信じられないことだけど、僕が倒した魔物はフェンリルの雄だったらしい。
まさか、そんなことがあるわけない。
冗談でしょ?
なんて感想を抱いたのだけど、ソフィアも、彼女を連れてきてくれたゲイル達も口を揃えてソイツがフェンリルの雄だと言う。
「フェンリルの雄が出たと聞いて、慌てて戻ったのですが……まさか、フェイトが倒しているなんて。しかも、無傷で」
「えっと……本当に、コイツがフェンリルなの?」
「そうですよ。フェイトは、幼馴染の私の言葉を疑うのですか?」
「そんなことはないけど……でも、なんか信じられなくて」
僕なんかが、フェンリルを倒してしまうなんて……
「実はフェンリルって、大したことない魔物とか?」
「「「ありえないから!!」」」
ソフィアとゲイル達に揃って否定されてしまう。
「フェイトは、Sランクの魔物の脅威をきちんと理解していますか? 下手をすれば、一匹で街が壊滅するような力を持っているのですよ。私でも、それなりに時間をかけなければ倒せないのに、大したことないなんて、口が裂けても言えませんよ」
「そんなフェンリルを倒してしまうなんて、あんた、とんでもない力を持っていたんだな……剣聖並か? いや、もしかしてそれ以上か?」
「なんとかアスカルトさんを見つけることができたから、すぐに応援に駆けつけたんだけど……」
「生き延びていてくれれば、と思っていたのに、まさか、倒してしまうなんて……」
「いやいや、そんな……運が良かっただけだよ」
「「「運が良いだけで倒せる魔物じゃないから」」」
再び、声を合わせて否定されてしまう。
「まったく……本当にもう!」
「ソフィア?」
ぎゅうっと、ソフィアが抱きついてきた。
突然のことに驚くのだけど、彼女は小さく震えていた。
たぶん、怖かったのだろう。
僕が死ぬんじゃないかと、その可能性を考えて、怯えていたのだろう。
「こんなとんでもないことを勝手にして、私に心配をかけて……もう、フェイトは、本当にもう……!」
「ごめんね、ソフィア。心配をかけてごめん」
「本当ですよ、まったく……」
抱きしめて、頭を撫でて……
しばらくしたところで落ち着いたらしく、ソフィアが赤い顔をして離れる。
「うぅ……私としたことが、こんなにも取り乱してしまうなんて」
「え? どうして、恥ずかしそうにしているの?」
「それは、だって……」
「心配してくれたことは、不謹慎かもしれないけどうれしいよ。ソフィアが同じようなことになったら、僕も、夜眠れないくらい心配して、ずっとソフィアのことを考えるだろうから」
「……その台詞、わざとですか?」
「え、なにが?」
「いえ……もういいです」
拗ねたような照れたような、不思議な顔に。
「とにかく、一度、砦に戻りましょう」
「そうだね。って、そういえばフェンリルの雌は?」
「きちんと、私が倒しておきましたよ」
「そうなんだ、さすがソフィアだね」
「フェンリルの雄をあっさりと倒してしまうフェイトにそう言われると、ちょっと複雑な気分になりますけどね」
苦笑するソフィアと一緒に、僕達は砦に帰還した。
――――――――――
フェンリルを排除したことで、救助を呼びに行くことができるように。
搬出できない人もいるし、砦の補修も難しい。
とにかくも人が足りていないのだ。
念の為にソフィアが同行して、ゲイルとラクシャとセイルの三人が街へ。
その間に、僕は怪我人の手当や砦の復旧に手をつけていた。
奴隷生活の間、野営地を構築するのは僕の役目だったため、その応用で砦の復旧もなんとかなった。
本格的な修理をするとなると専門の職人が必要になるだろうけど、応急処置としては十分だ。
しっかりと獣と魔物の侵入を防いでくれるだろう。
その後、数日で救援部隊がやってきた。
治癒師が怪我人の治療をして、建築士が砦の本格的な修復を行う。
ソフィアも戻ってきたため、ゲイル達を連れてフェンリルの死体のところへ。
素材を解体して、持てるだけ持ち、残りは焼く。
数日経っていたから肉はダメになっていたが、皮や牙は十分に利用できる。
Sランクの魔物の素材は高く売れるらしいので、少し楽しみだ。
