無事にミスリルを見つけた僕達は、塔を後にした。
スノウレイクに続く道を歩いて……
その最中、ホルンさんがさきほどの話の続きをしてくれる。
「儂とノノカ嬢は、一緒に世界を旅した。人間と妖精、異なる種族じゃが、不思議と気が合ってのう」
「まー、ノノカは変わり者だったからねー。人間に剣をあげちゃえば、一緒に旅をすることもあると思うわ」
「「……」」
僕とソフィアは、一番の変わり者のリコリスがそれを言う? という顔をした。
しかし、リコリスはそれに気づかない。
「どんな旅だったんですか?」
「特に目的はなかったのう。色々な街を訪れて、色々な自然を見て、色々な宝を手に入れる……気のむくまま風の吹くまま、という感じじゃな」
「へー」
そういう旅は憧れる。
いつか僕も、ソフィアと一緒に……
「フェイト?」
「えっ」
「どうしたのですか? 顔が赤いですよ?」
「う、ううん! なんでもないよ!?」
「?」
「ふぉっふぉっふぉ」
ソフィアは不思議そうな顔をしていたけど、ホルンさんは僕の考えていることを察した様子で、楽しそうに笑っていた。
ただ、その笑顔は消えてしまう。
「そうやって、儂とノノカ嬢は世界を旅していたのじゃが……それも、ずっとというわけにはいかなかった」
ホルンさんの様子に、自然と僕達からも笑顔が消えた。
「妖精狩りは知っておるか?」
「あ、はい……妖精は珍しくて綺麗だから、乱獲されて……」
「……ノノカ嬢も、その被害に遭ってしまってのう」
「っ……!」
思わず息を飲んでしまう。
まさか、そんなことになっていたなんて……
「……」
リコリスは知っていたらしく、驚きの表情はない。
ただ、他の感情はゼロで……
まるで人形のような顔をしていた。
「無論、儂はすぐに助け出した。ノノカ嬢をさらったのは貴族だったが、構わずに屋敷に押し入った。そして、助け出したが……儂ら人間がノノカ嬢を傷つけようとしてしまった。こうなった以上、一緒にはいられん……だから、儂らは別れることにしたのじゃ」
「……」
その時の悔しさを、悲しみを思い出しているのかもしれない。
ホルンさんは拳を強く強く握りしめていた。
「ノノカ嬢は、友達のいるところに帰る、と言った。儂は彼女を見送り……ただ、最後にとある約束をした。それと再会を願い、別れた」
「そうだったんですね……」
「できれば、またノノカ嬢と一緒に旅をしたかったが……そうか、彼女はもういないか」
さきほど、ノノカのことを話して……
それを知ったホルンさんは、寂しそうに言う。
「別れの際、儂は雪水晶の剣を返した」
「どうしてですか?」
「雪水晶の剣は、人間と妖精の友好の証のようなものじゃ。それなのに、人間がノノカ嬢を害そうとした。儂が使っていいものではない」
「それは……!」
ホルンさんのせいじゃない。
ノノカをさらったという貴族のせいだ。
そう言って慰めたかったのだけど……
でも、ホルンさんの後悔にまみれた表情を見て、なんの慰めにもならないことに気がついた。
自分が手を下したわけじゃなくても。
同じ人間がしたことに変わりなくて……
ならばせめてもと、助けることもできなかった。
深い自責と後悔があるのだろう。
そして、それらがホルンさんの心を縛り、雪水晶の剣を手放す決意となったのだろう。
「儂は……ダメな人間じゃった……」
ホルンさんは、深い深いため息をこぼして……
「……そうでもないわよ」
ふと、リコリスがホルンさんの後悔を否定する。
「どういう意味じゃ?」
「あたし、ノノカの最期を知っているの。というか、看取ったの」
「……」
「ある日、ノノカがひどく疲れた様子で帰ってきて……それから静養して。元気になったんだけど、ある日、冒険者がやってきてノノカを……」
「そう、か」
「でも、彼女は生きたわ。がんばって生き抜いたの。とてもノノカらしい最期だったわ」
「……」
「で……ノノカは、あんたや人間のことは恨んでなかったわ」
「なに……?」
ホルンさんがうつむかせていた顔を上げた。
すると、リコリスと目が合う。
リコリスは寂しそうにしていたものの、でも、笑っていた。
小さな笑顔を浮かべていた。
「あの子、バカよね。自分がとんでもない目に遭わされたっていうのに、人間を恨んでなくて。むしろ、感謝していたわ」
「感謝、じゃと……?」
「そう、感謝。色々なところに連れて行ってくれて、色々な経験をさせてくれて、すごく楽しかった……って。ありがとう、って」
「っ……!」
ホルンさんの顔が歪む。
ただ、涙は堪えた。
「これも縁ね。あの子の、あんたに向けた最期の言葉を伝えるわね?」
「……うむ、頼む」
「私は先に天に行って、あっちで好きに探索しているね? だから、あなたはゆっくりと生きてから来て。それからまた一緒に冒険しよう……だって」
「そう、か……」
今度は我慢できなかったのだろう。
ホルンさんは顔を隠すように手を当てて……
