「3人でなにしてたの? エッチなこと?」
思いがけない来客に、
先客ふたりも驚き目を点に口を開けた。
客人に驚いたのか、
その言葉に驚いたのかは定かではない。
マオの突飛な発言にイサムは鼻水を吹き出す。
「健全な男子の勉強会に、
なんではしたないこと言うんですか。」
「健全な男子ならボノボぐらいしないの?」
「しませんよ。そんなの。」
マオと亜光の会話に意味がわからず、
貴桜とイサムは顔を見合わせ首を傾げた。
「なに? ボノボノって。」
マオの猥談に亜光が返答に窮した。
「女子の間ではいち大ジャンルだそうです。
今日はそういう勉強会でしょ。」
「そんな勉強しません。」
「デブは勉強会のつもりだろうけど、
オレは違うな。」
「あら。ほらほらほら。」
「大介は弟たちの面倒見るのが嫌で
家から逃げてきたんですよ。」
「オレが負けたみたいに言うない。」
「ほんとにただの勉強会ですよ。」
机の上の教則を見せる。
「俺は妹との楽しい休日が台無しだぜ。」
「みんなきょうだいがいるのね。」
「そういやイサムもいたな。」
「兄貴と姉貴だろ。」
「そんな話してた、してた。
勉強で頭いっぱいで。」
「ウソをつけ。サボってたじゃん。」
「んで。海神宮さん、なにしに来たの?
イサムとおデートのお誘い?」
「冗談が下手ね。
引っ越しのご挨拶よ。」
「…だって。これお土産?」
イサムが座卓の真ん中に紙袋を置く。
疑問形で。
ふたりは歓声の後で
覗き見た袋の中身に嘆息を漏らした。
「なに? 肉みそのがよかった?」
海神宮家の御令嬢が用意したとは思えない
ギャップの品物だった。
「あまりご冗談がお上手じゃないね。
あ、前に下見って言ってたな。」
「隣に引っ越してきたんだよ。」
「よりにもよって? なんだそりゃ。」
「八種くんは、
どうしてひとり暮らしなんてしてるの?」
「海神宮さんも知らんのか。」
「本人の希望を無視して
調べる上げることもできるわよ?」
「こえぇ…。」
「姉が僕の保護者になったからですよ。
姉は仕事で転府にいます。あ――。」
「やっちまったぜ。」
貴桜がポテトチップスの袋を開けた瞬間、
中身を盛大にばらまいて嘆いた。
イサムはその前に貴桜の失敗を察して声を上げた。
「ふたりはこっちが地元なんでしょ?」
「そう。大介とは同じ中学だし。」
「そのときは、こいつと
ひと言も喋ったことないけどね。」
「イサムは姉貴がすごい美人のモデルだよな。」
「そうかな。すごい厳しいよ。
それにひとり暮らしの理由というか、
隠してるわけでもないし、調べなくても
聞かれれば普通に答えますよ。」
「なんだ。そうなの? ガッカリね。」
「残念がるところですか。」
「秘密のひとつやふたつあったほうが
楽しいじゃない。調べる方は。」
「こえぇ…。」
亜光が持ち込んだ紙コップに、
粉末の紅茶を入れて湯を注ぐ。
室内にフルーツの香りが漂い
マオが興味深そうに覗いている。
「御令嬢のお口に合うかわかんねぇけど。」
「ポテチ持ってくる御令嬢だぞ。」
「私を貧乏舌だとでも言いたいの?」
「百花がまた怒らせた。」
「俺ぇ?」
「歌手活動辞めて両親が離婚したのを機に、
姉の名字をつかって生活はじめて。
卒業生だった姉に無理やり願書かかされて
こっちに越してきたんですよ。聞いてます?」
マオはポテトチップスと紅茶に夢中だ。
「生活費もその姉ちゃんが出してんだ。」
「いいねぇ。姉弟愛。」
「教師はいつもそれだ。
見ての通り、貧しい思いしてるよ。」
「愛ねぇ。」
亜光が戯れに言った言葉を、
マオはポテトチップスを摘んで繰り返す。
「海神宮さんはホントに
イサムと付き合ってないの?
