「コピ! 大変!!」
「え? どうしたのルアク」
コピと瓜二つの女、ルアクと呼ばれた猫耳の店員が青い顔をして飛び出してきた。
「ちょっと来て!」
丁度ウォリーと会話中だったコピは言われるまま彼女に連れられて店の奥へ入って行った。
様子からしてただ事ではないのを感じ、ウォリーは心配そうに2人が消えて行った方を見つめていた。
しばらく経って、コピが戻ってくる。
先程のルアクという店員と同様に、顔が青くなっていた。
「何かあったんですか?」
「……」
コピはしばらく黙っていた。ウォリーの問いに答えようか迷っている様子だった。
しかし、やがて泣きそうな目でウォリーを見つめると、口を開いた。
「また、泥棒に入られました」
「えっ!?」
「ただ今度はお金じゃありません。倉庫に入れてあったコーヒー豆が盗られてました。倉庫へは店内の食材を補充する時にしか入らないので今になるまで気付かなかったんです」
やがてルアクも店の奥から出てきた。
「どうしよう。今残っているコーヒー豆だけじゃ数日で使い切っちゃう。1週間後のお祭りに間に合わないよ」
ルアクはそう言って涙を溜めた目でコピを見つめた。
「あの、お祭りって?」
「この商店街のお店が自慢の料理を露店で出し合って競うお祭りが1週間後にあるんです。お店の勝敗は参加したお客さん達の投票で決まるので沢山売って票を集めないといけないのに、これじゃ豆が足りない……」
「今から調達するんじゃ駄目なんですか?」
「私達が使っているコーヒー豆は市場で簡単に手に入るものでは無いんです。コフィアフォレと言う豆で、とある山の上で採集できるんですがその地帯には強力なモンスターが生息していて入手が困難なので、市場に出る量は少ないんです。なので私達はその山に登って直接採集をしていたのですが……」
「モンスターが出る山に、あなた達が?」
「もちろん私達は戦闘は出来ません。だからギルドに依頼して冒険者に護衛について貰っていて……あっ!」
突然コピが声を上げた。それからすぐに彼女はウォリーに向かって跪くと、頭を下げた。
「ウォリーさん! 確かあなたは冒険者だと仰ってましたよね!? どうか私達の依頼を受けて頂けませんか? 私達と一緒に山に登って豆の採集を助けて欲しいんですっ」
必死に頭を下げるコピを見て、ルアクも続けて頭を下げた。
「わ、私からもお願いします!」
「僕は構わないですが、それだったらギルドに依頼を出した方が……」
「実は、以前に泥棒に売上を盗まれたせいでうちの店はお金に余裕が無いんです。とてもギルドに依頼出来るほどのお金を用意できません。なのでウォリーさんに支払える報酬もそんなに多くは出来ないのですが……それでもどうか、どうかお願いします!」
2人はそのまま頭をあげようとしない。
ウォリーは困った表情を浮かべた。
「すいません、僕個人としては助けてあげたいんですけど、すぐには返答できないんです。僕が良くてもパーティのメンバーがどう言うかわからない。モンスターと戦うって事は仲間達もリスクを負うわけですから、報酬の額次第では納得しないメンバーも居るかもしれません」
「そうですか……」
「明日またここに来てもいいですか? その時に他のパーティメンバーも誘ってみます。そこで皆も交えて改めて相談してみたいんです」
「はい! ありがとうございます!」
2人はピンと耳を立てて礼を言った。
その時、ガタッと音を立ててサングラスの女が立ち上がった。
「お代、ここに置いとくよ」
そう小さく言って女は店を出て行った。
その様子を見て、コピが首を傾げた。
「あれ、変ですね」
「どうしました?」
「あの女の人、いつもはもっとゆっくりしていくんですよ。こんなに早く退店するのは初めてです。今日は何か予定でもあるのでしょうか?」
翌日、ウォリーはポセイドンのメンバーを連れて再び喫茶店『トライキャッツ』を訪れた。
入り口を開けるとコピとルアクが揃って出迎えた。
「ウォリーさん、いらっしゃいませ! あ、こちらの方々がお仲間さんですか!?」
2人がパーティメンバー達に向かって揃って頭を下げた。
「そ、そっくりだな」
目の前の双子の店員にダーシャが驚いた。
「2人は双子なんだよ」
「はい、コピです」
「ルアクです」
