「……ん?」

 ふと、目が覚めた。
 目を開けると、見慣れない天井が。

 見慣れないけど……
 でも、どこか見覚えがある、懐かしい天井だ。

「……あ、そうか」

 スノウレイクに帰ってきたんだっけ。
 それで、そのまま家に泊まったんだ。

 家は大きく改装されていたけど、でも、僕の部屋はそのままで……
 懐かしい気分で、ぐっすりと眠ることができたんだ。

「んーっ!」

 起き上がり、そのままぐぐっと背伸びをした。

 寝起き特有の気だるい感じが吹き飛んでいく。
 代わりに、朝のさわやかな空気を取り込み、頭をしゃっきりとさせた。

「帰ってきたんだよね……」

 こうして家で一晩を過ごしたけど、まだ実感が湧いてこない。
 夢を見ているようだ。

 奴隷に落ちた頃は、こうして家に帰れるなんて思ってなくて……
 何度も父さんと母さんの夢を見たものだ。

 でも、ソフィアに助けてもらった。
 その後も、リコリスやアイシャに助けてもらった。

 そうして今、ここにいる。

「うん!」

 人の縁というものは大事だ。
 とても奇妙なもので、そして、時に温かい。
 この手に得た絆を、これからも大事にしていきたいと、改めてそう思った。

 ギィ。

 そんなことを考えていると、扉がゆっくりと開いた。
 改装したばかりらしいけど、立て付けが悪いところは変わっていないらしく、少し音がするんだよね。

 姿を見せたのはアイシャだ。
 犬耳をピクピクさせつつ、尻尾をふりふり。
 そのまま僕のベッドの近くにやってきて……

「あ」

 目が合う。

 すると、なぜかしょんぼりした顔に。

「おはよう、アイシャ」
「おはよう、おとーさん」
「えっと……どうしたの? なんか、落ち込んでいるみたいに見えるけど」
「おとーさんを起こそうと思って……」
「ああ、なるほど」

 でも、先に起きていた。
 自分の仕事がなくなってしまい、残念に思っていたのだろう。

「えっと……ね、眠いからまた寝ようかなー」

 大根役者だなあと苦笑しつつ、僕はベッドに横になった。
 布団をかぶり、すかーすかーと寝息を立ててみせる。

「あっ」

 薄目で見てみると、アイシャはうれしそうな顔に。
 トテトテとこちらにやってきて、横になる僕の体を揺する。

「おとーさん、起きて。朝だよ、起きて」
「うーん」
「起きて、おとーさん」

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 ゆさささささ!
 ぶんぶんぶんぶん!!!

「えっ、ちょ……」
「おきてー!」

 僕を起こすため、アイシャは僕を揺する。
 何度も揺する。
 獣人の、ちょっと強い力で、それこそ全力で揺する。

「おとーさん!」
「うわわわっ……!?」

 これはたまらないと、僕は慌てて起きた。

「お、おはよう、アイシャ」
「おとーさん、起きた?」
「う、うん。ありがとう、起こしてくれて」
「えへへー」

 にっこりと笑うアイシャ。
 かわいい。

「おじーちゃんとおばーちゃんが、ごはんを作ってくれているよ」
「え? ……あ、父さんと母さんのことか」

 アイシャからしたら、おじいちゃんおばあちゃんになるんだよね。
 そういうイメージがまったくなかったせいか、一瞬、誰のことか迷ってしまった。

「すぐに着替えていくよ、って伝えてくれる?」
「うん」

 アイシャは尻尾をぱたぱたと振って、部屋を出ていった。

 子供は元気だなあ。
 僕はもう、朝からあんなふうにはしゃぐことはできない。

「……うーん、アイシャと一緒にいるから、精神的に老けたのかな?」

 そんなことを思いつつ、軽いショックを受けて……
 まあ、それはそれで幸せな老け方なのかも。
 なんて自分を納得させて、着替えるのだった。