翌日は、いつも通りに出社した。
 一見、いつもと変わらぬ光景だが、そこには、いるはずの人間がひとり欠けていた。

 砂夜がいない。
 けれども、この時の俺はまだ、単純に風邪でも引いて欠勤したのだと思い込んでいた。
 いや、思いたかった。

 砂夜の仮通夜には、定時で上がってから、昨晩に電話をしてきた倉田さんと共に行った。
 本通夜ではないから、実家で密やかに行うらしい。

 砂夜とはよく飲みに出かけていても、実家に行くのは初めてだった。
 しかも、亡くなってからお邪魔することになろうとは、ずいぶんと皮肉な話だ。

 家を訪れた俺達を迎えてくれたのは、砂夜の母親だった。
 砂夜よりは大人しそうな印象があるが、目元はやはりよく似ている。

 多分、自分が腹を痛めて産んだ娘だけに、母親の方が断腸の思いでいることだろう。
 しかし、俺達には哀しい顔を見せることはなく、むしろ、口元に笑みさえ浮かべていた。
 それがまた、相当の無理をしているのではないかと、見ているこっちが痛々しい。

 砂夜は案内された一階の一番奥の八畳間の座敷で、静かに横たわっていた。
 そのすぐ後ろには祭壇があり、信じたくなかった現実を突き付けられる。