冴えないおっさん、竜王のうっかりミスでレベル1000になり、冒険者学校を成り上がり無双

 三日後――。
 今日は学内トーナメント二回戦が行われる日だ。

「がんばろうな、マナ」
「うん。今日の相手もランキング上位の人だけど、せっかくレオンさんに強くしてもらったもんね。絶対勝つよっ」

 マナは気合十分のようだ。

「その意気だ」

 俺たちは互いの拳を合わせた。



 まずは俺の試合。

「いくわよ、オッサン!」

 魔法使いタイプの女子生徒が杖を振るう。

 確か学内ランキング30位くらいだったはずだ。
 とはいえ、その威圧感はヴァーミリオンには遠く及ばない。

「【ファイア】!」
「【ブリーズ】!」

 放たれた火炎を、俺の魔法が凍りつかせた。

 俺自身の力を使いこなす練習として、今回は魔法縛りで行ってみよう。

 つまり、魔法だけを使って勝つ――。
 俺は彼女を見据える。

「あ、あたしの魔法をこんなにあっさり……」

 攻撃を相殺された彼女は、かなり驚いているようだ。

「くっ……【サンダー】!」
「【プロテクション】!」

 続いて放たれた雷撃魔法も、俺の防御呪文があっさりと弾き返す。

「オッサンのくせに……ぐぬぬ」

 歯がみする彼女。

 ……別にオッサンでもいいじゃないか。
 俺は内心でぼやいた。

 なんか、アラサーってだけで毛嫌いされてないか?
 そりゃ、この学園の生徒はほとんどが十代の若者だけど。

「中々やるわね……【ウィンド】!」
「【アブソーブ】!」

 風魔法は吸収魔法ですべて吸いこんで消去。

「【ソニックブーム】!」
「【リアクト】!」

 さらに衝撃魔法は反射魔法で跳ね返す。

「ひっ!? ひあぁぁぁぁぁぁっ……!」

 あ、跳ね返した衝撃波がそのまま対戦相手を吹っ飛ばしてしまった。

「攻撃するつもりはなかったんだが……」

 一発でKOだ。
 俺は彼女に走り寄った。

「大丈夫だったか?」
「うう……大丈夫……あなた、強すぎぃ……」

 彼女は目を回していた。

「ほら、立てるか」

 手を差し出す。

「……ふん」

 口を尖らせつつ、彼女は素直に俺の手を取った。
 力なく立ち上がる。

「【ヒール】」

 俺は回復魔法で彼女を癒やした。

「あ、あれ、楽になった……?」
「ダメージは消しておいた。悪かったな。あんな風に君を吹っ飛ばすことになるのは予想外だった」
「…………」

 彼女は俺をしばらく見つめ、

「……ありがと」

 ぼそりと礼を言った。

「勝者、レオン・ブルーマリン!」

 それを待っていたかのように、審判が宣言する。

 特に苦戦することもなく圧勝だった。

 いくつかの防御呪文を試せたことが収穫か。
 相手との力の差がありすぎて、単なる作業じみた戦いだった――。



 三十分後、今度はマナの試合だった。

「クーデリア先輩を倒したからっていい気になるなよ。剣士なんて間合いに入れなきゃ怖くもなんともねーよ!」

 魔法使いタイプの男子生徒が叫んだ。

「くらえ! 【魔弾連射】!」

 光弾を連続で二十発ほど撃ってくる。
 一発一発の威力は大したことがないが、とにかく連射性に優れた魔法だ。

 迫る光弾群を、

「あっそ。でも、それくらいの弾幕じゃ、あたしは止められない――」

 マナはすべて見切り、あっさりと避けてみせた。

「スキル【加速】」

 そのまま突進して距離を詰める。

「ひ、ひいっ! 【魔弾】――」
「遅い」

 二度目の連射魔法が発動するより早く、マナの剣が対戦相手の喉元に突きつけられた。

「ま、参った……」

 こちらも瞬殺だ。

 だんだん、マナに風格が出てきたな。
 本当に、強くなった――。



「やったー! 見ててくれた、レオンさん!」

 試合が終わるなり、マナが駆け寄ってきた。

「ああ。すごかったぞ」
「えへへ、学内トーナメントが始まってから、一日一にが楽しいの。こんなに毎日が充実してるなんて、学園に入ってから初めて」

 マナがにっこりと俺を見つめた。

「全部、レオンさんのおかげだよ。本当にありがとう」
「礼なんていいって。それに俺は後押しをしただけで、あれは本来マナの力だからな。ただ成長を早めただけだ」

 説明する俺。

「へえ、仲いいんだね、君たち」

 と、銀髪に赤い目をした美少年が歩み寄ってきた。
 ランディだ。

「俺はこの後に試合があるんだ。よかったら見ていってよ」
「そうだな。準決勝で当たるんだし、研究させてもらうか」
「怖いなぁ。お手柔らかに頼むよ」
「はは、がんばれよ。ランディ」
「おーけー」

