13話 第三の試験・シグルド視点
模擬戦の準備という名目で、シグルド達は客間で打ち合わせをしていた。
そこで、ミラとレクターから、二人がした嫌がらせの内容を聞く。
そして、呆れる。
「おいおい、お前ら、情けねえな。あんなクソガキにいいようにしてやられてるんじゃねえよ」
「あたしは悪くないし……」
「申しわけありません……」
二人はひたすらに気まずそうにしている。
フェイトを落第させて涙目にしてやろうと楽しそうにしていたのだけど、見事に失敗してしまった。
シグルドに合わせる顔がない。
「だってだって、仕方ないじゃん。ワイバーンを倒すとか、ありえないっしょ」
「ばーか。あの無能がワイバーンを倒せるわけないだろ? たぶん、あの剣聖がこっそりと力を貸したんだよ。俺が言ってたことは、ほぼほぼ正解なんだよ」
「あ、そっか」
「くそっ、汚え無能だぜ。てめえに能力がないからって、他人の力を借りるとはな」
雑用全てをフェイトに任せていた者が、どんな顔をしてそんなことを言えるのか?
本人がここにいれば、そんなことを思っていただろう。
「すみません……まさか、参考書の内容を全て知っているとは思わず」
「それも、剣聖が手助けしたんだろうな。事前に内容を教えていたとか、念話が使える魔道具で答えを教えていたとかな」
「なるほど……くっ、私としたことが、そのような手を見逃してしまうなんて。くっ、なんて汚いヤツなのだ」
そもそも、自分が汚い手段に出たことも忘れ、レクターは悔しそうに言う。
「まあ、安心していいぜ。模擬戦の相手は、この俺だ。あんな無能、絶対に合格させねえからな」
「でもさー、合否の条件はどうするの?」
「剣聖が手助けをするとなると、どんな内容にしても難しいかもしれませんね……」
「大丈夫だ。ルールは、シンプルにすればいいのさ」
「と、言うと?」
「模擬戦の合格条件は、ただ一つ。俺に勝つこと。それ以外は一切認めない。シンプルであるが故に、不正がしづらくなるはずだ。お前らは、剣聖がイカサマしないように見張っててくれ」
「へー、なるほど」
「それならば……」
「問題ないだろ?」
シグルドはニヤリと笑う。
それにつられるように、ミラとレクターも意地の悪い笑みを浮かべた。
「剣聖のことは任せたぜ? だから、無能のことは俺に任せろ。あと一歩で冒険者になれるかもしれない、っていう希望をグチャグチャに叩き潰して、ついでに身の程ってもんを体に教え込んで、二度と舐めた口がきけないように俺が調教してやるよ」
「きゃー、さすがシグルド! かっこいい」
「ええ、期待していますよ。シグルドならば、万が一でも、無能に負けるなんてことはありえませんからね」
「ははっ、当たり前だろ? 俺を誰だと思っている。Aランクパーティー『フレアバード』のリーダー、シグルドさまだ! あんな無能、一撃でのしてやるよ!!!」
――――――――――
「ぐぎゃっ!!!?」
一撃で吹き飛ばされたシグルドは、地面を何度も何度も転がる。
訓練場の壁に激突して、ようやく止まり、カエルが潰れたような体勢に。
いったいなにが起きた?
なぜ、俺は倒れている?
シグルドは混乱する頭で、直前の行動を思い返す。
冒険者のために用意された訓練場に移動した後、模擬戦を行うことになった。
一対一の勝負。
合格条件は、シグルドに勝利すること。
絶対に不可能な条件にも関わらず、フェイトはそれを了承した。
努力すれば乗り越えられない壁はないというかのように、気合にあふれていた。
シグルドは内心で笑い、試合に挑んだ。
まずは、一撃を側頭部に叩き込む。
うまくいけば、その一撃で終わりだ。
ただ、そこで終わりにするつもりはない。
まだ戦えるだろうと促すなどして、戦闘は続行。
時間いっぱい、おもいきりいたぶろう。
そう決めていたはずなのに……
「くそがぁあああああ!!! なんで、どうして、俺が吹き飛ばされているんだよ!?」
痛みに耐えて、怒りに吠えて、シグルドが立ち上がる。
それを見て、フェイトが警戒の表情に。
「む、さすがに固いね。今の一撃、いいところに入ったと思ったんだけど」
「まぐれ当たりで調子に乗るなこの無能がぁあああああ!!!」
シグルドは獣のように吠えつつ、駆けた。
ゴォッ! と風を斬りつつ、木剣をフェイトに叩きつける。
手加減なしの全力の一撃だ。
元奴隷で、まともに戦ったことのないフェイトに防ぐ術はない。
ないはずなのに……
ギィンッ!
