「ウソだぁ……」
突然の第三者の声。
慌てて振り返ると、レナの姿があった。
いつもの笑顔はどこへやら。
目を大きくして、とても驚いているみたいだ。
「完全に堕ちたはずなのに……あの状態から元に戻るなんて、聞いたことがないよ……堕ちた神獣を手に入れられるはずだったのに、それで新しい魔剣を作ることができるはずだったのに……」
「レナっ!」
真っ先に動いたのはソフィアだ。
攻撃対象をすぐに切り替えて、聖剣で斬りかかる。
「くっ」
ほぼほぼ反射だけで、レナはソフィアの攻撃を防いでみせた。
ただ、精神的なショックが大きいらしく、その動きにキレはない。
ソフィアの連撃を防ぐことで精一杯な様子で、苦い顔をしていた。
「よく姿を見せることができましたね! 今すぐ、ここで、叩き切ってあげます!!!」
「あーもうっ、今は君なんかに構っているヒマはないんだよ!」
「くっ!」
レナはその場でくるっと回転して、その勢いを乗せてソフィアを蹴りつけた。
ソフィアは剣でガードするものの、勢いを殺すことはできず、吹き飛ばされてしまう。
「ソフィア!」
「私は大丈夫です! それよりも……」
レナは今までにない焦りの表情を浮かべていた。
そして、魔剣をアイシャとスノウに向ける。
「させる……かぁっ!!!」
「っ!?」
アイシャとスノウ、それとリコリスを背中にかばい、レナと対峙する。
彼女の放つ刃をガードして、カウンターを繰り出す。
「どいて!」
「どかないよ!」
「嫌いになるよ!?」
「君が勝手に言っていることだから!」
何度か刃を交わす。
いつものレナなら、僕なんかが相手になるわけがない。
防ぐのは一度が限界で、そこで倒されてしまうだろう。
でも、今は動揺しているせいか、剣が鈍い。
おかげで、なんとか食らいつくことができた。
「一つ確認するよ!」
「なにさ!?」
「スノウにあんなひどいことをしたのは、レナでいいの!?」
「そうだよ、そうさ! でも、それのなにが悪いのさ! 正義はボク達にあるんだ!」
「そんなもの……!!!」
レナの過去がどんなものなのか、それはわからない。
スノウの正体がどういった存在なのか、それもわからない。
だけど。
あんなにも無邪気で優しい子を暴走させて……
たくさんの悲しみと恐怖をばらまいて……
それが正義?
それが大義?
「認めてたまるかぁあああああっ!!!」
「っ!?」
ありったけの想いを乗せて。
ありったけの気持ちを込めて。
全力で剣を振り下ろした。
ギィンッ!!!
「……あ」
雪水晶の剣が……折れた。
負荷に耐えられず、刃が半ばから折れて、宙を舞う。
破片がキラキラと舞い、輝いていた。
でも……
「なっ!?」
レナが持つ魔剣もタダでは済まなくて、その刀身にヒビが入っていた。
折れるとまではいかないが……
しかし、もう使い物にならない。
「う、うそだぁ……ボクの魔剣が、ティルフィングが……そこらの剣に傷つけられた……?」
呆然とするレナだけど、状況を思い出したらしく、すぐ我に返る。
こちらを睨みつけて……
次いで、怒りの感情を消して、笑う。
ものすごく楽しそうに、うれしそうに、喜びを携えて笑う。
「あはっ、あはははははは!!! あははははははははははははははははっ!!!!!!」
「レナ……?」
「ダメ。うそ、なにこれ。もう笑うしかないよ! ボクの魔剣が負けるなんて、しかも普通の剣に……あはははっ、すごいすごいすごい、本当にフェイトはすごいよ!!!」
レナの目は子供のように、キラキラと輝いていた。
英雄を見るような目を僕に向けている。
「あー……ホント、ダメだ。なんかもう、黎明の同盟の悲願とか、そういうのどうでもよくなってきちゃうよ。それよりも、とにかく、フェイトをボクのものにしたいな」
「……悪いけど、売約済みだから」
「そういう意思の硬いところも、好きだよ♪ ボク色に染め甲斐があるからね……ふふっ」
レナは、一歩後ろへ下がる。
「ティルフィングを壊すなんていう、本当にすごいものを見せてもらったからね。今回は、おとなしく引くね。じゃあね、フェイト。いつか、絶対にボクのものにしてみせるから♪」
レナは、パチリとウインクをして……
その姿は、空気に溶けるかのようにして消えた。
レナが撤退したからなのか、ブルーアイランドの騒動は急速に治まっていった。
スノウは元に戻り……
暴徒も数を減らして、ほぼ全て拘束された。
こうして事件は解決したのだけど、被害は大きい。
たくさんの人が傷ついて、たくさんの建物が壊れた。
死者も少なくない。
どうして、レナはこんな惨劇を引き起こしたのか?
スノウを暴走させて、新しい魔剣を作るとか言っていたけど……
そのために街を犠牲にしていいなんてこと、絶対にない。
今度会った時は……
「なにをするつもりなのか、真意を確かめないと」
レナを放っておくことはできない。
黎明の同盟を放っておくことはできない。
いつか……
そんな覚悟を決めるのだった。
――――――――――
それはそうと。
街の復興が一段落したところで、スノウのことが問題になった。
多くの人がスノウが暴走するところを目撃している。
その獣はなんなんだ?
