醸造がほどよく進み、肥料は完成し、芋畑からはもりもりと芋が取れ……。
トリマルたちも、またさらに一回り大きくなった。
開拓はばりばりと進み、畑の面積はこりゃあ多分、二倍くらいになったんじゃないか?
夜間にやって来る獣も増えてきたので、罠をばんばん張って捕らえている。
お陰で、肉も毛皮もたっぷり取れた。
「なかなか、勇者村も軌道に乗ってきたんじゃないのか?」
「そうだねえー。お芋もたっぷり採れるようになったし……そろそろ、ショートが言ってた麦の栽培、行けるかもね」
俺とカトリナの関係も、まあ、大変仲良くやっています……!!
何せ、隣の部屋のフックとミーが大変仲良しだからな。
俺たちも負けじと仲良くせねばなるまい。
そうそう、ミーの腹はちょっと大きくなってきた。
それでも元気に働いているのだが、力仕事は本格的にカトリナが担当するようになっている。
最近のミーは、洗い物と縫い物がメインだな。
かくして、俺たちの生活は順調なままどこまで続いていく……。
というわけではなかった。
ある時突然、丁字路村に入ってくる商品の品数が減ったのだ。
「どういうことだ?」
村の取引所で尋ねてみる。
値段も明らかに上がっているが、王都の相場も同じように上がっている。
「実は……物が入ってこないんですよ勇者様。いよいよ、戦争が始まるっていう噂でねえ……」
おばちゃんが不安そうに告げる。
戦争……?
そう言えば、特戦隊が言ってたな。
魔王の時代に、ザマァサレ一世があちこちで不義理を働きまくったせいで、各国にハブられてると。
これはつまり、周りが敵ばかりになっているということでは?
それを考えると、今までよくぞ物流を保ってたなと言う気になるな!
で、恐らくここで物資が滞ったってことは、他国が団結してハジメーノ王国に攻めてくるということではあるまいか。
いかん……。
それはいかんぞお。
ようやく、俺の安らかで楽しいスローライフが軌道に乗ってきたばかりなのだ。
俺は、帰る場所と、師匠と、友と、村人と、ペットと、そして可愛い可愛いハニーを手に入れてだな!
毎日いちゃいちゃして過ごす予定だったのだ!
そこに戦争だと……!?
ええい、ザマァサレ一世、どこまで俺の足を引っ張れば気が済むのだ。
俺は怒りに燃えた。
だが、自ら助けに行くのは癪なので、この日は買えるだけの麦の苗を購入して帰った。
帰ってきた俺を見て、クロロックが何か察したらしい。
カエルながら、こいつはとても鋭い男だ。
親友である俺のことをなんでも分かっている。
「ショートさん」
「ああ、分かるか、クロロック。これだけしか買えなかった」
「ええ。肥料の配分は難しいです。麦は少量から作ったほうがいいですね。分かってくれましたか」
全然分かってねえ!!
