王都でも評判の高い料理屋『ブルースカイ』を訪ねた。

 常に店内は満席。
 行列は当たり前のようにできていて、2時間待ちが普通。

 そんなすごい店だけど、今回は事件のお礼ということでクリフが予約を取っておいてくれた。
 おかげですんなりと店に入ることができて、美味しいご飯を食べることができた。

「「「はぐはぐはぐっ!!!」」」

 アイシャとリコリス。
 それとレナは目をキラキラと輝かせて、テーブルの上にどんどん空になった皿を積み重ねていく。

「あうー! 美味しい、美味しい♪」
「なにこれ、めっちゃヤバイわね!? ヤバイわね!?」
「うんうん、やっぱりここは美味しいなー! 前に一度食べたことがあるけど、ずっと忘れられなかったんだよね」
「あはは……料理は逃げないから、もっと落ち着いて食べよう? 喉に詰まっちゃうよ」
「ふふーん、この美少女天才ロジカル妖精リコリスちゃんが、そんな無様な姿を見せるわけがむぐぅ!?」

 言った傍からリコリスが喉を詰まらせていた。
 慌てて水を渡して、指先でとんとんと背中を叩く。

「ぷはーっ……し、死ぬかと思ったわ」
「あははっ、リコリスはあわてんぼうだねえ。淑女らしいボクを見習わないと」
「レナのどこが淑女なのよ。あたしと同じく、ガツガツ食べていたじゃない」
「ボクはちゃんと鍛えているから、これくらいなんともむぐぅ!?」

 今度はレナが喉を詰まらせた。
 二人でお笑いをやっているのかな?

 レナは慌てて水を飲んで、ぜーはーぜーはー言う。

「し、死ぬかと思ったよ……」
「まったく……二人共、食事はもっと静かにしてくださいね」
「ぶーぶー、あたしだけ怒られるのは納得いかないわ。アイシャも同じように食べているじゃない」
「あぅ……ごめんなさい」
「アイシャちゃんはいいんですよ。子供だから、たくさん食べないとですからね」
「贔屓!?」

 楽しいな。
 こんな風に、レナも含めて、みんなで笑ってご飯を食べられるなんて思ってもいなかった。

 もちろん、スノウも一緒だ。
 ペットも同伴できる店なのだ。

 スノウは足元でぱくぱくとご飯を食べている。
 一見すると落ち着いているものの、しかし、尻尾はぶんぶんと振られていた。
 顔はクールでも尻尾は隠せない、という感じ?

「でも、本当に美味しいですね」
「うん。店を予約してくれたクリフには感謝しないと」
「感謝なんていらないですよ。あの人、私達をわりと都合よく利用していますからね」
「あはは……ソフィアはクリフにちょっと厳しいね」
「ああいう人は油断ならないので」

 冒険者ギルドをあまり信用していないみたいだけど……
 うーん、ソフィアの過去になにがあったんだろう?

「まあ……今は美味しいご飯に集中しましょうか。すみません、これとこれを追加でお願いします」

 ソフィアは気持ちを切り替えた様子で、新しく注文をしていた。
 リコリスとレナも追加注文をする。

「はふっ、はふっ」
「オンッ!」

 アイシャとスノウは、今ある料理を一心不乱に食べていた。
 目をキラキラ。
 尻尾をぶんぶん。
 とても満足していることは間違いない。

「……」

 みんなが笑顔で。
 楽しい時間が流れていて。
 幸せっているのはこういうことなんだろうな、と思った。

 黎明の同盟との戦いを経て、この光景を掴み取ることができた。
 途中、かなり危ういところもあったけど、なんとか乗り切ることができた。

 運が良かった?

 ううん、そんなことはない。
 運だけの問題じゃない。

 エリン、クリフ、ゼノアス。
 レナ、アイシャ、スノウ、リコリス。
 そして、ソフィア。

 みんながいたからできたことだ。
 誰か一人でも欠けていたら絶対に無理だったと思う。

 でも、それを奇跡と言うつもりはない。
 必然だ。
 みんなの力を合わせた結果だ。

「どうしたんですか、フェイト? なにやら嬉しそうですけど」
「えっと……幸せだな、って思って」
「なんですか、いきなり。ちょっとおじいさんくさいですよ?」
「うっ……」
「ふふ。でも、私も同じ気持ちですよ。アイシャちゃんがいて、スノウがいて、リコリスがいて……まあ、一応、レナもいる。そして、なによりもフェイトがいる」
「……ソフィア……」
「これからも、この幸せは続いていきますよ。だから……ずっと一緒ですよ、フェイト?」
「うん、ずっと一緒だよ」

 僕達は優しく笑い合い、テーブルの下でそっと手を繋いだ。
 ぎゅっと、強く。
 互いの体温を確かめるように、指を絡ませて手を繋いだ。

 ずっと。