また暴走するのではないか?
処分した方がいいのでは?
そんな意見が多発したものの……
ソフィアが全て黙らせた。
スノウは自分達が管理する。
もしも同じことが起きた場合、その責任は、剣聖である自分が全て負う。
そこまで言うのならと、街の人達は納得してくれた。
ありがたい。
そうして……
色々とあったものの、再び穏やかな日常が戻ってきた。
戻ってきたのだけど……
「お手」
「ワンッ」
「おかわり」
「ワンッ」
「お座り」
「オン!」
ライラさんの家の庭で、アイシャはスノウと遊んでいた。
今は躾をしているらしく、成功する度に褒めて、犬用のお菓子をあげていた。
ほんわりとする光景に和みつつ、本の山に埋もれて、たくさんの資料とにらめっこをするライラさんに視線を戻す。
「結局、アイシャは巫女っていうことでいいんですか?」
「んー、断言はできないけどね。私も、巫女についてそれほど詳しいわけじゃないし。ただ、状況を聞く限り、巫女と考えるのが自然かな?」
「だよね……」
膨大な魔力を持っていて……
それだけじゃなくて、不思議な力で暴走したスノウを元に戻してみせた。
あんなこと、普通の人にできるわけがない。
ライラさんの言う、巫女という特別な存在と考えるのが正しいだろう。
「アイシャちゃんのことが気になるなら、私が身体調査を……」
「ふふ、斬られたいんですか?」
ソフィアがにっこりと笑いつつ、剣の柄に手を伸ばした。
「ごめんなさい冗談です」
絶対本気だった。
……と思うのだけど、話がこじれるだけなので、口にはしないでおいた。
「それで、スノウのことなんだけど……スノウは神獣なのかな?」
女神さまの使い。
世界の裁定者。
救世主。
色々な言葉が使われているものの、正しい情報は見つからない。
伝説の存在とされていて、知っている人も少なく、文献もほとんど残ってなくて……
そのせいで、なにが正しいのか間違っているのか、わからないんだよね。
「たぶん、神獣で間違いないと思うよ」
「でも、どうして神獣がこんなところに……」
「んー、これは私の想像なんだけど」
そう前置きして、ライラさんは話を続ける。
「スノウくんは、この街の守り神とか、そういう存在だったんじゃないかな? あるいは、その後継者。子供なのは、そういうことだね」
「守り神がそこらを歩いているものなの?」
「うーん、それはなんとも。ただ、巫女を助けるために出てきたのかも」
「そういえば、スノウが初めて姿を見せたのは、アイシャちゃんが迷子になった時ですね」
アイシャを助けるためだとしたら、納得できる話だ。
それほどまでに、巫女は神獣に愛されているのだろう。
「暴走したのは?」
「それも証拠はないけど……たくさんの人がおかしくなって、負の感情があふれたせいじゃないかな? 神獣って、人の影響を受けやすいのかも。だから、街がおかしくなって神獣もおかしくなった」
「一応、話の筋は通っていますね」
スノウは街の守護者。
アイシャが困っていたから、助けるために出てきた。
でも、街の人々がおかしくなったたまえ、その影響を受けて暴走してしまった。
なるほど、と納得することはできる。
できるのだけど……
「結局、全部、推論でしかないんだよね」
それでもって、神獣がどういう存在なのかとか、肝心なところはなにもわからないままだ。
「これからどうすればいいのか……やれやれ、頭が痛いですね」
「悲観的になることはないんじゃないかな?」
「え?」
「わからないことは多いけど……でも、大事なところだけわかっていれば、それでいいと思うんだ」
「それは?」
「スノウも大事な家族、っていうことだよ」
神獣だろうがなんだろうが、スノウはもう家族の一員だ。
今更、どうこうと対応を変えることはない。
それはソフィアも同意見らしく、優しく笑う。
「そうですね」
「君ら、お似合いだよ。まったく」
僕達を見て、ライラさんはやれやれと苦笑するのだった。
「ごめんなさい」
宿の部屋で、僕はリコリスに頭を下げていた。
その手前には、折れてしまった雪水晶の剣が。
この剣は普通の剣じゃない。
リコリスの友達が残した剣だ。
だから、とても大事なもの。
それを譲り受けておきながら、こんな風に折ってしまうなんて……
リコリスとその友達に申しわけなくて、頭を下げることしかできない。
「あー……折れちゃったか」
リコリスの声のトーンは、わりと平坦なものだった。
「……おうおうおう、兄ちゃんよぉ、どうしてくれるんや?」
突然、リコリスの口調と声のトーンが変わった。
驚いて顔を上げると、こちらにガンを飛ばすリコリスが目の前に。
「こいつはなぁ、金貨数千枚の価値がある名剣なのさ。それを折るとか、あぁん、どう弁償してくれるってんだ? おうおうおう?」
「ご、ごめんなさい……?」
「ごめんで済んだら騎士はいらねえんだよ、おうおう。へへ、金がねえならそこの女で代わりに楽しませてふぎゃあ!?」
ソフィアのげんこつが落ちた。
ガンッ、といい音がしたけど、大丈夫だろうか……?
