつの間にか世界を救う戦力の一つになろうとしている――。

 急展開すぎて、頭がついていかない。
 それでも、俺は闘志にあふれていた。

 リンにもらったこの力で、多くの人たちを救う。
 実際に戦ってみて、やりがいや使命感があふれてきたのだ。

「戦うぞ、もっと――」

 とはいえ、今後の戦いはもっと激しくなるだろう。
 俺自身、力の使い方をもっと学んでおきたい。

 もっともっと自分の力を効率よく使えるように。

 ただ、トレーニング相手がいないんだよな。
 あの学園最強のヴァーミリオンでさえ、俺は一蹴してしまった。

 強いて言うなら、得体のしれない力を使うランディあたりか。

 ――いや。

「……そうだ、相談できる相手が一人いるぞ」

 俺はハッと気づいた。

 俺にこの力を授けてくれた存在――。
 リンこと氷燐竜王である。

 よし、あいつを訪ねてみよう。