 気軽に返事をして、ランディは試合場へと歩いていく。
 完全にリラックスしていた。



 そしてランディの試合――。

「が、がは……っ」

 その生徒は地面に這いつくばったまま、起き上がれないようだ。

 一瞬――だった。
 ランディの繰り出した攻撃によって、対戦相手は倒れたのだ。

 ただ、その攻撃が問題だった。

「なんだ、今のは……!?」

 俺は表情を険しくする。

 何も、見えなかった。
 ランディの仕掛けた攻撃が、何も。

 ただ、おそらく――単純なパワーやスピードじゃない。
 もっと『別種の何か』が対戦相手を打ちのめしたのだ。

「もし俺があの対戦相手だったら――今の攻撃を防げたんだろうか……」

 戦慄する。

「レオンさん……?」
「あいつ、強いぞ」

 こちらを見たマナに、俺は言った。

「準決勝、なかなかハードな試合になるかもな」



 ランディ・クルーガー。

 おそらくは――。
 この力を授かってから初めて出会う、強敵だ。
 三回戦以降も、俺やマナの快進撃は続いた。

 とにかく圧勝に次ぐ圧勝。
 瞬殺に次ぐ瞬殺。

 俺たちはあっという間に準決勝進出を決めた。
 レベル1000の俺やパワーレベリングを重ねたマナは、もはや学内に敵はいないレベルになっていた。

 いや、もしいるとしたら――。

「勝者、ランディ・クルーガー!」

 今、眼前で準決勝進出を決めた彼くらいだろう。

 あいかわらず、ランディの攻撃は正体不明だ。
 試合が始まったかと思うと、次の瞬間には対戦相手が倒れている。

 単純なパワーやスピードとは異なる攻撃のようだが……。
 その正体は、未だ見切れなかった。



「いよいよ決戦だね」

 観客席にいる俺とマナの元に、ランディがにっこり笑顔で歩いてきた。

「準決勝進出おめでとう」
「ありがとう。君もね」

 俺の言葉に爽やかな笑顔を返すランディ。

「楽しみだよ。俺と君……どちらが上か。熱い勝負をしよう」

 と、ランディが手を差し出す。

「ああ、お互い頑張ろう」

 その手を握り返す俺。

 ――どくんっ。

 鼓動が、高鳴る。

「なんだ……?」

 ランディに触れていると、俺の中の何かが熱く脈を打つような感覚があった。

 一体、なんだろう――?



「あれがレオン・ブルーマリンか……」
「学内ランキング一桁を五人撃破したんだってよ……」
「学園最強のヴァーミリオンにも圧勝だったよな……」
「ちょっと前までは、ただのオッサンだったよな……いつの間にあんな強く……」
「素敵……おじさま……」

 学内を歩くたびに、さまざまな生徒が俺を見て噂を立てる。
 中には女子のうっとりした声も混じっていた。

 ちょっと前までなら考えられない光景が、今の俺には日常になっていた。
 学内上位の生徒にとっては、これが当たり前の光景なんだろうか。

 いわゆる『勝ち組』の連中にとっては――。
 人生で一度もそんな境遇になったことがない俺には、分からない。

 とりあえず、今の状況は悪くない心境だ。

 居心地もすごくいい。

「あ、あ、あの、これ、よかったら読んでくださいっ」

 いきなり現れた女子生徒から手紙を渡された。

「えっと、君は……?」
「読んでくださいねっ」

 言うなり、彼女はすごい勢いで走り去っていく。
 さらに、

「あ、それじゃ私のも読んでくださいっ」
「ずるい、あたしのもっ」

 何人もの女子生徒が続けざまに寄ってきては、俺に手紙を渡す。
 そして全員が走り去っていった。

 俺の手には合計で七通もの手紙……まあ、いわゆるラブレター的なものじゃないだろうか。

 まだ読んでないけど、たぶん。

「この俺がモテ期突入とはな……」

 思わず苦笑してしまう。



 ――どくんっ!