ダーシャはまじまじと2人を見つめた。
「全く見分けがつかん。混乱してしまいそうだ」
「ふふ、右の耳に飾りが付いているのがコピです」
「左耳に飾りが付いているのがルアクです」
そう言って2人は頭の猫耳をピコピコと動かした。
「ふわぁ〜」
ダーシャの横でリリが力の抜けた声を出した。彼女の目はキラキラと輝き、顔が少し赤らんでいる。
「か、かわいい……私、ワンちゃんも好きですけどネコちゃんも好きなんです。撫でたい……」
熱い視線を向けてくるリリにコピとルアクは少し後ずさった。
「こらリリ、怖がってるじゃないか。彼女達は動物じゃなくて獣人だぞ」
「はは、まあどうぞこちらへ」
コピはそう言ってウォリー達をテーブルに案内した。
店内を見ると、既に先客が居た。
「やあウォリー君。女の子に囲まれて、随分とモテるようだねっ」
アロンツォは手を挙げてウォリーに笑いかける。今日の客はウォリーの他に彼1人だけのようだった。
ウォリー、ダーシャ、リリ、そして新しく加わったハナが席につくと、コピがコーヒーを運んで来た。
「どうぞ、今日はお代は要りませんので」
「え、いいんですか?」
「せっかく私達の為に集まってくださったんです。これくらいはさせてください」
「でもこのコーヒー、豆が盗まれて残り少ないんですよね?」
「どの道今のままではお祭りに出られませんから……」
コピはコーヒーを並び終えるとお辞儀をし、店の奥へ消えて行った。
「む! 確かにこれは美味しいな!」
コーヒーを一口飲んだダーシャが声をあげた。
「初めて飲む味だわ」
「独特の甘みがありますね」
ハナとリリにも好評なようだった。
その様子を嬉しそうに眺めながら、コピが再び姿を現した。彼女の手には小さな皮袋が握られている。
「今回の依頼の報酬なんですが、家中かき集めてこれが限界でした。何とかこれで受けて頂けないでしょうか」
皮袋がジャラリと音を立ててテーブルに置かれる。ウォリーが中身を取り出すと、硬貨が何枚か出てきた。
それを見て真っ先に声を出したのはハナだった。
「ちょっと待ってよ、少な過ぎるわ! こんな額で受けられる依頼なんて低ランクダンジョンの薬草集めくらいなものよ!」
「うっ、すみません……」
「こらハナ、そんなきつい言い方はないだろ。ここの店は泥棒に入られたと事前にウォリーから聞いていたじゃないか」
ダーシャがハナを睨んだ。
「そうですよ! 可哀想じゃないですか、助けてあげましょうよ」
リリもダーシャに続いて言い始める。
「可哀想だったら何でもしてあげていいなんて理由にはならないわ。私達は危険なモンスターと戦って命を懸けるのよ。それなりの報酬はしっかり貰わないと」
「おい、そう言うお前はウォリーの親切でパーティに入れてもらったのを忘れたか! どの口が言う!」
ダーシャとリリが身を乗り出して睨み合う。今にも火花が散りそうだった。
「ちょっと、みんな落ち着いて」
ウォリーが間に入って何とかその場を収めようとする。
「そりゃ私だってウォリーには感謝しているわ。このお店の事も可哀想だと思う。でも、これはパーティの為を思って言っているのよ。あなた達はこの先可哀想な人に会うたびに安い報酬で依頼を受け続けるつもり? そんな事をやり続けたら、あのパーティは破格の値段で依頼を受けるなんて噂が流れ始めるわ。そうなったら、しっかりと報酬を受け取って仕事をしている他の冒険者達に迷惑をかけることになるのよ?」
「ごめんなさい!!!」
突然コピが叫んで硬貨の入った皮袋を取り上げた。
「どうか争わないでください。元々私達が無理を言ったのが悪いんです。巻き込んでしまってすいません。この話は忘れてください」
コピが皮袋を握り締めながら深々と頭を下げた。
しばらくその場が静まり返る。
アロンツォも眉をひそめてその様子を眺めていた。
「ねえコピ、でもお祭りの方はどうするの? このままじゃこの店は……」
ルアクが現れてそう言った。
「仕方ないよ。せっかく立ち上げたお店だけど、もう諦めるしかないかも」
「そんな……」
2人は目を潤ませながら身を寄せ合った。
その様子をハナがじっと見つめて、声をかけた。
「お祭りって、そんなに重要な事?」
「はい。お祭りで優勝出来なければ、多分このお店を閉店する事になります」
