リコリスにナビゲートしてもらい、屋敷へ潜入した。
本気を出したリコリスはすごくて、今のところ誰にも見つかっていない。
屋敷の奥へ奥へ進んでいく。
そして……途中で、ふと気がついた。
「ねえ、リコリス」
「なによ?」
先を行くリコリスが羽を止める。
「道は合っているんだよね?」
「ええ。この天才美少女ナビゲーターハイパーリコリスちゃんによれば、こっちの方からソフィアの気配がするわ」
「うーん」
「なによ?」
「なんか、誘われている気がするんだよね」
けっこう奥まで来たのだけど、未だに誰とも出会っていない。
警備の兵も見かけていない。
少し都合が良すぎるような気がした。
そんな懸念を口にすると、
「フェイトは心配性ねー。なにもないんだから、それでいいじゃない」
「そうかな?」
「そうよ。きっと、女神さまがあたし達の味方をしてくれているの。だって、このあたしがいるんだから!」
たまに思うんだけど、リコリスのこの自信はどこから来ているのだろう?
とても不思議だ。
「ふむ、なかなかに鋭いようですね」
「っ!? 誰だ!」
不意に男の声が響いた。
いつからそこにいたのか?
振り返ると、細身の男の姿が。
エドワードさんとエミリアさんから聞いた特徴と一致する。
「あなたがアイザック・ニードル?」
「おや、俺のことを知っているとは。単なる賊ではないようですね。もしかして、我が愛しの妻ソフィアの関係者かな?」
「……」
僕は無言で剣を抜いた。
あなたにソフィアは渡さない。
そんな意思表示のつもりだった。
「やれやれ、いきなり剣を抜くとは。これだから庶民は困る。礼というものを知らないのですか?」
「あなたには、礼をもって接する必要はないと思うので」
「言ってくれますね」
アイザックは舌打ちをする。
「まあ、俺は寛容な男です。庶民ごときの失礼な言葉、見逃してやりましょう」
「それはどうも」
「ほら」
アイザックは革袋を僕の手前に放る。
警戒しつつ革袋の中身を確かめると、金貨がギッシリと詰まっていた。
「これは?」
「それで手を引きなさい」
「……」
「今なら不法侵入もなかったことにしてあげましょう。その金も、我が妻を連れてきてくれた礼として、くれてやりましょう」
「……」
「どうですか? 悪い話ではない……というか、良いことしかないでしょう? あなたのような者には、一生働いても手に入れることのできない大金ですよ」
うーん。
この人は、いったいなにを言っているんだろう?
自分に酔っているというか、人の話を聞かないというか……
僕がここまで来ている時点で、絶対にソフィアのことを諦めるわけがないと、そう理解してもおかしくはないのだけど。
「あんたバカ?」
僕の気持ちを代弁するかのように、リコリスが辛辣かつ、シンプルな暴言を吐く。
「お金でソフィアのことを諦めろとか、典型的な悪役のやることね。こんなところにいないで、舞台にでも上がった方がいいんじゃない? あんたみたいな悪役、今時、けっこう貴重よ? っていうか、あんた顔は良いけどモテないでしょ? 金で女の子をどうこうするなんてヤツ、腐りきってるからねー。だから、無理矢理なんでしょ? あ、かわいそ。モテなさすぎてこんなことするなんて、本気で同情するわ……よしよし」
「……」
プツン、とアイザックの理性が切れる音がした……ような気がした。
リコリスもそれを察したらしく、慌てて僕の頭の後ろに隠れる。
「さあ、フェイト! やっちゃいなさい! 悪の親玉を倒して、さらわれたお姫さまを取り返す時間よ!」
「いや、まあ、がんばるけど……リコリスのそれ、クセなの?」
煽るだけ煽っておいて、最後は僕にバトンタッチ。
アイシャの教育に悪そうだから、やめてほしいんだけど……
うーん。
でもリコリスのことだから、やめられないんだろうなあ。
意識的に煽ってるわけじゃなくて、たぶん、本能でやっているんだと思う。
「残念ですよ」
アイザックが一歩、前に出た。
僕はしっかりと剣を握り、構える。
「俺としては、穏やかに解決したかったんですけどね」
「ソフィアをさらっておいて、よくそんなことが言えるね」
「彼女は、俺の妻となる女性です。ならば、なにをしても問題ないと思いませんか?」
「思わないよ。女の子は、もっと優しくしないとダメなんだ。そんな基本もできないあなたが、ソフィアと結婚するなんてありえない」
「貴様……」
「まだまだ未熟な僕だけど……でも、これだけは言えるよ」
アイザックの目をしっかりと見て、力強く言う。
「ソフィアは、あなたなんかにふさわしくない。絶対に渡さない!」
「……」
プツンと、再びアイザックがキレる音が聞こえたような気がした。
リコリスは困ったことをするな、って考えていたけど……
でも、僕も同じことをしているような気がした。
自信たっぷりにする相手に、あなたの全部がダメですよ、と告げたようなものだからね。
でも、仕方ない。
うん、仕方ない。
僕も男だ。
好きな女の子が無理矢理さらわれているのに、黙っているわけにはいかない。
……怒っていないわけがない!
