「どういうこと?」

 父さんなら修理はできる。
 そのためにミスリルをとってきた。

 それなのに、どうして……!?

「落ち着け」
「あいたっ!?」

 反射的に熱くなってしまうと、再びげんこつをもらってしまう。
 おかげで落ち着くことはできたものの、頭が痛い。

 父さんは、息子の頭にぽんぽんとげんこつを気軽に落としすぎじゃないだろうか?

「できないって言ってるわけじゃない、早とちりするな」
「いたた……なら、厄介なことっていうのは?」
「この剣が思っていた以上に普通じゃなかった、ってことだ」

 父さん曰く……

 折れた刃をくっつけるだけなら、大した手間もなく、材料があれば簡単にできるらしい。
 ただ、それだけでは雪水晶の剣が本来の力を取り戻すことはない。

 色々と調べてみたところ、雪水晶の剣は、ただ単純に切れ味の鋭い剣というわけではないらしい。
 想いを力に変えることができるとか。

 だからなのか、と納得する。
 レナの魔剣にヒビを入れることができたのは、そのおかげなのだろう。

 さて。

 そんな特殊な剣だから、特殊な方法でないと修復も難しいらしい。
 素材を集めるだけじゃなくて、妖精の力が必要になるのだとか。

「あたし?」

 みんなの視線がリコリスに向けられた。

「ああ。妖精の協力がないと、剣を修理することは不可能だ」
「へー、ほー」

 リコリスはよくわからない声をこぼす。
 感心しているような感じだ。

「おっちゃん、すごいわね。普通、そんなところはわからないのに」
「ま、俺も鍛冶やって長いからな。いろんな剣に触れてきたから、それなりの知識はあるつもりさ」
「それでも、妖精の剣についてなんて、普通、知らないわよ。ふふん、あたしが認めてあげるわ」
「おう、ありがとよ」

 この二人、気が合うのだろうか?

「具体的にどうするのですか?」

 ソフィアが肝心な部分について尋ねた。

「剣を打ち直しつつ、魔力を注いでもらうんだよ。その魔力ってのが、妖精でないとダメなのさ」
「なるほど……それ以外には?」
「いや、その他の細かい条件は特にない。妖精に魔力を注いでもらう、って点が重要なんだ」

 父さんは苦い顔に。

「まあ……あんなことがあったからな。妖精に魔力を注いでもらうなんて、不可能って言ってもいい。だから、妖精が作った剣は世の中から消えていったのさ」

 あんなこと、というのは『妖精狩り』のことだろう。

 人間が妖精を狩り、そして、妖精は人前から姿を消した。
 当たり前だ。
 天敵となった人間の前に現れるわけがない。

 それを考えると、リコリスとの出会い。
 そして今の状況は奇跡と言えるような気がした。

「ってなわけで……ちっこい嬢ちゃん、力を貸してくれねえか?」
「ま、仕方ないわねー。このあたしの力が必要ってことになると? あたししか頼れないわけで? ふふんっ、仕方ないわねー」

 リコリスはものすごいドヤ顔だった。
 自分にしかできない、というところがツボに刺さったらしい。

 でも、それくらいにしておいて。
 ソフィアがイラッとした顔になっているよ?

「それじゃあ、すぐにでも修理する? しましょうか?」
「いや、今は難しいな。もう夜だからな」
「なによ。少しくらい夜ふかししてもいいじゃない」

 雪水晶の剣はノノカの形見と言ってもいい。
 リコリスとしては早く修理したいのだろう。

「今からだと徹夜になるからな。さすがに、この歳で徹夜はきつい」
「は?」
「たぶん、半日作業になるからな」
「……半日?」

 リコリスが、そんなこと聞いてない! という感じで顔をひきつらせた。

「もしかして……半日の間、あたし、魔力を注がないといけないわけ?」
「いや、それはない」
「そ、そうよね……」
「四分の三の9時間ってところだな」
「あんま変わらないわよ!!!」

 ダーンッ、とリコリスは近くの机を叩いた。
 そのまま、抗議をするかのようにバシバシと叩き続ける。

「9時間も魔力を放出できるわけないでしょ!? 干からびちゃうわよ! 乾燥リコリスちゃんになっちゃうわよ!」
「なんだ、それくらいできないのか」
「挑発するように言っても無駄よ! できるわけないじゃん!?」
「気合だ」
「そんな根性論、今どき流行らないわよ!」
「がんばれ」
「適当な応援!?」

 やっぱりこの二人、仲が良いのかもしれない。

 でも、困ったな。
 あのリコリスがはっきりとできないと言うっていうことは、本当に無理っていうことだ。
 そうなると、雪水晶の剣は修理できないわけで……

「ど、どうしよう……?」
「……」

 思わぬ落とし穴に、みんな、言葉を失い悩んでしまう。

 リコリスに無理をさせるわけにはいかないし……
 他の方法が簡単に見つけるかどうかわからなくて……

「……おとーさん」

 八方塞がり? と思った時、いつの間に顔を出していたのか、アイシャがいた。