「え? どうしたのルアク」
コピと瓜二つの女、ルアクと呼ばれた猫耳の店員が青い顔をして飛び出してきた。
「ちょっと来て!」
丁度ウォリーと会話中だったコピは言われるまま彼女に連れられて店の奥へ入って行った。
様子からしてただ事ではないのを感じ、ウォリーは心配そうに2人が消えて行った方を見つめていた。
しばらく経って、コピが戻ってくる。
先程のルアクという店員と同様に、顔が青くなっていた。
「何かあったんですか?」
「……」
コピはしばらく黙っていた。ウォリーの問いに答えようか迷っている様子だった。
しかし、やがて泣きそうな目でウォリーを見つめると、口を開いた。
「また、泥棒に入られました」
「えっ!?」
「ただ今度はお金じゃありません。倉庫に入れてあったコーヒー豆が盗られてました。倉庫へは店内の食材を補充する時にしか入らないので今になるまで気付かなかったんです」
やがてルアクも店の奥から出てきた。
「どうしよう。今残っているコーヒー豆だけじゃ数日で使い切っちゃう。1週間後のお祭りに間に合わないよ」
ルアクはそう言って涙を溜めた目でコピを見つめた。
「あの、お祭りって?」
「この商店街のお店が自慢の料理を露店で出し合って競うお祭りが1週間後にあるんです。お店の勝敗は参加したお客さん達の投票で決まるので沢山売って票を集めないといけないのに、これじゃ豆が足りない……」
「今から調達するんじゃ駄目なんですか?」
「私達が使っているコーヒー豆は市場で簡単に手に入るものでは無いんです。コフィアフォレと言う豆で、とある山の上で採集できるんですがその地帯には強力なモンスターが生息していて入手が困難なので、市場に出る量は少ないんです。なので私達はその山に登って直接採集をしていたのですが……」
「モンスターが出る山に、あなた達が?」
「もちろん私達は戦闘は出来ません。だからギルドに依頼して冒険者に護衛について貰っていて……あっ!」
突然コピが声を上げた。それからすぐに彼女はウォリーに向かって跪くと、頭を下げた。
「ウォリーさん! 確かあなたは冒険者だと仰ってましたよね!? どうか私達の依頼を受けて頂けませんか? 私達と一緒に山に登って豆の採集を助けて欲しいんですっ」
必死に頭を下げるコピを見て、ルアクも続けて頭を下げた。
「わ、私からもお願いします!」
「僕は構わないですが、それだったらギルドに依頼を出した方が……」
「実は、以前に泥棒に売上を盗まれたせいでうちの店はお金に余裕が無いんです。とてもギルドに依頼出来るほどのお金を用意できません。なのでウォリーさんに支払える報酬もそんなに多くは出来ないのですが……それでもどうか、どうかお願いします!」
2人はそのまま頭をあげようとしない。
ウォリーは困った表情を浮かべた。
「すいません、僕個人としては助けてあげたいんですけど、すぐには返答できないんです。僕が良くてもパーティのメンバーがどう言うかわからない。モンスターと戦うって事は仲間達もリスクを負うわけですから、報酬の額次第では納得しないメンバーも居るかもしれません」
「そうですか……」
「明日またここに来てもいいですか? その時に他のパーティメンバーも誘ってみます。そこで皆も交えて改めて相談してみたいんです」
「はい! ありがとうございます!」
2人はピンと耳を立てて礼を言った。
その時、ガタッと音を立ててサングラスの女が立ち上がった。
「お代、ここに置いとくよ」
そう小さく言って女は店を出て行った。
その様子を見て、コピが首を傾げた。
「あれ、変ですね」
「どうしました?」
「あの女の人、いつもはもっとゆっくりしていくんですよ。こんなに早く退店するのは初めてです。今日は何か予定でもあるのでしょうか?」
翌日、ウォリーはポセイドンのメンバーを連れて再び喫茶店『トライキャッツ』を訪れた。
入り口を開けるとコピとルアクが揃って出迎えた。
「ウォリーさん、いらっしゃいませ! あ、こちらの方々がお仲間さんですか!?」
2人がパーティメンバー達に向かって揃って頭を下げた。
「そ、そっくりだな」
目の前の双子の店員にダーシャが驚いた。
「2人は双子なんだよ」
「はい、コピです」
「ルアクです」