百花がストーカーじゃないかって
さっきから疑ってるんだけど。」
「おい。言ってませんからね。俺。」
からかい半ばに貴桜が質問をした。
ぶち撒けたポテトチップスの
後始末(拾い食い)をしつつ。
ストーカーの話題を出していた矢先に、
マオ本人に尋ねたので当然それを亜光が止めた。
「なにかの冗談?」
「僕が最近、誰かに見られてる気がして
ふたりに相談したら、亜光が
ストーカーの仕業じゃないかって。」
「そしたら見事なタイミングで
海神宮さんが来たから、こいつが
ストーカーだと疑ってんですよ。」
「大介だって言ってただろぉ!」
巨体が立ち上がって喚く。
もはや勉強会どころではない。
「八種くんひとりを
ストーキングするなら
誰か雇ったほうが早いわね。」
「いやぁ、そこに
愛はあるのかなって話ですよ。」
「ぶっこんでくなぁ、大介。すげえよ。」
「愛があれば、相手に押し迫って
いい理由にはならないわね。
そんなことしたら〈更生局〉が
必要なくなるじゃないの。」
「正論でぶん殴ってきた。」
「ポテチひとつで
部屋まで上がりこんだくせに…。」
「これあまり美味しくないわ。」
イサムのぼやきは無視された。
自分で持ってきたポテトチップスの味は、
どうやらお気に召さなかった。
「ポテチなら自分で作った
できたて熱々が1番ですな…。あ?」
マオは突如立ち上がって額の絆創膏を取ると、
窓から周囲を見渡して外の公園を見下ろした。
亜光の話どころか自分の話でさえ
まるでどうでもいい事であったかのように。
「あぁ、いた…。」
それからマオは絆創膏を貼り付け、
何事もなかった風を装って紅茶を口にした。
10分後、イサム宅に新たな客が訪れる。
思いがけない来客に、
先客ふたりも驚き目を点に口を開けた。
客人に驚いたのか、
その言葉に驚いたのかは定かではない。
マオの突飛な発言にイサムは鼻水を吹き出す。
「健全な男子の勉強会に、
なんではしたないこと言うんですか。」
「健全な男子ならボノボぐらいしないの?」
「しませんよ。そんなの。」
マオと亜光の会話に意味がわからず、
貴桜とイサムは顔を見合わせ首を傾げた。
「なに? ボノボノって。」
マオの猥談に亜光が返答に窮した。
「女子の間ではいち大ジャンルだそうです。
今日はそういう勉強会でしょ。」
「そんな勉強しません。」
「デブは勉強会のつもりだろうけど、
オレは違うな。」
「あら。ほらほらほら。」
「大介は弟たちの面倒見るのが嫌で
家から逃げてきたんですよ。」
「オレが負けたみたいに言うない。」
「ほんとにただの勉強会ですよ。」
机の上の教則を見せる。
「俺は妹との楽しい休日が台無しだぜ。」
「みんなきょうだいがいるのね。」
「そういやイサムもいたな。」
「兄貴と姉貴だろ。」
「そんな話してた、してた。
勉強で頭いっぱいで。」
「ウソをつけ。サボってたじゃん。」
「んで。海神宮さん、なにしに来たの?