「本当は、あの女は二の次だったが……それでも、そこまで言われると頭にきますね」
「なんだって?」
ソフィアが二の次?
なら、アイザックの本当の狙いは?
「いくよ」
ここまでくれば実力行使あるのみ。
ソフィアを取り戻せば、アイザックに非があることが証明されるし……
証明されなかったとしても、ソフィアを取り返すことができたのなら、それでいい。
僕は床を蹴り、アイザックに迫る。
剣を右から左へ薙ぐ。
一応、刃は横にして、剣の腹で叩くようにするのだけど……
ギィンッ!
アイザックも剣を抜いて、僕の一撃を防いだ。
「なっ……!?」
僕の一撃が防がれたけど、それについて驚いたわけじゃない。
問題は、彼が抜いた剣だ。
刀身は夜の闇を凝縮したかのような漆黒。
柄に赤い宝石がハメこまれている。
「魔剣……?」
本気を出したリコリスはすごくて、今のところ誰にも見つかっていない。
屋敷の奥へ奥へ進んでいく。
そして……途中で、ふと気がついた。
「ねえ、リコリス」
「なによ?」
先を行くリコリスが羽を止める。
「道は合っているんだよね?」
「ええ。この天才美少女ナビゲーターハイパーリコリスちゃんによれば、こっちの方からソフィアの気配がするわ」
「うーん」
「なによ?」
「なんか、誘われている気がするんだよね」
けっこう奥まで来たのだけど、未だに誰とも出会っていない。
警備の兵も見かけていない。
少し都合が良すぎるような気がした。
そんな懸念を口にすると、
「フェイトは心配性ねー。なにもないんだから、それでいいじゃない」
「そうかな?」
「そうよ。きっと、女神さまがあたし達の味方をしてくれているの。だって、このあたしがいるんだから!」
たまに思うんだけど、リコリスのこの自信はどこから来ているのだろう?
とても不思議だ。
「ふむ、なかなかに鋭いようですね」
「っ!? 誰だ!」
不意に男の声が響いた。
いつからそこにいたのか?
振り返ると、細身の男の姿が。
エドワードさんとエミリアさんから聞いた特徴と一致する。
「あなたがアイザック・ニードル?」
「おや、俺のことを知っているとは。単なる賊ではないようですね。もしかして、我が愛しの妻ソフィアの関係者かな?」
「……」
僕は無言で剣を抜いた。
あなたにソフィアは渡さない。
そんな意思表示のつもりだった。
「やれやれ、いきなり剣を抜くとは。これだから庶民は困る。礼というものを知らないのですか?」
「あなたには、礼をもって接する必要はないと思うので」
「言ってくれますね」
アイザックは舌打ちをする。
「まあ、俺は寛容な男です。庶民ごときの失礼な言葉、見逃してやりましょう」
「それはどうも」
「ほら」
アイザックは革袋を僕の手前に放る。
警戒しつつ革袋の中身を確かめると、金貨がギッシリと詰まっていた。
「これは?」
「それで手を引きなさい」
「……」
「今なら不法侵入もなかったことにしてあげましょう。その金も、我が妻を連れてきてくれた礼として、くれてやりましょう」
「……」
「どうですか? 悪い話ではない……というか、良いことしかないでしょう? あなたのような者には、一生働いても手に入れることのできない大金ですよ」
うーん。
この人は、いったいなにを言っているんだろう?
