「…き!…つき!深月!」
「んっ…なぁに?」
「なに?じゃないよ!もう実験終わったよ?」
そんなんだ。と私が軽く返すと、
「もう!しっかりしてよ。次、私の係だから先に行くね。ちゃんと教室戻って来てね。」
係だからって急いでたのに荷物を持ち安い様にまとめて、わざわざ私を起こすなんて、どんだけけいとは過保護なんだろう。
私もしっかりしなきゃな。
毎回思うけど、音羽とけいとは、一周回って私の親だと思う。なんなら親が良かった。
と言うか、なんの実験だったのだろうか。後で2人に聞こう。そしてノートを写させてもらおう。
数学が好きな私は待ちに待った数学!という訳にもいかず、ただ私は嫌いな振りをする。深月は数学も嫌いで得意じゃなかったから。
いっその事死んでしまえやしないだろうか。どうせ叶わない願いであって願う事さえ馬鹿らしくなってくる。
それにしても授業中は暇だ。
さっき睡眠は十分に取れたし、イラストでも描くか。
本当は深月はイラストは嫌いなんだけど……。
私は好き。イラストって自由なんだ。好きな事を描けるし、やりたい事や不満をぶつけられるから本当に大好き。親にバレたら大変だけれど私の居場所だから。
イラストを描く為にスケッチブックを出そうとした時、教室の扉が開いた。
「失礼します。3年3組佐野 莉斗です。第2理科室の鍵をお借りしてもよろしいですか?」
彼が言い切った瞬間、私達は目をあわせた。
私はとても驚いたし、彼も驚いていた。
まず私は、彼(バスケバカ)がこの学校に在席している事さえも把握していなかった。
「ほい。」
「ありがとうございます。そして、天雪結香さんと少しお話をしたいんですけれど……」
「結香さん?結香なんて名前の方はこのクラスにはいないわ。なんか…ごめんなさい。」
クラスメイトが天雪結香と言う名の新しい生徒と、彼が王子やら何やらで騒いでいる中、私は俯き黙り込んでいた。
「いや、大丈夫です。しっかりと名簿を確認していなかった俺のミスです。それでは、失礼しました。」
少し立て付けの悪い教室のドアは音を立ててしまった。
彼が姿を消しても尚、教室のざわめきは収まる事を知らなかった。
次の瞬間、亜希先生が"パンッ"と自分の手を合わせ音を鳴らした。
「授業が脱線したわね。再開しましょう。」
いつもおちゃらけている亜希先生もやる時はやるんだな。と再確認した。
授業は着々と進み、私は絵を描いて数学は終わった。
幸いな事に、先程の数学での出来事が大事にはならなかった。
まぁ、出来事について話していた人は居たけれど。
次の英語も、数学と同じ様絵を描いて終わった。
次はお昼休み。私はお昼ご飯を食べないし、一緒に過ごす友達も居ない。
音羽とけいとは、彼氏の所だろうし、屋上でも行こうかな。
教室よりも重く硬い屋上のドア。
予想以上に"ギギィー"と嫌な音が響く。
そんな事は露知らず、どこまでも広がって居る澄んだ青空。
私は屋上に寝そべった。
日光により温まった地面が、まだ少し肌寒い気温をカバーしていて丁度良い。
そのまま瞳を閉じ、仮眠でも取ろうかと思ったその時、"ギギィー"とまた嫌な音が響く。
扉が開いたと言う事は誰かが来たと言う事だ。
だから私は、屋上では無く他の場所へ行こうと考えた。
「えっ……?」
私は、屋上に来た人物を見て硬直した。それは彼も同様…とは行かず、私が居る事を知っていたかの様に話しかけて来た。
「ここ、生徒会専用なんだけど。」
話しかけられた事に戸惑いながらも返事をする。
「そうなんだ。勝手に入ってごめん。」
私は足早にこの場を立ち去ろうとした。
けれど、彼が「待てよ。」と話しかけてきたから立ち去る事は叶わなかった。
無視をするのも気が引ける為、私はきちんと返事をした。
「何か用ですか?」
と言うか私は何も知らないのだ。
屋上が生徒会専用なのも、彼が生徒会なのも。