イサムとおデートのお誘い?」
「冗談が下手ね。
引っ越しのご挨拶よ。」
「…だって。これお土産?」
イサムが座卓の真ん中に紙袋を置く。
疑問形で。
ふたりは歓声の後で
覗き見た袋の中身に嘆息を漏らした。
「なに? 肉みそのがよかった?」
海神宮家の御令嬢が用意したとは思えない
ギャップの品物だった。
「あまりご冗談がお上手じゃないね。
あ、前に下見って言ってたな。」
「隣に引っ越してきたんだよ。」
「よりにもよって? なんだそりゃ。」
「八種くんは、
どうしてひとり暮らしなんてしてるの?」
「海神宮さんも知らんのか。」
「本人の希望を無視して
調べる上げることもできるわよ?」
「こえぇ…。」
「姉が僕の保護者になったからですよ。
姉は仕事で転府にいます。あ――。」
「やっちまったぜ。」
貴桜がポテトチップスの袋を開けた瞬間、
中身を盛大にばらまいて嘆いた。
イサムはその前に貴桜の失敗を察して声を上げた。
「ふたりはこっちが地元なんでしょ?」
「そう。大介とは同じ中学だし。」
「そのときは、こいつと
ひと言も喋ったことないけどね。」
「イサムは姉貴がすごい美人のモデルだよな。」
「そうかな。すごい厳しいよ。
それにひとり暮らしの理由というか、
隠してるわけでもないし、調べなくても
聞かれれば普通に答えますよ。」
「なんだ。そうなの? ガッカリね。」
「残念がるところですか。」
「秘密のひとつやふたつあったほうが
楽しいじゃない。調べる方は。」
「こえぇ…。」
亜光が持ち込んだ紙コップに、
粉末の紅茶を入れて湯を注ぐ。
室内にフルーツの香りが漂い
マオが興味深そうに覗いている。
「御令嬢のお口に合うかわかんねぇけど。」
「ポテチ持ってくる御令嬢だぞ。」
「私を貧乏舌だとでも言いたいの?」
「百花がまた怒らせた。」
「俺ぇ?」
「歌手活動辞めて両親が離婚したのを機に、
姉の名字をつかって生活はじめて。
卒業生だった姉に無理やり願書かかされて
こっちに越してきたんですよ。聞いてます?」
マオはポテトチップスと紅茶に夢中だ。
「生活費もその姉ちゃんが出してんだ。」
「いいねぇ。姉弟愛。」
「教師はいつもそれだ。
見ての通り、貧しい思いしてるよ。」
「愛ねぇ。」
亜光が戯れに言った言葉を、
マオはポテトチップスを摘んで繰り返す。
「海神宮さんはホントに
イサムと付き合ってないの?
百花がストーカーじゃないかって
さっきから疑ってるんだけど。」
「おい。言ってませんからね。俺。」
からかい半ばに貴桜が質問をした。
ぶち撒けたポテトチップスの
後始末(拾い食い)をしつつ。
ストーカーの話題を出していた矢先に、
マオ本人に尋ねたので当然それを亜光が止めた。
「なにかの冗談?」
「僕が最近、誰かに見られてる気がして
ふたりに相談したら、亜光が
ストーカーの仕業じゃないかって。」
「そしたら見事なタイミングで
海神宮さんが来たから、こいつが
ストーカーだと疑ってんですよ。」
「大介だって言ってただろぉ!」
巨体が立ち上がって喚く。
もはや勉強会どころではない。
「八種くんひとりを
ストーキングするなら
誰か雇ったほうが早いわね。」
「いやぁ、そこに
愛はあるのかなって話ですよ。」
「ぶっこんでくなぁ、大介。すげえよ。」
「愛があれば、相手に押し迫って
いい理由にはならないわね。
そんなことしたら〈更生局〉が
必要なくなるじゃないの。」
「正論でぶん殴ってきた。」
「ポテチひとつで
部屋まで上がりこんだくせに…。」
「これあまり美味しくないわ。」
イサムのぼやきは無視された。
自分で持ってきたポテトチップスの味は、
どうやらお気に召さなかった。
「ポテチなら自分で作った
できたて熱々が1番ですな…。あ?」
マオは突如立ち上がって額の絆創膏を取ると、
窓から周囲を見渡して外の公園を見下ろした。
亜光の話どころか自分の話でさえ
まるでどうでもいい事であったかのように。
「あぁ、いた…。」
それからマオは絆創膏を貼り付け、
何事もなかった風を装って紅茶を口にした。
10分後、イサム宅に新たな客が訪れる。