5月9日、今日は彼女の19歳の誕生日だ。

「やっと僕と同い年になったね」
「うん。でも、4カ月もすれば今度はエディさんが一足先に大人になるじゃない」
「まぁね。やっとお酒も煙草もいける歳になるんだと思うと、18歳が成人っていうのは何となく都合よくないかなって思っちゃうね。肝心なところで自己責任問われて、今まで守られていたものから突き放されて。部分的に法の縛りがある時点で、10代はまだまだ子ども扱いなんだなとか」
 期間限定の同い年の時間。こういう些細な日常すら特別だと思えるのは、リア充の特権なのだと身をもって知った。

例のダブルデート作戦は一旦白紙になったが、梨歩の回復が思いの外早く、先日漸く実現し、作戦通り山本(もう敬う気持ちにもならないため呼び捨て)に一泡も二泡も吹かせてやった。特に武蔵君の変貌ぶりが相当堪えたようで、悔しかったのか謎の経験値マウントをとり始めたところで、武蔵君の彼女の玲美ちゃんに「何を自慢したいのかわからない。超絶ダサいからやめたほうがいいよ」と言われてかなりショックを受けていた。
で、今度は若葉ちゃんに狙いを定めてにじり寄りながら鼻の下伸ばして胸元覗こうとしてたから、マネキン入りのボストンバッグで弾き飛ばしてやった。何か言っていたが、聞こえないふりをして残りの時間は目一杯楽しんだ。誰も傷つけない、思いやりに満ちた時間は究極の幸せだ。

 ああ。恋って不思議なもので、大切なものを守るためには恐怖心や不安すら正義や勇気に変わる。清々しい気分で迎えた彼女の誕生日。

「今日は、若葉ちゃんに見せたいものがあって」
 彼女の誕生日に何をプレゼントするか考えた。
 考えたけど、結局よくわからなくなって。
 考えるのをやめて、僕がしたいことをすることにした。
「見せたいもの?」
「うん。ついてきて」

 ここは僕のバイト先。今日は定休日だから店は閉まっている。

「あ~らぁ、相変わらずお熱いわねえ」
 この人は、いつだって神出鬼没だ。

「え、ロゼさん? こんにちは……」
 休日も店にいるなんて、この人は何て仕事熱心なんだと思うだろうか。
いや、そんなことはない。

「相変わらず暇そうだね」
「オ~ッホホホ。姐さまをなめんじゃないわよ、エディ。ほら、こっちよ」
「サンキュー」