「地上げのようなことをしないでください。アイシャちゃんの教育に悪いです」
「うー……ちょっとした冗談じゃん」
頭を押さえて涙目になるリコリスはいつも通りで……
「えっと……リコリスは怒っていないの?」
「は? なんでよ?」
「だって、僕が雪水晶の剣を折っちゃって……」
「なんで、それくらいで怒らないといけないのよ。適当に遊んで叩き折ったとかなら怒るかもしれないけど、そうじゃないでしょ? フェイトはフェイトにできることを精一杯やって、それで、魔剣と相打ち? になる形で剣が折れた。悪いことなんてなーんにもないわ」
「でも……」
「ほら、シャキっとしなさい、シャキっと。あたしは気にしてないんだから」
「……」
「じゃ、あたしはお風呂に入ってくるわ。覗くんじゃないわよ?」
ひらりと飛んで、リコリスが部屋を出ていった。
その背中を見送り……
僕は、軽い吐息をこぼしてしまう。
「気にしてないとか……それ、ウソだよね」
適当に遊んで折ったのなら怒る……リコリスは、そう言っていた。
つまり、それだけの思い入れがあるということ。
気にしていないなんて言葉は、僕を気遣っているだけにすぎない。
「はぁ……」
落ち込む。
凹む。
リコリスにはいつも助けられているのに、その恩を仇で返すような真似をして……
そして、落ち込んでいるリコリスに対してなにもできない。
僕は、僕が情けない。
「フェイト!」
「いたっ」
パシン、と背中を叩かれた。
驚いて振り返ると、眉を吊り上げたソフィアが。
「そうやって思い悩むのは、フェイトがとても優しいからですが……しかし、今は落ち込んでいる場合ではありません」
「でも……」
「過ぎたことはどうしようもありません。どれだけの力を持っていたとしても、過去を変えることはできません。それなら、未来に目を向けるべきでは?」
「……ソフィア……」
「これからのことを考えましょう。大丈夫です。フェイトは一人ではありません、私がいます。いつまでも、ずっと一緒にいます」
「おとーさん、わたしもいるよ?」
「オンッ!」
僕を支えるかのように、アイシャもそう言ってくれた。
スノウも隣に寄り添ってくれた。
……うん。
僕は、なんて幸せ者なんだろう。
「そうだね。落ち込んでいる場合じゃないね」
そもそも、本当に辛いのはリコリスだ。
それなのに僕が落ち込んでいても、なにも意味はない。
この事態を招いたのは僕なのだから……
最低限、僕は、なんとかしようという気概を見せないといけない。
「がんばって、なんとかしないといけないね」
「その意気です」
「おとーさん、がんばって」
にっこりと笑うソフィア。
ぐっと小さな拳を握り、応援してくれるアイシャ。
そんな二人を見ていたら元気が出てきた。
うん。
今なら、なんでもできそうだ。
「どうにかしたいけど、どうすればいいのかな……?」
考える。
考える。
考える。
……考えすぎて頭がクラクラしてきた。
「うぅ、知恵熱が出そう」
「ふふ、フェイトったら」
「おー?」
「もっとシンプルに考えればいいのではないですか? 幸いというべきか、刀身が折れただけ……と」
「鍛冶はよく知らないけど、刀身が折れるのって、けっこう致命的だと思うんだけど……」
「ですが、剣を極めた剣聖がいるように、鍛冶を極めた方もいると思います。そういう方なら、修理も可能なのでは?」
「そっか……うん、そうだね。もうダメだ、って勝手に諦めないで、ひとまず色々なところに相談してみようか」
「はい。もちろん、私もお手伝いしますからね」
「わたしもがんばるよ」
「オンッ!」
「ありがとう、みんな」
僕は、大事な家族達をまとめてぎゅうっと抱きしめた。
「ねえねえ、今日のお昼はどうするの? あたし、はちみつたっぷりのパンケーキが食べたいわ。もちろん、フルーツとクリーム盛り合わせのヤツね」
翌日。
街に出たのだけど、リコリスはいつも通りだった。
お昼のことを考えているらしく、目をキラキラさせつつ飛んでいる。
本当に落ち込んでいるのかな?
と、ちょっと疑問に思ってしまうくらいだ。
でも……
たぶん、これは空元気。
長く一緒にいるから、それくらいはわかる。
本当の元気を出してもらえるように、がんばらないと。
「お昼の話は後です。それよりも先に、武具店に向かいましょう」
「あ、フェイトの剣を新調するの?」
「いいえ。修理できないか相談してみます」
「んー……それ、無理だと思うけどなー」
……そんなリコリスの言葉は的中して。
「すまないな、これは俺の手に余るよ」
武具店に移動して、雪水晶の剣の修理をお願いしてみるものの……
返ってきた言葉はそんなものだった。
「こいつは妖精が作った剣だろう?」
「よくわかりましたね」
「妖精が作った剣は特別だからな、見ればわかるさ。それに、あんたらは妖精と一緒に行動しているからな」
そうだった。
リコリスと一緒のところを見れば、だいたいのことはわかるか。
「そういえば……」
雪水晶の剣って、どれくらいのレア物なんだろう?