「驚いただろ。俺が生徒会に入ってるのは。」
「うん。」
正直驚いたから、嘘をつかず素直に伝える。
なんたって彼は面倒臭がりだから。
「なんで結香じゃ無く、深月として過ごしてんの?」
私も彼も何も言葉を発さない。でも、私はこんな空気から、早く逃げ出して仕舞いたくて、もう行くね。と言葉を発し、足を動かした。
それでも彼は、私が考えて居る事なんてお見通しの様に私の行く手を阻む。
「誓い__。覚えてる?」
"誓い"その言葉に私は感情的になってしまった。
「誓いなんて忘れられる訳無いじゃん……!」
「知的なお前が珍しいな。」
私は反論する気力も、落ち着いて話す事も出来なく、瞳から流れるこの空っぽな涙を止める術さえ無くてただ彼に背を向けて屋上から立ち去る事しか出来なかった。
結局私は弱いのだ。さっきも彼から逃げてしまった。荷物も全て置いて、どこかに逃げてしまいたくて、学校から飛び出して来てまった。
そんな弱虫な私が今居るのはとある廃ビルの屋上。
ここなら誰も来ないし、好きなだけ空を見ていられる事が出来る。
今日は、澄んだ綺麗な青空。
空は好き。でも、晴れは嫌い。そして、晴れが好き。言っている事なんてバラバラで矛盾している。でも…それで良い。私という存在。人という存在が曖昧なのだから、言っている事がバラバラでも別に良いと思う。まぁこれは私個人の意見だけれど。
ここに来る度に、ここから飛び降りたらどうなるんだろう。と考える。みんなは喜ぶ?悲しむ?憐れむ?
実にくだらない。どうでも良い。なのに考えて仕舞うのかなんて永遠の謎だ。
このまま私という存在が消えて仕舞えばいいのに。考えながら溜息をつく。
溜息をつくと幸せが逃げるというけれど、結局あんなの迷信。けれど、信じている人と信じていない人で口論が起きる事がある。本当にめんどくさい。
最終的に価値観の違いが生じるから無意味なのに。
今日もまた謎が増えた。永久に解けない謎が。
いつかは解けるかも知れない。なんて淡い期待するだけ無駄なんだから捨てれば良い。
"いつか"なんて一生来ないんだから。
帰る場所も荷物も無い。これからどうしようと考えながら、私は廃ビルを後にした。
それにしてもどうしようか。
廃ビルの出口で考える。
荷物は学校で有り、自由の無い私の家は隣に莉斗の家が有る。
さっき絶対に泣き顔見られたし、まずあいつと顔を合わせたくもない。今の時刻は5時半前。
……走って帰ればギリギリあいつが帰ってくる前に家につく時間だ。迷っていても時間が減って行くばかり。私は走って帰る決心をした。
ちなみに私の足の速度は普通。速くも遅くも無い。だから鉢合わせる可能性も充分に有る。
それでも帰りたい理由は寒いからだった。
____10分後。
暫く立ち、家が見えて来た。
私が鍵を見つけ、顔を上げるとそこには莉斗が居た。私は極力こいつと関わりたく無い。
こいつの瞳には、全て見透かして居る様で、あの綺麗な瞳に何が映っているのかが分からなくて、頭がグルグルする。そして、同仕様に無く泣きたくなるんだ。
昔はこんな風じゃ無かったのに……全部全部。莉斗のせいだ。私は知っている。ただ莉斗にあたってるだけって事を。
こんな事、顔には出ない様に無理矢理笑顔を作った。全てを誤魔化す様に。
でも、莉斗は、私が必死に作った壁を崩す様に、私に現実を突き付けるんだ。
「……泣きたいなら泣けよ。そんな気持ち悪い作り笑いなんてしないで。」
この一言に、私の心のストッパーが"ぷつんっ"と音を立てた様に切れた。
「さっきは誓い。今は泣きたいなら泣け。何も知らないのに無責任な事言わないでよ。」
私は、自身を嘲笑う様に言った。自分で言っていても馬鹿らしいと思う。ほとんど八つ当たりの様な事を何も説明してない奴にした。最低だ。
「いい加減自分が悲劇のヒロインだと思い込むの辞めろよ。いつまでも過去を引きずってんじゃねぇよ。自分だけ知ってる様な言い方しやがって。お前こそ知らねぇだろ。」
