一夜明けて、ドクトル邸での朝を迎える。

 ソフィアと一緒のベッドで寝る、なんてことになった時は、緊張して眠れるか不安だったのだけど……
 いざ横になって目を閉じると、すぐに眠ることができた。
 色々あったから、疲れが溜まっていたのだろう。

 その後、朝食をいただいて、再び客間に戻る。
 ドクトルは話をしたい様子だったが、昼過ぎまで仕事があるらしい。

 専任について話し合う時間ができましたね、なんてことを言っていた。
 もちろん、そんな話をするつもりはない。
 話し合うことは、これからどう動くか? というものだ。

 専任についての話をすると、

「なるほど……それは、受けた方がいいかもしれませんね」
「え、そうなの?」
「専任になることで、より深いところに潜り込むことができますし、ドクトルも私達を信用するでしょう。不正の証拠をより集めやすくなります」
「うん、それは考えたんだけど、でも、最終的には敵対するわけだよね? 専任になっておいてそんなことをしたら、後々でまずいことになるんじゃないかな?」
「確かにまずいですが、ドクトルが失脚すれば問題ありません。クリフがなんとかしてくれるそうです」
「と、いうことは……ドクトルが失脚しないとダメ、っていうことか」
「そうなりますね……ハイリスクな案件になります。フェイト。やはり、安全安心を第一に考えて、退いたとしても……」
「ううん、それはやらない」

 きっぱりと言う。

 ソフィアが僕のことを心配してくれているのはわかる。
 その気持ちはとてもうれしいし、僕もソフィアを危険な目に遭わせたくない。

 でも、

「ドクトルが好き勝手やっているのなら、放っておくことはしたくないんだ。僕には関係ことなのかもしれない。冒険者をやめればいいだけの話かもしれない。でも……そのことを知って、なおかつ、どうにかできるかもしれないというのなら、僕は、どうにかしたい。自分にできることをしたい」
「はい、わかりました」
「ごめんね、ソフィア」
「どうして謝るのですか?」
「僕のわがままにソフィアを付き合わせることになるから……」
「ぜんぜん気にしていませんよ。むしろ、うれしいくらいです。フェイトのそんな真面目でまっすぐなところを、私は好きになったのですから」
「……ありがとう」

 ソフィアが幼馴染で本当によかったと思う。
 僕にはもったいないくらいの女の子だ。

 でも……いつまでも、こんな考えじゃいけないよな。
 早く彼女に釣り合う男になって、それから、ずっと大事にするんだ。

「じゃあ、専任は引き受ける、っていうことでいいかな?」
「はい、それでいいと思います。ただ、専任になったからといって、すぐに全ての情報が開示されるわけではないと思うので……たぶん、少しずつ汚れ仕事をさせられるでしょう」
「そこは……うん、そうだね。ただ、人を傷つけるようなことはしたくないかな。そうなりそうな時は、ちょっと方法を考えたいかも」
「はい、それは私も同意です。盗賊団の財宝を横流しするのなら、後で取り返せばいいのですが……脅迫とか暗殺とか、そういう話になった時は、別の方法を考えましょう」
「うん。じゃあ、ひとまず、今後の方針はそんなところかな?」
「あ、少し耳に入れておきたい情報が」

 なんだろう?

「アイシャのことですが……もしかしたら、ドクトルが関与しているかもしれません」
「え?」

 思わぬ情報に、ついつい声を大きくしてしまう。

「それ、どういうこと?」
「確たることは言えないのですが、クリフからの情報によると、どうも、ドクトルとその協力者であるファルツは、人身売買にも手を染めていたらしく……」
「もしかして……アイシャは、その被害者?」
「その可能性が高い、とクリフは言っていました。盗賊団に貴重な獣人などを誘拐してもらい、商品として売る……その可能性が高い、と」
「……」

 拳を強く握りしめる。

 あんなに小さな子を誘拐して……
 しかも、奴隷として売ろうとするなんて。

 許せない。
 証拠が揃っているのなら、今すぐにでも斬り捨ててしまいたいくらいだ。

 激しい怒りが湧き上がるのだけど……
 でも、短気はいけない。
 ここでドクトルを斬り捨てたら、パートナーであるソフィアも巻き込まれるかもしれない。
 かといって正規の手順で弾劾しようにも、証拠足りない。

 大丈夫。
 アイシャは、クリフがちゃんと保護してくれているらしい。
 焦らず、できることを確実にこなしていこう。

「うん……教えてくれてありがとう。アイシャのことも注意した方がよさそうだね」
「はい。あと、これは時間があったらでいいのですが……アイシャに会いにいってあげてくれませんか? あの子、フェイトのことが気になるらしくて……」

 なんてことを言いつつ、ソフィアは微妙な顔に。

 もしかして……妬いている?

「あー、この子めんどくさいわねー。あんな小さな子を相手に妬くんじゃないわよ」
「うっ」

 成り行きを見守っていたリコリスが、呆れた様子で言う。
 ソフィアは赤くなり、視線を逸らす。

「で、ですが、それは……」
「はいはい、言い訳はいいの。とりあえず、子供相手に嫉妬して、変なことはしないでよ」
「わ、わかっています!」

 ムキになるソフィアもかわいいなあ、なんてことを考えてしまう。

「じゃあ、専任を受ける、ということで」
「はい、それでいいと思います」
「そこら辺は任せたら。あたしにできることがあれば、ま、協力してあげる」

 三人の意見が一致する。

 さて……これから、どんな展開になるか?
 気を抜かず、しっかりとやっていきたい。



――――――――――



 午後。
 ドクトルが帰ってきた後、専任を引き受けるという話をした。

 ドクトルは、こちらが予想していた以上に喜んでいた。
 僕が、というよりは、ソフィアが味方になってくれることがうれしいのだろう。

 なにしろ、剣聖だからね。
 その力は、個人で小さな国を制圧できてしまうほどだ。

 そのまま、ぽんぽんぽんとスムーズに話が進んだ。
 専任になったことで、ある程度の情報も開示してもらえることになった。
 全てというわけじゃないけど、これは大きい。
 うまい具合に調査を進めれば、確たる不正の証拠を手に入れることができるだろう。

 ……と、良い話はここまで。

 悪い話がある。
 専任になったことで、さっそく、僕達は仕事を与えられた。
 その仕事というのが……

「まさか、アイシャを探し出すこと……なんて」