「違う違う! あのな、丁字路村に物が無くなってきてるんだ。というか、国中から物が無くなってる」
すると、クロロックは腕組みをして、クロクローと喉を膨らませた。
もう分かるぞ、こいつがこの仕草をするのは、色々と誤魔化してる時なんだ。
「つまり、戦争が起こるんだな?」
ブルストが核心的な発言をした。
「流石ブルストだ。間違いなく、でかい戦争が起きるな。しかもこれは、人間と人間の戦争だ。実にバカバカしい」
「うーむ」
ブルストが顎を撫でる。
「俺らオーガはな、部族同士の争いなんてのは挨拶みたいなもんだった。何せ簡単にゃ死なねえ頑丈な体だからな。本気で殴り合ってもまあどうにか生きてる。ってことで、カジュアルに戦争をやるんだよ。で、勝った側が略奪する。だからまあ、俺は人間が戦争をするって言ってもな」
「文化の違いだなあ」
ちなみに、このやり取りを横でフックが聞いて、ほっと胸をなでおろしている。
この辺境にいる限りは、ミーと腹の中にいる赤ん坊は無事だと思ってるんだろう。
それは全くもってその通り。
さらに、今戦争が起きたとしても、俺たちはこの辺境に引きこもってても構わない。
当座困らないだけの量の布はあるし、芋に丘ヤシがある。
あちゃー、こんなことなら、野菜をもっと手に入れておくんだった。
野草でしばらくは過ごすか。
ハジメーノ王国、あんま強くなさそうだし、他の国が徒党を組んで戦争を仕掛けるなら、サクッと敗戦するだろ。
それで、こっちまで勝った側の国がちょっかいを出してきたら、殴り返せばいい。
「よし、これだ。これで行こう。俺はもう、歴史の表舞台には立たないと決めたのだ……」
俺はこっちで楽しく過ごすのだ……。
だが。
元勇者とは言え、俺を放っておいてくれるほど世界は甘くなかったらしい。
その日の夕方に、猛烈な勢いで特戦隊がやって来たのだ。
「勇者殿! 勇者殿ーっ!!」
「聞こえない! 何も聞こえないぞーっ!!」
耳をふさぐ俺。
だが、特戦隊は俺を取り囲んでひざまずき、頭を下げてくるのだ。
「お助け下さい勇者殿ーっ!!」
「トラッピア殿下が外交でどうにか食い止めていましたが……ついに限界が……!!」
「クーデターを起こした殿下がザマァサレ一世陛下を地下牢に幽閉し、政権を奪取したのですが時に既に遅く……!」
「勇者殿に会ってから、トラッピア殿下のモチベーションが復活したようで……」
ええ……凄いことになってたんだな……!!
「どうか! どうかお願いします!!」
だが、ここは俺一人で決められることではない……。
スッとカトリナを見る。
すると彼女は、眉間にシワを寄せている。
「あの王女はどうでもいいんだけどね。戦争って、私あんまり知らないけど……たくさんの人が困るんでしょ?」
「そうなるな」
「だったら、私、ショートには戦争を止めて欲しい」
「カトリナさん!?」
「ただし!! 私も!! 行くから!!」
「カッ、カトリナさんんんんっっっ!?」
ということで。
ハジメーノ王国vs連合国軍の戦争に……。
この俺、勇者ショートが参戦なのだ……!
トリマルたちも、またさらに一回り大きくなった。
開拓はばりばりと進み、畑の面積はこりゃあ多分、二倍くらいになったんじゃないか?
夜間にやって来る獣も増えてきたので、罠をばんばん張って捕らえている。
お陰で、肉も毛皮もたっぷり取れた。
「なかなか、勇者村も軌道に乗ってきたんじゃないのか?」
「そうだねえー。お芋もたっぷり採れるようになったし……そろそろ、ショートが言ってた麦の栽培、行けるかもね」
俺とカトリナの関係も、まあ、大変仲良くやっています……!!
何せ、隣の部屋のフックとミーが大変仲良しだからな。
俺たちも負けじと仲良くせねばなるまい。
そうそう、ミーの腹はちょっと大きくなってきた。
それでも元気に働いているのだが、力仕事は本格的にカトリナが担当するようになっている。
最近のミーは、洗い物と縫い物がメインだな。
かくして、俺たちの生活は順調なままどこまで続いていく……。
というわけではなかった。
ある時突然、丁字路村に入ってくる商品の品数が減ったのだ。
「どういうことだ?」
村の取引所で尋ねてみる。
値段も明らかに上がっているが、王都の相場も同じように上がっている。
「実は……物が入ってこないんですよ勇者様。いよいよ、戦争が始まるっていう噂でねえ……」
おばちゃんが不安そうに告げる。
戦争……?
そう言えば、特戦隊が言ってたな。
魔王の時代に、ザマァサレ一世があちこちで不義理を働きまくったせいで、各国にハブられてると。
これはつまり、周りが敵ばかりになっているということでは?
それを考えると、今までよくぞ物流を保ってたなと言う気になるな!
で、恐らくここで物資が滞ったってことは、他国が団結してハジメーノ王国に攻めてくるということではあるまいか。
いかん……。
それはいかんぞお。
ようやく、俺の安らかで楽しいスローライフが軌道に乗ってきたばかりなのだ。
俺は、帰る場所と、師匠と、友と、村人と、ペットと、そして可愛い可愛いハニーを手に入れてだな!
