花の誓いを永遠に___。

瞳を開いた時私は元々居た祖母の家に居た。
日付を見てみれば既に2日もたっていて、私は無性に泣きたくなった。
私は泣いた。
一日中、声が枯れるまで。
涙が、枯れるまで。
一日が終わるまで。
私の泣き声や汚い嗚咽が静かな祖母の家に無機質に響いた。私の肌には冷めた風が触れていた。まるで私を責めるように、風の通らない祖母の家にいる私の肌に冷めた風が触れていた。

一日中泣いて落ち着いた私は、予定通り本を探す事にした。祖母の家には巨大な本棚が隠されている事を私だけが知っている。

「確か、祖母の寝室に隠されていた筈…。」

予想通り祖母の寝室にある棚を開くとそこには巨大な本棚が隠されていた。本の数は見るだけでも千冊はゆうに超えている事がわかる。そこから本を管理している機械へ向かい、知りたい本の名前や特徴を検索する。

「これは…魔法?で良いのかな。」

検索してみると置いてある場所は祖母が大切なモノのみを置いている金庫室に置いてあるとでてきた。祖母の金庫室にはパスワードと指紋が必要で限られた人しか出入りが出来ない様になっている。その為、私が入る事ができるかはわからないのだ。

行ってみると案外ぬるっと入る事が出来た。金庫室のパスワードはその人の生年月日と指紋。それで開くことが出来る。まさか開くとは思ってないで少し驚いたが感謝して入った。
そこには祖母の大切にしていたものが沢山詰まっていた。そして、中心に色葉が座って待っていた。

「久しぶり。ここまで辿り着いたみたいだね。」

寂しそうに色葉は微笑む。

「なんでここにいるの?」

私の問いに色葉はきちんと答えてくれた。

「頼まれたの。私が死んだ後にあの子必ずここへくる。だから来た時にこの本を渡してくれってね。」

色葉は本を持って私へ渡した。そしてまた、消えた。
あぁ、祖母はわかってたんだ。私の気持ちも行動も何もかも。それが嬉しくて、悲しくて、私の瞳にはまた、温かいもので溢れた。
それを零れないよう頑張って、頑張って。
私は本を読んで見ることにした。

"親愛なる結香へ"

「きっとお前さんは追い詰められて追い詰められてここに来たんだろう?
わかるさ。私にはね。
何が嬉しくてお前さんはは頑張ってるんだい?
何が生き甲斐でなんの為にお前さんは、そんなに頑張ってるんだい。私はね、お前さんを見る度に、考える度に悲しくなるよ。昔はね。お前は、幸せそうだったじゃないか。」

「なのに、なのに、何がどうしてそんなに追い詰められてしまってるんだい!」

その一文を読んだとき、私は祖母に怒られた気がした。何年か前に亡くなった祖母に面と向かって怒られた気が、した。
いつの間にか窓が空いていて、季節を感じさせる風が吹いていた。
「私はね、お前さんに幸せになって欲しいんだよ。正直に言うとねぇ、深月なんて私にとってはどうでもいいんだよ。結香、お前さんが幸せになってくれればね。お前さんは本当はね、あの子の娘として、深月の双子の妹として産まれる筈じゃあなかったんだ。それなのに……それなのに……。」

長い長い空白の後に一言祖母は書いていた。

「………お前さんが深月を求めたんだ。深月がお前さんを、結香を求めたんだよ。」

その言葉に私は胸が締め付けられた。

「本当は教えるべきではないかも知れないが、私はもう死んでいる。ここに書き留めなかったら何もわからなくなってしまうから。だから、思い詰めないでおくれ。」

「話を変える。真面目な話だ。
結香は消えない方法を求めてここまで来たんだろう?正直に言おう。お前さんが消えない方法など無い。色葉はまだ少し未熟だ。一人前であったならお前さんが消えなくても良い方法があったかも知れない。でも、完全ではなかったその"魔法"は完成する事も崩壊する事も無い。ずっと、ずぅっとお前さんに残り続ける。だからな、奇跡が起こるのなら、その"魔法"は消えるかもしれない。けれどお前さんの気持ちが強すぎる。"消えたい"と言う気持ちが強すぎるんだよ。私にとってはお前さんが消えても消えなくてもどっちでもいい。本当にどっちでもいいんだ。なぜなら私はお前さんが幸せなら何でもいいからだ。お前さんが消える事が幸せなら私は止めもしない。応援はしないかもしれないが。私はいつでも結香の中にいるからね。大変なとき、辛いとき、嬉しいときでもなんでも共有できる。だから、結香。残りの人生を楽しんでおいで。」

"結香を愛する祖母より。"

祖母はこんなにも私を気遣って、愛してくれていた。なのに私は何も祖母に何もできなかった。今さら後悔しても遅いのに、祖母になにか返したかったな。と今更ながらに思う。
祖母の本…いや、祖母の言葉に押された私の心には爽やかな風が吹いていた。
花の誓いを永遠に____。



『キミは昔からすぐ壊れてしまいそうな程儚い。』
終章

  白のカーネーションを君に。



「お師匠様はね、結香なんだよ。」

「え…?どういう、こと?」

色葉があまりにも唐突に突拍子もない事をいうから、私は困惑してしまった。

「きっと結香は佐野くんから世界の事を聞いたと思うの。同じ人がいるもう一つの世界の事を。」

「それは、聞いた。パラレルワールドの様なものがあってそこには私と莉斗だけが入り込めるっていう話。」

「うん。そしてきっとそこでは深月が事故で亡くなった話もおそらく聞いている筈。そこまではあっては一応いるの。でも、まだ少し佐野くんでも知らない事が残っている。」

知らない事。それはたかが一般人である私が知っても良いことなのか。世界のお偉いさんでも知らない話を今、私達はしている気がする。

「もう一つの世界、ここではパラレルワールドと仮定するね。それはきっと佐野くんと結香しか入り込めないって行ったけど本当は誰でも入れると言ってしまえば入れてしまうの。ただ、起きた記憶とかは全くの別物だからそこがパラレルワールドなのか私達の現在いる世界なのか区別がつかないの。でも、佐野くんはそのパラレルワールドに入っているという自覚が出来る。だから結香も入り込むことができると思ってしまった。実は結香はパラレルワールドに入っているという自覚はあってもそれをうまくコントロールできないから記憶が混同して長い間意識をおとしていたんだよ。」

ていうか普通自覚してそれをコントロールできる佐野くんの方がおかしいんだよ!って色葉は少し笑い混じりに言ったけれど、結局私も今はコントロールできる側にいてしまうから莉斗と同類なのではとも思う。

「そして、不思議なのが音羽ちゃんとけいとちゃん。現在の世界だと霧矢音羽、姫崎けいとという名でパラレルワールドだと新木音羽、七瀬けいとという名で同一人物でありながら名字が違い、現在の世界とパラレルワールドの二つの記憶を一つの記憶として存在しているの。だから、彼女達は結香が倒れた後パラレルワールドの方でも結香の事を心配していた。パラレルワールドでは結香は倒れていないから。というかそもそも学校に転入してきていないから学校に結香のことを知っている人はいないんだ。」

パラレルワールドの私は学校に行っていない…?
だとしたら、パラレルワールドの私は何をしているの?まだ、生きている?それとも深月が事故で亡くなったとしたら引っ越してそのままそこの学校に入ったって事なのかな。

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