あまり深く考えることなく使っていたから、よくわからない。
そんな僕の疑問を察したらしく、ソフィアが説明してくれる。
「妖精が作る剣というのは、かなりのレア物ですよ。切れ味は鋭く、耐久性も抜群。人が作る剣では、その域に到達できないと言われていますね」
「そんなにすごい剣だったんだ……」
「聖剣と比べると格は落ちてしまいますが、それでも、十分すぎるほどの力を持っていますよ。それに造形美にも優れているので、観賞用として取り引きされることもあります。多少の差はありますが、一本で数年は遊んで暮らすことができる額になりますね」
「ふふんっ」
なぜかリコリスが得意そうにしていた。
「その嬢ちゃんの言う通り、妖精の剣は、俺ら人には手の余る代物でな。技術が追いつくには、あと百年はかかるって言われている。だから……」
「修理することは難しい?」
「そういうことだ」
「そうですか……」
がっくりと肩を落とした。
どうにかして修理をしたかったのだけど、それは難しいという。
このまま諦めるしかないのかな……?
「まったく……ほら、フェイト」
スノウの頭の上に乗っていたリコリスがふわりと飛んで、僕の頭の上に移動した。
そして、ぺちぺちと僕の頭を叩く。
「いたっ、いたっ!?」
「何度も言ってるでしょ。気にするんじゃないわよ」
「でも……」
「でももなにもないわ。あたしがいい、って言っているの。そもそも、剣なんだから、いつか壊れて当たり前なのよ」
「そうだけど……」
「観賞用として飾られるわけじゃなくて、戦いの中で、武器としての使命をまっとうすることができた。きっと、雪水晶の剣も満足だったわよ」
「……そうかな?」
「そうよ」
言い切るリコリスからは迷いがない。
寂しいと思っているみたいだけど……
でも、これでいいと、迷いはないみたいだ。
リコリスは強いな。
僕は、それでも、どうにかできないものかと未練がましく考えてしまう。
「なんだい、なにか特別な縁がある剣なのか?」
「はい、少し……」
「そっか。そういうことならなんとかしてやりてえが、さすがに妖精の剣は手に余るからな……」
そうやって考えてくれるところを見ると、良い人なのだろう。
……これ以上は迷惑をかけるべきじゃないかな。
リコリスがいいと言ってくれている。
それに、修理する方法がわからない。
こだわり続けたら、わがままになってしまう。
そんなことになる前に、僕も気持ちを切り替えないといけないのかも……
「……あぁ、そうだ」
ふと、武具店の店主が思い出したように言う。
「確証はないが、もしかしたらなんとかできるかもしれん」
「本当ですか!?」
もしかしたら。
曖昧なものだとしても、可能性があるのだとしたら、なんとかしてみたい。
「こいつは俺の手に余るが、他のヤツならなんとかなるかもしれん」
「あちらこちらの武具店を回れば……?」
「それは時間を無駄にするだけだな。超一流の……いや。さらにその上をいく、神業の鍛冶屋なら、なんとかなるかもしれない。そういうヤツが妖精の剣を修理したことがある、っていう話を聞いたことがある」
「ほ、本当ですか!?」
「こんなことでウソは言わないさ」
やった!
まだ確証はないし、その鍛冶屋を見つけることができるという保証もない。
それでも、わずかな光が見えてきた。
「その鍛冶屋について、心当たりはありませんか?」
「噂を聞いたことくらいしかなくてな……」
ソフィアの問いかけに、難しい顔をした。
「ただ、『武具の神さまに愛された男』って呼ばれているらしいぜ」
「え」
ついつい反応してしまうと、ソフィアが怪訝そうにこちらを見た。
「フェイト、知っているのですか?」
「う、うん……」
その呼び名は……
「父さんがそう呼ばれていた」
もしかしたら、僕の父さんが雪水晶の剣を修理できるかもしれない。
その可能性に賭けて……
次の目的地は、僕の故郷のスノウレイクに決まった。
そのために、まずは旅の準備をすることに。
食料や水。
馬車の手配。
そして、なによりも大事なのが……服だ。
服屋に立ち寄り、防寒具を探す。
スノウレイクは一年の半分以上が雪に包まれた場所なので、しっかりと準備をしないと風邪を引いて……
いや、下手したら凍死してしまう。
「フェイト、このようなものはどうですか?」
どこかウキウキした様子で、ソフィアは厚手のコートを自分の体に当てて、僕に見せる。
ふわふわのファーがついていて、とても温かそうだ。
丈も長く、膝までを覆う。
「うん、それなら防寒対策はバッチリだと思うよ」
「……そういう意味で聞いたわけではないのですが」
「?」
なら、どういう意味なのだろう?