私が反抗しようとすると莉斗は言った。
「わかるよ。過去を引きずっちまうのは。でもお前は違う。現実を受け入れるんじゃ無くて逃げてんだよ。無責任?そんな訳が無い。責任が取れるかって言ったら取れないかも知れない。でも、無責任な訳じゃ無い。自分の言葉にはお前よりは責任を持ってる。」
反抗しようにも何もかもが莉斗の言う通りで何も言い返す事が出来なかった。
長い間2人に沈黙が流れる________。
次第に晴れていた空は曇って行き雨が降り出し、強くなって行った。まさに今の私の心模様の様に。
雨が降っている為、勿論気温は低い。濡れている身体に冷たい雨と低い温度が染み渡り、身体が芯から冷えて行く。
「ちょっ。2人して何してんの!?」
長い沈黙を破ったのは親友の音羽だった。
「あー2人共濡れてんじゃん。莉斗はもう帰りな?流石に莉斗の世話は出来無いからさ」
「ん。」
けいとと莉斗の短い会話。
「じゃあ深月。家に入ろ?」
音羽の優しい心配する声。
全てが今の私に向けられてはいけない物で、私の心を更に沈ませる。
あぁ……。この優しさが"深月"としてでは無く、"結香"としてだったら良かったのに。
そうしたら素直にこの優しさに甘える事が出来ただろうに。
私の心に呪いとなって過去の記憶が蘇る。
あの時私が、あんな事を言わなければこんな事にはならなかったのに。
今更悔やんだところでなんににもならないのに。
過去なんて絶対に変えられないのに。
『いい加減自分が悲劇のヒロインだと思い込むの辞めろよ。いつまでも過去を引きずってんじゃねぇよ。自分だけ知ってる様な言い方しやがって。お前こそ知らねぇだろ。』
さっきの莉斗の言葉が頭に反芻する。
そうだよ。全部莉斗の言う通りだ。私はいつまでも過去に捕らわれている。過去を呪う事しかしない。
それでも私は、過去から開放される術を知らない。足が前へ進まない。
過去を受け入れる為にこの地に引っ越して来たのに受け入れる覚悟が無い。
これじゃあなんの為にこの地に来たのか分からない。
そもそもなんでこんな事になったんだっけ。朝変な事を考えてそこから莉斗と再会して。
あぁ、あれだ。莉斗が言った"誓い"という単語に私が過剰反応しただけだ。結局私が始めたんじゃないか。
足に絡まるアンモニウムはいつ解けますか……?
私の記憶はここで途切れた____。
✻華✻
サクラソウの想い
嘘だ。これは何かの冗談だ。
俺は絶対に信じ無い。
俺が家に入ろうとした瞬間に君が倒れた事なんて。
『__が死んだ事なんて私は信じない!』
なんて、いつかのドラマで言っていた事。
俺は、何言ってんだ。起こってる事が事実なんだから信じる信じないの話じゃないだろ。馬鹿みたい。って簡単に考えてた。
でも、実際に起きてみたらこうだ。死んだ訳では無いけれど、君が倒れた事なんて俺は信じたく無い。
それも、俺の言った言葉のせいかも知れないなんて、どこかの誰かさんと同じじゃ無いか。
今になって君の気持ちが分かったよ。
俺の行動が、俺の言葉がどれ程無責任だったかが。
今更理解した所でもう遅い。もう意味が無い。
"過去を引きずるな"なんて無理な話だ。
「ごめん。」
もう届く事の無いかも知れない言葉。まだ伝える事は出来るかな。
これ位期待しても良いよね。どうか伝える事の出来ます様に。
君が瞳を開かなくなってもう3日___。
いつになったら君はその繊細で綺麗な深みのある海の様な藍色と澄んでいて透明感のある青空の様な綺麗なオッドアイの瞳を開いてくれる?
やっと再会出来たと思ったのに。君はまた、俺から離れて行く。幾ら、俺が君に謝りたくとも。君へ届かないよ。
ねぇ。いつになったら君はまた昔みたいに笑いかけてくれる……?
どれだけ過去を悔やんだら、未来へ足を進める事が出来る?
