振り返るとソフィアが。
 ゴゴゴゴゴ……というような音が聞こえてきそうな顔をして、レナを睨みつけている。

「あ、剣聖も一緒だったんだ。ちぇ、つまらないなー」
「なにをしているのですか、と聞いているのですが?」
「ボクのフェイトをナンパしているんだよん」
「ボクの……?」

 ソフィアのこめかみがヒクヒクと動く。
 同時にすさまじい怒気……いや、殺気が放たれる。

 相当なプレッシャーだ。
 近くを歩いて巻き込まれた人が腰を抜かしたりしているのだけど、レナはなんのその。
 涼しい顔をして、なんてことない様子で立っていた。

「フェイトはあなたのものではありません、私のものです」
「そんなこと、いつ決められたのさ? フェイトはボクのものだよ」
「いいえ、私のものです!」
「ボクのもの!」

 えっと……
 僕は誰のものでもないんだけど。

 そうツッコミを入れたいものの、二人が散らす火花と圧がすごくて口を挟むことができない。

「フェイトは私のものです!」
「うわっ」

 ソフィアが僕の右腕に抱きついてきた。
 水着姿でそんなことをするものだから、柔らかい感触がダイレクトに……

「ううん、ボクのものだからね!」
「ええっ」

 レナも反対側に抱きついてきた。
 ソフィアほどじゃないけど、でも、ふわっとした感触が……

 って、僕はなにを考えているんだ!?

「フェイトは、私と一緒にいたいですよね!?」
「ボクと一緒がいいよね!?」
「え、えっと……」

 二人が左右からグイッと詰め寄ってきた。

 いや、だから……
 そんなに抱きつかないで。

 その、色々と当たって……
 どうしていいか、すごく困る。

「えっと……と、とりあえず落ち着いて? まずは深呼吸を……」
「落ち着いてなんていられません!」
「落ち着いてなんかいられないよ!」

 二人は、本当は仲が良いんじゃないかな?
 そんなことを思うくらい、息がぴったりだ。

「フェイトから離れなさい!」
「いたたた!?」

 ソフィアがおもいきり僕の腕を引っ張る。

「そっちこそ離れてよ!」
「いててて!?」

 レナもおもいきり僕の腕を引っ張る。

 痛い痛い痛い!?
 グイグイと左右に引っ張られて、体が二つに裂けてしまいそうだ。

「ちょ……そ、ソフィア? レナも……は、離してくれないと体が……」
「言われていますよ!?」
「キミの方だよ!」
「いたたたたた!!!?」

 さらに強く引っ張られて、体が悲鳴をあげる。
 このままだと、冗談抜きで裂けてしまいそうだ。

「り、リコリス……アイシャ……!」

 少し離れたところで様子を見ていた二人を見つけて、助けを求める。

「おとーさんが大変なことに……」
「大丈夫よ、アイシャ」
「ふえ?」
「あれは、世の男連中がうらやましがる、ラブコメ的修羅場、っていうやつね。大変そうに見えて、実は喜んでいるのよ」
「そうなの?」
「そうよ。ほら、ソフィアとレナとかいう女に抱きつかれているでしょ? 男は、ああやって抱きつかれると喜ぶものなのよ」
「……」

 リコリスのでたらめのせいで、アイシャの視線が痛いものに!?

「巻き込まれたくないし、あたしらは向こうで遊んでましょ」
「ん」
「ま、待って……! これ、本当に大変で……いたたた!?」
「フェイトは私のものです!!!」
「フェイトはボクのものだよ!!!」

 僕の悲鳴と、二人の声が砂浜に響いたとかなんとか。



――――――――――



 夜。
 宿へ戻り、部屋でくつろぐのだけど……

「うぅ……まだちょっと痛いかも」
「ごめんなさい、フェイト……」

 昼間の騒ぎのせいで、僕はベッドにつっぷしていた。
 妙な感じで負荷がかかったらしく、筋肉痛のような感じで体を動かすと痛みが走る。

 その原因であるソフィアは、しゅんとした様子で肩を落としていた。
 そんな姿を見ていると、なにも言えなくなってしまう。

「ううん、僕は気にしていないから」
「本当にすみません……」
「僕も、態度をハッキリさせておくべきだったというか……レナに対して、もっと強く出ておくべきだったと思うから」

 女の子にあんなことを言われるなんて初めてなので、ついつい動揺してしまったのだけど……
 ハッキリと断っておくべきだった。
 それができていないから、ソフィアが怒ったとしても仕方ないと思う。

「でも、僕が好きなのはソフィアだけだから……それだけは覚えておいてほしいな」
「フェイト……はい。私も、フェイトのことが大好きですよ」

 笑顔を交換して、

「アイシャ、あれがバカップルよ」
「おー」

 互いに顔を赤くした。

「ところでさー」

 何気ない様子でリコリスが言う。

「レナって、黎明の同盟とかいうやばいヤツなんでしょ? なんで、この街にいたのかしら? というか、捕まえなくてよかったの?」
「「……あ」」

 とても大事なことを忘れていて、僕とソフィアは揃って頭を抱えるのだった。