 ふいに、俺の胸の中で何かが激しく脈を打つ。

 心臓が、苦しい。
 体の内側が熱く燃え盛る。

「う……ぐ……」

 俺はその場に膝をついた。

「レオンさん!?」
「ちょっと、どうしたんですか!」

 周囲の生徒たちが集まってきた。

「ち、ちょっと気分が……」

 俺は苦笑しながら、みんなに言った。

 どくん、どくんどくんどくんどくん……っ。

 心臓の鼓動が早鐘を打つ。
 どんどんと脈動が早くなっていく。

 このまま心臓が爆発してしまうんじゃないかという不安感。

 と、そのときだった。



 ごごごごごごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!



 空が、大地が、激しく震えた。

「なんだ……!?」

 反射的に窓の外に目を向ける。
 そこにある光景を見て、俺は呆然と目を見開いた。

「こ、これは――」

 空を覆い尽くすほどの、無数の飛行生物。

「まさか……」

 俺は乾いた声でうめいた。

 あれは全部――ドラゴンだ。

 ドラゴンの、大量発生。

 もし仮にあれらが全部人間の町に降りてきたら、国単位で壊滅するだろう。
 それほどの大群だった。

 あまりにも突然の、ドラゴンの群れの出現に、頭がついていかない。

 なんだよ。
 なんなんだよ、これは――?

「うわー、派手に現れたね」

 のんきな声とともにランディが歩いてきた。

 大物というか、肝が据わっているというか、ランディは全然ビビってないようだった。

「大丈夫かい、レオン」
「えっ、あ、ああ……」

 気が付けば、胸の鼓動は徐々にゆっくりと落ち着いてくる。

「何が起きたのかは分からないけど、とりあえず校舎を出た方がいいね。もしドラゴンが校舎を襲ったら……最悪、生き埋めだ」
「……そうだな」

 胸の鼓動はだいぶ落ち着いてきた。
 なんとか動けそうだ。

「あ、その前にマナを探していいか? 心配だ」
「レオンさーん!」

 言ったとたんに、マナが走ってきた。

「じゃあ、三人で降りよう。他の生徒たちも避難を始めているよ」
「分かった」

 俺たちは他の生徒たちに交じり、一階まで降りる。

 それから校舎の外に出た。

 あらためて空を見上げると、一面にドラゴンの群れ、群れ、群れ――。

 これから、一体何が起ころうとしているんだ――?

 俺は戦慄とともにその光景を見上げていた。
 ――生徒たちはいったん学内で待機ということになった。

 学外の状況が詳しく分かるまで、外に出るのは禁止ということだ。

 噂話レベルではいくつもの情報が入ってきている。

 突然ドラゴンの大群が現れ、各国を急襲しているとか。
 それに対抗すべく、各国も精鋭の戦士、魔法使いたちが迎撃に向かっているとか。
 ドラゴン軍団を指揮するのは古代の竜王だとか。
 あるいは魔王が復活し、ドラゴンたちを操っているとか。
 あるいは、これはとある大魔法使いの召喚魔法だとか。

 とにかく出所不明、真偽も不明のうわさが飛び交っている。

「なんか……突然、大変なことになっちゃったね」

 マナが俺の隣で言った。

 現在、俺たちは試合場がある会場で思い思いの場所にいる。
 俺はマナやランディと一緒だった。
 前回の演習でパーティを組んだ二人組の女の子――ローズとメルも後から合流し、この五人で固まっている。

「あたし、怖いなぁ……レオンさん、いざとなったらあたしを守ってよね」
「私も怖いです。レオンさぁん……」

 二人は左右から俺に引っ付き、甘えてくる。

「むむむ」

 マナがなぜかムッとした顔をしていた。

「ふふ、モテモテだね、レオンは」

 ランディがくすりと笑った。

「そ、そういうわけじゃ……」
「ははは、照れてるのかい? 年の割には可愛いところがあるんだね」
「年上に向かって可愛いとか言うな」
「ごめんごめん」

 謝るランディ。

「それはそうと――」

 俺は周囲を見回した。

「とにかく、この辺りの状況を知りたいよな……」

 思わずため息が漏れる。
 それから、ハッと気づく。

「そうだ、遠くの様子を見ることができるスキルがあるかも」

 調べてみたところ、この状況にぴったりのスキルがあった。

【千里眼】。
 視力だけじゃなく知覚自体を何百倍、何千倍にも増大させるスキルだ。
 さっそく使ってみる。

「あれは――」

 ドラゴンの大群が空中で乱舞していた。
 眼下には都市部がある。

 ここから最寄りの商業都市だ。

 ごうっ!

