強引に作り出した隙。
 そのタイミングに合わせて、現時点で出せる全力を叩き込んだ。

 タイミングは完璧。
 攻撃も最大。

 それなのに……

「あぶな!?」

 レナはありえない速度で剣を戻して、こちらの攻撃を防いでいた。

 刃を防ぐことでいっぱいいっぱい。
 衝撃を逃すことはできなかったらしく、吹き飛ばされる。

 でも……それだけ。

 致命的なダメージではなくて。
 決定的なダメージでもなくて。
 千載一遇のチャンスを逃してしまう。

「まさか、自分の体を盾にするなんてね」

 レナは体勢を立て直した。
 ただ、すぐに攻撃に転じることはない。

 さきほどまでの抜き身の刃のような雰囲気は消えた。
 代わりに、今までと同じように明るく楽しい笑顔を浮かべている。

「うーん……! やっぱり、フェイトはいいなあ。うん、本当にいい!」
「それ、褒めてくれているの?」
「もちろん!」
「今の一撃でもダメだったのに?」
「いやいやいや、アレ、本当にすごかったよ? ボクじゃなかったら、ほとんどのヤツがやられていると思う。リケンでも倒されていたかな?」

 リケン?
 誰だろう?

「普通、傷つかないように戦うものだけど……まさか、その定石を覆して、あえて傷ついて隙を作るなんて」
「結局、届かなかったけどね」
「でもでも、普通、そんなことできないよ? 誰でも……ボクでも、体を盾にするなんてためらっちゃうもん。誰にもできないことをやってみせた……うん。素直にフェイトのことをすごいと思うよ」
「……ありがとう」

 やたらと絶賛される。
 ただ、裏があるのではないかと警戒してしまう。

 その予感は正解。

「ねえ、フェイト。やっぱりボクのものにならない?」
「その話は……」
「イヤなんでしょ? でもでも、やっぱり惜しくなったんだ。ここまでできるフェイトを殺したくなんてないし……あと、惚れ直しちゃった」

 レナは笑顔で言う。

 平常時に言われたらうれしい言葉なんだけど……
 今は殺し合いをしている最中だ。
 一時も油断できない。

「ねえ、ボクのものになろう? そうすれば、ボクがフェイトを鍛えてあげる。今より、もっともっと強くなれるよ。フェイトも剣士だから、強くなりたい、っていう気持ちはあるよね?」
「それはあるけど……」
「あとあと、女の子に向ける欲求も満たしてあげる♪ ボク、尽くすタイプだからね。おいしいごはんを作ってあげるし、お風呂で背中も流してあげる。えっちなことも、なんでも受け止めてあげる」

 えっちなこと、とあっけらかんと言わないでほしい。

 その……
 こんな時だけど、少し恥ずかしくなってしまう。

「あれ? さっきと同じことを言ってる? ま、いっか。それで、どうかな?」

 物騒な場なのだけど……
 これはたぶん、レナの告白。
 彼女なりの本気の告白だ。

 だから、僕も誠実に向き合わないといけない。

「……ごめんね」

 頭を下げた。

「何度告白されても、僕の気持ちは変わることはないよ。僕が好きなのは……ソフィアだ」
「……」

 一瞬だけど、レナが泣きそうになったような気が……した。

「なんで」

 ゾクリと背中が震えた。

「なんでなんでなんでなんでなんで……!!!」

 なんで、と。
 呪詛を吐くかのように、レナがその言葉を繰り返す。

 何度も何度も繰り返して……
 その姿は、まるで子供のようだった。

「初めて欲しいものができたのに。ずっとずっと言う通りにしてきて、ボクの心なんて殺して……それなのに、初めて欲しいものが……! それなのに、また我慢するの? 諦めないといけないの? 仕方ないって、目をそらさないといけないの? そんなの、そんなこと……!!!」
「レナ……?」
「やだ、やだやだやだ……もう、奪われるのはイヤだ!!!」

 レナのトラウマを踏み抜いてしまったのかもしれない。

 彼女は明らかに正気ではなくて……
 瞳から光が消える。
 代わりに剣呑な色が宿った。

 レナは剣を構えて……
 そして、一気に踏み込んできた。

「はや……!?」

 ダメだ、対応できない!?
 僕はどうすることもできず、自分に迫る刃を眺めていた。