フェイトは余裕の動きで、木剣を盾のようにしてシグルドの攻撃を防いでみせた。
本来なら、剣速についていけず、対処することはできないはずなのに。
例え見えていたとしても、豪腕で振り下ろされた攻撃を受け止めることはできないはずなのに。
なぜ?
なぜ?
なぜ?
シグルドは混乱してしまい……
その隙をフェイトは見逃すことなく、木剣で巨体の脇腹を叩く。
「ひぐぅ!?」
情けない悲鳴をあげて、シグルドは床に膝をついてしまう。
「な、なんだよ、今の攻撃……Aランクの俺が、まるで見えなかったぞ……!?」
痛みよりも驚愕の方が勝る。
シグルドの頭の中は、なぜ? の二文字で占められていた。
フェイトは元奴隷で……
自分達より遥かに格下の存在で……
いいように使われるだけでそれ以外にありえないはずなのに……
それなのにどうして、今、自分は膝をついている?
フェイトを一方的に叩きのめすはずが、一方的に叩きのめされなければならない?
「なんという……これほどとはな」
「ふふっ、フェイトの実力を知りましたか?」
「ああ、すさまじいな、これは。それなりにやるだろうと思っていたが、まさか、これほどとは。俺の予想以上だ。シグルドを子供扱いするとは」
ソフィアとアイゼンの会話が聞こえてきて、シグルドは、頭の血管が一本か二本、切れたかのように怒る。
「くそっ、がぁあああああ!!!」
痛みは気合で乗り越えた。
動揺は無理矢理に抑え込んだ。
そんなことができるあたり、さすがAランク冒険者というべきだろう。
しかし、悲しいかな。
今、対峙しているフェイトは、SSSランク並の身体能力を持つ。
剣聖であるソフィアが、なにもしなくてもSランク並と認めている。
シグルドが勝利できる可能性は……ゼロだ。
「おおおおおぉっ、このクソ野郎が!!! てめえのような無能の奴隷が、俺に逆らうんじゃねえ!」
「僕は、もうあんたの奴隷なんかじゃない!」
フェイトは過去の因縁を断ち切るように力強く言い、木剣を薙いだ。
剣筋はデタラメではあるものの、高い身体能力によって繰り出された一撃は、抜群の威力だ。
瞬間移動したかのように、木剣がシグルドの目の前に現れて、
「がぁ!?」
再び、シグルドの巨体が吹き飛ぶのだった。
模擬戦の準備という名目で、シグルド達は客間で打ち合わせをしていた。
そこで、ミラとレクターから、二人がした嫌がらせの内容を聞く。
そして、呆れる。
「おいおい、お前ら、情けねえな。あんなクソガキにいいようにしてやられてるんじゃねえよ」
「あたしは悪くないし……」
「申しわけありません……」
二人はひたすらに気まずそうにしている。
フェイトを落第させて涙目にしてやろうと楽しそうにしていたのだけど、見事に失敗してしまった。
シグルドに合わせる顔がない。
「だってだって、仕方ないじゃん。ワイバーンを倒すとか、ありえないっしょ」
「ばーか。あの無能がワイバーンを倒せるわけないだろ? たぶん、あの剣聖がこっそりと力を貸したんだよ。俺が言ってたことは、ほぼほぼ正解なんだよ」
「あ、そっか」
「くそっ、汚え無能だぜ。てめえに能力がないからって、他人の力を借りるとはな」
雑用全てをフェイトに任せていた者が、どんな顔をしてそんなことを言えるのか?
本人がここにいれば、そんなことを思っていただろう。
「すみません……まさか、参考書の内容を全て知っているとは思わず」
「それも、剣聖が手助けしたんだろうな。事前に内容を教えていたとか、念話が使える魔道具で答えを教えていたとかな」
「なるほど……くっ、私としたことが、そのような手を見逃してしまうなんて。くっ、なんて汚いヤツなのだ」
そもそも、自分が汚い手段に出たことも忘れ、レクターは悔しそうに言う。
「まあ、安心していいぜ。模擬戦の相手は、この俺だ。あんな無能、絶対に合格させねえからな」
「でもさー、合否の条件はどうするの?」
「剣聖が手助けをするとなると、どんな内容にしても難しいかもしれませんね……」
「大丈夫だ。ルールは、シンプルにすればいいのさ」
「と、言うと?」
「模擬戦の合格条件は、ただ一つ。俺に勝つこと。それ以外は一切認めない。シンプルであるが故に、不正がしづらくなるはずだ。お前らは、剣聖がイカサマしないように見張っててくれ」
「へー、なるほど」
「それならば……」
「問題ないだろ?」
シグルドはニヤリと笑う。
それにつられるように、ミラとレクターも意地の悪い笑みを浮かべた。
「剣聖のことは任せたぜ? だから、無能のことは俺に任せろ。あと一歩で冒険者になれるかもしれない、っていう希望をグチャグチャに叩き潰して、ついでに身の程ってもんを体に教え込んで、二度と舐めた口がきけないように俺が調教してやるよ」
「きゃー、さすがシグルド! かっこいい」
「ええ、期待していますよ。シグルドならば、万が一でも、無能に負けるなんてことはありえませんからね」
「ははっ、当たり前だろ? 俺を誰だと思っている。Aランクパーティー『フレアバード』のリーダー、シグルドさまだ! あんな無能、一撃でのしてやるよ!!!」
――――――――――
「ぐぎゃっ!!!?」
一撃で吹き飛ばされたシグルドは、地面を何度も何度も転がる。
訓練場の壁に激突して、ようやく止まり、カエルが潰れたような体勢に。
いったいなにが起きた?