 ドラゴンたちがいっせいに吐き出したブレスにより、建物が焼かれていく。
 空中からの爆撃である。

 数百人の魔法使い――おそらく国から派遣された魔法戦団だろう――がいっせいに魔法を撃って、これを迎撃する。

 無数の光が飛び交う、激しい爆撃戦だった。

 すでに人間たちとドラゴン軍団の戦いが――戦争が、始まっているのか。

 俺はごくりと息を飲んだ。



 ……やがてドラゴンたちは去って行った。

 町の被害はひどいものだ。

 どうやら人々は前もって避難したらしく、人死には出ていないか、ほとんどないようだ。

 それでも――大惨事である。

「くそ、なんだよこれ……」

 まさに災害だった。
 黙って見ているだけなんて、できない。

「俺も何かやらなきゃ――」

 自然と拳を握り締めていた。
 握り締めた拳が震えていた。

 胸の奥から熱い衝動が湧き上がる。

 戦わなきゃ。

 俺には常人を超える力があるんだから。

 戦いたい。

「戦ってやる――!」
「えっ、一人で行くなんて危ないよ!」

 マナが叫んだ。

「けど、俺は――」

 言い返そうとしたそのときだった。

「レオンさん、マナさん、ランディさん、ここにいたんですね! 学園長がお呼びです」

 一人の女子生徒が駆け寄ってきた。

「学園長が?」
「お急ぎください。今回の事態に関することのようです」

 と、連絡係らしいその生徒が促す。

「――分かった」

 どういうことだろう?
 怪訝に思いつつも、俺たち三人はローズやメルと別れ、連れ立って学長室に向かった。
 



「おおよその事態は察しがついていると思う」

 学長室に着くなり、学園長からそう言われた。

 室内には俺たち三人の他に、二人の生徒がいた。

 炎のように赤い髪をした勝気そうな少年。
 青い髪をツインテールにした美少女。

『学園最強』のヴァーミリオンと『女帝』クーデリアだ。
 どうやら、集められたのは俺たち五名らしい。

「現在、各ギルドから上級冒険者が派遣され、いくつかのチームに分かれてドラゴンの迎撃にあたっている。が、人手が足りない状態だ。そこで、我が学園からも成績上位の生徒を派遣することになった」

 と、学園長。

「学内トーナメントや今までの成績から見ると、君たち五人ならドラゴンにも対抗できると踏んだ。上級冒険者のチームに加わってくれないか」
「俺たちがドラゴン討伐を――」
「もちろん、君たちはまだ学生だから支援が主な役目だ。もっとも危険な役割は、経験豊富な上級冒険者たちが担う」

 学園長が俺たちを見回す。

「ただ、こうしている間にもドラゴンたちによる被害は増え続けている。手をこまねいて見ていることはできん」
「分かりました。行きます」

 俺は即決した。

「さすが、レオンくんだね。そうこなくちゃ」

 ランディが嬉しそうだ。

「もちろん、俺も行きますよ。学園長」
「あたしもです」

 マナが言った。
 その声が震えている。

 たぶん、本当は不安で怖いんだろうな。

「大丈夫。レオンさんと一緒なら――」

 マナがこっちを見た。
 うなずく俺。
 と、さらに、

「はん、俺様の足を引っ張るなよ」
「ふん、あんたたちと味方になるとはね」

 ヴァーミリオンもクーデリアも尊大な感じだった。
 俺やマナに完敗したよね、君たち……。

「ははは、これが現時点での学園トップ5だろうね」

 ランディは楽しそうだ。



 そして――俺たち五人はドラゴン討伐戦へと挑む。
 上級冒険者――。

 それは、冒険者の中でも特に実力を認められた精鋭たちだ。

 そんな人たちだけが集められた選抜チームに、俺たち五人も参入することになった。

「うう、緊張するぅ」

 マナが両手で体を抱くようにして言った。
 小柄な体が震えている。

「ふん、そんな弱気でどうするのよ」

 クーデリアが鼻を鳴らした。

「私たちは学園のトップクラスなのよ。上級冒険者と比べたって引けは取らないわ」
「そ、そうでしょうか……?」
「あんたは私に勝ったんだから! シャンとしなさい!」
「そうだな、マナは強いよ」

 俺は彼女に言った。

「それに今回は一人じゃない。みんながいる。上級冒険者の人たちだっているだろ。大丈夫大丈夫」
「そ、そうだね……ありがと、レオンさん」

 マナがにっこり笑った。

「じゃあ、行こうか。先方をあまり待たせるのもよくないし」

 と、ランディ。

「おい、なんでお前が仕切ってるんだ」

 ヴァーミリオンが不満げに言った。

「やだなぁ、別に仕切るつもりはないよ、ヴァーミリオンさん」

 ランディが微笑む。

「言っておくが、この中でナンバーワンは俺だ」

 ヴァーミリオンが俺たちを見回した。

「先方にはそう紹介するからな」
「でも、レオンさんに負けたじゃないですか」
「ぐっ……! そ、それは、その……いや、でもまだランキング上では俺が一位だし……ぐぬぬ」

