広場にある時計塔。
その頂点にレナの姿があった。
時計塔のてっぺんに人がいるなんて、まず考えることはないため、今のところ誰にも気づかれていない。
レナは街を見下ろして……
とある一点を見て……
「はぁ」
がっかりしたようなため息をこぼした。
「フェイトってば、あんな駒に苦戦するなんて……うーん? 魔剣を渡しているとはいえ、ちょっとなー、がっかりだなー。もっと強いと思ってたんだけどなー」
レナが時計塔に登った理由は、フェイトの行動を観察するという、至極単純なものだった。
街で一番高いところから見下ろせば、どこにいるか簡単に把握できるし、おそらく、監視がバレることもない。
とはいえ、普通に考えてそんなことは実行しない。
時計塔に登れば視界は確保できるが、視力が足りない。
足りないはずなのだけど……
視力を含めて、レナの身体能力は常人を遥かに超えていて、問題なく監視を実行することができていた。
「はぁ、期待はずれかも」
再びため息をこぼす。
ただ……
なぜか、視線はフェイトを追ってしまう。
強くなかった。
自分達が用意した駒に殺されかけるほど、弱かった。
弱い相手に興味はない。
それなのに、なぜか、未だにフェイトのことが気になる。
「うーん……なんだろう?」
レナは考える。
時計塔にいることも忘れて、じっくりと考える。
「今は弱いけど……この先、とんでもなく強くなるのかな? だから、ボクが興味を持ったのかな? うん、それなら納得」
「お主は、このようなところでなにをしておる?」
「あ、リケンだ。やっほー」
振り返ると、いつの間にかリケンの姿があった。
どのようにして登ったのか。
いつ、レナを見つけたのか。
わからないことだらけなのだけど、レナは気にしない。
元々、リケンは神出鬼没ではあったし……
そもそも、リケンがよからぬことを企んでいたとしても、問題はない。
だって、自分の方が強いのだから。
「剣聖の監視だよ」
「それにしては、別の小僧を見ていたようだが?」
「うっ、バレちゃった?」
「儂は年老いているが、そこまで耄碌しておらぬ」
「ごめんねー、バカにしたわけじゃないんだよ?」
「知っておる。ごまかそうとしただけじゃろう」
「むう」
叱られた子供のように、レナがしょぼんとなる。
レナの方が圧倒的な力を持つのだけど……
しかし、なんだかんだでまだ幼い。
長い時を生きたリケンには、色々と敵わないのだ。
「……ごめんなさい」
「構わん。一応、剣聖も傍におるからな。それに……それだけ気になる相手なのじゃろう?」
「うん、そうだね。期待はずれかな? って思っているんだけど、でも、もしかしたら成長途中なのかも? って思っていて……うーん、悩ましい感じ」
「我らの計画の障害になりそうか?」
「剣聖と一緒にいるし、なると思うよ。ボクやリケンなら敵じゃないけど、下っ端だと厳しいかな? あの魔剣を渡した人なら、ちょうどいい感じ」
「ふむ」
「障害になる可能性が少しでもあるのなら斬っておこう……っていうのはダメだよ?」
レナが鋭い目になる。
突然、季節が冬になったかのように、冷たい空気が流れた。
レナの闘気が放たれて、自然を怯えさせているのだ。
しかし、リケンが怯むことはない。
いつものことというように、落ち着いて対処をする。
「慌てるでない。お主の獲物を横取りしようなんて、バカなことは考えぬよ」
「ホント?」
「ただ、剣聖は別じゃ。ヤツの剣は、儂らに届く可能性が高い。機会があれば排除するが、構わないな?」
「うん、そっちはいいよ。ボクが気になるのは、フェイトだけだからねー」
「それを聞いて安心した。これで、計画を進められるというものじゃ」
「順調? 魔剣を適当な男に渡して、治安を乱す。そうやってアイスのお願いを叶えてあげる……フリをしつつ、適合者を探す。もしくは、取り返す、っていう話だよね?」