俺はもう、後悔で押しつぶされそうで怖い。君はいつもこんな思いをしていたんだね。
俺は、朝の挨拶の騒がしさが「嫌いだ。」何も知らないのに呑気に喋っている姿がそこら中に見えるから。ほとんど八つ当たりみたいなものだけどな。
「はぁ…」
きっと俺は今日も無意識な内に君の病室へ行って、「ごめん」と呟くよ。君が望んでいなくとも。
君がその綺麗な瞳を開いてくれるならば俺は、過去の事、俺の心の内の事、全て告白する。これで俺の罪が消える訳では無いし、清算する気も無い。
ただ、今まで出来なかった分君に尽くしたいんだ。君の為になるんだったら何でも、少しでも俺はやるよ。
元々、君と再会したら全て告白するつもりだったんだ。でも、俺は意気地なしだから君を目の前にすると全て告白なんてむりだった。
だから次は必ず、必ず全て告白するから。
早く綺麗な瞳で微笑んで見せて……?
俺は君へ見舞いのサクラソウを贈る。
今日は天気が悪い。ねぇ。明日は晴れますか?と無機質な病室に呟く。
それは、無かったかの様に空気に馴染んで消えてしまった。
君が瞳を開かなくなってから2週間。
もう君は綺麗な瞳を開く事が無いんじゃないか。なんて思う程に深く眠っている。
君がいない学校はとても退屈で行きたくなかった。
君の教室を通りすがらに見ると、君がいない事に心配しているのは、新木音羽さんと七瀬けいとさんしかいなかった。
他の人はまるで君なんていなかった様に、先生でさえも君の存在を覚えてはいなかった。
覚えていない振りをしている可能性もあるが、そんな事する必要は無いと思う。
唯一気掛かりだとするならば、何故新木さんと七瀬さんだけ覚えているのか。というか事だけだ。
そんなの考えた所で君は瞳を開かないんでしょ?
いつになったら君は瞳を開いてくれるのかなぁ。
学校でも家でも君の事しか考えられない。
色褪せていた景色を再び色付けてくれたのは君だった。
でも、色褪せた原因も君だった。
だから、また俺の景色を色付けて?
いつになったら俺のクフェアは散るのかな。
いつまで俺はクフェアを咲かし続ければいいの?
何をしても瞳を開かない君に俺は毎日の様に言葉をかけ、花を変える。
そろそろ選ぶ花の種類が無くなりそうだよ。
そんな事思っても意味無いだろうけど。
俺はいつまでも君を想い続けるから、早く瞳を開いて?
何をしても、何想っても瞳を開かない君を待つのは正直苦痛なんだ。
何を見ても感情は動かないし、何をしても君に関連づく。
そんな毎日は退屈で、心は死んでいる。
こんな毎日を過ごすなら死んで仕舞いたいと何回も思った。
それでも死にきれなかったのは、きっともう1度、君の花が咲く様な笑顔を見たかったからなのかも知れない。
きっと丁度2週間後の天気は晴れだから。
その時に、君の笑顔が見える様に俺は頑張りたいんだ。
だから、結香は最高の笑顔を俺に見せてね。
「それじゃあ。また明日来るね。」
『もう全てがどうでも良くなったんだよね。別に私がいたっていなくたって世界はまわるし。』
イベリスの真実
ここは……どこだろうか。
何も無い、真っ白なセカイ。でも、どこか見覚えの有るセカイ。
私は以前もここに来た……?
来た事の無い筈のセカイ。
どこか安心感の有るセカイ。
そこには何がある…?
そっと手を伸ばせば、何も無かった場所に"何か"が現れる。
それは、私が2度と見たくの無い景色。
あぁ……もしも過去を変える事の出来たなら。君は私に振り向いてくれましたか…?
愚問だ。
君の瞳には深月しか映っていないのだから。
先に告白してれば良かったのかな。考えたって仕方が無いのに私はいつも考える。
深月は自殺した。
それだけが私にのしかかった事実だった。
目の前に映る深月の飛び降りる寸前の景色。
飛び降りた理由は、私が深月に「消えれば良いのに」と言ったから。
だからなのかは知らないけれど、深月は私の目の前で飛び降りた。
そこから私はずっと罪悪感と後悔に苛まれている。
当然と言ったら当然の罪なのだけれど、認めたく無い私が居る。
私が見たく無い。と今の景色に背を向けたなら、向けた先にはイベリスの花畑が現れる。
ここは、私を責めるセカイなのか。
もう許してよ。
私は、深月が好きになる前から君が好きだった。
でも君は深月が好きだった。
もう嫌だ。
もう1度過去に戻れるのなら、私は君へ恋をしない。
まぁきっと無理だけれど。
運命から結局抗え無かったからここに居る。
もうイベリスも見たく無い。そうして背を向けると、向けた先には何も無かった。
ただ真っ白なセカイが続いているだけで、何も無かった。
暫くすると、急に身体が浮遊した。
身体が浮いていて、楽しくてうろうろしたら2つの違和感に気付いた。
1つ、ここには出口が無いのだ。真っ白なセカイで、地平線と呼べるものさえ無い。
左右、方角、上下、全てわからない。
2つ、身体が浮く事に何も抵抗が無い事だ。普通、運動もバランス感覚も良い訳では無い女子高校生がバランスを崩さず浮遊する事なんて出来るだろうか。
少し物音がして、今の場所からの下を向けば全く身に覚えの無い景色が広がっていた。
ドンッ
鈍い音が響く。
目の前には、事故の景色。
どういう事だろうか。
事故に遭ったのは深月である。私の目の前で自殺した、深月。
どうして……?