そんなこんなで、慌ただしい日々が過ぎて……
僕とソフィアは砦を発つ日を迎えた。
――――――――――
「フェイト、準備はどうですか?」
「うん、問題ないよ」
ゲイル達から馬車を借りることができた。
荷台にフェンリルの素材を乗せている。
「そろそろ行くのか?」
ゲイルとラクシャとセイルが見送りに来てくれた。
「うん。寄り道みたいなものだから、そろそろ帰らないと」
「そっか……改めて、ありがとう。本当に世話になった」
「あなた達がいなかったら、私達はどうなっていたか……命の恩人よ」
「この恩は絶対に忘れない。二人は、俺達の英雄だ。本当にありがとう!」
三人が揃って頭を下げた。
さらに……
「ありがとうなー! あんたらのことは、ずっと忘れないぜ!」
「よかったら、また来てくれ。いつでもこの砦を利用してくれよ!」
「今度、ぜひ一杯奢らせてくれ! 待ってるからな!」
他の冒険者達、砦に務める人達も出てきて、見送りをしてくれる。
みんな、笑顔を浮かべて手を振っていた。
「えっと……」
盛大な見送りに、なんともいえない照れを覚える。
どう反応していいか困っていると、隣のソフィアが僕の背中を軽く叩く。
「手を振って、応えてあげてください」
「でも、僕は大したことはしていないし……」
「まだそんなことを言っているのですか。雄のフェンリルを倒して砦を救っただけではなくて、怪我人の治療も行ったじゃないですか。砦の応急処置もして、獣や魔物の侵入も防いだ」
「それを言うなら、ソフィアも……」
「私は、雌のフェンリル、一匹倒しただけですよ。フェイトに比べたら、大したことはしていません。その点、フェイトはさすがの一言です。あなたは、英雄と呼ばれるにふさわしいですよ」
「……英雄……」
「ほら、手を」
「……」
迷いつつも、言われるままに手を振る。
すると、みんなが大きな声をあげた。
「この光景は、フェイトが守ったものなのですよ」
「僕が……」
「私は、そんなフェイトを誇りに思っていますからね」
ソフィアはにっこりと笑うのだった。
まさか、そんなことがあるわけない。
冗談でしょ?
なんて感想を抱いたのだけど、ソフィアも、彼女を連れてきてくれたゲイル達も口を揃えてソイツがフェンリルの雄だと言う。
「フェンリルの雄が出たと聞いて、慌てて戻ったのですが……まさか、フェイトが倒しているなんて。しかも、無傷で」
「えっと……本当に、コイツがフェンリルなの?」
「そうですよ。フェイトは、幼馴染の私の言葉を疑うのですか?」
「そんなことはないけど……でも、なんか信じられなくて」
僕なんかが、フェンリルを倒してしまうなんて……
「実はフェンリルって、大したことない魔物とか?」
「「「ありえないから!!」」」
ソフィアとゲイル達に揃って否定されてしまう。
「フェイトは、Sランクの魔物の脅威をきちんと理解していますか? 下手をすれば、一匹で街が壊滅するような力を持っているのですよ。私でも、それなりに時間をかけなければ倒せないのに、大したことないなんて、口が裂けても言えませんよ」
「そんなフェンリルを倒してしまうなんて、あんた、とんでもない力を持っていたんだな……剣聖並か? いや、もしかしてそれ以上か?」
「なんとかアスカルトさんを見つけることができたから、すぐに応援に駆けつけたんだけど……」
「生き延びていてくれれば、と思っていたのに、まさか、倒してしまうなんて……」
「いやいや、そんな……運が良かっただけだよ」
「「「運が良いだけで倒せる魔物じゃないから」」」
再び、声を合わせて否定されてしまう。
「まったく……本当にもう!」
「ソフィア?」
ぎゅうっと、ソフィアが抱きついてきた。
突然のことに驚くのだけど、彼女は小さく震えていた。
たぶん、怖かったのだろう。
僕が死ぬんじゃないかと、その可能性を考えて、怯えていたのだろう。
「こんなとんでもないことを勝手にして、私に心配をかけて……もう、フェイトは、本当にもう……!」
「ごめんね、ソフィア。心配をかけてごめん」
「本当ですよ、まったく……」