なぜ、俺は倒れている?
シグルドは混乱する頭で、直前の行動を思い返す。
冒険者のために用意された訓練場に移動した後、模擬戦を行うことになった。
一対一の勝負。
合格条件は、シグルドに勝利すること。
絶対に不可能な条件にも関わらず、フェイトはそれを了承した。
努力すれば乗り越えられない壁はないというかのように、気合にあふれていた。
シグルドは内心で笑い、試合に挑んだ。
まずは、一撃を側頭部に叩き込む。
うまくいけば、その一撃で終わりだ。
ただ、そこで終わりにするつもりはない。
まだ戦えるだろうと促すなどして、戦闘は続行。
時間いっぱい、おもいきりいたぶろう。
そう決めていたはずなのに……
「くそがぁあああああ!!! なんで、どうして、俺が吹き飛ばされているんだよ!?」
痛みに耐えて、怒りに吠えて、シグルドが立ち上がる。
それを見て、フェイトが警戒の表情に。
「む、さすがに固いね。今の一撃、いいところに入ったと思ったんだけど」
「まぐれ当たりで調子に乗るなこの無能がぁあああああ!!!」
シグルドは獣のように吠えつつ、駆けた。
ゴォッ! と風を斬りつつ、木剣をフェイトに叩きつける。
手加減なしの全力の一撃だ。
元奴隷で、まともに戦ったことのないフェイトに防ぐ術はない。
ないはずなのに……
ギィンッ!
フェイトは余裕の動きで、木剣を盾のようにしてシグルドの攻撃を防いでみせた。
本来なら、剣速についていけず、対処することはできないはずなのに。
例え見えていたとしても、豪腕で振り下ろされた攻撃を受け止めることはできないはずなのに。
なぜ?
なぜ?
なぜ?
シグルドは混乱してしまい……
その隙をフェイトは見逃すことなく、木剣で巨体の脇腹を叩く。
「ひぐぅ!?」
情けない悲鳴をあげて、シグルドは床に膝をついてしまう。
「な、なんだよ、今の攻撃……Aランクの俺が、まるで見えなかったぞ……!?」
痛みよりも驚愕の方が勝る。
シグルドの頭の中は、なぜ? の二文字で占められていた。
フェイトは元奴隷で……
自分達より遥かに格下の存在で……
いいように使われるだけでそれ以外にありえないはずなのに……
それなのにどうして、今、自分は膝をついている?
フェイトを一方的に叩きのめすはずが、一方的に叩きのめされなければならない?
「なんという……これほどとはな」
「ふふっ、フェイトの実力を知りましたか?」
「ああ、すさまじいな、これは。それなりにやるだろうと思っていたが、まさか、これほどとは。俺の予想以上だ。シグルドを子供扱いするとは」
ソフィアとアイゼンの会話が聞こえてきて、シグルドは、頭の血管が一本か二本、切れたかのように怒る。
「くそっ、がぁあああああ!!!」
痛みは気合で乗り越えた。
動揺は無理矢理に抑え込んだ。
そんなことができるあたり、さすがAランク冒険者というべきだろう。
しかし、悲しいかな。
今、対峙しているフェイトは、SSSランク並の身体能力を持つ。
剣聖であるソフィアが、なにもしなくてもSランク並と認めている。
シグルドが勝利できる可能性は……ゼロだ。
「おおおおおぉっ、このクソ野郎が!!! てめえのような無能の奴隷が、俺に逆らうんじゃねえ!」
「僕は、もうあんたの奴隷なんかじゃない!」
フェイトは過去の因縁を断ち切るように力強く言い、木剣を薙いだ。
剣筋はデタラメではあるものの、高い身体能力によって繰り出された一撃は、抜群の威力だ。
瞬間移動したかのように、木剣がシグルドの目の前に現れて、
「がぁ!?」
再び、シグルドの巨体が吹き飛ぶのだった。