「ギルドから依頼を受けてやって来ました。ウォリーと申します」
「おお、よろしく頼むよ」

 口の周りに濃い髭を生やした男はにっこりとほほ笑んだ。

「私がこの村の村長のシドだ」

 ウォリーはシドと名乗った男と握手をする。
昨日ギルドに寄った際、ウォリーはパーティ設立の手続きついでに依頼を受注していた。ベボーテ村の付近に盗賊が潜伏しているらしいとの事で、その討伐をせよという依頼だった。
 本来ウォリー1人に盗賊の討伐は荷が重いのだが、今回の依頼は複数の冒険者が同時に依頼を受けて臨時パーティを組み協力して行うというもので、ウォリーが村に到着した頃には既に3人の冒険者が集まっていた。

 ちなみにダーシャはと言えば今朝ウォリーが目覚めた時にはまだ眠っていたので、起こさないようにこっそり抜け出して出発した。

「村の者が近くの山道で何度か襲われてな、こもまま放っておくといずれ村へ襲撃に来るかもしれん。なんとか村人の不安材料を取り除いてほしい」

 シドは冒険者たちに語りながら頭を下げた。

「失礼。ギルドから盗賊討伐の依頼を受けて来たのだが…」

 その時、また新しい冒険者がやって来た。その人物を見てウォリーはあっと声をあげる。
今村に到着したばかりの冒険者、それはダーシャだった。彼女もウォリーの存在に気付いたのか、目を丸くした。

「なっ…ウォリー!?まさか偶然同じ依頼を受けていたとは…」
「あー…冒険者さんね。はいどうもどうも」

 シドがダーシャにそう声をかける。ウォリーは彼の態度が自分の時とかなり違う事に気付いた。

「あー、悪いけどな、あんたはいいや。帰ってくれ」

 そう言ってシドはシッシと野良猫でも追い払うかのような仕草をした。他の冒険者たちは見て見ぬふりをして黙り込んでいる。
 ダーシャはシドの考えを察したのか何も言い返さずその場を去ろうとした。

「ちょっと待ってください」

 たまらずウォリーが声をあげた。

「なぜ彼女が参加できないんです?まだ盗賊の人数も把握していません。人は多いに越したことはありません」
「なぜって…魔人族なんかの手を借りられるか」

 シドは苛ついた様子で答えた。

「それって冒険者を追い返す正当な理由にはなりませんよね?ギルドに報告したら違約金を払う事になりますよ?」

 国が魔国との平和的関係を目指している以上、ギルドは表立って人種差別は行えない。宿屋がダーシャを追い返そうとした際に名目上は満室という事にしたのはその為だ。

「ウォリー、もういい。私はこういうのは慣れている」

 ダーシャがそう言うがウォリーは引き下がるつもりは無い。

「ダーシャさん。あなたもこの山奥の村にわざわざ移動してきたんでしょう?それを魔人族だからという理由で追い返されたらここに来るまでに費やした時間や費用は無駄になってしまいます。参加できなければあなたに報酬もありません。あなたはここに居てもいい権利があります」
「もういい!勝手にしろ!」

 シドが怒鳴った。どうやら彼の方が折れたようだった。ぶつぶつ何かを呟きながら彼はその場を後にした。
 ダーシャは気まずそうにウォリーの横に立つ。

「おい!なんだってお前はそう余計なお節介を焼くんだ!」
「僕は当然の事を言っただけですよ」

 ウォリーとダーシャが揉めていると、冒険者の一人が声をあげた。

「まあまあ、あれこれ言っていても仕方ないだろ。俺たちの敵は盗賊であって魔人族じゃない。今は力を合わせるのが最優先だ。だが盗賊のアジトも人数もまだわからない状況だ。今日は一日周辺の調査と作戦会議に集中して、もし盗賊の居場所が分かれば明日行動しよう。」

 その冒険者の発言から場の流れは変わり、盗賊討伐に向けてそれぞれ意見を言い始めた。

「盗賊は夕方から夜間に活動して人を襲う事が多い。昼間に攻撃を仕掛ければ寝込みを襲えるかも」
「今夜は交代で村の見張りを立てよう。向こうから襲撃してくる可能性がある」
「この付近で潜伏できそうな洞窟は…」






 冒険者同士の話し合いが終わり、チームを分けて村周辺の調査が始まった。
 ウォリーとダーシャは同じチームになり、二人で周辺の山道を調べることになった。村長からの情報によれば、山賊がよく出現するポイントだ。

「だいたいお前は周りの目も気にせずいつもいつも…」

 ダーシャは先ほどのやり取りが未だに不服だったで、調査中もグチグチとウォリーに文句を言ってきた。
彼は彼で、それを軽く受け流しつつ盗賊の痕跡などを探していた。



「誰か!誰か!!」

 突然叫び声が聞こえ、二人が声の方へ走ってみると、そこには馬車と血まみれの二人の男が居た。ウォリーが察するに二人は商人のようだった。馬車の荷物がほとんど無くなっている所を見ると、盗賊に襲われ奪われたのだろう。

「ウォリー!二人を頼む!盗賊はまだ遠くへ行ってないはず!」
「待って!相手の人数は未知数です!今一人で行動するのは危ない!」

 ウォリーの言葉に駆け出そうとしたダーシャが足を止めた。彼は傷を負った商人の一人にポーションを飲ませて回復させる。治癒師のスキルを失った今の彼は回復魔法が使えない。その為、ポーションに頼るしかなかった。
 ウォリーのポーションで一人はある程度回復したが、もう一人はあまりにも傷が深く、ポーションを飲ませても回復しきれなかった。

「頼む!助けてくれ!息子なんだ!!」

 先に回復した商人が涙を流しながらウォリー達に訴えた。どうやら二人は親子で商業を営んでいるらしい。そうは言ってもウォリーの回復手段はポーション以外に無い。ダーシャが悔しそうに歯を食いしばっているのを見る限り、彼女も回復魔法は使えないようだった。

 その時、頭の中であのメッセージ音が鳴った。


≪お助けスキル『回復マン』の取得が可能になりました≫