 痛いところを突かれたらしく、ヴァーミリオンがたじろいだ。

 意外と強いな、マナ……。

「もう、そういう面子とかどうでもいいわよ。とにかく行きましょ」

 クーデリアが鼻を鳴らした。

 ――というわけで、俺たちは上級冒険者たちの元へと向かった。



 冒険者ギルド『猛虎の爪牙』。

 そこに所属する上級冒険者九名のチームに、俺たちは組み入れられることになっている。

 で、彼らが待機している町の中心部――時計台のモニュメントのところまでやって来た。

「ふん、学生まで駆り出すとはな」

 隊長さんが鼻を鳴らす。

 三十代前半くらいの渋い外見の男だ。
 顔や体にある無数の傷はいかにも歴戦の猛者という感じだった。

 がっしりした体格で、装備は大剣に重装鎧――典型的なパワーファイターのようだ。

「俺たちの足を引っ張るんじゃねーぞ。というか、お前も学生か? 俺と大して変わらない年齢に見えるが……」
「アラサーです」
「三つしか違わないのか」
「まあ、その、再就職のために」
「不景気だしな。けど、冒険者業界も楽じゃねーぞ」
「ですか」
「ああ。ま、お互い三十代同士、がんばろう」

 ぽんと肩を叩かれた。

「ありがとうございます」

 学園だと十代の若者ばっかりだから、こうやって同年代と話すとちょっとホッとする。

「あ、俺はレオンです。よろしくお願いします」
「よろしくな。俺はガイウス」

 ニッと笑うガイウス隊長。

「――隊長、来ました!」

 冒険者の一人が叫ぶ。

 ぐおおおおんっ。

 雄たけびとともに上空から五体のドラゴンが下りてくる。

「よし、陣形を組め! 学生チームは後方支援だ! 学生といっても、ここにいる以上は戦力とみなすから働いてくれよ!」

 隊長さんが発破をかけた。

「上級冒険者チームの一員として――実力と矜持を示せ!」
「了解」

 俺はまっさきに飛び出した。

 向かってくるドラゴンは、全部で五体。
 まとめて吹き飛ばす――。

「お、おい、待て! まず魔法使いチームが先制を――」

 ガイウス隊長が制止の声を上げるが、もう俺は攻撃態勢に入っていた。

「【ドラゴンブレス】!」

 とっておきのスキルをいきなりぶっ放してやった。

 ごうっ!

 放たれた青いブレスが五体を飲みこみ、消滅させる。

「……へっ?」

 ガイウス隊長はポカンとした顔で俺を見ていた。

「い、一撃でドラゴンを全滅……?」
「さあ、次々と行きましょう」



 俺たちは町の中を移動する。

 ドラゴンは数体の編隊を組み、各区域を襲っていた。
 それらを見つけ次第攻撃する俺。

「【ドラゴンブレス】!」

 ドラゴンを七体撃墜。

「【トルネードギガ】!」

 さらに四体を撃墜。

「【フレイムストリーム】!」

 さらに六体を撃墜。

 俺は片っ端からドラゴンを撃ち落としていた。
 手持ちの中で火力が高いスキルをとにかく惜しみなく使う。

「……お、お前、なんなんだ、その攻撃力……」

 ガイウス隊長が、そして上級冒険者たちが全員ポカンとしていた。
 ただただ、呆然としていた。

「もうレオン一人でいいんじゃないかな……」

 そんな声が聞こえてくる。

 まあ、確かにここまでは俺一人でドラゴンを全部倒している。



 ほどなくして――町の上空に集まっていたドラゴンの群れは、すべて掃討できた。

 ……その九割以上を倒したのは、俺である。

「この町を襲ってきたドラゴンを――大半をお前一人で倒すとはな」

 ガイウス隊長はまだ呆然としているようだ。

「レオン・ブルーマリン、だったな。お前、もう所属予定のギルドは決まってるのか?」
「所属予定? いえ……」

 そもそも入学してそんなに時間が経ってないし。

「よかったら、俺たちのギルドに来ないか。お前なら即戦力だ」

 ガイウス隊長がニッと笑う。

「というか、即エースだろう。俺たちとしても強い仲間が入るのは大歓迎だ」
「俺がガイウス隊長たちのギルドに……」
「それに同年代の奴が入るのは嬉しいしな。お前とは気が合いそうだ」
「はは、そうですね」