「えっと……それと、手袋とブーツ。できれば、帽子も欲しいかな? 念を押すなら、中に着るシャツも新調しておきたいかも」
「スノウレイクは、それほどまでに寒いところなのですか? 私の記憶では、そこまでではなかったのですが……」
「ソフィアがいた頃は、数年に一度の温かい年だったんだ。普段のスノウレイクは、あの頃の数倍は寒いよ」
「……数倍……」
「ここ最近は、寒冷化が進んでいるみたいだし、しっかりと対策をしておかないとね」
「おとーさん」
くいくいっと、服を引っ張られた。
振り返ると……
「どうかな?」
コートを着て、ふわふわもこもこになったアイシャの姿が。
単にコートを着ているだけじゃない。
子供用のコートだからなのか、熊のきぐるみっぽい感じになっていた。
「「か、かわいい」」
僕とソフィアの声がぴたりと重なる。
「アイシャちゃん、かわいいです! すごくかわいいですよ!」
「はうっ」
ぎゅうっと、思い切り抱きしめられた。
アイシャはちょっと苦しそうにしていたものの、ソフィアの温もりを感じることができてうれしそうだ。
尻尾がぶんぶんと横に振られている。
「おとーさん」
「うん、すごくかわいいよ」
「えへへ」
素直な感想を口にすると、アイシャは頬を染めてはにかむ。
天使かな?
「ふっふーん、ここで真打ち登場ね!」
ふと、リコリスの声が聞こえてきた。
振り返ると……
「どうよ!? このミラクルワンダフル妖精、リコリスちゃんのかわいらしさに昇天なさい!!!」
「「……」」
僕とソフィアは沈黙して、
「毛玉?」
アイシャは、こてんと小首を傾げた。
アイシャが言うように、毛玉が宙に浮いていた。
いや、毛玉じゃない。
よくよく見てみると、毛玉から羽が生えていた。
たぶん、中にリコリスがいるのだろう。
「えっと……リコリス?」
「ええ」
「なに、それ?」
「見ての通り、防寒具よ! かわいいでしょ?」
「かわいい……のかな?」
羽の生えた毛玉。
かわいいと言えなくもないけど……
どちらかというと、シュールさの方が勝っているような?
「なんでそんなことになっているの?」
「だって、この店、妖精用の防寒具が置いてないんだもの。だから、捨てる予定の羽毛をもらって、自分でなんとかしたっていうわけ。ドヤ!」
リコリスとしては会心の出来なのだろう。
でも、それは毛玉と呼ぶ以外の何者でもなくて……
うん。
リコリスって、ちょっと残念だったんだね。
「リコリスの防寒具は、あとで私が作ってあげますね。大丈夫ですよ。花嫁修業の一貫として、裁縫は習っていましたから」
「え? なんで、妙に優しい顔をしているの?」
「ふふ、なんでもありませんよ」
「その笑顔はなに!? なんなのぉーーー!?」
納得いかないというようなリコリスの声が店内に響くのだった。
スノウレイクは遥か北にある街だ。
ブルーアイランドからだと、馬車で一ヶ月ほどの長旅になる。
しっかりと準備をして……
ライラさんに別れの挨拶をして……
そして、僕達はスノウレイク行きの馬車に乗り、ブルーアイランドを後にした。
――――――――――
カタカタカタと車輪が回り、ゆっくりと景色が横に流れていく。
「おー」
それを見るアイシャは、尻尾をぱたぱたと横に振っていた。
何度も馬車に乗っているのだけど、流れる景色を見るのは楽しいらしい。
うん、わかる。
僕も子供の頃は同じようなものだった。
普段と違う目線、違う速度で見る景色は、新鮮で楽しいんだよね。
「……む」
剣を抱くようにして仮眠をとっていたソフィアが、パチリと目を開けた。
「どうしたの?」
「魔物です」
「なら、僕が……」
「フェイトはアイシャちゃんをお願いします。それに、今は私の番なので。では、いってきます」
止める間もなく、ソフィは馬車を降りてしまう。
……ややあって、魔物の悲鳴が聞こえてきた。
魔物なんだけど同情してしまう。
ソフィアがいる馬車を襲おうとするなんて、なんて運の悪い。
「いやー、助かりますよ」
荷台と御者台を繋ぐ小さな扉から、御者の声が聞こえてきた。
「剣聖さまがいるおかげで、魔物の心配をしなくてすみますからね。こんなに安全な旅は久しぶりですよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。馬車に乗せてくれて、すごく助かりました」
スノウレイクは遠く、馬車の定期便はない。
独自に雇う必要があったのだけど、遠すぎるせいでなかなか引き受けてくれる人がいない。
いたとしても、とんでもない料金を求められることがあった。
困り果てたところで、スノウレイクへ向かう商人と出会うことができた。
彼の馬車を護衛する。
その報酬として、スノウレイクまで乗せてもらう。
そんな契約を交わしたのだ。
「ところで、スティアートさん達は、どうしてスノウレイクへ?」
なにもないとヒマらしく、御者はそう話を振ってきた。
僕もヒマなので、その世間話にのっかる。
「えっと……スノウレイクは僕の故郷なんです」
詳細を説明すると長くなりそうなので、雪水晶の剣の修理の件は黙っておいた。
「へえ、スノウレイクの……じゃあ、大変ですねえ」
「え? それ、どういう意味なんですか?」
「おや、知らないんですか?」
御者の口ぶりからすると、スノウレイクでなにか問題が起きているらしい。
嫌な予感がする。
「私は、こうしてスノウレイクと他の街を行き来している商人なんですが、最近、おかしなことが起きてましてね」
「おかしなこと?」
もしかして、ブルーアイランドのような……
「豊作が続いているんですよ」
「え?」
豊作?