「順調ではあるが……新しい適合者は見つからぬな。やはり、アイシャとやらを取り返した方が早いかもしれぬ」
「ま、その場合は剣聖が敵になるから、なるべくしたくないんだけどねー」
そんなことを口にしつつも、レナは笑っていた。
できることなら、剣聖と戦いたい。
朝から晩まで殺し合いをしたい。
そんな物騒なことを考えていた。
「もうしばらく、様子を見よう。適合者は魔剣に誘い出される傾向にあるからのう」
「面倒だねー。バッサリいっちゃった方が早いのに」
「儂らは力は持っていても、数が少ない。まずは適合者を探し出して、魔剣を増産して、仲間を増やす……それが一番じゃ」
「そうなんだけど、面倒だねー」
「お主、面倒が多いな」
「ま、いいや。ボクが剣聖の方を見張って、ちょいちょい誘導しておくから、その間に、リケンは適合者を探しておいてね。あと、できればリーフランドの壊滅も」
「言われなくても、儂の役目はきちんと理解しておる」
そこで言葉が途切れた。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
二人は空の彼方を見た。
青く晴れた空の中を、白い雲がゆっくりと流れている。
とても穏やかな光景で……
その光景を手に入れたいと、二人は心の底から思う。
「じゃ、ボクは監視に戻るね。フェイト達、どこかに移動するみたいだから」
「油断するでないぞ?」
「りょーかい。ちゃんと気をつけるよー」
レナはにっこりと笑い、敬礼をした。
「リケンも気をつけてね?」
「わかっておるわい。下手なミスはしないし、うまく愚者共を使ってみせよう」
「うんうん、期待しているね」
「儂の台詞じゃ」
レナとリケンは、互いに拳を差し出して……
がんばれ、というかのように、コツンとぶつける。
「またね」
「うむ」
そして……
最初からなにもいなかったかのように、二人は時計塔から消えた。
その頂点にレナの姿があった。
時計塔のてっぺんに人がいるなんて、まず考えることはないため、今のところ誰にも気づかれていない。
レナは街を見下ろして……
とある一点を見て……
「はぁ」
がっかりしたようなため息をこぼした。
「フェイトってば、あんな駒に苦戦するなんて……うーん? 魔剣を渡しているとはいえ、ちょっとなー、がっかりだなー。もっと強いと思ってたんだけどなー」
レナが時計塔に登った理由は、フェイトの行動を観察するという、至極単純なものだった。
街で一番高いところから見下ろせば、どこにいるか簡単に把握できるし、おそらく、監視がバレることもない。
とはいえ、普通に考えてそんなことは実行しない。
時計塔に登れば視界は確保できるが、視力が足りない。
足りないはずなのだけど……
視力を含めて、レナの身体能力は常人を遥かに超えていて、問題なく監視を実行することができていた。
「はぁ、期待はずれかも」
再びため息をこぼす。
ただ……
なぜか、視線はフェイトを追ってしまう。
強くなかった。
自分達が用意した駒に殺されかけるほど、弱かった。
弱い相手に興味はない。
それなのに、なぜか、未だにフェイトのことが気になる。
「うーん……なんだろう?」
レナは考える。
時計塔にいることも忘れて、じっくりと考える。
「今は弱いけど……この先、とんでもなく強くなるのかな? だから、ボクが興味を持ったのかな? うん、それなら納得」
「お主は、このようなところでなにをしておる?」
「あ、リケンだ。やっほー」
振り返ると、いつの間にかリケンの姿があった。
どのようにして登ったのか。
いつ、レナを見つけたのか。
わからないことだらけなのだけど、レナは気にしない。
元々、リケンは神出鬼没ではあったし……
そもそも、リケンがよからぬことを企んでいたとしても、問題はない。
だって、自分の方が強いのだから。
