「……邪魔をするナ」

 ジャガーノートが低い声でそう問いかけてきた。

「喋った……?」
「神様のようなものですからね。人語も解することができるのでしょう」

 いつでも動けるように構えつつ、ジャガーノートとの対話を試みる。

「あなたは昔、聖獣と呼ばれていたんだよね? 神様のように崇められていた」
「そうダ」
「人間と共存をしていた。獣人も一緒に」
「そうダ」
「そして……酷い裏切りを受けた」
「そうダ!!!」

 ジャガーノートが吠えた。
 怒りと憎しみと、そして悲しみが凝縮された咆哮だ。

「人間は我から全てを奪っタ! 我は様々なものを与えてきたというのニ、連中は我から全てを奪ったのダ!!!」
「それは……」
「なればこソ、我は人間から全てを奪い返ス! 奪われたから奪ウ、当然の話だろウ? 自然な流れだろウ?」

 同情する。

「今度は我の番ダ! 人間の全てを奪ウ! 老若男女関係なク、我の牙と爪で殺してくれよウ! 奴らが築き上げたものを叩き壊してくれよウ! それだけの権利が我にはあるはずダ!!!」

 同情してしまうけど……

 でも、ダメだ。
 ジャガーノートの復讐は正しいかもしれないけど、でも、正しくない。

「悪いけど、邪魔をさせてもらうよ」
「なんだト?」
「あなたの復讐は正当な権利があると思う」
「ならバ……」
「でも、復讐のために手段を選ばないのは間違っている!」

 ジャガーノートは復讐のために獣人を犠牲にした。
 黎明の同盟なんてものを作り上げて、獣人を贄にして、魔剣を作り上げた。

 ……仲間で、家族のはずの獣人を犠牲にしたんだ。
 いや、殺した。

 それを認めるわけにはいかない。
 それだけは認められない。

「あなたはもう、手段と目的がごっちゃになっているんだ。殺せればそれでいい。そのためにはなんでもする……子であるはずの獣人も犠牲にした」
「……うるさイ」
「仲間を犠牲にしてまで果たす復讐が正しいなんて、そんなことあるもんか」
「……黙レ」
「同情はする。でも、あなたの行動は認めない。仲間を犠牲にすることが正しいなんて、絶対に認めない!」
「黙れと言ったゾ、人間がぁああああア!!!」

 ジャガーノートが吠えて、戦闘態勢に戻る。

 結局のところ……

 堕ちた聖獣の心は黒一色に染まっていた。
 憎んで憎んで憎んで、もう殺すことしか考えられない。
 なにをしても、仲間を犠牲にしても、とにかく殺す。殺し尽くす。

 それだけ。

「……悲しい存在ですね」
「うん」

 殺すためだけに生きる生物なんていない。
 でも、ジャガーノートは殺すことしか考えていない。

 なら、その歪な執念を断ち切ろう。
 悲しみはここで終わらせよう。

 そのために……

「あなたを……討つ!」
「やってみロ、人間如きガ!」

 第ニラウンド開始だ。

 ジャガーノートはその巨体を活かして、突撃をしかけてきた。
 かすっただけで終わりだろう。

 大きく跳んで避けて……
 同時に攻撃を繰り出した。

「無駄ダ。我に刃ハ……ナッ!?」

 僕とソフィアの剣がジャガーノートの足を切り裂いた。
 予想外の痛みにジャガーノートの動きが止まる。

「今まで適当に攻撃をしていたと思った? 残念、違うよ」
「どれだけ強靭な毛皮だろうと、同じ箇所を攻撃され続けたら、いつか綻びが生じる。私達の狙いに気づくことができなかったみたいですね」

 何度も何度も足を攻撃して、そして、その防御を突破した。
 確かなダメージを与えることができた。

 いける。

 自信が湧いてきて、小さな笑みを浮かべた。

「うっとうしイッ!!!」

 ジャガーノートはブレスを吐こうとして……

「よいさーっ!」

 どこからともなく矢のように飛んできたレナによって、頭部をはたかれた。