 それは俺も思う。

 就職先か……。
 もともと再就職のために冒険者学校に入ったんだもんな。

 思わぬ形でアピールできてしまったわけか……。
「この町の対ドラゴン防衛は一段落といったところだ。この後は――まだ戦っているであろう他の都市部の応援に向かいたい」

 ガイウス隊長が言った。

「俺が一人で行きます」

 立候補する俺。

「レオンさん!?」
「俺なら、片っ端から撃墜できるはずだ。全員で行動するとどうしても遅くなるからな。俺が一人でそこらの都市部を回っていった方がいい」

 足手まとい、とまでは言わないが、やはり一人で戦う方が身軽だ。
 今回の戦いでそう感じた。

「え、えっと、でも……まあ、確かにできそうだけど」

 戸惑うマナ。

「だが、いくらお前が強くても体力的な限界はあるだろう」

 ガイウス隊長が言った。

「はっきり言って、お前は貴重な戦力だ……貴重すぎる戦力だ。だからこそ、無茶は絶対にダメだ」
「ガイウス隊長……」
「疲労から万が一の不覚を取ったらどうする? お前を失うことは、王国にとって大きな損失だぞ。お前がいなければ救えない命が大勢いる。それを自覚しろ」
「……はい」

 確かに一理ある。
 この都市での戦いは、はっきり言って楽勝だった。

 だけど俺自身、全開戦闘が可能なのはどれくらいの時間なのか、把握しているわけじゃない。  何せ、今までは模擬戦や訓練用のダンジョンでの戦いしか経験してないからな。
 こういう本物の実戦は初めてなのだ。

 やっぱり、もう少し慎重になるべきだな。
 止めてくれたガイウス隊長に感謝だ。

「とりあえず――最寄りの都市に行こう。お前の力なら、おそらく簡単にドラゴンを全滅させられるだろう」

 と、ガイウス隊長。

「その後は、お前の消耗度合いを測りながら、順番に最寄りの都市を移動していく……というのでどうだ?」
「そうですね。妥当だと思います」
「異議なしです、隊長」

 他の冒険者たちが言った。

「君たちはどうする? もともと助っ人的な位置づけだし、ここで引き揚げてもらっても構わない」

 ガイウス隊長がマナたち四人に言った。

「あたしは――レオンさんについていきます」

 マナが即答する。

「俺も彼の活躍を見てみたいので」
「一度引き受けた任務だ。最後まで一緒に行くさ」
「そうだね」

 ランディ、ヴァーミリオン、クーデリアの三人が言った。

「じゃあ、全員で行くことになるな。半刻ほど休憩と準備に費やし、それから最寄りの都市に出発だ」



 次の町に着くなり、俺は駆け出した。

 前方には、町に降り立ち、ブレスを吐いたり、爪や牙、尾で建物を壊しまくっているドラゴンが十数体いる。
 さらに上空にもブレスを吐いて空爆してくるドラゴンが何体もいた。

 この都市に派遣された上級冒険者チームがそれを迎撃しようとしているが、押されている様子だ。

「あいつらをまとめて吹っ飛ばす――」

 俺は加速した。

 攻撃スキルや魔法を連打。
 ドラゴンを片っ端から倒していく。

 戦い自体は、前の都市と似たような展開だった。
 ほぼすべてのドラゴンを、俺が一撃で倒す。

 そうやって順番に片づけ、最後の一体まですべて討った。

「ふう……」
「……やっぱり、お前一人でいいのかもしれんな」

 ドラゴン討伐を終えて一息ついていると、ガイウス隊長たちが追い付いてきた。

「単独行動してすみません。町のあちこちが襲われていたので、とりあえずドラゴンたちを倒していこうと思って」
「……いや、お前の力ならそれで正解かもしれん。はっきり言って、俺たちはついて行くことさえできない」

