「ねえねえ、今日のお昼はどうするの? あたし、はちみつたっぷりのパンケーキが食べたいわ。もちろん、フルーツとクリーム盛り合わせのヤツね」
翌日。
街に出たのだけど、リコリスはいつも通りだった。
お昼のことを考えているらしく、目をキラキラさせつつ飛んでいる。
本当に落ち込んでいるのかな?
と、ちょっと疑問に思ってしまうくらいだ。
でも……
たぶん、これは空元気。
長く一緒にいるから、それくらいはわかる。
本当の元気を出してもらえるように、がんばらないと。
「お昼の話は後です。それよりも先に、武具店に向かいましょう」
「あ、フェイトの剣を新調するの?」
「いいえ。修理できないか相談してみます」
「んー……それ、無理だと思うけどなー」
……そんなリコリスの言葉は的中して。
「すまないな、これは俺の手に余るよ」
武具店に移動して、雪水晶の剣の修理をお願いしてみるものの……
返ってきた言葉はそんなものだった。
「こいつは妖精が作った剣だろう?」
「よくわかりましたね」
「妖精が作った剣は特別だからな、見ればわかるさ。それに、あんたらは妖精と一緒に行動しているからな」
そうだった。
リコリスと一緒のところを見れば、だいたいのことはわかるか。
「そういえば……」
雪水晶の剣って、どれくらいのレア物なんだろう?
あまり深く考えることなく使っていたから、よくわからない。
そんな僕の疑問を察したらしく、ソフィアが説明してくれる。
「妖精が作る剣というのは、かなりのレア物ですよ。切れ味は鋭く、耐久性も抜群。人が作る剣では、その域に到達できないと言われていますね」
「そんなにすごい剣だったんだ……」
「聖剣と比べると格は落ちてしまいますが、それでも、十分すぎるほどの力を持っていますよ。それに造形美にも優れているので、観賞用として取り引きされることもあります。多少の差はありますが、一本で数年は遊んで暮らすことができる額になりますね」
「ふふんっ」
なぜかリコリスが得意そうにしていた。
「その嬢ちゃんの言う通り、妖精の剣は、俺ら人には手の余る代物でな。技術が追いつくには、あと百年はかかるって言われている。だから……」
「修理することは難しい?」
「そういうことだ」
「そうですか……」
がっくりと肩を落とした。
どうにかして修理をしたかったのだけど、それは難しいという。
このまま諦めるしかないのかな……?
「まったく……ほら、フェイト」
スノウの頭の上に乗っていたリコリスがふわりと飛んで、僕の頭の上に移動した。
そして、ぺちぺちと僕の頭を叩く。
「いたっ、いたっ!?」
「何度も言ってるでしょ。気にするんじゃないわよ」
「でも……」
「でももなにもないわ。あたしがいい、って言っているの。そもそも、剣なんだから、いつか壊れて当たり前なのよ」
「そうだけど……」
「観賞用として飾られるわけじゃなくて、戦いの中で、武器としての使命をまっとうすることができた。きっと、雪水晶の剣も満足だったわよ」
「……そうかな?」
「そうよ」
言い切るリコリスからは迷いがない。
寂しいと思っているみたいだけど……
でも、これでいいと、迷いはないみたいだ。
リコリスは強いな。
僕は、それでも、どうにかできないものかと未練がましく考えてしまう。
「なんだい、なにか特別な縁がある剣なのか?」
「はい、少し……」
「そっか。そういうことならなんとかしてやりてえが、さすがに妖精の剣は手に余るからな……」
そうやって考えてくれるところを見ると、良い人なのだろう。
……これ以上は迷惑をかけるべきじゃないかな。
リコリスがいいと言ってくれている。
それに、修理する方法がわからない。
こだわり続けたら、わがままになってしまう。
そんなことになる前に、僕も気持ちを切り替えないといけないのかも……
「……あぁ、そうだ」
ふと、武具店の店主が思い出したように言う。
「確証はないが、もしかしたらなんとかできるかもしれん」
「本当ですか!?」
もしかしたら。
曖昧なものだとしても、可能性があるのだとしたら、なんとかしてみたい。
「こいつは俺の手に余るが、他のヤツならなんとかなるかもしれん」
「あちらこちらの武具店を回れば……?」
「それは時間を無駄にするだけだな。超一流の……いや。さらにその上をいく、神業の鍛冶屋なら、なんとかなるかもしれない。そういうヤツが妖精の剣を修理したことがある、っていう話を聞いたことがある」
「ほ、本当ですか!?」
「こんなことでウソは言わないさ」
やった!
まだ確証はないし、その鍛冶屋を見つけることができるという保証もない。
それでも、わずかな光が見えてきた。
「その鍛冶屋について、心当たりはありませんか?」
「噂を聞いたことくらいしかなくてな……」
ソフィアの問いかけに、難しい顔をした。
「ただ、『武具の神さまに愛された男』って呼ばれているらしいぜ」
「え」
ついつい反応してしまうと、ソフィアが怪訝そうにこちらを見た。
「フェイト、知っているのですか?」
「う、うん……」
その呼び名は……
「父さんがそう呼ばれていた」
翌日。
街に出たのだけど、リコリスはいつも通りだった。
お昼のことを考えているらしく、目をキラキラさせつつ飛んでいる。
本当に落ち込んでいるのかな?
