「魔法を?」

 思わぬ話に、ついつい首を傾げてしまう。
 ソフィアも不思議そうにしていた。

 アイシャが学びたいというのなら、特に危険なものではないし反対はしないけど……
 でも、なんで魔法なんだろう?

 アイシャは今まで、魔法に興味を見せたことはないのだけど。

「アイシャちゃん、どうして魔法なのですか?」
「わたし、すごい魔法を覚えられる……?」
「えっと……はい、そうですね。その可能性はあると思います」
「なら……おとーさんとおかさんと、リコリスの力に……なりたいの。わたしも、がんばりたい」

 小さな手をぎゅっとして、アイシャはいつになく強い様子で言う。
 守られるだけはイヤ……という感じかな?

 その気持ちはわかる。
 僕も最初はなにもできなくて……
 色々なところでソフィアに助けてもらっていた。

 でも、それじゃあダメ。
 きちんと自立したいと思うし……
 いざという時は、好きな人の力になりたいと思う。

 守られるだけじゃなくて、互いに支え合う。
 それが理想なんだと思う。

「とはいえ……うーん」
「おとーさん、ダメ?」

 上目遣いは反則だよ。
 なんでも、いいよ、って即答してしまいそうになる。

「反対はしないよ。アイシャががんばりたい、っていう気持ちは本物だろうから。なら、僕は応援したい」
「私も同じ気持ちです。ただ……」
「僕達、魔法を使えないからどうしようかな、って」

 魔法を覚えるための教室はあるんだけど……
 でも、アイシャから目を離したくない。

 獣人によからぬ感情を持つ人はいる。
 悪いことを企む人もいる。
 そして、希少種ということが判明した今、片時も離れず一緒にいた方がいいはず。

「ふっふっふ」

 どこからともなく得意げな声が。
 リコリスだ。

 彼女は腕を組み、アイシャの頭の上で得意そうに胸を張る。

「魔法といえば、このあたし! マジカルミラクルプリティピュア妖精、スーパーリコリスちゃんの出番ね!」

 いつも思うのだけど、名乗るのに疲れないのかな?

「リコリスが教師になるの?」
「そういうこと」
「それは……」
「不安ですね……」
「なんでよ!?」

 だって、

「「リコリスだから」」

 僕とソフィアの声がシンクロした。

「このバカップル、めっちゃ失礼なんですけど」

 ごめんなさい。

「あたし、こう見えても魔法のエキスパートなんですけど? めっちゃ頭いいんですけど? 人間で言うなら、賢者っぽいんですけど?」
「ごめんね、リコリスの魔法の腕は疑っていないよ」
「まるで、他は疑っているかのような言い方ね……ま、いいわ。それで、あたしなら教えてあげられるけど、どうする?」

 どうしようか? と、ソフィアと顔を見合わせた。

 リコリスなら良い魔法の教師になれると思うし……
 アイシャに危険が及ぶこともないはず。

 でも、変なことまで教えないか、それが心配だ。
 同じことを考えているらしく、ソフィアも微妙な顔だ。

「リコリス」
「なによ?」
「なら、お願いしたいと思うのですが……魔法だけを教えてくださいね? くれぐれも、余計なことを教えないでくださいね?」
「ふふーん、任せておきなさい!」
「もしも余計なことを教えたら、その時は……ふふ、夕飯のおかずが一品、増えることになりそうですね」
「誠心誠意、お嬢さまに魔法を教えさせていただきたいと思います」

 器用に空中で深くお辞儀をしつつ、リコリスは魔法の教師を引き受けた。

 ソフィアがここまで釘を刺したのなら平気だろう。
 たぶん、余計なことはしないはず。

「リコリス、魔法を教えてくれるの?」

 アイシャがわくわくした様子で問いかけた。

「ええ、そうよ。このあたし、スペシャリテマジックマスターミラクルキューティーガール、魔法少女リコリスちゃんが教えてあげる!」
「わー」

 ぱちぱちと、律儀に拍手をするアイシャ。
 それが心地よかったらしく、リコリスはドヤ顔に。

「このあたしが、アイシャを一流の魔法使いに育ててあげる。でも、修行の道は険しいわよ? ついてこれるかしら?」
「がんばる」
「いい答えね! ならば、今日からあたしのことは、マスターと呼びなさい!」
「ますたーど?」
「マスターよ、マスター! あたしは調味料じゃないわよ!」
「おー」
「なんで拍手するのよ!? 今、どこに感心する要素があったの!?」
「ますたーど、かっこいい」
「だからマスターよ!!!」

 二人のやりとりを見て……

「これなら問題なさそうですね」
「そうだね」

 僕とソフィアは、微笑ましい顔をするのだった。