 ガイウス隊長がため息をついた。

「……この調子で、他の都市のドラゴンも倒していっていいですか?」
「無茶はしないと約束できるか?」

 と、ガイウス隊長。

「もちろん。俺だって死にたいわけじゃないですから」

 俺は約束した。

 そして――ドラゴンに襲われている各都市を回ることになった。



 三日後。
 俺は、合計七つの都市でドラゴンを掃討した。

 他にも襲われている都市はいくつもあったみたいだけど、そのころにはドラゴンの大群はそろって逃げ出したそうだ。
 どうやら俺を恐れたらしい、と聞いた。

 そして、ドラゴンを統率する存在が、ドラゴンたちを引き上げさせたのだ、と。

「ドラゴンを統率する存在、か」

 今後は、ドラゴン軍団の再襲来に備え、上級冒険者たちだけじゃなく各国の騎士団や魔法戦団が連係して対処するそうだ。

 そして、俺もその戦力の一翼を担うことになる、と国の偉いさんが俺のところまで来て、言ってきた。

 再就職のために冒険者学校に入っただけのオッサンだった俺が、いつの間にか世界を救う戦力の一つになろうとしている――。

 急展開すぎて、頭がついていかない。
 それでも、俺は闘志にあふれていた。

 リンにもらったこの力で、多くの人たちを救う。
 実際に戦ってみて、やりがいや使命感があふれてきたのだ。

「戦うぞ、もっと――」

 とはいえ、今後の戦いはもっと激しくなるだろう。
 俺自身、力の使い方をもっと学んでおきたい。

 もっともっと自分の力を効率よく使えるように。

 ただ、トレーニング相手がいないんだよな。
 あの学園最強のヴァーミリオンでさえ、俺は一蹴してしまった。

 強いて言うなら、得体のしれない力を使うランディあたりか。

 ――いや。

「……そうだ、相談できる相手が一人いるぞ」

 俺はハッと気づいた。

 俺にこの力を授けてくれた存在――。
 リンこと氷燐竜王である。

 よし、あいつを訪ねてみよう。
 俺は自宅の裏手にある祠にやって来た。

 ここに水燐竜王ことリンがいるのだ。

 祠の中に入ると、

「あ、久しぶり~」

 リンが嬉しそうに笑って、走ってきた。

「ああ、しばらくだな」

 前に会ったのは、パワーレベリングのことを教えてもらったときだ。
 それ以来だから、もう一か月くらいになるのか?

 もう半年くらい会ってないような感覚があった。
 が、今はしみじみしている場合じゃない。

「実は、お前に聞きたいことがあって来たんだ」

 俺はさっそく本題を切り出した。

「ん、何? 何?」
「もう気づいてると思うけど、突然ドラゴンの大群が現れた」
「いや、気づいてなかったよ。さっきまで寝てたし」

 ふあ、とあくびをするリン。
 あいかわらずユルい奴だ……。

「気づいてなかったのかよ」
「ドラゴンの大群かぁ」

 つぶやくリン。

「ま、そういうこともあるよね」
「いや、ないだろ。各国の都市が数十体単位のドラゴンに襲われたんだぞ」
「へえ、随分と多いね」

 リンが言った。

「ちょっと探ってみようかな」

 言って、リンが目を閉じる。

 シュンッ……!

 周囲の空気が張り詰め、彼に向かって収束していくような感じがあった。
 リンの『力』が高まっていくのが分かる。

「――なるほど、ね」

 しばらくして、リンが目を開いた。

「どうやら、竜王の封印が解けたみたいだ」
「竜……王?」

 俺はリンをまじまじと見つめる。

「それって――お前以外の、か?」
「そうだね。風を司る『風翼竜王(ふうよくりゅうおう)』だ」



「お前と同じ竜王か……じゃあ、各地に現れたドラゴンは、そいつの部下ってことか?」
「そうだろうね」

 と、リン。

「なんで、突然竜王なんて代物が復活したんだ?」
「それは分からない。確か風翼竜王は、ずっと昔に勇者と戦って封印されたはず。それが何かのきっかけで解けたんだろうね」

 リンが言った。

「風翼竜王は人間が大嫌いだから、手下を使って町を攻撃したんじゃないかな」
「人間が大嫌いって……」
「以前、勇者と戦ったときも『人間が嫌いだから、ちょっと世界を滅ぼしてくる』とか言ってたし」
「いや、気軽に言ってくれるな!?」

 思わずツッコミを入れる俺。

「まあ、そういう気分だったんだろうね」
「割と軽いノリで世界を滅ぼそうとするんだな、竜王って……」
「だって竜の王だもの。人間なんて歯牙にもかけないよ」

 リンがにっこりと笑う。
 が、その目は笑っていなかった。

 そう、にこやかで、親しみやすくて、優しそうにすら見えるこいつだけど――竜なんだ。

 人間とは、別の種族なんだ。
 人間とは、別の価値観を持っているんだ。

 そして――人間の味方、ってわけじゃないんだ。



「なるほど、君の力は水燐竜王から受け継いだものだったのか」



 背後から声が聞こえた。
 かつ、かつ、と足音が近づいてくる。

 この声――。

「ランディ……!?」

 前方に銀髪赤目の美少年が立っていた。

「突然、学園からいなくなるから、どこに行ったのかと思って探したよ」
「お前、どうしてここに――」
「君の気配をたどったんだよ」

 笑うランディ。

「で、そっちが水燐竜王か。人化していても、すぐに分かるね」
「やあ、久しぶり」

 リンがランディに手を挙げた。

「えっ、ランディを知ってるのか、リン?」
「ランディ? 彼の名前かい?」

 リンはキョトンと首をかしげた後、

「人間としての名前は知らないけど、彼は古い知り合いさ」

 ん?
『人間としての』って、どういう意味だ?