抱きしめて、頭を撫でて……
しばらくしたところで落ち着いたらしく、ソフィアが赤い顔をして離れる。
「うぅ……私としたことが、こんなにも取り乱してしまうなんて」
「え? どうして、恥ずかしそうにしているの?」
「それは、だって……」
「心配してくれたことは、不謹慎かもしれないけどうれしいよ。ソフィアが同じようなことになったら、僕も、夜眠れないくらい心配して、ずっとソフィアのことを考えるだろうから」
「……その台詞、わざとですか?」
「え、なにが?」
「いえ……もういいです」
拗ねたような照れたような、不思議な顔に。
「とにかく、一度、砦に戻りましょう」
「そうだね。って、そういえばフェンリルの雌は?」
「きちんと、私が倒しておきましたよ」
「そうなんだ、さすがソフィアだね」
「フェンリルの雄をあっさりと倒してしまうフェイトにそう言われると、ちょっと複雑な気分になりますけどね」
苦笑するソフィアと一緒に、僕達は砦に帰還した。
――――――――――
フェンリルを排除したことで、救助を呼びに行くことができるように。
搬出できない人もいるし、砦の補修も難しい。
とにかくも人が足りていないのだ。
念の為にソフィアが同行して、ゲイルとラクシャとセイルの三人が街へ。
その間に、僕は怪我人の手当や砦の復旧に手をつけていた。
奴隷生活の間、野営地を構築するのは僕の役目だったため、その応用で砦の復旧もなんとかなった。
本格的な修理をするとなると専門の職人が必要になるだろうけど、応急処置としては十分だ。
しっかりと獣と魔物の侵入を防いでくれるだろう。
その後、数日で救援部隊がやってきた。
治癒師が怪我人の治療をして、建築士が砦の本格的な修復を行う。
ソフィアも戻ってきたため、ゲイル達を連れてフェンリルの死体のところへ。
素材を解体して、持てるだけ持ち、残りは焼く。
数日経っていたから肉はダメになっていたが、皮や牙は十分に利用できる。
Sランクの魔物の素材は高く売れるらしいので、少し楽しみだ。
そんなこんなで、慌ただしい日々が過ぎて……
僕とソフィアは砦を発つ日を迎えた。
――――――――――
「フェイト、準備はどうですか?」
「うん、問題ないよ」
ゲイル達から馬車を借りることができた。
荷台にフェンリルの素材を乗せている。
「そろそろ行くのか?」
ゲイルとラクシャとセイルが見送りに来てくれた。
「うん。寄り道みたいなものだから、そろそろ帰らないと」
「そっか……改めて、ありがとう。本当に世話になった」
「あなた達がいなかったら、私達はどうなっていたか……命の恩人よ」
「この恩は絶対に忘れない。二人は、俺達の英雄だ。本当にありがとう!」
三人が揃って頭を下げた。
さらに……
「ありがとうなー! あんたらのことは、ずっと忘れないぜ!」
「よかったら、また来てくれ。いつでもこの砦を利用してくれよ!」
「今度、ぜひ一杯奢らせてくれ! 待ってるからな!」
他の冒険者達、砦に務める人達も出てきて、見送りをしてくれる。
みんな、笑顔を浮かべて手を振っていた。
「えっと……」
盛大な見送りに、なんともいえない照れを覚える。
どう反応していいか困っていると、隣のソフィアが僕の背中を軽く叩く。
「手を振って、応えてあげてください」
「でも、僕は大したことはしていないし……」
「まだそんなことを言っているのですか。雄のフェンリルを倒して砦を救っただけではなくて、怪我人の治療も行ったじゃないですか。砦の応急処置もして、獣や魔物の侵入も防いだ」
「それを言うなら、ソフィアも……」
「私は、雌のフェンリル、一匹倒しただけですよ。フェイトに比べたら、大したことはしていません。その点、フェイトはさすがの一言です。あなたは、英雄と呼ばれるにふさわしいですよ」
「……英雄……」
「ほら、手を」
「……」
迷いつつも、言われるままに手を振る。
すると、みんなが大きな声をあげた。
「この光景は、フェイトが守ったものなのですよ」
「僕が……」
「私は、そんなフェイトを誇りに思っていますからね」
ソフィアはにっこりと笑うのだった。