「剣聖の監視だよ」
「それにしては、別の小僧を見ていたようだが?」
「うっ、バレちゃった?」
「儂は年老いているが、そこまで耄碌しておらぬ」
「ごめんねー、バカにしたわけじゃないんだよ?」
「知っておる。ごまかそうとしただけじゃろう」
「むう」
叱られた子供のように、レナがしょぼんとなる。
レナの方が圧倒的な力を持つのだけど……
しかし、なんだかんだでまだ幼い。
長い時を生きたリケンには、色々と敵わないのだ。
「……ごめんなさい」
「構わん。一応、剣聖も傍におるからな。それに……それだけ気になる相手なのじゃろう?」
「うん、そうだね。期待はずれかな? って思っているんだけど、でも、もしかしたら成長途中なのかも? って思っていて……うーん、悩ましい感じ」
「我らの計画の障害になりそうか?」
「剣聖と一緒にいるし、なると思うよ。ボクやリケンなら敵じゃないけど、下っ端だと厳しいかな? あの魔剣を渡した人なら、ちょうどいい感じ」
「ふむ」
「障害になる可能性が少しでもあるのなら斬っておこう……っていうのはダメだよ?」
レナが鋭い目になる。
突然、季節が冬になったかのように、冷たい空気が流れた。
レナの闘気が放たれて、自然を怯えさせているのだ。
しかし、リケンが怯むことはない。
いつものことというように、落ち着いて対処をする。
「慌てるでない。お主の獲物を横取りしようなんて、バカなことは考えぬよ」
「ホント?」
「ただ、剣聖は別じゃ。ヤツの剣は、儂らに届く可能性が高い。機会があれば排除するが、構わないな?」
「うん、そっちはいいよ。ボクが気になるのは、フェイトだけだからねー」
「それを聞いて安心した。これで、計画を進められるというものじゃ」
「順調? 魔剣を適当な男に渡して、治安を乱す。そうやってアイスのお願いを叶えてあげる……フリをしつつ、適合者を探す。もしくは、取り返す、っていう話だよね?」
「順調ではあるが……新しい適合者は見つからぬな。やはり、アイシャとやらを取り返した方が早いかもしれぬ」
「ま、その場合は剣聖が敵になるから、なるべくしたくないんだけどねー」
そんなことを口にしつつも、レナは笑っていた。
できることなら、剣聖と戦いたい。
朝から晩まで殺し合いをしたい。
そんな物騒なことを考えていた。
「もうしばらく、様子を見よう。適合者は魔剣に誘い出される傾向にあるからのう」
「面倒だねー。バッサリいっちゃった方が早いのに」
「儂らは力は持っていても、数が少ない。まずは適合者を探し出して、魔剣を増産して、仲間を増やす……それが一番じゃ」
「そうなんだけど、面倒だねー」
「お主、面倒が多いな」
「ま、いいや。ボクが剣聖の方を見張って、ちょいちょい誘導しておくから、その間に、リケンは適合者を探しておいてね。あと、できればリーフランドの壊滅も」
「言われなくても、儂の役目はきちんと理解しておる」
そこで言葉が途切れた。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
二人は空の彼方を見た。
青く晴れた空の中を、白い雲がゆっくりと流れている。
とても穏やかな光景で……
その光景を手に入れたいと、二人は心の底から思う。
「じゃ、ボクは監視に戻るね。フェイト達、どこかに移動するみたいだから」
「油断するでないぞ?」
「りょーかい。ちゃんと気をつけるよー」
レナはにっこりと笑い、敬礼をした。
「リケンも気をつけてね?」
「わかっておるわい。下手なミスはしないし、うまく愚者共を使ってみせよう」
「うんうん、期待しているね」
「儂の台詞じゃ」
レナとリケンは、互いに拳を差し出して……
がんばれ、というかのように、コツンとぶつける。
「またね」
「うむ」
そして……
最初からなにもいなかったかのように、二人は時計塔から消えた。