 まさか――。

 俺はあらためてランディを見据える。

「懐かしいよ、氷燐竜王」

 そのランディが笑った。
 大気が細かく震える。

 ボウッ!

 ランディの全身が光を発した。

 次の瞬間、雷をまとった竜の姿へと変わっていた。
 黄金の鱗をまとった美しく、しなやかな体をした竜。
 全長は七、八メートルくらいだろうか。

 ドラゴンとしては小さい方だが、押し寄せるプレッシャーは並のドラゴンの比ではない。

「ぐっ……!」

 俺は反射的に後ずさっていた。

 気圧されている。
 この俺が。

 リンからレベル1000の力を授かって、初めて――。
 気が付けば、全身が震えていた。

「こいつ……っ」

 ごくりと息を飲んだ。

 ランディの強さの一端が、分かる。
 本能的に分かる。

 こいつ、おそらくは俺よりも――。

「びっくりした顔だね、レオン。黙っていて悪かったよ。俺の正体を」

 ランディが口の端を吊り上げた。
 おそらく笑っているんだろう。

「君とはいい友だちになれそうだと思った。だから、正体を明かさなかった。けれど――こんなに早く風翼竜王が復活するとは思わなかったよ」
「ドラゴン……だったのか」
「ああ。俺の称号は『雷鳴竜王』」

 告げるランディ。

「世界最強の七大竜王――その一体さ」

 つまりは、リンや風翼竜王って奴と同格の存在か。

「次から次へと竜王が出てくるんだな」
「ああ、俺も驚いているよ」

 と、ランディ。

「……お前は敵なのか、味方なのか」
「さあ、どっちだと思う?」

 ランディが笑った。
 攻撃的な笑みだった。

 ぴりぴりと空気が痛い。
 目の前の竜から、急激に殺気が吹き付けてくる。

 人間の姿だったときには感じなかった、殺気だ。

「少なくとも――味方じゃないな」

 ランディが言った。

「竜王の目的を教えてあげようか。世界の支配、もしくは破滅だ」
「なんだと……!?」
「だから、邪魔になるものはすべて叩きのめす。破壊する。殺しつくす」

 ランディが目をスッと細めた。

「俺も、風翼竜王もそうするだろう。そして、そこの――」

 と、リンを見る。

「……リン」
「ははは、僕はそんな野蛮なことはしないよ」

 笑うリン。

「少なくとも、今はね」
「今は、かよ」

 まったく、どいつもこいつも。
 俺は唇をかんだ。



 どごぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおんっ!



 そのとき、爆音とともに祠全体が揺れた。
 爆風が、衝撃波が、祠の内部に押し寄せる。

「ちっ……!」

 ランディが舌打ちした。

「【プロテクション】」

 と、呪文を唱えるランディ。

 同時に彼と、俺やリンの周囲が防御フィールドに包まれた。
 次の瞬間、祠は跡形もなく吹き飛んだ。

「と、突然、なんだ――」
「どうやら、ここをかぎつけたのは俺だけじゃないようだね」

 ランディが言った。

 その視線の先は、空の彼方。
 上空高くに、巨大な竜がいた。

 全身が翡翠色をした美しい竜だ。
 四対の翼を羽ばたかせて宙を舞っている。

「風翼竜王のおでましだね」

 リンが微笑んだ。

「また、竜王か」

 俺は苦笑した。

 どうやら本格的に『世界の危機』ってやつなのかもしれないな。
 その中で、俺はどうするべきなのか――。

「立ち向かうしか、ないよな」

 再就職のために冒険者を目指す冴えないオッサン――それがこの俺だ。
 そのはずなのに。

 もしかしたら、ここから俺の英雄伝説が始まるのかもしれないな。

「ま、死なない程度に――やらせてもらうぞ!」


※ ※ ※

これにて第一部完結となります。
本作はグラスト大賞に応募しており、エントリー締め切り後は基本的に更新できないみたいなので、ここでいったん一区切り。
続きは賞の結果を見てから、また考えたいと思います。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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