そして、しばらくの間、肩を震わせた。
スノウレイクに続く道を歩いて……
その最中、ホルンさんがさきほどの話の続きをしてくれる。
「儂とノノカ嬢は、一緒に世界を旅した。人間と妖精、異なる種族じゃが、不思議と気が合ってのう」
「まー、ノノカは変わり者だったからねー。人間に剣をあげちゃえば、一緒に旅をすることもあると思うわ」
「「……」」
僕とソフィアは、一番の変わり者のリコリスがそれを言う? という顔をした。
しかし、リコリスはそれに気づかない。
「どんな旅だったんですか?」
「特に目的はなかったのう。色々な街を訪れて、色々な自然を見て、色々な宝を手に入れる……気のむくまま風の吹くまま、という感じじゃな」
「へー」
そういう旅は憧れる。
いつか僕も、ソフィアと一緒に……
「フェイト?」
「えっ」
「どうしたのですか? 顔が赤いですよ?」
「う、ううん! なんでもないよ!?」
「?」
「ふぉっふぉっふぉ」
ソフィアは不思議そうな顔をしていたけど、ホルンさんは僕の考えていることを察した様子で、楽しそうに笑っていた。
ただ、その笑顔は消えてしまう。
「そうやって、儂とノノカ嬢は世界を旅していたのじゃが……それも、ずっとというわけにはいかなかった」
ホルンさんの様子に、自然と僕達からも笑顔が消えた。
「妖精狩りは知っておるか?」
「あ、はい……妖精は珍しくて綺麗だから、乱獲されて……」
「……ノノカ嬢も、その被害に遭ってしまってのう」
「っ……!」
思わず息を飲んでしまう。
まさか、そんなことになっていたなんて……
「……」
リコリスは知っていたらしく、驚きの表情はない。
ただ、他の感情はゼロで……
まるで人形のような顔をしていた。
「無論、儂はすぐに助け出した。ノノカ嬢をさらったのは貴族だったが、構わずに屋敷に押し入った。そして、助け出したが……儂ら人間がノノカ嬢を傷つけようとしてしまった。こうなった以上、一緒にはいられん……だから、儂らは別れることにしたのじゃ」
「……」
その時の悔しさを、悲しみを思い出しているのかもしれない。
ホルンさんは拳を強く強く握りしめていた。
「ノノカ嬢は、友達のいるところに帰る、と言った。儂は彼女を見送り……ただ、最後にとある約束をした。それと再会を願い、別れた」
「そうだったんですね……」
「できれば、またノノカ嬢と一緒に旅をしたかったが……そうか、彼女はもういないか」
さきほど、ノノカのことを話して……
それを知ったホルンさんは、寂しそうに言う。
「別れの際、儂は雪水晶の剣を返した」
「どうしてですか?」
「雪水晶の剣は、人間と妖精の友好の証のようなものじゃ。それなのに、人間がノノカ嬢を害そうとした。儂が使っていいものではない」
「それは……!」
ホルンさんのせいじゃない。
ノノカをさらったという貴族のせいだ。
そう言って慰めたかったのだけど……
でも、ホルンさんの後悔にまみれた表情を見て、なんの慰めにもならないことに気がついた。
自分が手を下したわけじゃなくても。
同じ人間がしたことに変わりなくて……
ならばせめてもと、助けることもできなかった。
深い自責と後悔があるのだろう。
そして、それらがホルンさんの心を縛り、雪水晶の剣を手放す決意となったのだろう。
「儂は……ダメな人間じゃった……」
ホルンさんは、深い深いため息をこぼして……
「……そうでもないわよ」
ふと、リコリスがホルンさんの後悔を否定する。
「どういう意味じゃ?」
「あたし、ノノカの最期を知っているの。というか、看取ったの」
「……」
「ある日、ノノカがひどく疲れた様子で帰ってきて……それから静養して。元気になったんだけど、ある日、冒険者がやってきてノノカを……」
「そう、か」
「でも、彼女は生きたわ。がんばって生き抜いたの。とてもノノカらしい最期だったわ」
「……」
「で……ノノカは、あんたや人間のことは恨んでなかったわ」
「なに……?」
ホルンさんがうつむかせていた顔を上げた。
すると、リコリスと目が合う。
リコリスは寂しそうにしていたものの、でも、笑っていた。
小さな笑顔を浮かべていた。
「あの子、バカよね。自分がとんでもない目に遭わされたっていうのに、人間を恨んでなくて。むしろ、感謝していたわ」
「感謝、じゃと……?」
「そう、感謝。色々なところに連れて行ってくれて、色々な経験をさせてくれて、すごく楽しかった……って。ありがとう、って」
「っ……!」
ホルンさんの顔が歪む。
ただ、涙は堪えた。
「これも縁ね。あの子の、あんたに向けた最期の言葉を伝えるわね?」
「……うむ、頼む」
「私は先に天に行って、あっちで好きに探索しているね? だから、あなたはゆっくりと生きてから来て。それからまた一緒に冒険しよう……だって」
「そう、か……」
今度は我慢できなかったのだろう。
ホルンさんは顔を隠すように手を当てて……
そして、しばらくの間、肩を震わせた。