自分に酔っているというか、人の話を聞かないというか……
僕がここまで来ている時点で、絶対にソフィアのことを諦めるわけがないと、そう理解してもおかしくはないのだけど。
「あんたバカ?」
僕の気持ちを代弁するかのように、リコリスが辛辣かつ、シンプルな暴言を吐く。
「お金でソフィアのことを諦めろとか、典型的な悪役のやることね。こんなところにいないで、舞台にでも上がった方がいいんじゃない? あんたみたいな悪役、今時、けっこう貴重よ? っていうか、あんた顔は良いけどモテないでしょ? 金で女の子をどうこうするなんてヤツ、腐りきってるからねー。だから、無理矢理なんでしょ? あ、かわいそ。モテなさすぎてこんなことするなんて、本気で同情するわ……よしよし」
「……」
プツン、とアイザックの理性が切れる音がした……ような気がした。
リコリスもそれを察したらしく、慌てて僕の頭の後ろに隠れる。
「さあ、フェイト! やっちゃいなさい! 悪の親玉を倒して、さらわれたお姫さまを取り返す時間よ!」
「いや、まあ、がんばるけど……リコリスのそれ、クセなの?」
煽るだけ煽っておいて、最後は僕にバトンタッチ。
アイシャの教育に悪そうだから、やめてほしいんだけど……
うーん。
でもリコリスのことだから、やめられないんだろうなあ。
意識的に煽ってるわけじゃなくて、たぶん、本能でやっているんだと思う。
「残念ですよ」
アイザックが一歩、前に出た。
僕はしっかりと剣を握り、構える。
「俺としては、穏やかに解決したかったんですけどね」
「ソフィアをさらっておいて、よくそんなことが言えるね」
「彼女は、俺の妻となる女性です。ならば、なにをしても問題ないと思いませんか?」
「思わないよ。女の子は、もっと優しくしないとダメなんだ。そんな基本もできないあなたが、ソフィアと結婚するなんてありえない」
「貴様……」
「まだまだ未熟な僕だけど……でも、これだけは言えるよ」
アイザックの目をしっかりと見て、力強く言う。
「ソフィアは、あなたなんかにふさわしくない。絶対に渡さない!」
「……」
プツンと、再びアイザックがキレる音が聞こえたような気がした。
リコリスは困ったことをするな、って考えていたけど……
でも、僕も同じことをしているような気がした。
自信たっぷりにする相手に、あなたの全部がダメですよ、と告げたようなものだからね。
でも、仕方ない。
うん、仕方ない。
僕も男だ。
好きな女の子が無理矢理さらわれているのに、黙っているわけにはいかない。
……怒っていないわけがない!
「本当は、あの女は二の次だったが……それでも、そこまで言われると頭にきますね」
「なんだって?」
ソフィアが二の次?
なら、アイザックの本当の狙いは?
「いくよ」
ここまでくれば実力行使あるのみ。
ソフィアを取り戻せば、アイザックに非があることが証明されるし……
証明されなかったとしても、ソフィアを取り返すことができたのなら、それでいい。
僕は床を蹴り、アイザックに迫る。
剣を右から左へ薙ぐ。
一応、刃は横にして、剣の腹で叩くようにするのだけど……
ギィンッ!
アイザックも剣を抜いて、僕の一撃を防いだ。
「なっ……!?」
僕の一撃が防がれたけど、それについて驚いたわけじゃない。
問題は、彼が抜いた剣だ。
刀身は夜の闇を凝縮したかのような漆黒。
柄に赤い宝石がハメこまれている。
「魔剣……?」