豊作っていうと……野菜とか果物がたくさんとれるっていう、あの豊作?
「ほら。スノウレイクは雪の街でしょう? 栽培できる野菜や果物に限りがある……はずなのに、最近では、どんな野菜や果物も栽培できて、おまけに豊作続き」
「そんなことが?」
「ええ。ただ、人手が足りなくて、てんてこまいらしいですよ。スティアートさんの家は農業を?」
「いえ……鍛冶屋です」
「それなら手伝いをすることは……あ、知り合いが農業をやっているのなら、やっぱり手伝いに駆り出されるかもしれないですね。あの街では今、子供も収穫の手伝いをするほど人手が足りていないので」
「はあ……」
「まあ、うれしい悲鳴というやつですね。私も、取り引きできる商品が増えて、色々と得をさせてもらっていますよ。なので、こうして頻繁に行き来しているんですよ」
ブルーアイランドのような事件が起きているのでは? と気構えたのだけど……
拍子抜けだ。
「……でも」
気になる話だ。
スノウレイクは雪の街で、農業に向いていない。
もちろん、雪の中でも育つ野菜や果物はあるけど、それは限られている。
農家には厳しい環境だ。
だから、父さんは農業ではなくて鍛冶を選んだわけで……
それなのに、豊作が続いている?
色々な野菜と果物が収穫できている?
それが本当なら、喜ぶべきことなのだろう。
でも、理由がわからないのだとしたら、なんだか不気味にも感じられて……
どう受け止めていいか、正直、よくわからない。
「ただいま戻りました」
魔物を掃討したらしく、ソフィアが馬車に戻ってきた。
「おかーさん、おつかれさま」
「はい、ありがとうございます。フェイトとアイシャちゃんを守るため、お母さん、がんばりましたよ」
「ちょっと、ソフィア。あたしは? ねえ、あたしは守ってくれないの?」
「それは……フェイト? どうしたのですか、笑って」
「ううん、なんでもないよ」
スノウレイクでなにかが起きているかもしれない。
でも、みんなと一緒なら大丈夫だ。
馬車に揺られること、約一ヶ月。
スノウレイクに近づくにつれて雪が積もってきた。
初めて見る雪にアイシャとスノウははしゃいでいたけど、旅をする方にとっては面倒なことこの上ない。
馬車の速度は遅くなり、時折、車輪が雪にハマってしまうことも。
そんなトラブルがありつつも、馬車は進み……
そして今日、スノウレイクに到着した。
「わぁ!」
馬車から降りたアイシャが目をキラキラと輝かせた。
その視線の先にあるのは、スノウレイクの街並みだ。
寒さを防ぐために外壁が厚くなっているせいか、どの家も大きい。
そして、屋根は鋭い三角形だ。
雪が積もらないように、あえてこうした角度をつけている。
それでも、ある程度の雪は屋根に残っている。
それは全ての建物に共通することで……
街全体に雪化粧が施されていた。
太陽が登ると、その光が雪で反射してキラキラと輝く。
眩しくて、でも、綺麗で……
街全体が輝いているみたいだった。
「わー! わー!」
「オンッ!」
とても興奮している様子で、アイシャは尻尾をぱたぱたと振っていた。
その隣に並ぶスノウも、尻尾を激しく振っている。
すごく良いコンビだ。
微笑ましい光景に、ついつい笑みがこぼれてしまう。
「ありがとうございました」
お礼を言って、馬車から降りた。
ここまで乗せてくれた商人は手をひらひらと振りつつ、またな、と挨拶して街の中へ消えていく。
「ふう、ようやく着きましたね」
そう言うソフィアは、少し疲れが声に出ていた。
一ヶ月の馬車旅。
しかも、最後は雪で思うように進むことができず、時間もとられてしまった。
さすがの彼女も疲れたのだろう。
「フェイトは元気そうね? なになに、寒さに強いとか? それともアイシャと同じように、雪を見てはしゃいでいるとか? まったく、お子様ねー」
「うん、そうかもしれない」
リコリスが茶化してくるものの、それを否定することなく肯定した。
わりと早く旅立ったものの……
やっぱり、故郷は懐かしい。
白い街を見ると、帰ってきたんだという実感が湧いてきて、疲れは吹き飛んでしまう。
「街を出てどれくらい経っているのですか?」
「うーん……十年近いかも」
ソフィアが引っ越した後……
僕は約束を守るために、冒険者になるために、特訓を始めた。
子供なので大したことはできないけど、毎日、色々なトレーニングに励んだ。
それから数年。
ある日、シグルド達がたまたま街を訪れた。
そして、家畜を襲っていた魔物をあっさりと討伐してみせた。
その姿に憧れた僕は、シグルド達の仲間にしてほしいと頼んだんだ。
彼らは笑顔で受け入れてくれて……
でも、その笑顔はウソで……
僕は都合のいい奴隷として使われることに。
「だから、ぜんぜん里帰りできなかったんだよね」
「……あの腐れ外道共め」
ソフィアが怒りを再燃させていたけど、アイシャのことを思い出して、すぐに笑顔に戻る。