と、ちょっと疑問に思ってしまうくらいだ。
でも……
たぶん、これは空元気。
長く一緒にいるから、それくらいはわかる。
本当の元気を出してもらえるように、がんばらないと。
「お昼の話は後です。それよりも先に、武具店に向かいましょう」
「あ、フェイトの剣を新調するの?」
「いいえ。修理できないか相談してみます」
「んー……それ、無理だと思うけどなー」
……そんなリコリスの言葉は的中して。
「すまないな、これは俺の手に余るよ」
武具店に移動して、雪水晶の剣の修理をお願いしてみるものの……
返ってきた言葉はそんなものだった。
「こいつは妖精が作った剣だろう?」
「よくわかりましたね」
「妖精が作った剣は特別だからな、見ればわかるさ。それに、あんたらは妖精と一緒に行動しているからな」
そうだった。
リコリスと一緒のところを見れば、だいたいのことはわかるか。
「そういえば……」
雪水晶の剣って、どれくらいのレア物なんだろう?
あまり深く考えることなく使っていたから、よくわからない。
そんな僕の疑問を察したらしく、ソフィアが説明してくれる。
「妖精が作る剣というのは、かなりのレア物ですよ。切れ味は鋭く、耐久性も抜群。人が作る剣では、その域に到達できないと言われていますね」
「そんなにすごい剣だったんだ……」
「聖剣と比べると格は落ちてしまいますが、それでも、十分すぎるほどの力を持っていますよ。それに造形美にも優れているので、観賞用として取り引きされることもあります。多少の差はありますが、一本で数年は遊んで暮らすことができる額になりますね」
「ふふんっ」
なぜかリコリスが得意そうにしていた。
「その嬢ちゃんの言う通り、妖精の剣は、俺ら人には手の余る代物でな。技術が追いつくには、あと百年はかかるって言われている。だから……」
「修理することは難しい?」
「そういうことだ」
「そうですか……」
がっくりと肩を落とした。
どうにかして修理をしたかったのだけど、それは難しいという。
このまま諦めるしかないのかな……?
「まったく……ほら、フェイト」
スノウの頭の上に乗っていたリコリスがふわりと飛んで、僕の頭の上に移動した。
そして、ぺちぺちと僕の頭を叩く。
「いたっ、いたっ!?」
「何度も言ってるでしょ。気にするんじゃないわよ」
「でも……」
「でももなにもないわ。あたしがいい、って言っているの。そもそも、剣なんだから、いつか壊れて当たり前なのよ」
「そうだけど……」
「観賞用として飾られるわけじゃなくて、戦いの中で、武器としての使命をまっとうすることができた。きっと、雪水晶の剣も満足だったわよ」
「……そうかな?」
「そうよ」
言い切るリコリスからは迷いがない。
寂しいと思っているみたいだけど……
でも、これでいいと、迷いはないみたいだ。
リコリスは強いな。
僕は、それでも、どうにかできないものかと未練がましく考えてしまう。
「なんだい、なにか特別な縁がある剣なのか?」
「はい、少し……」
「そっか。そういうことならなんとかしてやりてえが、さすがに妖精の剣は手に余るからな……」
そうやって考えてくれるところを見ると、良い人なのだろう。
……これ以上は迷惑をかけるべきじゃないかな。
リコリスがいいと言ってくれている。
それに、修理する方法がわからない。
こだわり続けたら、わがままになってしまう。
そんなことになる前に、僕も気持ちを切り替えないといけないのかも……
「……あぁ、そうだ」
ふと、武具店の店主が思い出したように言う。
「確証はないが、もしかしたらなんとかできるかもしれん」
「本当ですか!?」
もしかしたら。
曖昧なものだとしても、可能性があるのだとしたら、なんとかしてみたい。
「こいつは俺の手に余るが、他のヤツならなんとかなるかもしれん」
「あちらこちらの武具店を回れば……?」
「それは時間を無駄にするだけだな。超一流の……いや。さらにその上をいく、神業の鍛冶屋なら、なんとかなるかもしれない。そういうヤツが妖精の剣を修理したことがある、っていう話を聞いたことがある」
「ほ、本当ですか!?」
「こんなことでウソは言わないさ」
やった!
まだ確証はないし、その鍛冶屋を見つけることができるという保証もない。
それでも、わずかな光が見えてきた。
「その鍛冶屋について、心当たりはありませんか?」
「噂を聞いたことくらいしかなくてな……」
ソフィアの問いかけに、難しい顔をした。
「ただ、『武具の神さまに愛された男』って呼ばれているらしいぜ」
「え」
ついつい反応してしまうと、ソフィアが怪訝そうにこちらを見た。
「フェイト、知っているのですか?」
「う、うん……」
その呼び名は……
「父さんがそう呼ばれていた」