深月が命を落としたのは自殺の筈。なのに、どうして事故で命を落としているの?
ここはきっと私の記憶のセカイ。
だから嫌な深月が自殺した景色が蘇っている。
なのに…全く見に覚えの無い景色が広がっているのは何故?
ここは、私を責めるセカイ。=私の記憶のセカイ。
私の記憶は私を責めるから。
でも、私は知らない。深月が事故に遭うなんて事実を。
ドンッガンッと、また鈍い音が響く。
そこに瞳をやると、昔の私がいた。
「辞めて!私を責めても深月は帰ってこない!」
「うるさい!あんたが深月を殺したのに!」
そうだ。私は深月を殺した。
私の言葉で、深月は死んだ。
だから私は、親に何をされても言い返せなかった。
でも、私は弱いから。自分を保護する為に、一卵性の双子という特性を活かして、深月の振りをした。
だから……
「辞めて!私は結香じゃないよ!深月だよ!」
「!!……ごめんなさい。結香だと勘違いしてしまった。」
私は今も結香では無く、深月として過ごしている。
こんな醜い私を誰が愛してくれるんだろう。
今だったら違う選択を……嫌、今でも同じ選択をとった。
私が深月を殺したのに、親を悪者にする権利なんて無いからね。
もうやだな。このセカイ。
私の精神だけが壊れていく。
もう死んでしまいたい。誰にも気づかれずに。
親にも見放されて、好きな人も悲しませて、私に生きている価値なんてあるのだろうか。
そんな私が、『愛されたい』なんて思うのはきっとおこがましい事なのだろう。
そんな事を考えていたら身体が光に包まれた。
光に包まれ、今までの記憶が目の前にめぐる。
とても不思議な感覚だけれども、嫌な記憶ばかりが巡っていて気持ち悪くなる。
その中でも、私の瞳に止まったのはある1つの記憶だった。
✻ ✻ ✻
雨音が響く__。
雨が酷い中、少女は傘もささずに歩いていた。
そんな中、彼女の入った場所は廃ビルだった。
少女はそこで行き倒れている1人の大学生程の女性に会った。
少女は女性を看病した。
女性は体調が良くなり、少女に話し掛けた。
その女性は、"色葉"と名乗り、自分は魔女である。と言った。
そして……看病してくれたお礼になんでも1つ願いを叶えたい。でも…ここで起きた事は口外しない事を約束に。とも言った。
少女はこの言葉を信じていた訳ではないが、口外しない事を約束し、1つ願いを口からこぼした。
「誰にも気づかれずに泡のように消えてしまいたい」
と。その言葉に色葉は絶句した。
だが、
「どうしてもと言うのなら、貴方は私の恩人ですしね。」
といい、何かを唱えたと思うと、そこにはもう誰もいなかった。
少女が気づかない内に色葉は言った。
「彼女に幸せが訪れます様に。」
と、涙をこぼしながら____。
✻ ✻ ✻
どうしてこんな大切な事忘れていたんだろうか。
色葉。私の大切な友達。
私の数少ない親友なのに、なんで忘れてしまっていたのだろう。
思い出せて良かったと心の底から思った。
色葉の冬に見合わないあの向日葵の様な笑顔は絶対に忘れたくない。
色葉のお陰で生きているんだから。
色葉のお陰で消えられるんだから。
ずっと、死ぬまで感謝しないと。
これが私に出来る唯一の事だから。