「なら、久しぶりの里帰りですね。さっそく、フェイトの家を訪ねましょう」
「あ、それよりも先に宿に行こう。たぶん、大丈夫だと思うけど、部屋が全部埋まっていたら、最悪野宿になっちゃうかもだし」
「家に泊まらないのですか?」
「この人数で押しかけたら、さすがに迷惑になっちゃうよ」
僕とソフィアとアイシャ。
それと、リコリスとスノウ。
この人数が押しかけたら大変だ。
家はそんなに広くないから部屋が足りないはず。
布団も足りないだろうし、ごはんも用意が間に合わない。
今日は顔を出すくらいにして……
宿は別に確保しておいた方がいいだろう。
「そんなわけだから、先に宿へ行こう?」
「それはそうかもしれませんが……」
ソフィアは納得していない顔だ。
優しい彼女のことだから、家でゆっくりしてほしいと思っているのだろう。
でも、泊まらなくても両親と過ごすことはできるし……
焦る必要はないと思う。
「じゃあ、宿へ……」
「行く必要はねえぞ」
「……え……」
ひどく懐かしい声が聞こえた。
絶対に忘れることのない声。
耳にするだけで、妙な安心感を得られるような声。
その声の持ち主は……
「……父さん?」
振り返ると、三十くらいの男性が。
かなりの大柄で、身長は二メートル近い。
がっしりとした体つきで、一見すると冒険者のようだ。
北国に似合わないくらい、肌は焼けている。
「おう!」
「……父さん……」
間違いなく、その人は父さんだった。
僕の父親の、エイジ・スティアートだった。
「えっと……」
突然すぎる再会。
そして、本当に久しぶりの再会。
家に戻ったら色々なことを話そうと思っていたのだけど、でも、それらの言葉はぽーんと頭の外に飛び出してしまう。
なにを言えばいいかわからなくて、口を開け閉めしてしまう。
「久しぶりだな、フェイト!」
「わわわっ」
ガシガシと頭を乱暴に撫でられた。
髪が乱れる!?
というか、ちょっと痛い!?
「と、父さん……!?」
「おいおい、なに逃げようとしてるんだよ。久しぶりの再会なんだから、頭くらい撫でさせろや」
「そ、そう言われても、ちょっと力が強いというか……いたたたっ」
「おいおい、これくらいで痛いのか? まったく、相変わらずもやしっ子なんだな。そんなんじゃ冒険者になれねーぞ」
「そ、そんなことないから! 僕はもう冒険者だから!」
「はっはっは、冗談の腕は増したようだな」
信じてもらえない……
がくりと肩を落としてしまう。
「フェイトは立派な冒険者ですよ」
にっこりと笑いつつ、ソフィアが間に入る。
「おや? 嬢ちゃんは……」
「お久しぶりです、エイジさん。ソフィア・アスカルトです。覚えているでしょうか?」
「お……おーっ! ソフィア嬢ちゃんか! もちろん覚えているぜ。まさか、こんな美人に育っているなんてな」
僕からソフィアに興味が移ったらしい。
父さんは今まで以上の笑顔で、ソフィアの肩をバシバシと叩く。
女の子にする挨拶じゃない。
でも、ソフィアはなにも気にしていない様子で、にこにこと笑っていた。
「どうして、ソフィア嬢ちゃんが一緒に……ああ、そうか。お前ら、結婚したのか?」
「「えっ」」
「なんで驚くんだ? 一緒にいた頃、すごく仲良くしていたじゃねえか。俺は確信したね。俺とアミラのように、お似合いの夫婦になるってな」
「「……」」
ものすごく恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
そういう風に見られて、そういう風に言われることはうれしいけど……
でも、まだ結婚はしていないわけで……
あと、恥ずかしさが先行するわけで……
「おっ? そういや、そこのちびっこコンビはどうしたんだ?」
「あう」
アイシャは人見知りをして、僕の後ろに隠れてしまう。
スノウも同じように、僕の後ろに隠れてしまう。
「えっと……」
「おとーさん、この人、だれ?」
説明をしようとしたところで、アイシャが僕のことを「おとーさん」と呼んでしまう。
まずい。
ややこしい事態に……
「俺は、エイジ。フェイトの親父だな」
ややこしい事態にならず、父さんはしゃがみ、アイシャと目線を合わせて言う。
「つまり、おじいちゃんになる、っていうわけだ」
「おじーちゃん? おとーさんの方のおじーちゃん?」
「おう」
「おじーちゃん!」
「オンッ!」
その一言で気を許したらしく、アイシャとスノウは父さんに抱きついた。
父さんはしっかりと二人を受け止めて、それぞれ頭を撫でる。
その際、ちらりと獣人の尻尾に視線がいったものの、なにか口にすることはない。
僕らの事情はなにもわからないだろう。
でも、深く聞くのは後回し。
今はアイシャとスノウを可愛がることを優先した、という感じだった。
「……こう言ってはなんですが、フェイトのお父さまは乱雑な方に見えましたが、違いましたね。とても優しく、気遣いができる方なのですね」
「……うん。自慢の父さんだよ」
小声で、そんなやりとりをした。
