その時だった。

レストランの出入り口の扉が開いた。

「お届け物です。凄い濃霧ですねー」

配達員のような容姿の男性が入ってきた。

その扉の開閉で、沢山の濃霧が入り込む。

配達員は両手で観葉植物の育った鉢を持っている。

ギターの演奏は止まり、客の皆は配達員に視線を向けた。

「すみません。お届け物ですー」

配達員は再び厨房へ声をかけて、手元の伝票に目を通す。

配達員はふと店内をちらりと見た。

「え?」

配達員は店内に顔を向けて動作を止めた。

鋭い視線が配達員を刺す。

配達員は顔をそらす。

「人が集まっていましたし、何かあったんですかー?」

配達員は再び厨房へ声をかける。

「おい! 外はどうなっているんだ?」

老父は立ち上がり、配達員に怒鳴りつける。

「え? どうもこうも、凄い霧ですよ」

配達員は、きょとんとした表情で答える。

「そうじゃない! 悪魔だよ。町はどうなってるんだ」

老父は血相を変えて激しい口調で言う。

「この濃霧の中、運転してきたのかい?」

老婆は畳み掛けるように配達員をぎろっと見て言う。

「え? あ、伝票はここに置いておきますねー」

配達員は逃げるように店外へ出ようとする。

「外に出してはいけません!」

それを見た老婆は叫んだ。

老婆の言葉を聞いた老父は配達員に駆けつける。

そして、老父は配達員を掴みかかる。

老父は配達員を客の皆が集まる噴水へ連れてきた。

老父の隣に配達員は座る。

「外は危険だ。今や、外は悪魔の巣宮と地界は繋がった」

老婆は語る。

「そういう事だ。運転してきたから気付かなかったのかもしれないが、良かったな、ここまで無事で」

老父は、にこっとして言う。

配達員は一つ笑みを返す。

その笑みは引き攣っている。

「皆、よく聞くがよい。霧に触れたこいつは、じき、悪魔になる」

老婆は神妙な口調で言う。

それを聞いた老父は配達員から小さく距離を取る。

「おい、外に出すなって言ったのは婆さんだろ?」

老父は言う。

老父の額に冷や汗が見える。

「外に出してしまっては、ここに居る事が悪魔に、ばれてしまうではないか」

老婆は言う。

老父は言葉を詰まらせる。

「こいつを椅子に縛りつけよ。さもなくば、こいつに、皆、食い殺される」