「このっ!」

 瞬間、リコリスが魔法を唱えた。

 部屋が閃光に包まれて……
 視界が戻った後、アイシャとスノウとリコリスの三人は消えていた。
 窓が開いていて、雨戸がキィキィと揺れている。

 よかった。
 うまく逃げることができたみたいだ。

 ただ……

「……」

 ゼノアスは大剣を構えたまま微動だにしない。

「終わりか?」
「……もしかして、三人を見逃してくれた?」
「見逃すつもりはない。しかし、戦士を無視することはできん」
「ありがとう、って言うべきなのかな?」

 まだ剣を交わしていないけど、相当な強敵ということを感じた。
 そんな相手に戦士と認められた。
 素直に嬉しい。

 まあ……
 喜んでいる余裕なんて、すぐになくなるだろうけど。

「……」
「……」

 もう言葉はいらない。
 そう言うかのように互いに剣を構えて、にらみ合う。

 永遠のような時間。
 しかし、一瞬の時間。

「「はぁっ!!!」」

 僕とゼノアスは同時に前に踏み込んだ。

 攻撃は……僕の方が速い。
 体格と剣の違いだろう。
 ゼノアスの肩を狙い、剣を斜めに走らせる。

 速度、角度、間合い……どれも申し分のない一撃だ。
 ソフィアの特訓のおかげで、自分でも満足できる攻撃を繰り出すことができた。

 しかし……

「むぅんっ!」

 ゼノアスは大剣を盾のようにして、僕の一撃を防いだ。
 攻撃を諦めて、すぐ防御に転じる。
 その判断力は相当なものだ。

「なっ!?」

 ゼノアスは大剣を盾のように構えつつ、その状態で突撃してきた。
 剣士なのに剣を使わない。
 突拍子のない攻撃に驚いてしまい、一瞬、反応が遅れてしまう。

「うぐっ」

 直撃は避けたものの、それでも大きく吹き飛ばされてしまう。
 壁に叩きつけられて、衝撃が全身に広がる。

 でも、痛みに泣いているヒマなんてない。
 唇を噛んで別の痛みでごまかしつつ、無理矢理体を動かした。

 直後……

 ザンッ!!!

 大地を割るかのようなとんでもなく重く速い斬撃が落ちてきた。
 斬るというよりも叩き潰す。
 かろうじて避けたものの、衝撃で再び吹き飛ばされてしまう。

「はぁっ、はぁっ……!」
「今、捉えたと思ったが……避けるか。やるな」
「あなたこそ、とんでもないね」

 この人は……なんて、とんでもない人なのだろう。

 平然な顔をして巨大な剣を振り回している。
 それも驚くべきことだけど……
 それ以上に驚愕するべきことは、これだけの戦闘を繰り広げていながら、一切の殺気を放っていないことだ。
 内職をするような感じで、淡々と剣を振っている。
 まるで人形だ。
 だからこそ、どこをどう攻めていいかわからない。

 今まで戦ってきた強敵とは違うベクトルで厄介な相手だ。
 どうする?
 どうやって戦う?