「ところで、宿はいらない、って……?」
「里帰りしたってのに、宿を取る必要なんてないだろ」
「でも、僕達が行くと、さすがに狭いでしょう?」
「大丈夫だ、問題ない」
やけに自信たっぷりに言うのだけど……
でも、家はそんなに広くなかったはず。
一人二人ならともかく、四人もやってくると、寝場所に困るはずなのだけど……
まあ、父さんがこう言うのだから、本当に問題はないのだろう。
変な気遣いをすることなく、ウソはつかない人だ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
みんなでお世話になろう。
「おいおい、ちげえだろ」
「え?」
「こういう時は、違う言葉を使うだろ?」
「あ……」
僕は目を大きくして……
次いで、ふんわりと笑う。
「ただいま、父さん」
「おかえり、息子よ」
『黒鉄』。
そう呼ばれている鍛冶屋が僕の実家だ。
一階が武具の売り場と工房になっていて、二階に生活スペースが並んでいる。
それと、それなりに広い庭がセットに。
冬、父さんと母さんと一緒に雪だるまをたくさん作った思い出がある。
そんな思い出が詰まった家が……
「あれぇ!?」
思い切り変わっていた。
二階建てから三階建てへ。
さらに、家の敷地面積も倍くらいに。
「え? え? ……なにこれ?」
「我が家だぞ」
「我が家といわれても……リフォームをしたの?」
「ああ。ちと、必要に迫られてな」
「?」
どんな理由があったのだろう?
以前の家は決して広くないものの、父さんと母さんだけなら問題のないスペースが確保されていた。
築年数はそこそこ経っているけど、建て直しを必要とするほど古くはない。
それなのに、なぜ……?
「あらあら。懐かしい声が聞こえるかと思ったら……おかえりなさい、フェイトちゃん」
「あ、母さん!」
とても懐かしい声。
その優しい声を聞くだけで、ついつい涙が出そうになってしまう。
でも、それは我慢。
男として情けない。
代わりに笑顔を浮かべて振り返り……
「ただいま、母さうぇえええええ!?」
笑顔の挨拶は、途中で驚きの声に変わった。
アミラ・スティア―ト。
僕よりも背が低い。
おまけに童顔なので、父さんと並んで夫婦と言われると、ちょっと犯罪の匂いがしてしまう。
そんな母さんは、赤ちゃんを抱いていた。
首が座っているから、生後半年は経っているのだろう。
「え? え? え? えっと……その子は?」
「ルーテシアちゃんよ?」
いや、名前は聞いていないよ。
名前も大事だけど、今は、それよりも誰なのか、っていうことが気になるんだよ。
母さんは、相変わらずマイペースのようだ。
らしいところを見れて安心したのだけど、でも、やっぱり疑問の方が上だ。
「近所の子を預かっている、とか?」
「あらやだ。ダメよ、フェイトちゃん。自分の妹をそんな風に言うなんて」
「ご、ごめん。そんなつもりは……妹?」
「ええ、妹よ」
「その子が?」
「もちろん」
「……」
たっぷり、一分は思考が停止した。
そして……
「えええええぇーーーーー!!!?」
僕の驚きの声が街中に響き渡ったとかなんとか。
――――――――――
「おいおい、そんなに驚くことはないだろ?」
「驚くよ……」
あれから家の中に入り、改めて事情を説明してもらった。
僕がスノウレイクを出てしばらくは、父さんと母さんはいつも通りに暮らしていたらしい。
しかし、子供がいないことは寂しい。
なら、家族を増やしてしまえばいいのでは?
そんな極論に達したらしく……
まあ、色々とがんばったらしい。
結果、半年くらい前に妹……ルーテシアが生まれたらしい。
子供が生まれたことで、家の中が手狭に。
僕が帰ってきたら、とてもじゃないけれど部屋もスペースも足りない。
なので、思い切って改装したらしい。
「本当に思い切ったことをしたね」
「まあな。でも、こうしてフェイトが帰ってきた。しかも、べっぴんの嬢ちゃん達と一緒に」
父さんにべっぴんと言われ、ソフィアが照れていた。
「改装して正解だっただろう?」
「そうだけど……はぁ。相変わらず、父さんの行動力はすごいね」
思いついたことを、すぐに実行してしまうというか……
父さんは、ほぼほぼ考えないんだよね。
野生の勘のようなもので行動している。
それなのに、ほとんど失敗することがない。
色々な物事において成功を収めている。
そこは、素直にすごいと思う。
「ねえねえ、フェイトちゃん。色々とお話を聞かせてくれる?」
「どんな冒険をしてきたんだ?」
「あ……うん」
二人の笑顔は懐かしくて、温かくて……
今更だけど、ちょっと泣いてしまいそうになった。
その涙を我慢しつつ、僕は今までのことを話した。
奴隷にされていたことは心配をかけてしまうから伏せて……
ソフィアと出会ってからのことをメインに話をする。
その話は思いの外盛り上がり……
僕達は揃って夜ふかしをしてしまうのだった。