毎日いちゃいちゃして過ごす予定だったのだ!
そこに戦争だと……!?
ええい、ザマァサレ一世、どこまで俺の足を引っ張れば気が済むのだ。
俺は怒りに燃えた。
だが、自ら助けに行くのは癪なので、この日は買えるだけの麦の苗を購入して帰った。
帰ってきた俺を見て、クロロックが何か察したらしい。
カエルながら、こいつはとても鋭い男だ。
親友である俺のことをなんでも分かっている。
「ショートさん」
「ああ、分かるか、クロロック。これだけしか買えなかった」
「ええ。肥料の配分は難しいです。麦は少量から作ったほうがいいですね。分かってくれましたか」
全然分かってねえ!!
「違う違う! あのな、丁字路村に物が無くなってきてるんだ。というか、国中から物が無くなってる」
すると、クロロックは腕組みをして、クロクローと喉を膨らませた。
もう分かるぞ、こいつがこの仕草をするのは、色々と誤魔化してる時なんだ。
「つまり、戦争が起こるんだな?」
ブルストが核心的な発言をした。
「流石ブルストだ。間違いなく、でかい戦争が起きるな。しかもこれは、人間と人間の戦争だ。実にバカバカしい」
「うーむ」
ブルストが顎を撫でる。
「俺らオーガはな、部族同士の争いなんてのは挨拶みたいなもんだった。何せ簡単にゃ死なねえ頑丈な体だからな。本気で殴り合ってもまあどうにか生きてる。ってことで、カジュアルに戦争をやるんだよ。で、勝った側が略奪する。だからまあ、俺は人間が戦争をするって言ってもな」
「文化の違いだなあ」
ちなみに、このやり取りを横でフックが聞いて、ほっと胸をなでおろしている。
この辺境にいる限りは、ミーと腹の中にいる赤ん坊は無事だと思ってるんだろう。
それは全くもってその通り。
さらに、今戦争が起きたとしても、俺たちはこの辺境に引きこもってても構わない。
当座困らないだけの量の布はあるし、芋に丘ヤシがある。
あちゃー、こんなことなら、野菜をもっと手に入れておくんだった。
野草でしばらくは過ごすか。
ハジメーノ王国、あんま強くなさそうだし、他の国が徒党を組んで戦争を仕掛けるなら、サクッと敗戦するだろ。
それで、こっちまで勝った側の国がちょっかいを出してきたら、殴り返せばいい。
「よし、これだ。これで行こう。俺はもう、歴史の表舞台には立たないと決めたのだ……」
俺はこっちで楽しく過ごすのだ……。
だが。
元勇者とは言え、俺を放っておいてくれるほど世界は甘くなかったらしい。
その日の夕方に、猛烈な勢いで特戦隊がやって来たのだ。
「勇者殿! 勇者殿ーっ!!」
「聞こえない! 何も聞こえないぞーっ!!」
耳をふさぐ俺。
だが、特戦隊は俺を取り囲んでひざまずき、頭を下げてくるのだ。
「お助け下さい勇者殿ーっ!!」
「トラッピア殿下が外交でどうにか食い止めていましたが……ついに限界が……!!」
「クーデターを起こした殿下がザマァサレ一世陛下を地下牢に幽閉し、政権を奪取したのですが時に既に遅く……!」
「勇者殿に会ってから、トラッピア殿下のモチベーションが復活したようで……」
ええ……凄いことになってたんだな……!!
「どうか! どうかお願いします!!」
だが、ここは俺一人で決められることではない……。
スッとカトリナを見る。
すると彼女は、眉間にシワを寄せている。
「あの王女はどうでもいいんだけどね。戦争って、私あんまり知らないけど……たくさんの人が困るんでしょ?」
「そうなるな」
「だったら、私、ショートには戦争を止めて欲しい」
「カトリナさん!?」
「ただし!! 私も!! 行くから!!」
「カッ、カトリナさんんんんっっっ!?」
ということで。
ハジメーノ王国vs連合国軍の戦争に……。
この俺、勇者ショートが参戦なのだ……!