レナの襲来があったこと。
 そして、黎明の同盟の目的。
 それらの情報を、クローディアさんと獣人の里の長を含めたみんなで共有した。

「そうですか、彼らが……」
「あの馬鹿者共め」

 長はしんみりとした様子を見せた。
 そしてクローディアさんは、苛立たしいような悲しんでいるような、そんな複雑な表情になる。

 僕が話をするまでもなく、黎明の同盟の目的、正体を知っていたのだろう。

 それでもなにもしなかったのは……
 たぶん、信じたかったから。

 これ以上、とんでもないことはしないと。
 いつか分かり会えるはずだ、と。
 そう信じていたから、あえてこちらからはなにもしなかったんだと思う。

 甘い考えだ、って言われるかもしれない。
 でも、僕はその方が好きだ。

「申しわけありません、私達の事情に巻き込んでしまいました……」

 クローディアさんが頭を下げるものだから、ついつい慌ててしまう。

「そんな、気にすることないですよ!」
「そうですね」
「しかし……」
「アイシャちゃんとスノウのことがあるので、どちらにしろ、私達も巻き込まれていた……いいえ、この言い方はよくありませんね」
「僕達も関係者です」

 アイシャとスノウは家族だ。
 そして、家族の問題は僕達の問題でもある。

 放っておけるわけがないし、見てみぬ振りもできない。

「なにができるかわからないですけど、協力させてください」
「ひとまずは、用心棒として私達を雇いませんか? お代は、里にいる間、宿を提供していただく、ということで」
「フェイトさん、ソフィアさん……」

 クローディアさんはぐっと言葉を詰まらせて……
 それから、深く頭を下げた。

 そこまでしてもらわなくてもいいのに。
 どちらかというと、僕達、人間のせいでこうなっているわけだから。

「とにかく、対策を考えないといけませんね」
「たぶん、レナは里を探していたんだと思う。まだ見つけていないみたいで、追い払うことはできたけど……」

 この様子だと、里が見つかるのは時間の問題だ。
 そうなると、どうなるか?

 黎明の同盟は、目的と手段を履き違えている。
 獣人の里を見つけたとなれば、復讐のための力を得るために、生贄にしてさらなる魔剣を作ろうとするだろう。

 里の人に犠牲を出すわけにはいかないし……
 下手をしたら、アイシャやスノウも連れ去られてしまうかもしれない。
 それだけは絶対に避けないと。

「ふむ……ならば、結界の修復が急務ですな」

 少し考えてから、長がそう言った。

「結界は、魔物だけではなくて悪意あるものからも守ってくれます」
「そんな便利な機能が」
「もちろん、絶対無敵というわけではありません。その気になれば破壊されてしまうでしょうが……それでも、我らの存在を隠して、時間を稼ぐことはできるでしょう」
「なら、決まりですね」

 次にやるべきことは結界の修復だ。

「アイシャとスノウの力が必要って言ってましたけど、具体的にはどうするんですか?」
「姫様と神獣様に祈りを捧げていただくのです」
「祈りを?」
「想いは、時に強い力となる。姫様や神獣様の祈りとなれば、結界を形成するほどに」
「なるほど」

 火事場の馬鹿力、っていう言葉があるように、想いの力は確かにあると思う。
 そして、それは思いがけない力を発揮するものだ。

「なにか力になれませんか?」
「でしたら、姫様と神獣様と一緒にいてください。お二人のことをとても信頼しているみたいなので」
「わかりました。それくらいなら、もちろん」

 言われなくても二人の傍にいるつもりだ。

「では、さっそく……」
「た、大変です!」

 扉を蹴破るような勢いで、一人の獣人が長の家に入ってきた。

「なにごとじゃ、騒々しい」
「姫様と神獣様がいません!」