ダーシャはまじまじと2人を見つめた。
「全く見分けがつかん。混乱してしまいそうだ」
「ふふ、右の耳に飾りが付いているのがコピです」
「左耳に飾りが付いているのがルアクです」
そう言って2人は頭の猫耳をピコピコと動かした。
「ふわぁ〜」
ダーシャの横でリリが力の抜けた声を出した。彼女の目はキラキラと輝き、顔が少し赤らんでいる。
「か、かわいい……私、ワンちゃんも好きですけどネコちゃんも好きなんです。撫でたい……」
熱い視線を向けてくるリリにコピとルアクは少し後ずさった。
「こらリリ、怖がってるじゃないか。彼女達は動物じゃなくて獣人だぞ」
「はは、まあどうぞこちらへ」
コピはそう言ってウォリー達をテーブルに案内した。
店内を見ると、既に先客が居た。
「やあウォリー君。女の子に囲まれて、随分とモテるようだねっ」
アロンツォは手を挙げてウォリーに笑いかける。今日の客はウォリーの他に彼1人だけのようだった。
ウォリー、ダーシャ、リリ、そして新しく加わったハナが席につくと、コピがコーヒーを運んで来た。
「どうぞ、今日はお代は要りませんので」
「え、いいんですか?」
「せっかく私達の為に集まってくださったんです。これくらいはさせてください」
「でもこのコーヒー、豆が盗まれて残り少ないんですよね?」
「どの道今のままではお祭りに出られませんから……」
コピはコーヒーを並び終えるとお辞儀をし、店の奥へ消えて行った。
「む! 確かにこれは美味しいな!」
コーヒーを一口飲んだダーシャが声をあげた。
「初めて飲む味だわ」
「独特の甘みがありますね」
ハナとリリにも好評なようだった。
その様子を嬉しそうに眺めながら、コピが再び姿を現した。彼女の手には小さな皮袋が握られている。
「今回の依頼の報酬なんですが、家中かき集めてこれが限界でした。何とかこれで受けて頂けないでしょうか」
皮袋がジャラリと音を立ててテーブルに置かれる。ウォリーが中身を取り出すと、硬貨が何枚か出てきた。
それを見て真っ先に声を出したのはハナだった。
「ちょっと待ってよ、少な過ぎるわ! こんな額で受けられる依頼なんて低ランクダンジョンの薬草集めくらいなものよ!」
「うっ、すみません……」
「こらハナ、そんなきつい言い方はないだろ。ここの店は泥棒に入られたと事前にウォリーから聞いていたじゃないか」
ダーシャがハナを睨んだ。
「そうですよ! 可哀想じゃないですか、助けてあげましょうよ」
リリもダーシャに続いて言い始める。
「可哀想だったら何でもしてあげていいなんて理由にはならないわ。私達は危険なモンスターと戦って命を懸けるのよ。それなりの報酬はしっかり貰わないと」
「おい、そう言うお前はウォリーの親切でパーティに入れてもらったのを忘れたか! どの口が言う!」
ダーシャとリリが身を乗り出して睨み合う。今にも火花が散りそうだった。
「ちょっと、みんな落ち着いて」
ウォリーが間に入って何とかその場を収めようとする。
「そりゃ私だってウォリーには感謝しているわ。このお店の事も可哀想だと思う。でも、これはパーティの為を思って言っているのよ。あなた達はこの先可哀想な人に会うたびに安い報酬で依頼を受け続けるつもり? そんな事をやり続けたら、あのパーティは破格の値段で依頼を受けるなんて噂が流れ始めるわ。そうなったら、しっかりと報酬を受け取って仕事をしている他の冒険者達に迷惑をかけることになるのよ?」
「ごめんなさい!!!」
突然コピが叫んで硬貨の入った皮袋を取り上げた。
「どうか争わないでください。元々私達が無理を言ったのが悪いんです。巻き込んでしまってすいません。この話は忘れてください」
コピが皮袋を握り締めながら深々と頭を下げた。
しばらくその場が静まり返る。
アロンツォも眉をひそめてその様子を眺めていた。
「ねえコピ、でもお祭りの方はどうするの? このままじゃこの店は……」
ルアクが現れてそう言った。
「仕方ないよ。せっかく立ち上げたお店だけど、もう諦めるしかないかも」
「そんな……」
2人は目を潤ませながら身を寄せ合った。
その様子をハナがじっと見つめて、声をかけた。
「お祭りって、そんなに重要な事?」
「はい。お祭りで優勝出来なければ、多分このお店を閉店する事になります」